74話 余る資源
【 11歳 初冬 】
母様との念話で子爵家の問題の相談を受けた。と言うより、俺もその件の関係者のようだ。
議題は子爵領、塩ありすぎ問題。
何とも間の抜けた議題なのだが、儲かり過ぎて困っているそうだ。現状、麦などの穀物の他、今まで領内で作っていた芋や豆まで買っているらしい。更にガラス用に採取していた石材も掘る時間を加工する時間に充てる為に外部からの購入に切り替えたのだとか。
武器、農具は全て更新済み。領兵の装備の一部には魔道具を採用し怪我人、死者が減少。農業も安全が確保され、農具の更新と魔道具にる疲労軽減で健康状態まで良くなった為、最大限効率化しているそうだ。
最近の領民はエルフ製の寝具の購入を目標に頑張ってるそうだ。既に手に入れた者たちは更に体調が良くなり、仕事も捗ると言う好循環。
良い事尽くめである。
こちらが仕入れたエルフ産の製品や、子爵領の製品が順当に売れて利益が上がっているのだが、現状欲しい物が無くて貿易黒字が大幅に発生しているそうなんだ。
しかも武装と健康状態が良くなった領兵の獲物を仕留める効率も上がっている。取れた肉は捨てず回収し余裕のある塩で加工肉へ、脂は魔道具で手間が最小限で製油できる。これが領内の需要を超えて売りに出すため更に利益を生んでしまう。
何が困るかと言うと、相手商人が困って、恨まれつつあるらしいんだ。人口が少ないのに効率化してるから消費が少ないのが問題なのよ。商人はこちらの欲しがる物、できれば自分の領地の品物を持ってきて売り、その対価でこちらの製品を買いたいのだ。相手の努力不足を責める訳にもいかないが、こちらとしても通貨ばかり増えても困る。なんせ、こちらの通貨は塩の交換券に過ぎないからな。
贅沢を推奨しても意味無いしなぁ
宝石や美術品の需要が無く、旅行も行く所が無いと…… どうする?
取り敢えず、対策と言うか、一時しのぎとして開拓に費用を投じるそうだ。新たに南へ広げた領域の開拓が進んでいるため、人が足りていないんだ。それで、親族の領地から仕事を探している人の受け入れを検討しているそうだ。父側は親族が少なくい為、母方の親戚の領地から来るだろうとの事。この事業にかなりの資金を投入し、必要物資は全て外部で購入するらしい。それと領外に出ていた子爵領出身の商人の一部も戻って来ているそうだ。
ただ、これが一時しのぎだと両親も理解していて、軌道に乗ってしまうと利益がまた上がり始めるって事だな。
実はこの問題の解決は相当難しいのだ。
前世の世界でも出来ていなかったろ?
製造業は原材料を買い、加工し利益を得る。利益分の価値の乗った製品の取引は、相手側に同等の技術が無い限り最終的には一次産業の生産物での支払いとなるものなんだよ。
そしてそれが自国内の一次産業と競合するものなのだ。別の生産物だろうと胃袋の大きさは増えないからな。だから同国内で競合していないにも関わらず、二次産業と一次産業は折り合えない。国が是正するために税金を投入し、一次産業は活路を求めるため海外へ売るからだ。政治家が対立してたのも同じ理由だな、前世の話ではあるが。
話を戻して、何か領外で欲しくなるような二次産業の生産物が無いものだろうか。直接取り引きしてる領にあるとなお良いのだけど。
【 とある初冬の夜 】
いつもと変わらない夜、突如一斉念話で警告が発せられた。
『 精霊が出た! 今年は随分遅かったからか知らんが、例年より数が 1、2割は多そうだ。注意してくれ』
『 1村、2村は両端へ。子連れ、妊婦は部屋で待機。外に居て家へ戻れない者は地下倉庫へ向かえ。外は任せて良い、今年は旦那も下がって一緒に居てやれ。後は任せろ』
「何事?」
「聞き取れませんでした」
「魔物でしょうか?」
ロァヴェルナさんに聞くしかないか。
『ロァヴェルナさん、今のは何ですか? どうしたら良いか判断ができません』
『一年に一度、この時期に精霊樹から変な何かが現れるのよ。素手でも倒せる位弱いけど、とにかく数が多いからルァニエス達も手伝って。素手で叩けば良いから。』
『わかりました』「聞いてたよね? 行こっか」
「「「はいっ」」」
外に出る前、天井の開いてる浴場に入り外を見ると空からピンク色に光った猿がゆっくり降りて来ていた。上を見るとここにも降りてきている。少し透けてるような……
「何だ?!」
「ていっ!」
ルセアがジャンプしバレーボールのスパイクのように素手で叩くと、猿はあっけなく消し飛んだ。
「……生物なのか?」
血も出ないし、遺体も残らない。浴室が壊れた形跡も無し。
「身体強化を使ったの?」
「いえ、全く。少し手応えが残るだけでした」
何なんだろ?
「部屋の入口だけ塞いで、浴場は諦めよう。早く下に行って合流しようか」
「「はい」」「わかりました」
地上に着くとエルフの男たちがビーチバレーでもしてるかの様に光る猿に腕を叩き込んでいる。上を見上げると精霊樹の枝の下全域で猿がゆっくりと降ってきているようだ。猿の形さえしてなければ結構幻想的な光景なんだろうに、何とも風情がない。
「来たわね。こいつらは毎年来る連中よ。生き物では無いけど、実体はあるから叩いて倒しちゃって。1人くらいはルァニエスの近くに居たほうが良いのかな? ルン、お願いね」
「「「はいっ」」」「わかりました」
メイドたちが散っていく。
それから暫く戦闘が続いているのだが、俺の出番は無しっ
俺が届く範囲に来る前にみんなが倒してしまう。身長差がありすぎるっ
そんな中、周りの様子が若干変化した。
『一部が地面に到達したようだ。注意してくれ』
ゆっくりと降りていた光る猿が地面からも走って来ている。
「結構速いな」
体重を前へ乗せて蹴り飛ばすが一撃とはいかなかった。透けてはいるが、実体がある。体重は俺より若干軽いとは思うが、これをワンパンチってのは無理じゃないか?
むくりと起き上がり、再度襲ってくる猿を見てロァヴェルナさんが叫ぶ。
「ルン。やっちゃって」
ルンは素早く俺との間に移動。猿の頭を掴むと、頭を下げさせ膝を叩きこんだ!
消し飛ぶ猿! 容赦ねぇ…… 鬼かっ
「ルァニエスだと一撃じゃないのね。う~ん。手足短いし、コレ使って」
木の枝を渡される。
「密集してるし、みんな上を見てるから、足元で魔道具や魔導器を振り回して味方を切ったらまずいでしょ? 精霊樹の枝だからそれで叩けば良いわ」
「わかりました」
「それ、後で返してね」
「は~い」
ルンも地上と空中の対応を再開する。
その後ろで何故か俺は別の猿と一対一の死闘を繰り広げていた。
何で、これが、一撃で、できるんだっ!
金属を打ち付けたかのような甲高い音が鳴る。猿なのにっ
何度も叩かれ、カキン、カキンと音が鳴っても無表情の猿。別の意味でこえー
猿も俺の攻撃の合間に何度も掴み掛かって来ようとするが、それほど攻撃は速くは無いので回避を続ける。これ硬くない? 種類が違うのか? 俺が弱いのか? マナ込めちゃダメ?
「……手こずれるのが凄いわね。どうなってるの?」
「かなり硬いんですけどっ?!」
「当たらないなら、そのまま頑張りなさい。私たちが代わりに倒したら経験にならないしね」
「はいっ」
それから、更に倍の時間を掛けて猿を倒した…… 汗だくだわぁ
「お疲れ様~」
汗一つ掻いてないロァヴェルナさんから声が掛かる。
合計で 4時間ほどの戦闘をして猿が降ってくる事は無くなった。
「さっきのは何なんです?」
「精霊樹から年一回放出される感じなのよねぇ ただ、何かは私たちも解かってないわ。死体も残らないし、生き物でも無いとは思うけど、放置してると掴み掛かって来るし齧っても来るのよ」
「嫌だな~」
「精霊樹の反対側でも同じような感じで、降ってきたアレは魔物に向かって行って食べられてるのよね。何がしたいのかさっぱりだわ」
「精霊って呼んでましたけど、これが出るから精霊樹なのですか?」
属性とか無さそうだぞ? 幽霊とかじゃなく?
「どうなのかしら? 精霊樹は私の父の故郷で呼ばれてた名称だもの」
この何とも絵にならない精霊とエルフの組み合わせ……
拳で語り合うなよ……
がっかり感が凄いな。俺が同一視してるだけだが、エルフと似てるのは寿命と容姿のちっぱいくらいだな。エルフが精霊を殴んな。あと、性格とかも何かさぁ
「なぁにぃ~ どこ見ているのぉ?」
近寄ってきて捕まった。鋭すぎっ
「……! ちょっ ロァヴェルナさん?! お尻っ あとっ……」
尻揉むな! あと、胸当たってる!
「胸見てたじゃん! 女性に興味が出てきたの? ねぇ」
「見ただけっ 触ってないし~」
「私もズボンの上からしか触って無いわ~」
「釣り合わないっ 離っ ちょっ 揉んでる方が変な声上げないでっ 怖いからっ」
いや、ホンっト怖いからっ
「ルァニエスは大きな胸が好きなのね」
耳元で囁かれた。
「言いがかり過ぎる……」
「人の胸見て溜息吐くんだもの……」
バレてらぁ……
「えぇ…… そうだったかなぁ…… 魅力的ですよ……」
追加で尻を揉まれた……
後日、エルフの男には街中で堂々とイチャついく勇者と揶揄われ、女からは母の胸が恋しい子と揶揄われた。全ー部、猿似の精霊の所為だーーっ




