55話 強敵
【 11歳 秋 】
朝、普通に出て行った護衛担当 3人が、お昼過ぎに真っ青な表情で帰ってきた。
診療所で手当てをしながら話を聞くと、今回の戦闘は色々大変だったそうだ。
相手は初めて見る気持ち悪い生き物が相手だったのだが、その生き物は高速で移動しながら口から黒い糸を吐き、ルセアの足を絡め捕ると手繰り寄せて食べようとしたらしい。
これ自体も怖かったそうだが、本当に怖かったのはここから。
エルフ警備隊の一人がルセアの足を撥ねようとナイフを振ってきたんだそうだ。
何でそうなる……
どうもその黒い糸はほぼ切れないらしい。しかもその魔物は足が多く、一度捕まるとまず逃げられないんだとか。こういった状況だと、エルフでは食べられないよう足を切る選択をするそうだ。
久々に危険な世界だと思い出したわ……
もちろん、今ルセアには足がちゃんと付いている。
ルセアは咄嗟にナイフを鉈で防ぎ、その直後にトルテが靴を縦に切り開いてなんとか魔物の糸から逃れられたんだとか。もちろん靴だけなんて器用な事はできないので足ごとな……
エルフの判断も間違っていた訳では無く、次の瞬間には靴は魔物の口へ持ってかれたらしい。そら…… うん、怖かったよね……
レイが援護をしながら怪我したルセアを後方へ移送。エルフたちにも余裕は無く、そのまま戦闘は継続、結構な被害が出る程の激戦だったようだ。そして戦闘終了後、傷の応急処置をして 3人は帰って来る事にしたらしい。
今日狩りに行った 3人の落ち込み具合が酷い。最近順調だっただけになぁ
「傷の治療は終わりね。ルァニエス、造血魔法を継続で。ルセアはこれ飲んでて」
「わかりました」
「はい」
「少し狩りは休んで貰って、装備を作り直そうか」
「「「はい……」」」
対策する為、記憶保護で戦った相手を確認したところ……
蛸だった。
……お前っ、陸に居るんか?!
頭はバイ貝のようなツルツルの貝殻に覆われ、足は 8本。色も動きも蛸そのものである。足の長さだけで 10m弱、中々にデカい。
しかも足の動きがとにかく速く距離を取るのも一苦労で、相手は糸による牽制付きと来る。吸盤もあるし、たしかにこれは捕まったらヤバいわ……
それと、情報では貝殻の部分は魔結晶だそうで、常時身体強化を使いかなり硬いそうだ。
更には吐いた糸と足を使って木々の間を跳んで移動するんだとか。
たこ墨が糸に進化してるしっ! お前…… 出演番組間違ってないか?
「これ、倒せたの?!」
「 2班の方々が合流してくれて、足を全部切って何とか……」
「王都発行の辞典にも載ってない魔物が居るのか~」
その日の夕食は蛸とにんにくの香味揚げだった……
凍らせた後ミートスライサーで薄切りにし、それを短冊切りにして揚げたようだ。
「……食べるんだ」
食べられかけたのに……
「一回は食べておきたいなぁと」「……結構美味しいです!」「「……」」
薄切りにできるなら酢だこで食べてみたいなぁ
◆
エルフ警備隊には装備を作り直すのでしばらく同行を休止すると伝えた。
護衛班…… と言うか、メイド隊全員分の装備を見直さないといけない。
やはり野生生物相手に鎧は要らないし危険だな。外れた方が絶対安全だわ。
それと武器は現状のままでも良いが、相手の行動を制限できる装備が欲しい。子爵領に居た時は狩りなんて落とし穴を多用したらイケるんじゃないかって思ってたけど、百足とか蛸とかに落とし穴が通じると思えないわ。
マジ過酷すぎっ
先人たちの知恵は大事だね。取り敢えずは、口に放り込める携帯ジャッキの作成だな。まさか自分が用意する事になるとは思わなかったわ。バカにしてごめんなさい。
まぁ、形状は変える。流石に手を入れるのは危ないからな!
まず作ったのは直径 1m程の鉄球に柄を付けた魔導器。
ハンマーっぽいがジャッキである。マナを流すと鉄球から 16本の支柱が伸びる。
現状、欠点があるので試作品だな。魔法による形状変形でも無く、機械式でも無い。空気圧でシリンダーを伸ばす為、空気充填、バルブのロック解除の 2工程掛かる。それと、ゴムパッキンが用意できないので手を離すと短時間しか維持できない問題もある。
コイルバネが使えれば楽なんだけど、製鉄の問題で今回は空圧式にした。他に方法があるかもしれないが、携帯性を考えると魔道具より魔導器が良い。現地で魔石の脱着はしてられないからな。
次に目潰し用に戦術用懐中電灯の魔導器を作った。
これは瞼の無い虫や目の良い魔物ほど効果があると思う。こちらは単純に最大光量を特定方向に発するだけなので簡単だった。光量は魔導回路の数を増やせば良いだけだし。
さて、次は防具に行こう。
当然、鎧では無い。必要なのは粘着物や、毒や酸などの液体への対策なんだ。もちろん彼女たちが普段着ている衣類は既に肘や肩、太腿など至る所で外れるようになっている。だから必要なのは盾のような物か、マントのような外套の類だろう。
とは言ってもマントは色々な動作の邪魔になりそうなのでエプロンにしてみた。
メイドだしな。
もちろん只のエプロンじゃない。日捲りカレンダーのように何枚も重ねた物にした。一枚一枚は軽く縫い留めてあるだけなので、強く引けば一枚ずつ外れる事だろう。
それと靴も作り直しだ。足を切られたり、折られたりしたら死に直結するからな。
とにかく脱ぎ易い方が良い。
形状を変更し、足の甲から脛の部分まで一気に前側へ開く機構を付けてみた。高反発素材を入れて直ぐに開くようにし、閉めた状態で 1本のピンで固定した。手榴弾と同じだな。ピンを抜くと留め具が弾けブーツが開く。
まぁ、あとは順次対応だな。
何が出るか想像できんわ。
◆
あの日から夜はメイド隊 4人と交流を増やす事にした。充実してるっぽかったので少し距離を置いてたんだが、落ち込んで欲しくも怪我して欲しくも無い。
何と言うか、女の子に囲まれるのも、自分から話掛けるのもちょっと恥ずかしいし、何か立場を利用して迫ってるようで嫌だったんだよ。ほら、俺、雇用主だし。だけど、そうも言ってられない。後悔するはめになる。
まずは性格と技能の把握だよな。性格は配置に関係してくるし、技能は今後の訓練の計画に関係する。全員に同じ教育をするのは間違いだ。適正を調べ、適切に鍛える。
まず、この 4人でリーダー的な立場なのはレイかと思ってたんだけど、ルセアのようだ。はきはきしゃべる子だな~くらいにしか思ってなかったんだけど、決断が速く、いつのまにかみんなに指示する役になっていたらしい。
戦闘では前衛になる事が多いそうだ。責任感が強いとかでは無く、ほんと頑張り屋さんなのだ。今回も足に傷を負ったのに次は勝ちたいとか言ってる。応援したくなる子だ。
レイはと言うと、養護院では管理人さんと仲が良かった為に礼儀を教わる事が多かったらしく、お客の対応を任されて居たそうだ。ロァヴェルナさんの対応をしてたのはそう言った理由らしい。4人は同じ歳だが、落ち着いてる所為かレイだけ少し大人っぽく感じる。
戦闘では少し離れて援護や救助を担当してるそうだ。視野は広いが指示するより自分で行動するタイプのようで、目的に合わせ獲物との位置取りが上手らしい。
見た目と性格の所為で、俺の中では一番メイドらしいメイドって思ってる。
同じくメイドが似合うのがルン。色々と多才で料理好きな事もあり、メイド担当の日はリアネルティエさんの所へ料理を手伝いに行ってる。
咄嗟の対応などが得意なようで、何かと頼られる事も多いらしい。収納魔法も使える辺り、考えが柔軟なのだろう。戦闘ではその日に不在の人の代わりをする事が多いそうだ。
そして最後がトルテ。良く判らない無口な子。ルセアと一緒に居る事が多く、戦闘でも彼女と一緒に前衛を熟すらしい。ただ、ほんと判らないのだが、多分この子は頭が良くて魔法に特化した方が伸びそうな気がするんだ。この子もルンと同じく収納魔法を使えるし、風魔法を教えたら一番最初に覚えてしまった。なのに何故か前衛希望なんだよなぁ
う~ん、少しは性格に合った武器を用意しても良いかもしれない。
鉈以外は習ってないはずなので無理強いはできなけどな。
一人くらいは槍使いが居たほうが良いんじゃないだろうか。
それと保護記憶内の魔法原理の更新だな。
自分で絵を書いて、それを記憶、解説してみよう。
折角閲覧者が居るんだ、基礎編『絵で解る属性魔法』と応用編『料理から戦闘まで使える複合魔術』なんかを書いてみよう。
後は、遠距離魔法ってホントに無理なのだろうか?
原理から探ってる人居ないぞ?
精神属性はまだだが、一通りは使えるようになったんだ。属性魔法の組み合わせとか、補助に魔導器を使用するとか、魔法を動力とするような武器を作るとか、改めて考察をする。
さーて、学問で対抗しようじゃないか。
エルフの場合、魔物を倒した後に腹の中から足を探し出して繋ぐのが一般です。
大きく素早い蛸に鍬も 鋸 も使えず苦労したようです。
たこ墨を吐く器官は太く短い腕のような形状へ変化してるので 9本足を呼んでも良いかもしれません。エルフの男はこれを




