75話 続・余る資源 / 心育と体育 2
【 11歳 冬 】
さて、余る資源問題だが、前の話を聞いてどこかに似てるって思わなかったか?
そう、我々がエルフ領と交易を始めた初期の状態に近いのだ。エルフが自給自足の閉鎖経済をしていたため、彼らから物品を購入するには何か彼らの欲しがる物を作るしかなかった問題だ。近隣の貴族のジレンマは過去我々が抱えていた問題に近い。何か欲しがってくれよ、と。
我らはエルフに対し、お酒等の発酵食品に活路を見出した。自給自足してたとは言え、森の中じゃ農地は最低限だからな。あとは魔道具と魔導器か。一部は俺が図面を引いて、今は領民が請け負ってる。まぁ、壊れないし、壊れても直せるだろうから新製品を考えないといつかは売れなくなるがね。
でな……
今ウチの領が貿易黒字で困ってるって事はだ、エルフ領はどうなのよと……
はい! ありました! エルフ領、酒ありすぎ問題。
だよねぇ
人口は増えないって言うのに、それなりに美味い酒がバンバン入ってくる。本当は断りたいらしい。と言うのも、寝具や調味料は生産調整されていたが、要望が増えたため増産する事になったのだ。前までは数日働いては休みって状態でも生活できていたのに、仕事が増えて変化したのは酒と食事の種類が増えた程度。
酒あり過ぎ問題は、飲み過ぎ問題にも繋がるのだ。
結構デメリットとも考えられていた。
特に寝具部門では結構な反感があるらしい。酒より休みが欲しい、と!
対して、同じく商人の需要が多い調味料部門は 7村のエルフが子爵領南端で悪ふざけしてる所為…… お陰でそれほど増産はしておらず、反感とまでは行ってないようだ。
もちろん悪い事ばかりではなく、各部署で収入が増えたのは事実でエルフ達の間でも取引も増えており生活は確かに豊かにはなっているそうだ。前世風に言えば国民総生産は増大したんだよ。
ただ、取引量が増える、資産が増える事が幸せには繋がるかは判らない。実際、今は繋がっていないのだ。だからこそエルフは対策を求めた。それこそがロァヴェルナさんが俺を微妙に困らせてくれた依頼の数々なのさ。帽子もサングラスも、魔道具すらも酒はもう要らないって言うサインだったんだ。
ただこれは解決にならなかった。何故ならエルフの製品を欲しがってるのはかなり広範囲だからな。子爵領とエルフ領だけなら解決するけど、需要が捌けていないもの。
対策として帽子とサングラスと言うのは少額過ぎないか? って思うかもしれないが、その他の対策が軒並み失敗していたんだ。まず、エルフの北部警備隊は自分たちが獲った肉を捨てていたのだが、それの解体と加工を子爵領南端倉庫に外注した。手数料を多めに払い、塩や調味料も南端倉庫から購入し肉の加工製品を作ったのさ。これも結果として酒余りすぎ問題が、肉余りすぎ問題に変換されただけだった。
子爵領と単体なら結構良い関係を築けている。布や糸の交換や衣類のデザインなど知的財産の交換、と言うか共同研究みたいなものか。子爵領の方が利益を得てはいるがのだが、エルフ側は仕事は増えないしデザインだけが増えていくので苦情は無いそうだ。それどころかエルフの生地を子爵領で染色する何て依頼も出ているそうで、他領の商人も珍しい糸や布は売れると認識しているようだ。もちろん、人口的に消費量は少ないんだけどね。
この消耗品の消費量が少ないってのはこの世界固有の問題かな。前世より人口は圧倒的に少ないし、皮や糸のような摩耗する物以外は魔法で修理できてしまうしな。それと同じ原因で貴金属や宝石などに希少性と言った付加価値が無く、デザインのみの競争だから装飾品の新規需要が低いんだよね。数少ない需要がある製品は楽器くらいだけど、数は売れないし追加注文があるかも不明なんだ。
娯楽が無ければ消費は増えないよね~
この件を考えたんだが、前世の幕末日本か孤立主義中のアメリカみたいなものだよね。自給自足できて閉鎖経済を実現してたのに周辺国の都合で貿易を強制された訳だし。両方とも抉じ開けたのが資本家ってのも同じだ。となると、解決手段なんてあるのだろうか?
自分の領地の外に会社を作って生産して作らせるか? 利点は必要以上に働かなくて良くなって、利益をある程度得れる事。となると、欠点は何だろ? 前世では何があっただろうか?
……経験の方が消えてる所為か知識に残ってない。
何が起きるんだろ??
何かあったはずなんだよなぁ
取り敢えずはエルフの職人の負荷を減らす為にも俺が頑張るか~
◆
そろそろ成長期なんじゃないかと思っている。未だ関節痛は無いが兄の背が急激に伸びてる気がするのだ。俺と 2歳違いだしそろそろ俺も栄養バランスくらい考えておきたいじゃんっ! 時間は巻き戻らないんだよ。知ってたのに対策せず、手に入ってたはずのものを取りこぼすのは嫌だろっ
と言う訳でっ!
「子爵領から山羊を連れて来て良いですか?」
ロァヴェルナさんに理由を説明し、連れて来て良いか質問をした。山羊乳を輸入するとしても、子爵領で絞って数日後みたいのが届いても困るじゃないか。かと言って、流石に家畜を勝手に導入するのはまずい気がする。森に放牧できるエリアなんて無いだろうし、可哀そうだが地下とかになるのだろうか?
「ここに? ……うーん」
「どうしたの?」
丁度診療所に来ていたパスニーナさんが会話に入ってくる。
「乳が飲みたいんですって?」
「乳?」
「らしいの……」
「? ……その、少しなら分けてあげようか?」
はぁ? ……ん?!
「いやいあ、赤ちゃんの分ですし…… あと、恥ずかしいですっ」
「いやいや、私も恥ずかしいからっ!! その…… コップにならね?」
「 …… 」
「?! いや、待って。そうじゃない! 山羊を連れて来て良いかって質問をしただけなんですが……」
訂正したにも関わらずその後、何故か俺が乳離れしてなかったと噂された……
エルフには牛乳、山羊乳なんかの習慣が無いからな!
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【 心育と体育 2 】
人体の大人までの成長速度は大まかでは一定ではあるが、乳児から幼児、童子から青年に移る際の 2度では大きく変化をする。この為、その時期の心と体の変化には十分な対応が必要がある。
子が育ち体が大きく作り替えられると言う事は、そのための栄養素と適切な運動、そして覚悟が必要になる。親が栄養素となる食料を用意する事も必要ではあるが、子自身に自らが成長していてる時期だと自覚させる事と、栄養を摂取しなかった場合、努力しなかった場合に失う未来の可能性について理解をさせる事こそが最も重要なのだ。
時間は巻き戻らない。
努力した時間も、努力しなかった時間も。
そして、間違った努力をした時間ですらも。
よって努力する為の情報を集める努力も必要となる。
それは親同士の時代で行なわれた努力の結果により、更新された新たな情報が存在する可能性があるからだ。子に必要な努力とは、子が大人となる今少し先の時代に合わせた努力である。
もちろん子の性格や適正も重要だろう。
つまり子の成長期とは、親が子と将来なりたい自分を一緒に考える時期なのである。
エルフの社会には酪農が無いのでチーズ、ヨーグルトも無いし、それを真似た豆乳、豆腐もありません。パスニーナさんの感覚をこっちで言うと、鹿や熊の乳を飲みたいって聞いた位の衝撃です。
「え?! の、飲んで平気なものなの?!」
偉そうな事書いててハズカシ~




