6話 幻想自然科学 / 学問で進め 1
【 4歳 冬 】
雪が降った!
去年は降らなかったのだが、聞くと数年に一度二度って感じらしい。
湿度が低いのか降雪量は低いようだ。
冬用の衣類も結構発展しているようで、色はそれほどでも無いがデザインは結構異なる。
個々に作ってるとしても、布、皮と糸が流通し買う人が居るって事だな。
毛糸の帽子だけとかじゃなくて助かったわ。
良かったよ、未加工品な食べ物が多いから時代が想像できなかったんだ。
古代かと思ったけど中世以降っぽい。凍える事は無さそうかな。
刺繍は無いのかと思ったら普通にあった。
ただ、どうも服の一部に使うような感じでは無さそうだ。
頻繁に洗う衣類には用いず、飾り布などアクセサリーのような物では技術が高いものが使われていた。たぶんだけど、糸の生産量の問題ではなく着色料とか染色技術の関係な気がする。たまにしか見ない刺繍はかなり鮮やかな色をしていたからな。洗濯に弱いのかもしれん。
残念な事が一点。毛皮製品が少ない!
多そうだろ? だが、普段捕れる獲物の皮はデカいし厚いし剛毛らしいのだ。鼠や兎の毛皮の方が使い勝手が良いくらいで、ウチの領の獲物は元の世界の革靴より硬く毛も太い。極太で柔らかくもない毛が生えた皮でコート作りたく無いだろ? 手頃な獲物が少ないんだよね。
厚めで丈夫な革が多いから、靴に使うならちょうど良さそうだけどね。
税について追加情報
税は全く無い訳では無いらしい。
この領地の土地は全て父の物なので収穫物に税って概念が無い。
領民は成果によって収入が決まる為、収穫が増えると給料も増える。
では、服飾の店を領民が領内に開いたら売上に税が掛かるのか? どうもそれすら掛からないらしい。だが他の領地へ売る場合にはその領地の領主に支払う義務があるのだとか。関税になるのかな?
自領で地産地消するなら無税になり、素材を他領から仕入れたらそれには税が掛かる。ただ、これはほぼ領地を行き来する商人が払う事になるので領民は気にしてない。商店に並んだ段階で上乗せされてるからな。
税は道の整備や治安維持に使うって名目なんじゃないかと思う。
基本、領と領の間の道はあまり整備されて無いらしい。
道が荒れてるってだけじゃなく、退治が追い付かない程害獣が出るそうだ。
服飾も含め大体の必要な物資は父の指示で生産しているらしい。この辺は共産主義風。同じデザインが量産される。服飾店を別途開店する事はできるが、最低限は領主が生産するので知恵が無いと利益は上がらないのさ。と言っても結構おしゃれしてるようなので、作って売る人もそれなりに居るんじゃないかと思っている。
俺もいずれは独立して何かしないといけないし、今から考えて行かねばだ。
さーて、勉強ー勉強ー
【 5歳 春 】
本を読もう。
両親に相談し、持ち出し禁止だが書斎の本を読む権利を得た。
高いみたいだしね、しょうがない。
読み尽くしてくれるわ~
……なぜか魔物辞典が充実している!
しかも…… 虫が多いっ!!
虫は嫌いだがもちろん見るぞ! 敵の情報は大事だものな。
ん~、どうもこれらは国から配布されたようだ。
多分だが、防衛に必要なんだろう。地方で呼び方が違ったら話にならないからな。
魔法が有った以上異世界なんだろうと調べたら、魔物も普通に居るようだ。
前世の幻想物語に近い種が居るのは前世の人達の想像力が豊だったのか、実際に居たのか判断に困るところだ。
ただ、魔物と危険動物の2種類に分別されて居るのだが、この分別のされ方が理解不能だった。
ガチョウ、一角馬、6本脚の鼠などが危険動物で、カブトムシ、蛙、ナメクジが魔物に分類される不思議……
前世感覚では虫が魔物に分類される事が多いように見えるが、蟻や蝶など小さな虫は魔物と同類と思われていないし当然危険動物にも魔物にも該当しない。
一部の虫の先祖に魔物が居て分岐したとかなかも知れないな。
無いかな……
ナメクジが意味不明過ぎるっ
あ~、加えて言うとカタツムリも魔物だ。
変わったところでは蛇が魔物なのに、蜥蜴や鰐は危険動物ですらない。
バッタ以下の扱いで、知ったのも食材の本に載っていたからだ。
もちろんグルメの本じゃないぞ。可食部の解体について書かれた物にである。流石に鰐はもっと暖かい国じゃないと居ないようだけどね。とは言え、この世界の鰐は山羊にも勝てないらしく、比較的安全な動物扱い。皮目当てにこの国で育てようとした事もあるそうだ。
爬虫類とかも関係なし……
どこで分岐したのやら~
肉食も関係無さそうだし……
いや、いっそ草食の方が体が大きい気がする。
この世界では進化論はあるのだろうか?
その前か…… 生物学…… いや、さらにその前の分類学ってあるのかな?
中々にファンタジーな内容だがドラゴンやグリフォンなんかは見当たらない。
流石に空想上の生物だったか……
ちょっと安心した。
行動範囲の広い奴らは恐ろしいからな。未知な物は早めに知識として詰めとかないと、うっかり巣に攫われるとか嫌だぞ、ほんと。
まー、魔物じゃなくても純粋にでかい鳥は十分な脅威なので安心はできない。
……どうもワイバーンっぽいのが居るようだ。
蝙蝠に分類されてる雑っぷり。あっぶねー、読み飛ばす所だった。
名称も「昼蝙蝠」とか呼ばれている。口元はしっかり鰐だってのに……
中々の速度で飛ぶ上に人間を攫うので嫌われ者の筆頭だとか。
そして、そいつと渡り合える魔物も居る。
蜻蛉である。
大きさは判らないが、人を攫えるワイバーンを捕食する程なので多分大きいはずだ。
意味不明なのが、ワイバーンは危険動物で、蜻蛉は魔物なんだそうだ。
脅威としてはワイバーンは人を襲うので危険度が高く、蜻蛉は人を襲わないとされている。口の構造上、蜻蛉からすると人間は食べにくいのだろうとの事。ただ、油断はするなとも書いてある……
い、嫌な世界だ。
書斎には戦闘やマナーの本はあるのに歴史などは無い。
どうも日記などの習慣も無いようだ。
そら自分たちで書かなきゃ書物も増えないわな。
先祖がどう言う経緯でこの領地を得たとかは全部口伝えなのだろうか?
ここの書物が戦術や戦闘技術に偏ってるのは仕事柄なのかね~
探したが植物図鑑は無いようだ。
せめて挿絵無しでも薬効や食用なんかの情報くらい集めたら良いのに。
お、つまり凄い毒を持ったヤバイ植物や歩き回るキノコなんてのは居ないとかかな?
……居ないと良いなぁ
木について
この世界って何故か木工製品がかなり少ない。
なんせ、本棚すら石製だったからなっ! 流石に聞いたわっ!
そうしたらやっと理解できた。この世界の木はすっごい硬いらしい。
武器に斧が無いのも、木に斧が通用しないから発展しなかったのだ。
燃料となる枝なんかは、森に落ちてる物を拾ってるそうだ。
基本、幹は人力では傷が付かず、枝も細い内だけがなんとかなるらしい。だからこそ春先などで地面に木の芽を見つけたら抜いてしまうんだとか。放置したら森に飲み込まれるだろうしな。
何故か枯れた木なんかは加工できるようでそう言うのが流通しているようだ。
流石に木も植物。密集し過ぎて栄養や光が無いと枯れるらしい。
この世界、木にレベルでも有るのだろうか?
どうやって経験値積んでんだっ
全部硬くなくたって良いだろうに……
製本技術について
紙の質はそこそこ、ただし少々濃いめの茶色で字は手書きである。
羊皮紙では無いが、これじゃ流通しないだろうな。木版と手書きが主流のようだし。
写本家とかが居るんだろうけど筆写じゃ量産はできないし値段も下がらない。
インクの滲みとかは無いが、どうにも字が太いっ
1ページ内に書ける量がペンの所為で制限されてしまっている感じだ。
国から配布されたものは版画のような感じなので大量に作る時だけは版を作るのかもしれない。こちらは挿絵もあるのでほんとに周知させたい情報だけは資金をかけて行うのだろう。版画の方が線が細いのだから筆記道具か写本した人の技術にも依るのかもしれないな。
いや、写本元の本の字が太くて真似ただけの可能性を忘れてるか……
◆
さて、それではお待ちかね、魔法について調べよう。
8系統あるらしく、地・水・火・風・光・闇・距離・無、だそうだ。
無は厳密には違うらしい。筋力増強や傷の回復ができるので命の属性っぽいがそれでは説明できないらしく、使えるが分類不明な物をまとめて一属性にしたんだとか。
主に体の内側で発動させる物のようだ。
魔法とは?
魔素と呼ばれる物を取り込み活用することで現象に介入できるっぽい。傷の回復は自分にしか使えないが、他人へも促すことはできるらしい。マナは効果がある方が消費するとのことだ。大体の人は無ともう1系統くらいは使えるのだとか。
マナとは?
解明されてないらしい。
判ってるのは肺からマナを吸収してるらしい事と、高い山の上や海上では少ない事だ。
これは魔力使用後のマナの回復が他の地より遅いのが根拠のようだ。
発生源はどこだろ?
山の上って事は空気かって思えば、海上でも少ないと言うし……
マナって何んだろ? 大気に含まれてる特定の化合物とか?
いや、マナは粒子なのか?
もしくは磁場のような何かを使って体内で励起しているとかだろうか?
あぁ、前世と肺が同じとも限らないのか。血が紫だし……
保留。今悩むの時間の無駄だわ。
マナの貯まる臓器は肝臓とされているが未確定なんだそうな。根拠としてはマナが消費できないと肝臓内で結晶化し魔石、もしくは魔結晶と言うものになる事があるからだそうだ。
魔石と魔結晶は結晶構造の違いらしく色や強度が変わるらしい。
ふむふむ……
稀に膀胱にできることもあるらしい。
?!
いやいやいや、絶っ対っ何か違うだろ! 誤認してないか?
検出器がないなら放置かな、既に何かありそうだが本には書いてない。
人類始まって間もないって訳じゃないよな? 重要な筈なのに研究が進んでなさすぎる。
判った事は、良く判って無いって事だった。
魔力量は大人になれば自然と増えるって事と、増える過ぎると結晶化して痛いらしいって事だ。
うーむ。
過去の事例では…… 4mm?! 本気か?! ※あちらの単位を換算してると思ってください
……基本増えない物と思っておこうかな。
元の世界でも根性で血中酸素濃度増やしたり肺活量を10倍に増やすとか無理だし。
多分そんなもんなのだろう。ゲームじゃないんだからな。
何より、魔法使う度に前屈みになる魔法使いになんて成りたくないわ。
さて、本の無い分類の知識は聞き取りじゃー
厨房で聞き取り……
忙しそうね、暇なときに聞こう!
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【 学問で進め 1 】
同じ生き物であるならば個に上下は無く、個に上下が無い以上群れに上下が無いのが摂理である。
ならば人の個に、群れに、国家に上下があるのは何故か。
それは生まれてから詰め込み、活用できる知識の量と使いこなす知恵の差であり、その重要度を教え、学べる環境を調える親と師の存在の差だ。
人が育つ過程でできる事に差でき、役目が生まれ、責任が発生する。
人が増えれば群れとなり、養う人の数が増えれば村となり、都市となり、国となる。
故に群れたる国家の差とは次代へ知識を託せた人の数と質、その歴史の長さの差であり、世界に平等が存在しないのは人や国が競い、励む向上心が有るからである。
魔法使いになる事に躊躇を覚えるファンタジー爆誕。
戦術、戦闘技術が書籍で残ってるのは全滅を想定しているからです。
対人戦、団体戦が滅多に無い為、経験し生き残った当主が子孫に残した物になります。
同様に毒関連は中ると書けないので少ないのです。
裏事情:この世界では人口が少ない為に管理が届くので犯罪者になる人が少ないのです。
こちらの古代にあった犯罪者を利用した実験の類がありません。
ちなみに牢は存在しません。森の奥に放逐します。食料は大事なので。
福沢諭吉の言葉「天は人の上に人を造らずー」はその次の行以降が重要です。
人が平等に作られてる以上、人の上下は人の努力で決まります。
それを突き詰めれば、体力より知恵を重視するべきだと言ってます。