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71話  収納魔法

 【 11歳 晩秋 】



 翌日起きると、未だ起きてた大人たちが(ようや)く解散しだした。収穫が終わって領民たちも仕事は無いし、畑も使わないので建物はこのままでも問題は無い。解散した大人たちはこれからひと眠りしてから帰るそうだ。


領兵より普段出歩かない農業担当の方が話し込んで居たようで、初めて会った同業の人と仕事の悩みや、エルフの里から持ち込まれた新しい作物の育て方や食べ方なんかの情報交換をしていたみたいだ。子供たちも同じだが、昨夜は満腹と睡魔に負け早々にダウン。そして今は既に起きて時間を惜しむように(はしゃ)いでいる。



さて、この剥製 2つはどうしようかな? デカすぎる剛毛の毛皮なんて使い道に困るぞ。両親に一任するつもりだけど、どうしようか。


「父さんの所へでも送ろうか? 孫の戦利品を喜んでくれるんじゃないか?」

「心配するのでは?」

「トンボは止めておきましょう。義母様が倒れかねないわ」

「『山越え』でも扱いに困るんじゃないですかね?」

「トンボと違って只の毛皮でしょ、気にする程でもないんじゃないかしら? 裁断したら使い道もあるでしょうし」


「トンボも魔物除けにでも使えるんじゃないか? 雨にも強そうだが」

「……それも良いのかしら? 壁にでも飾る?」

(つがい)を探してるトンボが寄って来たりしませんかね?」

「……取り敢えず、今すぐ仕舞っておいて貰える?」





 収穫祭が終わったあとは(しばら)くは子爵領で過ごす事にした。もう狩りの時期も終わりそうだが、折角の兄の学習の機会を奪いたくない。主に俺がエルフ領に滞在してる事が理由な訳だしな。



帰省中は魔道具関連の仕事や、道具と素材の発注などそこそこする事はあるのだが目新しく学べる事が無い。そこで、いつもは教わる側なので暫くは教える側になる事にした。教えるって経験も必要だろうしね。


場所は領主邸の中庭に面したテラス。内容は習得が困難な距離魔法の授業である。なのだが……


本日の生徒は弟妹たち 4人とメイド隊 2人。メイド隊は良いとして、何故か養護院の子が 3人と領主邸の非番の子が 1人来ていた。養護院の子は今年卒院らしくメイド修行中らしい。まぁ、大して手間じゃないし良いけどな。


既に習得しているルンとトルテは母より鉈の模擬戦をしている。人と争う事がほぼ無いので対人戦闘の技術としては要らないが、虫でも接地している部位と攻撃してくる部位が最低 1(つい)はあるので槍ほど間合いが取れない鉈の訓練には役立つのだ。



収納魔法の授業は原理と言うか、俺が理解している発動方法を教えていく。


まず、この魔法なのだが収納する物体が術者の肉体と離れていても起動する。マナで対象物を対象物を覆えれば良いので、間に空気があろうと空気ごと囲えば良いだけだからだ。そしてマナで囲った範囲の距離を固定するんだ。


実際に魔法を試させたのだが誰も起動できず。今日は終わりかな? と言うタイミングでやってきたロァヴェルナさんからのアドバイスで半数が成功してしまった。

「自分との距離なのだから、自分も一緒に包んでしまいなさいな。意外とそれで上手く行く人が居るわよ?」


「「「うぁ「あっ できました」」できたかも」」 

「その方法知らないんですが……」

「マナの操作が苦手な人の習得方法だもの。包めて意識できる人には関係ないわよ?」

「うーむ」

実際やってみると、自身の体の一部のような感覚の為、より距離感が判る。生命魔法で武器を包むのに似ている所為か違和感が少ない。何かに応用できそうな感じだなぁ


これでもルセアとアリー、ティーエ、養護院の子の 2人が習得できない。


ん~、真面目な子ばっか…… 考え過ぎなんじゃないか?

「何でだろ?」

「兄様…… 私、才能が無いのでしょうか……」

「いや、才能とかじゃなく理解の問題だからね。この場合は教え方が合わないって事だよ」

「「 …… 」」

「離れている物との距離は認識できるのだろ?」

「はい」

「遠さを意識できると、遠さそのものをマナで置き換えられるんだけど、これが判らないんだよね?」

「はい……」

「えと、私はそれっぽいのは判るのですが何も変化しません」

ティーエは少し違うようだ。


「何かが足りてないのかな? マナ量?」

「包めるなら足りてるわよ?」

ロァヴェルナさんが即、否定する。


「何だろ? 今の自分との距離…… 自分…… の魂と物の魂の距離? みたいな?」

「……あ! できました!!」

「え?!」

そんな説明で良いの? こっちが驚くわ! アリーと養護院の子が成功した……


「説明なのか? 言い回し? ん~ ……距離とは方向とかは関係無く純粋な長さで、目の前にある物との遠さ。2つの存在が引き合ってる力の距離?」

「「……」」


「ダメか~」

「目を(つむ)っててもできるからそれじゃ無理でしょ」

「それもそうですね。包めてるのに何でだろ?」

空間と座標を説明し出すと失敗するのは俺で経験済み。何が足りない?


「グラエ、グラエ、グラエ……」

まるで呪いでも吐いてるかのように対象になっている果物の名前を呼んでいる。ちなみにグラエは秋口にできる柑橘類でそろそろ時期が終わりなので今回貰って来たものだ。実は俺はこの果物が……


いや…… 名前で呼んでる所為じゃないか?


「もしかして漠然と物を意識してるのかな? 今、この瞬間に包んでいるソレって事だよ?」

「「 ? 」」

果物 1つ 1つは別物なのだ。あくまで対象はマナで包んだソレなんだよ。


「物との距離をもっと正確に…… 今、『自分』のマナで包んでいる、『物』って意識して操作してみて。ん~ それと、私たちの周りは常に時間が流れているだろ? だか「できました!!」ら…… え? 「あっ 私も!」おお~」


時間(『今』)も意識しないとダメなのか……

俺は意識しなくても起動するんだけど……


「良かった。これで、みんなできたね」

「何か凄いわね。もう少し苦労すると思ってたのに」

「自分と違うところで(つまず)く人に教えるのは難しいですね。凄い勉強になった気がします」

「今回は私も結構良い勉強になったわ。なるほどね~」

後ろでみんながきゃっきゃと喜んでいる。


「マナ切れるから程々にね」

「「はいっ」」





 妹たち 3人に約束していた魔道具を作ってあげる事にした。要望を聞いたところ妹 2人の回答は……


「「空が飛びたいです!!」」

「……ダメです」

「「ええ~~っ」」

批難の声。あのバックパックは紙飛行機型の滑空板の補助でしか無い。単独で飛べるわけ無いじゃん。体勢崩したら、地面に向けて加速する可能性だってある。


「空を飛ぶには、体重を軽くする魔法や呼吸を助ける魔法、体温を奪われない魔法なんかも必要なんだよ。だからバックパックだけあっても飛べないし危険なんだよ」

「やっぱりダメか~」

ダメ元だったらしい。


「じゃ、エルフの里で太鼓叩いてた人みたいに手が速くなる道具はできませんか?」

なぜそんなモンを…… フィニーの要望である。


「それは何?」

「手がいっぱいに見えるくらい速く動いていたんです!」

「ふ~ん。ん~ じゃ、私もそれでお願いします!」「では、私もそれで……」

アリーとティーエも同じで良いらしい。瞬発力強化の特化と疲労回復で良いかな? 両方生命属性だし、難しくは無いな。腕だけってのも良い。


「じゃあ、それを作ってみるよ。腕とかの長さだけ測らせてね」

「「「は~い」」」


その後作ったのは両腕の手の甲から腕全てを覆う服になった。腕同士は前で繋がっており、背中で閉じる形になっている。


完成した物を渡し効果を試したところ、妹の想像してた効果とは違ったようでがっかりしてた。妹たちの予想では凄い速さで鉈が振れると思ってたらしいのだ。もちろん慣性(かんせい)がある以上、ある程度重いものは速く振れるはずがない。


だが、ティーエが試しに拍手をしてみたところ、凄い速さでできる事が判り 2人も機嫌を直した。使い方次第で色々できると思ったようだ。フィニーはドコドコと当初の目的のバチを速く振る事を試し、アリーは訓練用の槍を(こん)のように使い、両端で的を叩く事を試したようだ。


「「あはははっ すっごーい」目が追い付かない~」「 …… 」

ウチの子ら、戦闘狂なのか?


羨ましそうに弟が見ていたので、2年後くらいに作ってあげると約束した。流石に今作っても背が伸びて使えなくなるからな。つーか、筋肉疲労じゃなく関節疲労するんじゃないか、これ?


「あんまりやると、骨がすり減るし、筋肉がムキムキな女の子になっちゃうぞ~」

「「え~」それは治せないのですか?」

「必要だから付いた筋肉は減らないだろ~」

「うー」


「いざという時に使うと良いと思うよ」



領民たちは初めて会った遠い親戚だらけです。更に嫁同士が養護院で知り合いだったとか、意外と繋がりが多いので話す事がいっぱいあります。あと、人口ピラミッドの高さは 60歳くらいしかなく、底面はかなりどっしり安定型なので若い夫婦が多いです。



距離魔法で術者自身をマナで覆う方法は非効率な方法です。自身と対象のマナの濃度差、圧力が同じになるので成功し易くなりますが、石を噛んで自身と誤認して土属性を習得するの同じ位の雑さです。距離魔法は生命体を固定できないので自身がどこかへ行く事はありません。

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