78話 三匹が追う / 心育と体育 3
【 12歳 初春 】
貴族との契約は父経由で行なった。
エルフから譲って貰った植物の種子を小分けし、そこそこ遠くから来てくれている貴族に種の栽培を依頼。耕作地と人員を借りて栽培を行なって貰い、大きな実や多くの実を付けるような変異が起こった場合は丸ごと子爵領へ送って貰うと言う契約だ。
もちろん報告して来ない可能性も無くは無いが、複数の貴族に依頼するので何処かからは来るだろうし、その来た作物の種子から再度依頼が発生する為、隠していて発覚すると契約が無くなり結果損を事になる。そもそも、自分たち用に種が欲しいだけなら言えば普通に販売するだけだし、たかだか一代の突然変異の為に隠すような事はしないだろう。
こちらへは変異した物の他、種子採取用に 1割を戻して貰い、契約料を交易の赤字に補填して貰う。残りの 9割の作物もそのまま譲る。食べ方も教えるので借りた土地の分減った食料にでも使って、出費を減らしてくれれば良い。財政が良くなれば、引き続きこちらの交易の顧客にもなってくれるだろうさ。
前世での、工場を途上国に移して途上国の国民収入を上げ、顧客を増やすのと同じだな。独自に作り出すまではWin - Winなのだ。
あと、家畜は依頼だけは出した。可能性は低いだろうが、小柄で人に馴れる野生動物が見つかったら高額で買い取ると連絡した。猪でも狼でも馬でも良い。1つでも当たればかなりの経済効果があるだろうさ。100年、1000年掛けないと結果が出るか判らないし、資産と一緒に子孫に継いで行って貰おう。
俺の方、と言うか子爵領内では養護院にエビの世話をお願いしている。余り活発ではなく、水槽に手を入れても慌てない様な危機感のn ……大らかな性格の種だけを集めて養殖して貰っている。目的は共食いしない種を作り出すためさ。もちろん、俺の資産の活用と養護院への援助代わりなのでのんびり待つ。体力が無い低学年でもできるだろうしね。
研究や投資なので利益は無いが、始めなければ辿り着けない問題だからな。資産を貯めるより、未来の時間を売って貰うのだよ。
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この冬はほぼエルフの里で過ごした。逆に子爵領から妹と弟が何度か遊びに来たくらいだ。ただ祭り以外だと見るものが少ないんだよね、ここ。
流石に屋上露天風呂にはかなり驚いてたけど。
と言うか、妹と弟が来たら普通にお風呂を男女別にするのは何なんだ?
ウチのメイドは俺以外には配慮できるのか?
あ~、そう言えばメイドが増えた。
去年、領主邸で魔法を教えた養護院を卒院予定だった子たち 3人で、就職条件は上の 4人と同条件となった。冬の終わり頃に妹たちと一緒にやってきてそのまま住み着いたのだ。
母様に連絡したら元々そのつもりだったそうだ。今のメイドたちが一時帰省する度に養護院で自慢と助言を繰り返すし、実際に自身で獲った食料まで差し入れしてくれるのだ。羨むなと言うのも無理な話である。
『今の子たちと同じように鍛えてあげなさいな。それと資産を使うにも、やりたい事を試すにも人は必要でしょ?』
『それはそうですが、子爵領で女性が足りないとかって事は起きないのですか?』
『私の実家と弟の領地から来る人たちなのだけど、女性が多めに来る予定なのよ…… 若い男性を引き取る以上、同年代の女性が領地に残っても仕方ないでしょ?』
『なるほど…… 問題にならないなら良いです』
『大丈夫よ。お願いね』
距離属性魔法が使える事も理由らしい。才能が勿体ないそうだ。
同じく魔法を教えたもう一人のメイドさんだが、彼女は領兵の輸送隊に転属されたらしい。新たに来たメイドの話しでは最初は他の街に行けると喜んで居たらしいが、一回で飽きて歩くのが辛いとぼやいていたそうだ。馬車すら無いからなぁ
それと刻印の扱いだが、彼女たちも同じく共有する事になった。
もちろん、断ったんだぜ?
ロァヴェルナさんに新規の刻印をお願いしたら、そもそも必要なのかと聞かれてしまった。その上で、もし必要なら他のメイドと同じ運用にしなさいと言われた。
俺が特別な事情なら、母のも特別な理由があったんだ。だから理由の薄い兄の刻印には慎重だったんだよ。仮に仲の良い妹たちが頼んできても断るそうだ。
技術を流出させたくは無いって理由の他にも、念話のアドレス管理が大変って言うのもあるらしい。エルフは人口増減が少なく寿命が長いからこそ運用できているのに、同じシステムで人間社会に普及されたら破綻してしまうからな。
うーむ。考えたんだが、森で迷子になるとかじゃなきゃ念話は不要じゃないか?
マナ共有の刻印なら構わないぞ?
だがメイドの感想は違ったらしい。知識は必要だと。
人の記憶を何だと思ってるんだ。俺にだって秘密にしたい事くらいあるんだが……
ルセアは中立らしく、自分たちで説得しろと言い放置。
新人は考えた末、何故かくねくねと…… チンアナゴ?
済まない、その踊りに効果無くて。もう少し見守るか?
「ルン姉ぇ、反応無いよ?」
「巻き込まないでっ 私は中立っ」
テーブルに座ったまま不干渉を貫く様子。
「え~と~ ……脱ぐ?」
要らんわ! が、いそいそと脱ぎだした。
もちろんダッシュで逃げた。誰がどう言う教育をしたんだっ
「ちょっっ 待っ」
何か言ってるが構わず、身体強化を使い最上階から階段を最短で駆け下りる。後ろから追って来る気配が 2人分あるが、捕まらず建物の入り口にまで到着。そのまま通りの人混みに隠れるつもりだった。
予想外だったのは さっきの怪しい踊りしてた子が先回りしていた事だ。
どうもトルテが協力していて、新人を抱え浴室から地上まで飛び降りたようだ。無茶しやがるっっ トルテは直接何かする気は無いようだが、援護はしたらしい。新人が伸ばす手を躱し、横をすり抜け通りへ向かう。
追っ手の 3人も身体強化が使えるみたいで距離は離せず! 猟犬かよっ
夕暮れ時のエルフの里、中央通りにて高機動 鬼ごっこが発生した。
12歳を 16歳 3人で追い回すってどーよ? 鬼かっ!
つーか、去年の逆じゃねーかっ!!
でも追うよりは逃げる方がまだ得意だ! 負けるなっ 俺っっ!
しかし足の速度では負けている。しかも人混みに隠れるつもりが既に補足されてる以上、妊婦や子供が居る場所は避けないと拙い。
目的地を里の外周部へ変更。真っ直ぐ人混みへ向かう振りをしながら、首の動きでフェイントを入れつつ一気に方向転換を行なう。建物の角を内角ギリギリを攻め、水平移動を完全に成功させた。
追っ手は減速しきれず大きく逸れた!
行けたか?!
「話は後でk、痛ーーいっ」
曲がり切った直後、再加速をしようとした所で横から女の子が飛んで来て捕まり、ゴロゴロと転がる。
「確保ーっ」
別の子が、曲がりきれなかった子の手を掴んで軌道修正したっぽい……
キミら、大人気無くなーい?
あと、エルフ共、拍手要らん!
彼女たちは捕獲した俺に、自分たちが如何に献身的かを耳元で囁き続ける。押し倒されてるってのに誰も助けてくれないし、俺が下なのにそう言うのは部屋でしなさいとか言われるんだぜ?
そして俺は、エルフの男女の『見守る中での熱心な説得』に屈する事になった……
この子ら、狩りの事しか話してないってのに、視線が理不尽過ぎるっっ
去年といい、今年といい、鬼ごっこ強すぎ。
話を聞くと娯楽の少ない養護院の主な遊びらしい。30人規模で行なうそうだ。
言わば、養護院 鬼ごっこ部 女子卒業生! 勝てるかっっ
……この日、脳内 秘密結社に 3名の新たな戦士が加わった!
『ルン姉ぇ、凄いよ。凄ーい』
『緊急じゃないなら、夜は話さないようにっ』
『あれ? 若様にも聞こえるの? ですか?』
『そりゃ、私の頭の中経由で話してるから』
『あわわ』
どんな説明をしてたんだか……
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【 心育と体育 3 】
成長期において体が大きく変化する理由は成体に近づいているからであり、するべき事が変化すると言う事でもある。野生の動物であれば、雛から幼体とは独り立ち前の狩りを覚える時期であり、幼体から成体とは自らの能力だけで番を求める時期である。
人とて同じではあるが野生の生物とは異なり人間は鳥獣の使わない衣類や貨幣、そして法を使う。ならば野生の動物とは異なる生き方をしなければならない。行える事が増えると言う事には、行なえた結果に対しての責任が増えると言う事であり、自ら考え自らを守る義務が増えているのだ。
その為、親は子を育てる過程で子に法を守らぬ代償を教えていく義務がある。もし教える義務を放棄した場合、子が行なった代償は親が負う事になるだろう。
これは学び舎で学ぶ事では無い。
何故なら、親以外から諭されても重要さが伝わらないからだ。
行なった事で何が起きるかを子が想像できないのは親が教えていないからであり、親も想像をできていなかったと言う事である。
魂をアドレスとしてるので、念話の単独通話で混線はありえません。村単位、里全体などグループ送信用にアドレスが別途振られています。人間社会に普及してエルフの里のアドレスと被られては堪らないのです。
流石のトルテさんも一気には飛んでません。
飛び降りは建物が階段型だからできただけです。
OGとかOBは和製英語です。
鬼ごっこを少し描写しようとしたら主人公が不憫に思えてきた。でも養護院にはお肉好きの肉食系女子しか居ないんです。その晩、酒場では勇者の逸話が増えました。
「あれ、止めなかったらどうなってたんだろうか?」




