54話 魔導器
【 11歳 晩夏 】
エルフの警備隊に納めた武器は大反響だった。警備隊以外に意味も無く振り回す連中が出る始末。マナを通しながら振るのは危ないからな?
この人たちはこの魔導器を見て、その可能性に価値を見出した。
そうなると他の物も見てみたくなるのが男の子っ!
魔導器とは、魔道具とは何か、どう言う物なのかと散々聞かれた。
彼らの認識では魔力の少ない人間が、マナ不足を補う為の物だったんだわ。
そこでエアコン付きマスクを貸してみた。
普段から持ってて直ぐ貸せる魔道具なんてこれ位しかなかったからな。
……この魔道具自体には興味が湧かないそうだ。マナが有り余ってる人種だからな。
ただ、魔石を外せば止まる魔道具と、触れてる間だけ機能する魔導器の現象が素晴らしいって評価だった。何より複数の魔法を多重起動できる事が良いらしい。
刻印術で代用可能だと思うだろ? だが、あれにも厳密な法則が存在する。物理的に刻印し肉体上で常時起動できるのは生命属性と精神属性のみだし、当然解除は刻印を物理的に消すしかない。
その刻印術から発展させた脳内で常時起動させる方法ならば全属性使えるものの、起動も解除も精神魔法に依る書き直ししかないんだ。
結構…… 相当不便だろ?
また研究開発班でも組むのかと思ったが、しばらくは俺に作らせる事にしたようだ。理由の1つ目はエルフの里側が交易で利益を上げ過ぎている事が気になるそうだ。2つ目はどのみち教師が必要で、人間の書いた本が手に入ろうと読めないのでサンプルが欲しいらしい。
そしてまず頼まれたのが、魔道具ソックスの魔導器化。それとマスクの機能の一部である補助モニターの魔導器化である。魔石マナ充填が苦では無いが面倒なようだ。
それとマスクの方はエアコンや聴力強化が要らないそうだ。
これらは魔法での解決は難しい。多方向を確認するのに脳内で常時起動は論外だし、刻印するのも困る。触れている時だけ自身のマナを吸収して起動してくれる魔導器ってのはありがたいそうだ。それに自身の魔法で出来ようが、一方向だけならまだしも複数方向を起動し続けるのは集中力を使うからな。
聴力強化は要らないのかと聞いたら、随時色々と使い分けているらしい。音の種類や音量の調整が必須なんだとか。
そんな事できるのか。
いや、そう言えば目も同じような事してたか……
もしかして鼻でもできたりするんだろうか?
まぁ、納得したわ。魔道具、魔導器の欠点は出力を変えれない事なんだ。
探しても今のところ可変機構と切換え機構の情報が無い。
この依頼により、サングラス風全方向表示機能が出来上がった。サングラス風ってだけで欠片もサングラスじゃないけどな。まず、マナが切れると前も見えなくなるんだ。なんせ土台は只の板だし。
頼まれて作りはしたが、これはこれで人間側には絶対売れない魔導器である。
人間側だとマナが枯れかねないからな。
そしてここ、エルフの里でも警備隊にしか需要がない。
限定的過ぎるわ~
◆
子爵領に一時帰省する事にした。
結構頻繁に帰ってるんだけどね。今回も美味しい果物を貰ったからって理由だし。
今回はロァヴェルナさんが同行して、リアネルティエさんは残るようだ。ロァヴェルナさんはただの気晴らしらしい。治療できる人は他にも居るからね、単に休暇の旅行である。
ロァヴェルナさんの今の装いはワンピースにつば付き帽、そして赤いサングラスである。
そう、サングラスが何故かエルフの里で流行ってしまった……
発端は魔導器サングラスの大きさと形状を最適化している所をロァヴェルナさんに見られ、興味を持たれてしまった事だ。その後、前しか見えない魔導器サングラスを作るように言われたんだが、もちろん断った。だって、意味無いだろ?!
代案としてヌィグライン師匠に協力して貰い、ある程度色の濃い、光を通す鉱石を調達。魔導器では無い普通のサングラスを作って渡したんだ。これがエルフの女性陣の間で流行。しばらく俺と師匠が掛かりっ切りで製作する程になったんだ。
色も形もかなりの種類を作ったわ。
この件で鉱石を薄く均一に伸ばす技術の腕が確実に上がった気がする。
土属性魔法だけでなく風属性魔法まで駆使し、少しでも薄く軽く作ったからな。
途中、何で俺はガラス職人みたいな事をやってるんだろう、と思ったがなっ!
「では、ここで。帰る際にはお声がけください」
メイド隊は養護院に泊まるそうだ。ただ、今年も新しい子が入ってきているだろうし、空き部屋が無いかもしれないので携帯宿舎を貸してある。ルンとトルテが距離属性魔法を使えるから問題は無い。
彼女たちはにこやかに養護院に入っていった。
今回は年下の子たちに特別なお土産があるしな。
実は今回、リアネルティエさんに協力してもらって、前に風属性調理魔法を習った時のあの料理を作る事にしたんだ。メイドたちが獲った肉も結構あったからさ。
で、お土産として養護院に持って行く予定だって言ったら、リアネルティエさんの個人管理食材の中から前回以上の大きさのお肉が出てきたさ。
デカ過ぎっっ
それを載せられる大きさと強度を持ったお皿を作る羽目になったわ。
いや、あれは淵が盛り上がった石製のテーブルと言った方が良いかもしれん。ルンには切り分け用に『お怪我はありませんか』と書かれた、光る大型の鋸も併せて渡しておいた。
腹いっぱい食ってくれ~
領主邸に到着。帰宅の挨拶をして回る。
「ただいま帰りました」
「おかえりなさい。あら、ロァヴェルナさん、それは?」
「良いでしょ。ルァニエスに作って貰ったの。フィルトルァの分もあるわよ?」
「そうなのね」
「家の中だと見難いだけだと思うのですが、これです」
母に水色のサングラスを渡す。
「ふーん」
母がサングラスを掛け、姿見の魔法で自分の姿を確認している。
「何か良いわね」
「でしょ~ 今、里で流行ってるのよ」
「そうなのね。ふーん」
興味無い風だが、外さないし角度を変えて確認している様子。
「母様、言っときますが、流行らせてるのは主にロァヴェルナさんです。会う人、会う人に勧めて回っていますから」
「良いじゃない。帽子と同じで色々な種類を作って楽しみましょうよ。子爵領から売れる物が増えるのは良い事でしょ?」
「いや~ 実は、材料はヌィグライン師匠くらいしか調達できないんですよねぇ」
「え? そうなの? 増やさせた方が良い?」
姉権力凄いな…… 師匠の都合の確認すらしないのか……
「いえ、デザインを考える時間も必要ですから、今のままで十分ですよ」
「そう?」
妹たちも興味深か気なので、余っている黒色2つと緑色の物を渡す。
「「「うゎあ~~」あはは」似合ってな~い」
顔の大きさに対し、サングラスが大きすぎる感じだ。しかも鼻が小さいのでズレ落ちる。
「元はこっちだったんですよ」
多方向モニターの魔導器を掛けて見せる。赤の縁取りの入った白いサングラスである。
どうせ板なので、普通ならありえない白色を採用してみた。
「「おぉお~」」
「兄さま、兄さま、貸してください」
「魔導器だからマナ量に気を付けてね」
「はーい」
フィルニアルテに渡すと掛けて、手で押さえながらきょろきょろしている。
「少し重いです」
「外の戦闘時に使うからね。丈夫さが必要なんだよ。やってる事はエアコンマスクと同じだけど、マナに余裕のあるエルフの人向けなのさ」
「「ふ~ん」」
フィルニアルテがフラフラしだした。
「マナが無くなっちゃうよ?」
「はーい」
魔導器を受け取る。
一応、魔導器の使用によって人のマナが空になったり意識が無くなったりはしない。
電気と同じ考えだ。マナにも圧力があり、低くなれば魔導器が停止するだけなんだ。
「そだっ 今回のお土産はそっちじゃなくて、果物なんです。かなり美味しかったですよ」
果物をテーブルに並べる。
「「「わ~い」」」
「戴こうかしら」
ワイワイと2泊過ごしてエルフの里へ戻った。
エルフ男児の感じたロマンは中Ⅱ的なあれこれを肩代わりしてくれる何かです。多重発動とか解除不能などのノリと勢いが好きです。多少の不便には目を瞑ります。
「ルァニエスは解ってくれると信じていたっ!」
サングラスですが形状以外はサングラスじゃないような。
眼鏡でもゴーグルでも無いですが。 ……ヘッドマウントディスプレイかな。
赤いサングラスは100%ルビー製です。柔軟性皆無、曲がりません。
お料理の名は超重力・超高圧力角煮となります。
食べれるかは判りませんが骨まで柔らかくなります。多分。
『お怪我はありませんか』は読めない文字になってます……
文字の長さの関係で鍬と鉈の文字が入れ替わりました。
余り登場しないウァルエルタさんですが、出身が養護院から兵士になり奥さんになってます。その経歴もあり訓練所で父と過ごす事が多いです。父と同じく槍使いなので三男に指導したりしてます。




