81話 アイドル魔法!
【 12歳 春 】
新しく先生が増えたが、まずはロァヴェルナさんの授業を優先する事にした。新人たちも居るし、俺にはまだ基礎知識が足りていない。魔法の使い方を聞いてると新たな気付きも多いんだよね。あと、あの魔法は聞けば聞く程、手に負えない感があるし。
ただあれから何故かヴァレニーがウチで過ごすようになった。
ヴァレーニフレアの事ね。敬語も要らないし愛称で良いって本人に言われたんだ。年下がほとんど居ないから、さん付けや敬語がむずむずするらしい。
「ヴァレニー、居るのは良いけど、ずっとこっちに居て大丈夫なの?」
「何が?」
「仕事とか無いのかな? って」
「あ~ 楽器はルァニと一緒に居た方が捗るし、ルァニに魔法を教えるって言ったら、そうしろって言われたわ」
「誰から? ……ヴァリアルトさんが言ったの?」
「ん~ おかーさんとおじさん?」
「誰?」
知ってる人か?
話を聞いていくと、お母さんはグリムフレイアさんって人で、たぶん面識はなし。そして、グリムフレイアさんの兄が『山越え』戦で手伝ってくれたグラウトニークさんだった。ずっと下で落ちないか見ていてくれてたグラウさんね。
ヴァレニーを見たこと無かったのは彼女が北端の 2村の所属で、今俺が居る南端の 7村のから一番遠いからだ。単純に交流が少ないんだよね。1村は診療所と警備隊で交流あるし、3村は寝具の製造とヴァリアルトさんが居る。2村も警備隊の主力なんだけど、担当区域が北側だから会う事が少ないのよ。まぁ 2村って料理が上手らしくて、ルティ姉のライバルってイメージがあったってのは確かにあったけどね。
避けられてるとでも思われたかな? 行く理由が無かっただけなんだが……
「こっちも教えるから、何か教えてよ」
「教えれる事があれば良いけど……」
「よろしく~」
◆
ヴァレニーの魔法の事を俺は勝手にアイドル魔法って呼んでる。
話を聞けば聞くほどイカレてる魔法理論なんだわ。
同属性ならまだしも、別属性である光魔法や風魔法をどうやって重ねて発動してると思う?
発動タイミングから逆算するにしても工程に違いがありすぎるし、同時発動ができているのがおかしい。で、その部分の説明を聞いたのだが、長い方に合わせているらしいんだ。もちろん脳内で変換してるのだろうが、短い方をゆっくり処理するなんてできない。何よりダンスにも合わなくなる。
そこでヴァレニーは、短い方の魔法に意味の無いフレーズを挟んで音節を同じ長さに揃えた。何と説明するべきか…… 真面目な魔法の工程の間に、意味のないラップの如き話言葉を組み込んだんだ。
行っちゃう? ヤっちゃう? やっぱ止めとく? みたいな感じだぞ?
この発想が天才って表現で良いのか全く判らない!
その柔軟性は他に回すべきだろ。アイドル魔法、マジおかしいっ
そして更に、魔法の工程に改行機能を付けて長さの同じ呪文を脳内で重ね、人の口では発音できないような一文に再構成して再生するのさ。頭ん中でフーリエ変換でもしてるんじゃないか? 文字列ですらない発音不可能な周波数的な何かだぞ、さぞ脳内信号も忙しかろうよ。
絶対、道具作った方が早かったよなぁ
【 晩春 】
新しい先生が増え、勉強も食事も充実した生活が続いている。この頃になるとアイドル魔法の簡単な使い方も理解できてきた。まぁ使い道が判らないんだがな。
俺、舞台に立つ気無いし。
脳内魔法の導入は一先ず行なわず、精神魔法による魔法再現だけを教わった。精神魔法は大人になってからって言われてたのに、何とも例外が多い。甘いのか、緩いのか。
これにより魔法の連結と連続再生ができるようになった。同時起動はできないけど、踊ろうとまでは思わないから良いわ。まずは使って有用性を体感してみたい。
「では行きまーす」
「行け行け~」「「 …… 」」
地面に置かれた束ねたタコ糸にマナを通し、生命属性魔法で強度を強めて腕のように伸ばす。と、言いたいところだが、伸ばさずマナの必要量だけを確認。そしてここからが本番、先端から光魔法で発光させた上で、再度タコ糸をバラバラに操作して左右に振らせるイメージを行ない…… 一斉送信。
この魔法は最初に動作の工程を組み立ててから再生している為、途中で変更できないのが欠点だ。ただ、組み立ててからマナを流している為、間に組み込んだ光魔法は最後まで光っているし既に何もしていないのに継続されている。
プログラムの実行位置と実行回数を変えられるだけだものなぁ
しかも実際には脳内処理をしてるので離れる事はできないんだわ。
「おぉ~ 凄いじゃん!」
「でもやっぱり使い道に困りますねぇ」
戦闘には絶対向かない。最初の想像力に掛かっているんだもの。
と言うか、タコ糸操作良いな。長い腕を作って遠距離の敵を殴れないだろうか?
形状変更だけだから鎧を作って外骨格とかできるかな?
巨大な体に虫の装甲! 行けちゃうか?
「どうしたの?」
「いえ、これで大きな体作って乗れないかな~って思って」
「乗る必要は無いでしょ。似たような事考えて失敗した人が居るから止めときなさい?」
「「居るの?」誰なの、ロァヴェルナ」
居るのかよ! 流石、浪漫が解る種族。
「ヴァレニーが生まれるかなり前の人よ」
「ふ~ん」
「試すだけなら、虫の死骸でも動かしてみたら? 理由が解るわよ」
「そうなんですか? あぁ、そうか筋繊維と同じなのね。後でやってみます」
いや、ホント生命属性駆動機体できちゃう?
「魔法の方は想像力次第っぽいですねぇ 戦闘には使えなさそうです」
「 ……残念」
付いてきていたトルテが呟く。
「まぁ戦闘には向かないのは判るのよ。何かの仕事とかには?」
「調理には使えるかもしれないですけど、食材によって長さが変わりますしねぇ」
「無理ね。焦げちゃうわ。きっと」
「期待せずに待つくらいが良いんじゃない? 50年掛かってるんだし」
ロァヴェルナさん、ちょっと根に持ってるのかもしれない。
「そっかなぁ~」
虫の死骸を使った肉体操作実験だが、まず無理だと判った。
筋肉の手応えが無いから何処で曲がるのかすら解らなかった。関節があったら更に悩む事になるだろう。骨の位置や筋肉の数を把握しないといけないんだからな。全身鎧なんて作ったら立つだけで集中力が切れるかもしれない。
無意識にやってる脳の偉大さが解る事例だったわ。
◆
アイドル魔法は暫くお休みだったのだが、忘れてた頃にヴァレニーから新技術を教わった。本人はこれこそ使い道が無いと思っていたみたいだが、俺からすると革新技術だ!
その技術は無秩序動作!
あのラップのような無茶な魔法工程に、もう良いや、適当で良くね? 適当最高! って感じで雑念を挟むとマナの制御がブレるのだ! やろうと思った事も無いマナ操作である。
やっぱり天才じゃね?!
その夜、俺の魔法の披露を行なう事になった。
用意したのは 30mのタコ糸。ただし先に行くほどマナの通りが悪くなるため魔石を入れ、残り 15m、8m、4m、2mのところで認識の補助をする。
エルフの里から少し離れた森の手前の少し開けた場所で、グルグル巻きのそこそこ太いロープ状のタコ糸を魔力任せに伸ばし、上に打ち上げた。この時点は魔法の構築は完全に終了しており、制御不要で制御不能となっている。
最初にロープの先端が光り、次に軽量化が発動しロープが上向きに一直線になるように伸びていく。そのまま伸び、伸びきるタイミングで先端から更に糸を伸ばし、後は色、輝度、太さ、方向を全てランダムに発光。他からどう見えるか判らんが、とにかく光った。
「結構、明るいな!」
下から見てたが酷い。微妙に人工的な色合いで、見た目はLED発光する海栗。何とも残念な出来で酷過ぎる。
「これは情緒の欠片も無いな…… ?! やっばっ!」
しかも無駄に効果時間が長かったので光ったまま落ちて来たっ
出来が悪く、音もしない打ち上げ花火はエルフの里全体で観測されたようだ。
その後は驚かれ、怒られ、そして褒められた。
怒ったのは長老衆の方々で、夜に輝度の高い発光は虫が来るかもしれないそうだ。村周辺には居ないのかと思ったら、上、つまり精霊樹の枝にはそこそこ小さい虫が居るらしい。もちろん大人しく説教を受け、謝った。
あとは若い男女は見た事の無い光景を褒めてはくれたが、次やるなら虫や動物の少ない場所に行ってからじゃないと無理だね~って話になってしまった。
「失敗しました……」
「あはは。しゃーない、しゃーない。良くあるよ~」
「ダメよ? ルァニエスはしっかり反省するように。ヴァレニーはこの手の常習犯だから参考にしちゃだめよ」
流石、姉弟子?
エルフの子供は母方の村に所属するのでヴァレニーは 2村となります。
Idol(偶像)とIdle(空回り)を掛けてたりします。
歌は無いんですけどね。
ヴァレニーは過去、夜中に自分自身をランダムに長時間光らせて、専用の地下室を作る羽目になりました。




