80話 先生が増える
【 12歳 春 】
最近新たに魔法の先生ができた。
「何か、ここはいつも楽しそうよね~」
その日の朝、新人たちと一緒にロァヴェルナさんと魔法の勉強をしていたら、見た目がかなり若いエルフの女性…… 女の子が現れた。中学生くらいの外見で、見分け難いエルフでも明らかに若く、世代が違う感じだ。他のエルフの女性と違い髪が腰くらいまであるし、見かけてたら絶対覚えているだろうから初めて会ったと思う。
「あたしも魔法、教えてあげよーっか」
「あなたのは基礎が全部終わってない子にはきつくない?」
「頭が硬くなる前に軽く経験しとくのもアリっしょ?」
「でもあなたのあれ、あなた達 3人しか使ってないでしょ」
「絶対、いつか流行るって~」
「……流行る?」
待て、魔法に流行があるのか??
数学や科学に流行が出るようなものだが?
で、肝心の魔法を見せて貰ったのだが予想と常識と理解の範疇外だった。
何と、踊り付き!
前後左右にステップを踏み、軽快に踊るが…… 何も起きず。
失敗したのかと思ったら、最後に俺を指差すと色とりどりの光線が俺に降り注いだ!
遅延発動に多重起動ぉ?!
「……これは??」
「凄いでしょ~」
凄すぎて反応に困るレベルである。
つーか、なげーーっ 話をしてるのにまだ効果が続いている。どうなってんだっ
「何が起きたのか理解できてないです」
「覚えたら結構簡単なんだよ?」
マジか?!
「今のところ使い道が無いのだけどね……」
これはロァヴェルナさんのお言葉。
「あははっ まぁ。いつか必要になるかもじゃん」
けらけら笑っている。そしてまだ終わらない魔法……
「まぁ良いけど…… ねぇルァニエス、この子知らないわよね?」
「知らないです」
「あれ? そっか、知られてる気になってた」
「この子はヴァレーニフレア。あなたが来る前まで里一番の問題児だった子よ」
「「ロァヴェルナ?! その紹介ひっど!」問題児?! 来るまで?」
俺が来てから更生したの?? 何故?
「あたしもロァヴェルナの弟子なんだよ。よろしくね~」
「教えた覚えの無い魔法ばかり使う弟子だけどね~」
「いひひ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
やっと止まった…… 長すぎんだろっ!
◆
まずはヴァレーニフレアさんの話を聞く。
何故俺に教えようなんて思ったんだろ? 面識無いはずなんだが。
「おとーさんとおじさんから聞いたのよ。多分ルァニエスならもっと良い使い道、見つけるだろうって」
「……誰?」
「きちんと自己紹介しなさいな。あなたはいつも説明不足なのよ」
「んー……」
話しを聞くと、ヴァリアルトさんの娘だった。
「あの人か~」
ヴァリアルトさんは、あの思い切りの良すぎるイカれたドラマーだ。たぶん、この髪が長い娘は弦楽器の奏者か弦の提供者って事なんだろう。たぶんだけど。
「前夜祭や収穫祭の演奏会とかでも会って無いですよね?」
「あたしら、前夜祭で別の発表会をしてるからね~ あ、観客席側には居たよ?」
弾いてるってっぽい。
「そうなんですか?」
「敬語じゃなくていいよ? ウチらってさ、お酒飲んだ後の深夜組なのよ!」
「ん~ 音、聞こえてたかな?」
「いや。夜だし音と光が漏れないように、地下でやってるのっ!」
エルフの里には地下アイドルが居た……
……いや待てっ さっきの魔法はそう言う事?!
そう言う発展をしたのかーーっ!
当然と言うか何と言うか、必要に迫られて光の収束照射魔法を独自開発したらしい。確かにヴァリアルトさんの娘って感じだわぁ 演奏中の自分にスポットライトを当てる為だけに新技術を開発したっぽい。
楽器演奏しながら暗算するようなものだぞ、無茶苦茶だ。
「最近、美白魔法で消せるから並列思考刻印も入れ放題で、ホント捗るわぁ」
「今も入れてるんですか?」
平時の並列思考は余り良くないって聞いてたような?
「ヴァレニーは刻印無しでもできるから…… 何年か前まで診療所の常連だったけどね」
「慣れるまでが中々大変なんだよねぇ これ」
「そうなんだ……」
その後も話しをしたのだが、まず先に魔法の前提を説明しよう。
魔法には操作対象の認識と魔力の供給が必要なので通常は複数の同時起動は困難だ。それを慣れだけで可能とする調理魔法ですら 2つが限度で、且つ片方は出力が変化しない物に限られるんだわ。よく使うのは風属性魔法で素材を浮かせて固定し、火属性魔法で火力を調節などだな。
ちなみに俺の美白魔法は全て出力固定式の魔法なのと全て属性が同じだからできているんだ。それと出力の調整を指の筋肉に連動させたしな。皮膚の厚さの違いは指で押すだけなのよ。
まぁこれが前提なので 3つ以上の色の違うスポットライトを照射した挙句、バラバラに動かすとかができるのは異常すぎる。しかも、マナ供給後に遅れて発動するとかも意味が解らない。
諦めなかった彼女の取った手段が凄い。
精神属性魔法を新規で作り、その魔法直後の魔法操作全てを脳に一時記憶し、同じ魔法を再生する方法を取った。つまりマナを供給したら 2連続発動する魔法を作ったのだ。
ただ彼女の目的は異なる。なので 1回目にマナは供給せずに複数の魔法を連続で使い貯めこみ、2回目で合計した必要なマナを供給してまとめて同時出力したようだ。
……可能なのか?
まぁ、可能だったのだろう。できてたし。
当初は両手の指を折りながら操作に必要な複数の属性のマナを数え、最後に正確に供給していたのだが、それでは演奏ができない。
そしてそこで出たのがダンス!
必要なマナを舞台の座標と振り付けの数値化で記録し、最後に元の位置から換算したマナを供給し記憶の複製を使って再生するんだ。言わば、舞台を使った仮想演算!
無っ茶苦茶っ
対象に合わせてマナ量を調整するような魔法や対象を包むような距離属性も無理だろうが、決まった動きをするだけなら光の操作以外にも使えるそうだ。
「ここに辿り着くまでが大変でさ~」
「そりゃそうでしょうねぇ」
スポットライトが欲しくて始めた最初の魔法は、頭上 1mから放射状に光を当てるだけの物だったそうだ。それなら楽だな、明かりの魔法だし。本人の頭上の指定なら移動しても付いてくるし、舞台にも向いているだろう。
だが次に求めた物がこの魔法の研究の魔の入り口であった。
色を変えたいと……
光の波長を限定するだけだから結構簡単だったろうと思う。だが出来てしまった事で、曲に合わせて色を切り替えたい、光に動きを付けたいと言う欲求が次々と生まれてしまったのだ。
「まぁ楽器より練習したし悩んだわぁ」
「でしょうねぇ」
「そして私も巻き込まれた訳よ……」
「「 …… 」」
赤い光を斜め上から照射し左右に振るとかだけなら簡単なのだが、複数の光を別々の動作をさせるのは難しい。何より自分も演奏中なのだ。
そこでロァヴェルナさんに刻印術か精神魔法で何とかならないかと助けを求めたそうだ。
「だけど何で照明を他の人にお願いするとか、建物にそれができる道具を付けなかったんですか?」
「え? でもほら、色の数だけ人に頼むのも大変じゃない?」
「師匠に頼んで色の付いた透明な石を手で持って操作したら魔法は最小限でしょうし、一人が両手で 2色はできるんじゃないですか?」
「 ……50年前にルァニエスが居てくれれば……」「……あたしって、いったい……」
気付かなかったのか……
魔法が便利過ぎて、穴開けもねじ回しも存在しない世界だものなぁ
結局、2人は精神属性魔法と脳内魔法を組み合わせて魔法の保存と同時出力って解決方法を取った。再生回数も指定できるので曲の長さに合わせ、演奏中続ける事も可能なんだそうだ。
ダンスが付いたのは単純に 2曲目以降の準備を演奏中に行ないたかったかららしい。
……茨の道を進んでんな~
ダンスをしながら必要な総発光時間や合計偏光度数を数値化し、後はその操作分のマナを供給し直せば良いのだ。演奏中なので気を取られないよう、振り付けに進む座標を組み合わせたようだ。今では風を吹かせるとか、部屋の温度を変えるなんて事も組み込めるらしい。
何処向かってんだか~
だが絶対、人間の学校で教わるはずの無い技術だと思う。
「是非、教えてください!」
> 俺が来てから更生したの?? 何故?
「……前向きな感想ね。2位になったのよ」
魔法が便利過ぎて調理器具が発展してない事と同じ状況です。




