82話 未来を見据え
【 12歳 晩春 】
冬眠から覚めた動物たちの影響も落ち着き、エルフの里周辺の警備にも落ち着きが出てきた。メイド隊には比較的攻撃性の低い森の西の端を任せて貰い、食材の確保と植生調査、地形の確認を行なった。
地形の確認はともかく、植生調査は余り進まなかった。見た事があっても名前を知らないし、見た事が無くても季節の所為なのか分類が違うのかが判らないんだわ。映像は記憶に残して貰う事にしたがエルフはエルフで有用、有害な物以外には名前すら付けていないようで判別もできない。子爵領の森歩きする老人の方がまだ知っているくらいだ。と言っても、いつ頃花が咲き実を付ける、それらの内どれとどれが似たような形って程度の情報なんだけどね。
分類学の未熟さを痛感するが、必要性ってのは困ってから感じるもので、今は人間の方が絶滅の危機を感じるべきだもの。情報の収集が大事とは思うが、まずは道具が足りない。そして…… 専門家の安全と寿命が足りてない。過酷だぜぃ
俺が行く時の調査にはヴァレニーも一緒に付いて来てくれて、居ない場合でもロァヴェルナさんが来てくれるので結構広範囲に活動した。
「西の山の先って何があるか知ってますか?」
「さぁどうかしら。登っては見たけど森があっただけね。精霊樹は無いって事を確認しただけだから余り興味も持たなかったわ。 ……森の先に火山があったわね、煙が出てた覚えがあるわ」
何百年前に噴火してたろ……
「何か聞いた事があるかも。そこに着くのか……」
無関心過ぎっ
【 初夏 】
今日は久々に実家に帰ってきた。
食べ物の差し入れとヴァレニーに子爵領の案内をする予定だ。未だ子爵領を訪れるエルフは極少数だしね。来るとしても国境直ぐの南端倉庫くらいなんだよ。
「舟も驚いたけど、この建物凄いね。不便じゃないの? 暗そうだし…… 雑?」
ズバズバ言うヴァレニー 領主邸を見た感想に遠慮と配慮と容赦が無い。
「里の建物だって徐々に大きくしたのよ? 出来上がってから生まれた子が知らないの当然だけど、200年程度しか経って無い領地を責めるのは酷よ?」
ロァヴェルナさんが養護してくれる。
「 200年…… あたしより上でルティより年下か…… しゃーないのかな?」
「どーゆー意味だよ……」
ぼそりとルティ姉が呟く。
「それに、ここを守る人たちはエルフと違い寿命が 50年程だもの、普通の虫や獣だって怖いんだってば」
「うわぁ そうか、ごめんね。無茶言ったかも?」
長寿命種め~
ヴァレニーはきっとまだ人間の寿命の短さを理解してない気がする。犬猫の大きさのペットって居ないし、一緒に過ごす他種族ってのも人間が初めてなんだと思う。俺が寿命で死んだら泣いてくれるだろうか……
到着し、家族を紹介する。今回は少し長めの滞在で、例の黒字問題の打ち合わせと手配の追加だ。
「ねぇ、ルティ。何か凄くない?! この絶妙な雑さと頑丈さが何か凄いよ!」
「おちつけっ ヴァレニーは今回、カルの使ってた部屋使ってよ」
「カル…… カルニナフ? うーん、分かった。お~ ねぇ、ルティ!」
ルティ姉がげっそりしているが…… うん、お任せするとしよう……
ヴァレニーはルティ姉に懐いてるがルティ姉は苦手っぽい。
ヴァレニーは周りにすぐ慣れ妹たちとも仲良くなり、夕食後は手を引かれてどこかへ連れていかれてしまった。
「やっと静かになったぁ じゃ、私も厨房に挨拶してくるよ」
ルティ姉も移動するようだ。
「ちょっと待った。ルティ姉ってヴァレニーが苦手なの?」
「ん~ ん~? どうかな? ヴァレニーって前からあんな感じだし、ロァヴェルナに押掛け弟子入りしてたから、しばらく 7村に居たのよ。嫌いとかじゃないけど、落ち着けと言いたいっ いや、言ったし! マジで」
「ふ~ん」
「ルァニも苦労を味わうと良いさ~ じゃ、行ってくるね」
その後、母と話していたら兄の話になった。兄は今年の年末から 3年間、勉強の為に王都に向かうらしい。実際の入学は来年の夏の終わりらしいのだが、春の終わりに入学試験があり、春は皆が忙しいので大体の人は仕事が無い年末の内に移動して王都で受験に備えるそうだ。移動自体が大人数での徒歩って事もり、そこそこ掛かるからな。
こちらの学校にもきちんと試験があるようだ。ただそれほど難しい訳では無く、最低限の学力の確認らしい。この学校は前世で言うところの大学に当たり、義務教育の無いこの世界では最低限の知識を教えるのは親の役目なんだよ。王都の学校では貴族の領地運営や武官、文官の仕事を学べるし、一般の家庭でも収入に余裕のある者たちは自身の子供に働く技術を身に着けさせるために入学させるそうだ。
それと、今年成人したティーエの兄のフェートクラニスも 1年遅れで入学する予定なんだとか。あまり入学の年齢は気にされてないようで、兄と一緒に入学する事にしたらしい。
当初は行かないつもりだったようだが、エルフと係わって商売しておきながら知識が重要だと感じないのかとちょっと説教してしまった。これは俺が浅はかだったんだが、王都の学校の受験はこの世界の人には結構難しい上、入学料や滞在費も結構な負担になるそうで一般階級から入学が困難な要因なんだとか。息子から相談を受けたフェンさんも考えても居なかったそうだが、今の収入なら問題無いと送り出すことにしたらしい。
そりゃそうだよな。小中学校も塾も無いのに何と無責任って話だし、3年間の滞在費がどのくらい掛かるのかも全く想像ができない。毎年入学してるんだから受け入れ施設はあると思うんだが、物価とか全然知らないんだよなぁ 俺の方が考えなしでした~
商人の息子なので文字と計算は良いとして、今は他の教科の勉強で苦労しているらしく、お兄ぃが復習がてら教えているそうだ。
俺も 2年後の年末か~
ほぼ 3年あるが、エルフの里の勉強をもっと頑張っておこうかな。疑問を作っておいて王都で情報収集できる事が望ましい。俺はまだ卒業後の仕事をどうするかまだ決めてないんだよ。ヴェイザルトさんの所で寝具作る生活も安泰そうだが、もう少し色々冒険してみたいじゃん。
◆
まだ肌寒い時期なのにヴァレニーが泳いでみたいとか言い出した。
領主邸の前の川でな。
そこは舟が通るんだが……
第一、こんなところで脱ごうとすんな!
エルフの感覚をここで披露されても困るわ。
取り敢えず準備するから待てと伝え、急遽水着を作る事にした。水着は人間側には多少あるそうで聞いたのだが、女性用は無いらしい。この世界では女性が海に近寄るとマーマンに攫われるらしく、必要性が皆無なのだ。
しょうがないので透けない素材で肌が出ないよう、スクール水着っぽい物を作った。違いは腿と二の腕の真ん中位まで布で覆われてる事かな。今一こっちの倫理観が解らないので端を延ばしてみた。
最初は胸、腰、尻の三分割だったが、追加で肩と袖だけの短いシャツを内側に着て貰う事にしたんだ。収縮性のある生地が無いし、普段から分割式の衣服を着てるから違和感も無く着てもらえた。
「これで泳いでも良いの?」
「東寄りなら舟来ないので良いけど……」
「お~魚居るよ、魚~ 凄~い」
そしてヴァレニーが自慢するものだから、何故か妹たちの水着と自分用まで作る事に…… 冷たいっつーの。
とは言え参加しない訳にもいかず……
足の付く所で妹たちに泳ぎを教える事になり……
検討の結果、養護院横のえび養殖場で泳いで貰った。
「何か居るーーっ!!」
えびを初めて見たようだ。
実際には学園で複数の学校、学部があります。兄と商人息子は経営・運営関係の学校に行きます。商人は金銭的な話もありますが、兄が一緒ならと言う理由で送り出しました。一般人一人は辛いのです。
水の冷たさは生命属性魔法で何とかなります。
この物語のエルフはちょくちょく脱ぎますが、閉鎖集落で感覚は江戸時代みたいな感じです。女性には襲われるなんて発想すらありません。エルフの男性も人生の残りの数百年を白い目で見られるような真似は絶対しません。だからこそ全力で口説くムーブをします。




