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62話  雲海ダイバー

 【 11歳 晩秋 】



 分銅(ふんどう)を巻き付けた『山越え』に乗馬の(ごと)(またが)り泳がせていると、近くに別の『山越え』が雲を突き抜け落ちてきた。


あっぶないわぁ


背中を反らせて溺れているかのよう暴れているその『山越え』は、マナを強化したのか急速に落下速度を減速させる。その様子は生き物が水に落ち浮かび上がる姿に似ていた。


『ルァニエス! これ良いな。群れを引き離し易い!』


落ちてきた『山越え』の背に居た人は巻き付いた分銅の収納し、飛び降りて板の取り出し飛行した。解放された『山越え』は犬かきのように足をばたつかせながら、大慌てで上の雲の中へ逃げ隠れて行く。


その後さらに数頭の『山越え』が落ちて来たのだが、その内1頭は他の『山越え』を巻き込み、2頭絡んだ状態だった。


「ひーーっ」

こえーし!! こっちには来てくれるなよ?!


(うなぎ)2匹が(から)んでるだけの状況だが、大きさが大きさ。もし巻き込まれたらすり身に成りかねないわ。しかも空中なのにそこそこ動きが速い。


誰だよっっ 誰か乗ってるんだよな?

『大丈夫なんですか?』


実は俺やエルフはお互いの位置が大体判る。今回は4班の誰かが居るって事しか判らないけどね。これはマナ通信の応用なのだが、通信中は何となく通信相手の居る方向が判るし、近づくと距離も大まかに理解できるようになるので気を付ければ雲の中でもぶつかる事はない。これも『山越え』狩り中にマナ通信を全員に発信し続ける理由になっている。もちろん娯楽が主目的らしいがな。


で、俺たち同士の位置が分かろうと雲の中に居た『山越え』の存在は把握できないので、雲の中で接触事故を起こしたようだ。


『問題ない! が、降りる機会が見つからんっ こいつら喧嘩初めやがった』


2頭の鰻の絡み合いの上をぴょんぴょんと器用に(かわ)す男が居た。


「すっげーっ」

実は楽しんでるだろっ


『ロカ! さっさと道具回収して飛び降りろ。今なら下に俺らが居る』

『このブンブン振り回される2匹の尻尾が怖えー』


『……お前、ルァニエス以下だな』

『ちょっ 巻き込まないでください』

『……頼むぞ~』


結果、ロカさんってエルフは分銅を回収し飛び降りるも尻尾に引っ叩かれ、板を出す暇も無く落ち他のエルフに俵担ぎで回収されて行った。



『3班、4班。無事獲物を確保した。これより降下する』

『『了解!』』


上空で行動していたヴェイザルトさんから報告が来る。

そろそろ狩りが終わりそうだ。


さーて、こいつをどうしようかな?

飼うのは(もっ)ての外だが、食べるにはデカい。あと美味しくないんだったか?


『……あの~ 大きい『山越え』が美味しくないって本当ですか?』

でもほら、一度は試してみたいじゃん?


『背の肉は固すぎるし、腹側は脂が乗り過ぎて食うには重い。まぁ、内臓はなかなか旨かった覚えがあるかな』

『ルァニエス。もしかしてそれを仕留める気なのか?』

『拙いですかね?』

『食うなら良いんじゃないか? 食わないなら逃がしてやれ、とは思うが』


『では、協力お願いします! 子爵領にお土産にしたいです!』

『……4班! こっちはもう良い! ルァニエスの親孝行に協力してやれ!』

『おうっ』


『回収班! 手の空いてるのは回ってやれ』

『了解!』


『『ルァニエス~ がんばれ~』』

お姉さま方の声援をいただく。張り切るぜぇ


『ルァニ~ 雲の下に降りてよ~ 見たいっ!』

お姉ぇが無茶を言う!


『臆病だから雲から離すと暴れるからな。最下層の雲を越える時までには確実に弱らせとけよ』

『わかりました。ありがとうございます』


アドバイスを貰う。

なるほど、なるほど。


……なるほど?






 さて、こいつを何とか弱らせた上でエルフの里付近に軟着陸(ソフトランディング)させたいが、どうしたものか……


念話の感覚からすると今はエルフの里より随分北側、子爵領寄りに飛んでいるようだ。ただ子爵領内には入ってないはずなのにロァヴェルナさんとのマナ共有が有効にならないところを見ると、高度がまだまだ高いんだと思う。そして、こいつ自身はエルフの里を迂回(うかい)したまま西へと向かっており、今は里から離れて行ってる感じだ。


どうする? 推進装置で里の方へ押し戻しても良いが、絶対気付かれる。高度を下げさせるだけなら分銅を増やせば一気に落ちて行くだろうが、地面に叩き付けたい訳じゃないんだよ。小型の分銅も持って来たら良かったが今更用意できないし、マナ共有が外れている今は鉄の加工なんてできない。


まぁ、最悪は諦めよう。


まずは、今掴んでいる『山越え』に巻き付いたタコ糸に展開前の落下傘(パラシュート)を何個か繋ぐ。後は分銅をもう一つ追加して、落下速度は推進装置で調整してやろうか。


……背中で作業していると『山越え』と目が合った。



……やっばっっ

そりゃ、気付くか!


『山越え』は背中に居る俺に対し勢いを付けヤギ頭をぐるりと振り回して来た。


分銅を出す余裕は無く、振り回された頭の攻撃を背を低くし、回っ、避ーっ!


あっぶないっ 首の骨格の可動範囲外で当たらずに済んだが、3mを超える頭とか普通に死ねる! 続いて『山越え』は体を(ひね)横転(バレルロール)してみせた。


タコ糸にしがみ付くが体が浮き、一瞬両足が空中を泳ぐ。しかも結構速いっっ

「こっえーーっ」


『ルァニエス?! 大丈夫か?』

『気付かれました! 落ちるかもなので、失敗したら拾って欲しいです!』

『おう。グラウっ 少し下で待機してやれ!』


『俺? 他の奴が良くないか?』

『どっちもどう落ちるのか見当がつかんから熟練者が良い! 下で巻き込まれるなよ』

『不安になったわ…… 了解っ ルァニエス! 遠慮無く落ちて良いぞ!』

『いやいや。落ちなように頑張りますからっ』


横転を耐えると今度は後ろ脚を上から叩きつけて来た!


 一々 (いっちいち)の振舞い(ムーブ)しやがってっ 空中で背中()くなっ!

タコ糸と繋いである命綱を(つた)い、()えて骨盤(しり)の方へ移動! 脚にパラシュートの一つが当たり落ちていった。


あっぶねー、迂闊(うかつ)だった! 命綱に(かす)ってでもいたら俺も落ちてたかも。


『強制降下させます! 援護お願いします!』

急いで分銅を取り出し、片方に軽量化。振り回して『山越え』の下半身に巻き付かせる。


『降下? 援護ってどうすりゃ良いんだ』

『重量を増やした後、まずは私が落下速度の調整するので足りなければお願いします』

『よし! 他のは周辺で待機! 少し離れろっ』


紐を引いて残ったパラシュートを全て展開。エルフ達が周辺を飛ぶ中、下半身に巻き付いた(おもり)に耐えれず『山越え』は一気に垂直になっていく。


『では、行きます!』


片手で命綱を掴み、2本目の分銅のタコ糸に足を掛けて推進装置を起動、重力に逆らい、落下速度を抑える。垂直の体勢にされた『山越え』は、雲から離された事で必死に上へ昇ろうと脚をバタつかせ、胸鰭(むなびれ)も凄い速さで(ちゅう)を掻いていた。


『すっげ~ 無茶するなぁ グラウ。出番かもだぞ~』

『おう。来い来い』



あっ やっばい…… この作戦失敗だわ……


寒いし辛いが今すぐ手袋を脱ぎたいっ 滑る!

慌てて命綱を手に巻き付け体勢を整えるが、想定が色々と甘かったと認識させられる。


まずは『山越え』ってほとんど腰が無いから垂直にした事で錘が骨盤までズレていった。

そして何よりこの位置、すっごい揺れるっ


当然なのだが、鰻のようにニョロニョロと尾をくねらせ始めた所為だ。位置が悪くて俺ごと推進装置も激しく揺れるため、振り落とされないように耐えるので精一杯なのである。


『……なるほどな。手伝ってやる』


エルフの一人が俺の横に飛びついて来てタコ糸と俺を掴み、手と足で俺の体を支えてくれた。


『分銅が重すぎるな。少し削るぞ。』

『はいっ!』


テトラポットの端を掴むと、土魔法で短く切り取り収納していく。その後、命綱を伝わり揺れの少ない背中まで登った。


登ってる途中、時間が無いのに要らん事に気付いた。この胸鰭って腕なんだな、肋骨の下側なのに肩甲骨がある。あと、伸ばすと結構長いな。


余計な事を考えているとマナ収集刻印が反応し出した。結構な勢いで降下したようだ。

逸れた気を引き締め直し、命綱を握りつつ『山越え』の背で推進装置を再起動させた。



『俺も乗りて~』

『どうせならみんなで乗ったら調整し易いんじゃないか?』

『お前が乗りたいだけだろ』

『何か今まで頑張って道具使ってたのが馬鹿らしくなるな……』

『来年からこれにするか……』


『落下傘は必要ですからね? あと掴むための紐も』


パラシュートが機能する程度ゆっくり落ちるよう錘の量と推進装置の出力を調整しながら、俺たちは『山越え』を連れ下層の雲の海に(もぐ)っていった。






 上層の雲の中と変わらず、寒いし痛い。空気の拡散防止に対し凄い負荷を掛けてくる。そんなまだ周りが真っ白な中、ロァヴェルナさんとのマナ共有が再接続された。やっと、やっと余裕ができた……


下に向けていた推進装置を体勢変え、『山越え』の進路をエルフの里へ向けた。


『そろそろ雲から出るぞ~』

『お~ 待ってたよ~』

エルフの里の観客から声が掛かる。白い尻尾の先から雲より登場する事になるはずだ。


『『 ? 』』

『?! ……あははははっ そんな風に飛ぶ『山越え』を初めて見たっ』

『あははっ やっばっ ち、違う生き物じゃんっ ひっどっ』

『ひどい。ひどい。ひっどい。あはははっ く、苦しっ あははっ』


流石エルフ、そこから目視で見えるんだ。援護に付いてくれたエルフ達も『山越え』を囲むように回りながら雲から降りてきた。


後はエルフの里に届けるだけだ。


『ん? 待て!! ルァニエス! 里に降ろす気か?! 止めろっ 危険だ!』

『え? 暴れるとかですか?』

『違うっ! こいつらが里を迂回するのは俺らの所為じゃない! 精霊樹の東の魔物を避けているからだ!』


『あっ 拙いかもっっ!』

エルフのお姉さまの短い悲鳴が聞こえる。


『は? もう見つかったのかっ?!』

『え? えっ?』

何にさ?


推進装置を斜め下に向け『山越え』を回転させると、何かが凄い速度で近づいて来てるのが見えた。『山越え』もそれが見えたのか、今まで以上に暴れだす。


『おいっ どうする! 継続か? 放棄するか?!』



俺が捕まえた『山越え』に反応し、バカでっかい蜻蛉(とんぼ)が突っ込んで来た。



2頭じゃなく、2匹はわざとです。


犬のように体を捩じって振り落とさないのは空中だからです。地面に足付いてないとできないです。


分銅は垂直にしても胸鰭と後ろ脚に引っかかって落ちはしません。前側の分銅は垂直になってもパラシュートと連結しているため前脚の付け根にあります。肋骨の上だと振られないため揺れが少ないのです。


エルフのお嬢様方が笑いすぎてるように感じるかもしれませんが、こちらの世界で言うとダックスフントがプールで立ち泳ぎしてる所を見た感じです。そうじゃ無いだろと……

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