65話 前前前夜祭
【 11歳 晩秋 】
子爵領から今年の収穫祭へ参加する人選が決まった。なんと兄と同母妹であった。迎えが必要なのか聞いたら、逆に一緒に行動しないよう言われた。
頼りになる護衛もいるので、迎えに行って俺が何かに襲われる方が怖いそうだ。
まぁ、護衛と言ってもカルニナフさん達、出張調理班と商人とその護衛らしいけどね。 弟 も来たがったらしいがまだ 7歳だからな、もう少ししてからになるだろう。
どうもカルニナフさんの所の人数はあれから更に増えてたらしい。帰省の際に国境付近を通る度、建物が大きくなっていってたしな。偶に話すのだが、素材が潤沢で試作品を大量に作れて楽しいらしく、チーズ以外の発酵・醸造食品を作りまくっているんだとか。
彼らは収入が無くなれば森へ狩りに行って、商店で肉払いで済ませたりするんだ。
開発費が途切れる事なんて事はまず無い。
この国境に一番近い船着き場は商店と税務部署もあるから、色々な物が集まるんだよね。追加で合流したエルフたちも居るので建築系ゲームの如く倉庫は勝手にデカくなるし、宿泊施設もどんどん豪華になっていってる。ここ最近だと酒場が繁盛しているらしい。建物一つが交易都市状態だから肉と酒につまみ、それと調味料には困らないんだよなぁ
今年は色々な発見が有ったようで、祭りには結構な量の成果物を持ち込むそうだ。
収穫祭には期待してくれと言っていたので楽しみにしていると伝え、収穫祭に一緒に来る予定の兄妹の事をお願いした。
◆
陶芸師匠の所へ行く途中、耳を澄ますと笛の音が聞こえてきた。曲を弾いていると言うより笛の音の調整をしている感じだ。エルフの人たちには余り笛は興味を持って貰えて無かったので、一人でも気に入ってくれたのなら実にうれしい。
師匠の所に着くとやはり師匠が笛を吹いていた。
「やぁ これを持ち込んだのは君なんだって? これ、中々興味深いね」
「他の村の人たちの反応は今一つでしたけどね……」
「そう? 結構な人から改良の依頼が来てたけど?」
「あれ? 私には何も来てないんですけど?」
「君はいつも忙しそうだしねぇ」
「気を遣って貰ってたんだ……」
ちょっと嬉しい。
「師匠、何か手伝いますか? 流石に祭りまで時間が足りないですよね?」
「いや、今年はルァニエスが持ってきた物をそのまま使うようだよ? 少しずつ変更して良いものが出来たら来年以降に使うそうだ。適当に何種類か欲しいって言われたからね」
「そうなんだ。でも、あの人たちは自分たちでしないんですね? 改良を楽しむ人かと思ってました」
「ん~ これはその前の段階かな? 今の音楽と合わないから楽しめないんじゃないかな?」
「そうなのかな? 結構合うと思うんだけどなぁ」
「音色の違う物をいくつか作ったら流行るかもね」
「なるほどっ 音の種類か~」
「まぁ、冬の間のんびりやるよ。ここなら響いても問題無いしね」
「私も参加します。面白そうだし」
「時間ある時に来ると良いよ。色々他もしているのだろ?」
「ははは…… この里、教わる種類が多いんですよね~」
「私たちは時間があるから気にはしないさ。ここ数年の変化の多さに驚く位だよ」
その日は笛の構造の解析と製造方法の調査の為に土魔法で試作を何個か作った。
笛を何か所かで分割できるようにし、太さや形状の違いでの音の違いを記録していく。内部の肉厚が目で見えるようガラスで作ってみた。ちなみに師匠の試作する笛の材料は色の薄いルビーだったりする…… 豪華過ぎっ
◆
祭りよりかなり早めに妹が到着した。カルニナフさん達の都合が半分、兄たちも久々にエルフの里を探索したいってのが半分らしい。兄はと言うと森の入り口で警備隊と久々に会ったのでそちらと合流、夕方一緒に来る事にしたそうだ。
「兄さま…… こんな感じでしたか? 知らない物がいっぱい増えてるような?」
「増えたかもね。ここに来るまでにも色々増えてただろう?」
「……門の彫刻の事ですか?」
「ん? 『山越え』の彫刻の事かな?」
あ~ フィニーは建てた直後の物しか知らないのか。
「私と姉さまの彫刻が付いてたのです」
「あ~ そうかもね……」
裏も確認してたか…… 帰りに気付いてくれれば良いのに。
「やっぱり兄さまでしたか…… もっと可愛くしてください!」
「片面だけだよ。結構頑張って作ったのだけど、似てなかったかい?」
「顔では無く、服が可愛くありませんでしたっ!」
「そっちかぁ どんなのが良いかなぁ……」
お年頃よね……
その後、何故か妹 2人の 1/4サイズの 模 型 を作る羽目になった。
拡大鏡を作ってまでフリルを造形する事になろうとは……
◆
エルフの里に一つの流行が生まれた。
それはガリと馬力だった。
※ 馬力…… ニンニクの梅肉漬け
カルニナフさんが子爵領に来て直ぐの頃、俺は余った米で日本酒の制作を試みたんだ。ただ、俺は酒を飲まないし、飲む人たちは濁り酒なんて未知の酒を飲まない。そのせいで半分は蒸留し米焼酎に、残りはそのまま米酢にしてしまったんだわ。
そして今年、使い道の無かった米酢の消費先として手あたり次第にピクルスを作っていたんだが、出来た生姜とラッキョウの甘酢漬けにカルニナフさんが嵌った。
ここから追加で子爵領に来たエルフ達までもが嵌まり、色々な味の酢漬けを作っていったのだ。変わり種もかなりあり、未熟な栗や胡桃、南瓜丸ごとの酢漬け何て物まである。
馬力も同じ感じの経緯である。酒を造る過程で出た酒粕の再利用を考えてた際に、発酵が進み酢になりかけた酒粕を調味料として使う酒呑みが現れた。調味料って言うか、奴らはそれの味を調えそのまま摘まんで食べてた。
そこで酒粕酢と化した酸っぱい酒粕に、俺が興味本位でニンニクを数日漬けてみたのさ。出来上がったのは赤紫蘇も使ってないのに薄っすら赤い、馬力モドキ。
口に合ったらしく追加で増産、他の食材でも調査するカルニナフさんとエルフ達。
そしてそれらを今回、収穫祭用にと持ち込んだんだわ。
嘗てない賞賛! 何故今まで無かったんだと言う悔恨!
収穫祭の準備も未だ始まってもいない前前前夜祭、酔ったエルフの怨嗟と喝采が止まらなかった。
そんな収穫祭でもない夜中にギターが鳴り響く。
「兄さま…… 変な人が居る……」
「指を指しちゃいけません」
演奏者は正にエルフの吟遊詩人な容姿。
ギターの弦用に伸ばしていた豊かな毛髪を女性の様に編み込み、無駄に豪華っ
だがしかし、額から斜めに走る 3本の爪痕に似た刻印が施されている。そんな 2人の音楽家が、即興とは思えない程に深い、らっきょうへの愛と賛美を歌っていた。周りの酔っ払いも変なテンションで盛り上がり、絶妙な合いの手を入れている。
気付けばお兄ぃまで参加してるし……
「……何か、聞いてるだけで口の中が酸っぱく感じてきたよ」
「わたしも~」
「何か飲み物をご用意しますね」
「あ~ うん、お願い」
カルニナフさんによると、国境倉庫のエルフ達は今年出たワインのブドウ粕による馬力に期待しているそうだ。
……できるのか? 今は酢ができるか確認をしている段階らしい。
研究熱心だなぁ
俺ももう少し考えようかな。
……そう言えば米焼酎ができてるんだから、みりんも作れるのかな?
料理に使うかは判らないけど元は飲料用だし作ってから考えるか~
いくら安全でも流石に跡取り候補を全員一緒には出して貰えません。
笛の改良に試行錯誤しているのは音色や楽曲を聞いた記憶を失っているからです。
単体の外見や簡単な構造は知っていても原理を知りません。
この世界命がけなので音楽のような娯楽は発展しにくいうえ、発表の場はありません。
エルフの里の方が異常なのです。
この馬力がこちらの世界で再現できるかは不明です。
美味しいかどうかも不明。第一彼らの舌が我らと同じかも不明、と言い訳しておきます。
酒粕から作る赤酢は同じですが、それを使った原理も怪しい異世界料理になります。
異世界酵母が頑張って異世界発酵させた事でできました。
らっきょうへの愛と賛美は誰かに贈るはずだったラブソングをらっきょうに置き換えて歌いました。もちろん贈られる予定の女性にむっちゃ怒られました。




