5話 血と魔法と常識
【 4歳 夏 】
異母弟が誕生した。
男3、女2…… 子供が5人って普通なのかな?
どうも普通らしい。2人の妻で子供5人なら少ない方なんだとか。
メイド情報だけどね。
平民じゃなく貴族で? 本当に?
そんなに亡くなるとかなんだろうか? 恐怖しか無いんだが……
【 とある夏の日 】
最近判った事が二つある。驚愕の事実だった。
経緯からお話しよう!! 落ち着いて聞いて欲しいっっっ
最近は走る練習を加えたのだ、当然建物内でな。
迷惑の掛からないよう人の少ない時間を選んで配慮したつもりだったのだが、しょっちゅう「確保ーっ」される。
建物内の床は硬いから心配らしい。とは言え、庭で走りたくないんだよ~
でだ!!
メイドから逃げ回ってた時の事なのだが、滑って転んで鼻血出してたら治してくれたのだ! 魔法で!!
もちろん泣いてないぞ!
驚いた理由その1.魔法があった!
……驚いた理由その2.
自分の血の色が紫っぽかった!!
なんじゃ、こりゃ~っ! 血って赤色じゃなかったか?
記憶違いか?
混乱してるが、メイドが驚いたり蔑むような目をしてないので多分普通なのだろう。多分。
俺の目の構造が違うのだろうか? 赤を認識してないはずは無いんだが……
もしくは血の成分が違うのだろうか?
判断する基準が判らない。もしかして人類じゃないのか??
進化か? いや、太陽光…… じゃなく、成層圏の成分が違うのか?
いや、赤はあったから可視光と目の構造は同じか近いはず……
血の色にも驚いたが、鼻に手を当て見つめられてるだけで痛みが消えた事は驚愕だった。
出血が治っていく感覚が認識できるのだ。魔法かよ! 流石に一気に涙が引いたわ。
凄いわ~、こうやって信仰は生まれるんだな!
多分、魔法を作った神様は美人な女神に違いあるまい!! あ~りがと~~
血に驚いた事は隠しつつ、メイドに魔法について質問をする。
そもそも魔法は一般的な物なのか? このメイドだけが超能力者の類なのだろうか?
聞くと他のメイドもこの位は普通にできるらしい。
教えてと言ったら、小さいうちはできる練習回数が少なすぎて上達しないから駄目なんだそうだ。
大きくなったら教えてくれるらしい。
「お~~ やったーっ」
「……」
……騙されてないよな?
忘れられないように定期的に催促しちゃうゾ。
異世界の異生物か~
まぁ血には驚いたが、赤血球が紫な血球ってだけだ、受け入れよう。
俺だけじゃないなら良い。この際無視だ。鉄分が多いか少ないんだろ、多分。
でだ、魔法あんのか~
別の惑星に移住の可能性は減ったな。異世界で別の物理法則かよ。
魔法は是非とも使いたいが、だとすると他にも物理現象や身体構造の違いがあるかもしれないな。人間もだがバッタだって何か魔法を使えるのかもしれない訳だし、変な先入観は捨てないと危ない。
敵がいきなり光って爆発とかあったら嫌だろ?
もしかして内臓も違うんじゃないだろうか? 宇宙怪獣的な何かの貯蓄器官とかありそうだ。どこかに医学書とか獲物の解体指南書とか無いものかな~
……よし。スタートダッシュは諦めよう!
別にヒーローを目指したいわけじゃ無いし、程々で良いんだよ。ここ重要!!
◆
4歳で未だに両親と一緒に食事しないのは風習とか、そう言う何かなのかが判らなかったのだが、ついに判明した。
厨房を覗き込んでたらパンがあった訳よ。
で、おねだりして少し切って貰って食べたんだが……
硬ってーっ
乳歯折れるわ!
すっっごい硬い、パンっぽい何か!! なんか辞典齧ってる気になる!
物理的に歯が立たない。
え? そう言うこと?? 大人はこれを食べるの?
バッタ並みの顎の力要るんじゃない?
飲もうか迷ってたら出して良いって言われた。
ありがとう! 厨房長!!
今しばらくは粥かシチューが良いワー
【 秋 】
色々と食べ物が食べれるようになって興味を持ったのだが、果物も硬い物はすこぶる硬い。
虫に食われる気は無いようだ。ゴルフボールだってもっと柔らかいだろ!
これは種じゃないのか? 皮? 殻かも。
開けると中の身は柔らかく、細かい種が入ってるらしい。
皮が柔らかい物でも歯は通っても顎の力では割れてくれない事がある。
こっちは皮じゃなく身が硬い。齧った後、手で抑えて首を動かしても歯の方に危険を感じるレベルである。
熟れてない柿を齧ったらこんな感じなのだろうか?
ここからどうしろと?! 足か?
苦戦してたら母に笑われた。兄も同じ事をしたらしい。
この世界の子供あるあるのようだ。
親が気付かず、足を掛けるのに成功してしまうと歯を失うらしい。
どんだけ硬いんだ!!
どういう進化を遂げたんだろうか。もちろんジュースで戴くぞ。
ジュースにするには専用の石臼があるんだそうな。
電気は無いし、ミキサーも無いからな。
考えると、前の世界の古代ではどうやってたんだろ?
ちなみにだが、最初に言った果物はパイプカッターみたいな形の専用工具で皮を切断する。
説明とか聞かず丸ごと口に入れた為、速攻で母に逆さ吊りにされてしまった。
窒息の危険もあったらしい。
見た目はでかい葡萄だったんだって。
税について
収穫の時期だから税はどうなってるんだろって思ったのだが、税は無いっぽい。
収穫物を全て屋敷に集めてるからおかしいと思ってたんだ。
この領地の生産物は全て領主の物って事になる。ひどい話かと言えばそうでもない。
要は、全員が社員って言えばいいのかな?
この領地の運営は会社とその従業員で行われている。
敷地内の工事も運営も全部会社主導で行うんだ。
当然社員に税金何て無い。領主が給料を払う側だな。
経営者はできるだけ従業員の福利厚生に気を掛けているし、道を敷くのも警備を強化するのも会社の為である。会社の敷地だし。
こんな体制になる主な理由が倉庫の扱いだ。
冷蔵機能など無い普通の倉庫だが、防衛が必須で費用が掛かり、怠ると害虫、害獣に一気に喰われるらしい。
なので各家庭で保管なんて効率が悪く、一括で管理防衛する配給制度に至ったようだ。
配給制とは言え共産主義と違うのが、担当する畑の収穫量が多いと収入が増えるのだ。
つまり会社のように考課が存在している。
あとは転職、副業も自由である。
屋敷の倉庫に関しては大事な物や季節物の衣類等を預かるなど貸し倉庫業までしてるそうだ。
ほんっと、虫が怖いらしい……
この世界の建物の構造だが、とにかく地下が立派。今住んでる屋敷も地下が二階もある。
形状の説明だが、まず平地に二階分の正方形の建物を作ったあと石で覆う。
出来た土台のその上に居住区を建設、ここは二階建てなので地上から見ると四階建てになるのだ。
埋められた二階分が日本の城の石垣のような役割を果たす。
しかも領主邸は水堀まであり川から直接接続されているらしい。まじで日本の城。
荷物を運び入れる跳ね橋が堀に接続されてるが、通常は壁の役割をしている。
それ以外は窓も無い。もちろん害虫、害獣対策である。
上部の居住区も石垣ぎりぎりに配置されており、窓も少ないので城壁のようだ。
子供部屋の窓が横に細長いのも虫対策だったのだ。
ただ窓が少ないとは言え上部の建物の中央に中庭があるので建物内は暗くはないし、中庭には木や花壇なんかも有るので快適だったりする。
そうなのだ。
俺がバッタに会ったのは実は地上3階にある中庭でした。
メイドに連れられ外に出た事があったのだが、地下二階から地上に出ると思わないから凄い驚いたわ。
更に背後を見て石垣付きの城が有って理解を超えた。戦国時代だったのかと……
二の丸とかの駐屯施設や櫓なんかも無いので日本の城とは異なるが、かなり大きな石垣だ。
そしてその結構広い中庭の真下も含め、全部倉庫って言うのだから相当広い。
税の話に戻るが所属国にも作物は納めて無いらしい。
知らない単語が多すぎて詳しくは聞けなかったが、作物での納税は無いようだ。
所属国家との間にあるのは緊急時の相互安全保障条約状態で、守って欲しければこちらが困った時には援助要請を受けろって内容のようだ。
戦国時代みたいだよな。建物もだが……
ここがどんだけ周辺の国から離れてるのか気になるが、援助要請も敵国じゃなくて虫や獣なのかもしれない。蝗との戦争とかあったら怖いんですが……
俺は法螺貝を吹く役が良いかなぁ
主人公に元の世界で血が赤かった実感はありません。
知識としてあるだけで、怪我をして血を流したなどの経験がリセットされています。
あとウチの主人公、単純なうえに割り切りが早すぎるのです……