76話 シン・余る資源
【 11歳 冬 】
エルフの里は俺たちと出会う前はホント必要な時だけ働く感じだったようだ。もちろん担当はあるし、計画もあるから前倒す人も居れば、のんびり進める人も居た。現在はその計画が増えすぎて不満が出ているわけだ。
その割に寝具職人のヴェイザルトさんとか、俺はそこまで嫌われてるような感じがしないんだよな。大人の対応なのかもだけどさぁ
で、仕事を手伝いながら現状について、どうしたら良いか相談してみたのよ。そうしたら、出荷量はある程度増やしていてそれ以上は作らない事にしているらしい。
「増やすとしても今回生まれた子らが大人になってからだな」
「なるほどぉ」
少し前まで確かに不満はあったそうだが、俺が手伝ってる過程で不満が消えていったのだとか。
と言うのも、魔道具と魔導器導入による効率化が進んだ為、労働量が変化し工程の見直しと配員の変更があったそうだ。今は待ち時間が結構あってそれが休みになったんだとか。
「これ以上の生産しないから、欲しけりゃルァニエスが作れ」
「材料を売ってくれるならできなくは無いでしょうが、良いのですか?」
「俺らは資源より休みが欲しい。構わんわ」
俺も人間の全需要を依頼してエルフを労働奴隷状態なんて事は望んでいない。現状の増産分は仕事量を据え置きで効率化させただけだからこそ受け入れられた。残る需要は子爵領内に会社作って、エルフへは特許料として納めるかなぁ
その夜、母に念話してエルフの里の状況を説明した。
……のだが、母に呆れられた。良く考えなさいと。
なぜ母が俺に相談したのかをだ。
……結果、発覚した。
俺、塩ありすぎ問題。
勘違いしておりました。すっごく!
現在子爵領で資源が余ってるのは俺だった。近隣の貴族からの代金としての証文は確かに子爵領名義なのだが、それは俺に対し発行できないから父が肩代わりしてるに過ぎないのだ。ガラス製品の代金も魔道具の代金も、南端倉庫の調味料の代金すらも、経費以外がほぼ俺に入ってきているらしい。更に父が子爵領内で使う魔道具を俺に発注した分の支払いもあるので、子爵領領主である父が俺に対し結構な額の借り入れがある状態なんだそうだ。
母が言いたかったのは、俺にもっと使えって話だった……
俺に言ってたのかぁ 欲しい物たって、本以外無いんだが……
やばいな、俺もエルフと全く同じ状態だわ。資源より休みが欲しい。ここに来てやはり、この世界の娯楽の少なさが問題になるよな。旅行しないし、貴金属や装飾品、美術品なんて物も無いし、自分で作る世の中だもの。
うーむ困った。前世で考えると、貿易黒字状態なのに相手国に買いたい物が全く無いんだよ。お金も金も要らないって相手に言っちゃってる状態。何が起きるかって?
通貨が同じなら相手の財政が悪化する。片道分の運送費用が商品販売の利益と相殺できないので高くはつくだろうし、それが販売価格に乗る。言わば昔の子爵家。出費が増えるな。まぁ、こっちは同じ通貨なので利息しだいだろう。
あれ? 利息はあるのかな?
そして通貨が別なら当然為替が変動していく。だって、いっぱい積み上げないと買えないのだからな。前世の場合だと簡単には為替は変わらないよう、市場が勝手に調整されていく。いや、実際には変わられて困る偉い人たちによって調整されて要らない物を買わされるんだけどな。
で、話しは戻ってエルフとはこっちの状態で、積み上げないと売れない。積み上げてるのが酒だから尚更売り辛くなって行っている。価値の下落だな。
まるで経済戦争してるみたいだよな……
だけど、そう言われても買いたい物無いんだよなぁ
まぁ、エルフもそう言ってるわけだけどなっ!
使おうかな、何かにっ!
取り敢えず、エルフ領に山羊を連れて来れなかったから、商人に依頼して山羊乳を毎日届けて貰おうかな。何か、すっごい贅沢じゃね? 毎日、お取り寄せだぞ。
腹を壊さない為にも、まずは専用の冷蔵用の魔道具を作った。魔道具は魔法で収納ができないのでリュック型に改造し、予備の魔石を並列に組み込み稼働時間を伸ばす。冷蔵用のタンクは取り外し、洗浄できるようにしつつ外周の部品とは最低限の接触で固定させ、断熱を図る。その上で底面から容器ごと冷却する機構にした。
正直、かなり大型化してしまったが、やはり稼働時間の問題がな~ 凍結させて魔法で収納した方が長距離運べるんだろうけど、凍らせたくないし、しょうがないかぁ
母様に念話した所、若い山羊 3頭を他領から買い入れ、南端倉庫周辺で子爵領の土地を借用契約し放牧、世話する人の給与も俺が出す事になった。更には運搬は子爵領の領兵が 3人 1組で担当し、その経費も俺持ちになった。
……贅沢過ぎんか?
ここぞとばかりに資金が使われた。
◆
俺たちに出会う前のエルフ達は言わば孤立主義中のアメリカで、自給経済を達成していた。封鎖経済を実現した彼らは、人間社会どころか虫の縄張りにすらも興味を持っていなかった。対する子爵領はと言えば燃料と一部の食糧以外は自給可能な戦後日本状態。緩やかな貧困に喘ぎ、諍ってる状態だった。違いは燃料では無く塩ってところだな。
俺が塩と食料を増やすための交易用の対価として工業製品が作れた事で子爵領は安定していった。だが、その後エルフの里と交易を独占してしまってる事で貿易黒字が大幅に増え、戦後バブル期の日本状態になってしまったのだ。他国から見ればもっと何かを買えって思ってた事だろう。
順番は違うが農作物の生産を止め収益の高い生産物、加工品に切り替えた事で黒字が促進されてしまったのも同じである。
このままだと子爵領とその他の貴族と経済摩擦が起こる。と言うより摩擦自体は起きていて、まだ敵対行動を起こされていないだけだろう。
考えられる行動としてはエルフとの直接取引。だが、これは無理。地形的にウチを通らないといけないし危険を覚悟で新規の道を作くろうにも、エルフの森の南は海の上に崖だし、東は火山帯の未開拓地だ。何よりエルフが欲しい物は無いって言ってるんだもの。
次の案としては王家やウチと繋がる領地の貴族と組み、塩の流通停止だろうか? 原油、金融封鎖みたいな物だ。まぁ、無理だな。通貨と塩が連動してるせいで相手が対価を払えなくなるだけだわ。しかも、こちらが塩の供給ルートを構築したら終わるし、エルフが供給したらエルフの経済圏が増えるような物だ。王家が態々子爵家を切り離す理由が無い。
となると言い掛かりからの戦争って流れか?
無さそうだが、やはりまともな未来は無さそうだ。
やはり、交易の健全化は必要だな。
一先ず、俺と実家である子爵家の関係健全化の為に商人に定期便を依頼する事にした。請け負ってくれたのはいつも相手してくれてた子爵領の商人さん、ティーエの実父だった。ガラス製品の販売で活躍してくれているんだが、製造部門の俺とは年間結構な額がやり取りされている。俺がこちらに居る事で仕事が溜まる事もあるのでその場合はこちらに持って来て貰おうと思ってさ。前世と違い、輸送するのに重量は考慮しなくて良いしな。
それと追加でお願いするのは、エルフ領内でメイドが狩って来る肉を養護院へ運搬する仕事である。彼の息子さんが御用聞き兼、運送係として俺を担当してくれるらしい。もちろん費用は払う。御用聞きされても滅多に買い物しないからな。
実はティーエのお兄さんは距離魔法が使えなかったらしいのだが、使えるようになったティーエから教わったらしく俺も感謝されていた。
何が目的かと言えば、資源の寄付と言う無駄遣い、要は所得税みたいな物だな。後は手の空いた人への仕事の依頼は公共事業みたいなものだ。何ともその場凌ぎな感じが否めない。
正直、俺が自主的にやるのはおかしく無いか?
寄付先である養護院の食糧事情はかなり改善されている。偶に帰省した時なんかも、メイドたちは俺経由でロァヴェルナさんの魔力を使って狩りをする為に東西の開墾も進んでるんだ。
しかも今年の農作物の収穫が増えたのもあるが、世帯が分かれ一家の負担が減った事で養護院に新たに来た子は 1人だけだったそうだ。養護院の負担も軽減されて行っているのさ。
もう食べ物を探す腹ペコ幼女は居なそうだ。
主人公は凄いお金持ちって訳ではありません。ただ言わないと全く減る気配が無いので注意されました。領主である父は内需は全て管理しており、一部の物資を交易に回しているので貿易収支は釣り合っています。
領内商人も他領へ商品を運んだ分で必要な物を購入してくるので釣り合ってます。ですが、外部から来た商人は仕入れに来ても自領産の商品を買って貰えず、片道を塩か証文を運ぶしか無いのです。仕入れた物を売るので黒字ではありますが収益は低いです。
南端倉庫の売り上げが主人公に入る理由は、仕込む材料を子爵領とエルフ領から買って代金を払っていたからで、父の命じた仕事以外の仕事なので領民に報酬も払ってます。それを売れば当然売り上げは主人公に入りますが、主に試作品 兼 自分用と考えていたため量を把握してませんでした。エルフ産の代用品として手頃な価格のために売れ、想定以上の収益が上がってるのはカルニナフさんが遠慮せず試作品を量産したからです。
この世界の資産家も買いたくなるもの作れとか考えてるのだろうか?




