43話 冷やし中華 はじまってました
【 10歳 夏 】
エルフ領で精霊樹の苗作りについて説明したあと、そのまま泊まる事になった。もう泊まり慣れすぎて、俺も自分用の携帯用宿舎を作ってしまっている。
メイドさん3名と俺用なんだが、偶にロァヴェルナさんまで泊まって行くのでダイニング以外に3部屋用意してある。ただ魔力消費量を抑える為にいくつか工夫し、全体的に天井は低く目に作ってある上、それぞれのベッドはカプセルホテルの様なウナギの寝床スタイルである。
おかげで真ん中のダイニングの天井は凸型だが、しょーがなし。
で、何故かロァヴェルナさんは面白がって自分の家に帰らず泊ってくんだよね。
出張組の二人は一回泊まって、それで満足したらしい。
その晩出たエルフの里での夕食なのだが、微妙に醤油に似た調味料と葡萄酒由来の酢、細かく挽いた魔石に葉物野菜と肉を加えた一品、冷やし中華のようなうどんだった。麺は丸形となり、かなり細長くなっている。
夏の暑さ対策で冷たい麺類が登場したらしいわ。製麺機から作り直しでなっ!
まぁ、アミノ酸代わりに魔石粉末ってあたりが異世界してるんだけどさ……
難点はワインビネガーにアルコール成分が残ってる所だな。何とも咽る。
しっかし、ホント自力で発展させる能力が凄いな。ウチにも無いんですけど~
麺類を食べる為にカトラリーも改造したようだ。前まではトングで先端がピンセットな感じだったが、今は先端が並行に当たるようになり、滑り難く溝まで彫ってある。
しかしさ、ここは張り合う必要があるよな? 俺も当初開発した頃より大幅にアップ魔力がしてるんだ。ここは麺に更なる改良をしてみせないといけないんじゃないだろうか?
侮られたくはないだろ。やっぱりさ。
翌日エルフの男性陣に手伝って貰い、製麺機の圧延ローラーの脱着交換をより簡単にできるように改造、手軽に麺の形状を変えれるようにした。
そして俺が新規で作ったのはインスタント麺に似た『縮れ麺』である。麺の切り方や延ばし方を少し工夫し、歪んだ溝で左右に振られて麺が縮れるようにしてみた。
「何だと……」
「おい、早く食ってみよ「温、冷どっちで行「待て! 炒めてみようぜっ」」」
エルフ達が戦慄している。ふっ 勝ったな。取り合えずは満足だ。
エルフ達は新たに手に入った食材に創作意欲が湧いたようで既にこちらを見ていない。
ここから先の味付けは任せるとしよう。調味料関連は欠片も勝てる気がしないからな。
とにかく後は宜しくお願いしたい! そしていつかは味噌ラーメンを食べさせて欲しい。この人ら色々と近いところまでは行ってるんだよ。そして大体通り過ぎて違うものができるから微妙な生殺しで辛いっ
やろうと思えばもっと色々と近づけられるとは思うんだが目立ちたくない。かん水の化学式は知らないが、唐灰汁なら多分作れる。ただそこまで食に飢えてる訳でもないし、名を残したくないから彼らの起こす偶然を待っているのさ。
それと、縮れ麺とは別にもう一つ冗談で作った麺がある。
断面がHの形をしたH 鋼型 麺だ。
口当たりは悪そうだが、スープパスタのような物になら合うんじゃないかと作ってみたんだよね。でも、まぁ、兎に角食べにくい!
そのあと放置していたんだが、後日、何故か揚げパスタとして採用されていた。
味はシンプルに塩と魔石パウダーで戴くらしい。
曲がらないので揚げて食べるスナック菓子に向いていたようだ。
若い見た目だから忘れがちだが、酒飲みなんだよなぁ、コイツら……
聞いてくれっ! 先生が凄いもん作ってた!
ロァヴェルナ先生も尊敬してるが、陶芸先生の方なっ 何か凄いんだ!
まだ改良中ではあるらしいんだが、前に渡したガラスから着想を得たようで連続で新作を作り続けているらしい。
その新作とはガラス製のグラスだった。特徴はグラスの上部が折り返し、下まで伸びている事。しかもジョッキ風ではなく、シャンパングラス風の細身の 輪 郭 である。
そして随所に先生らしさがあり、内側の容器も手で触れる外側にも意匠が凝らされている。
まず内側の容器だがガラスの素地に宝石で花が描かれている。ガラスと入れ替えてあり厚さは均一、宝石との繋ぎ目に凹凸も無く光の反射も美しい!
そして外側なのだが上部の口に当たる部分の折り返しは薄く、透明なガラスが中ほどまで延ばされている。そしてその下からは細い蔦が編まれた様な形に変わり、内側の器とは接触しないよう持ち手となり土台へと続く。しかも蔦の一部はエメラルドやルビーなんかが使われているようで色彩がなんとも綺麗だ。
最後は土台なんだが、透明なガラスに精霊樹の葉が埋め込まれていた。埋め込み自体は俺が先生に贈ったったガラスペンからの発想かもしれないが、植物を題材に色彩も形状も凄く良い感じに纏まっている。
内側も外側も透け、2層で見られる事が前提のデザイン。すっげー、綺麗~
ただ、蔦を模しているため内部の容器が空気に触れ、断熱まではできていない。冷たい飲み物だと結露しちゃうかもな。魔法瓶に成ってないのだけが実に惜しい。でもホントすげーよ!
「はいっ! 先生っ! 教えてください!」
「ふふっ まず、一度は真似してみると良いよ」
「似たもの同士ね~ ねぇ、ヌィグライン、これ貰って良い?」
「……姉さん。まぁ、良いけど。大事にしてよ?」
「もちろんよ。ありがとっ」
【 晩夏 】
夏の終わり、作物の調子も良さそうなので収穫後に向け醸造設備を整える事にした。カルニナフさんに協力して貰い、お酒と醸造調味料、漬物の製造所、兼貯蔵施設の新規建造である。位置は南の森に作った開拓地の最南端。ほぼエルフ領との国境付近だ。
領主邸から離れて不便かと言えばそうでも無く、舟を乗り換えれば着くので荷運びは楽だ。エルフ向けの商品は最南端の船着き場に併設された倉庫に一度入る為、倉庫を大型化し一括管理で税金などの会計処理をできるようにした。
今回の工事は、今年から収穫され始める開拓地の作物の大半をこちら側で保管する為だ。消費先がエルフ領なので加工品もこちらで製造、管理できたほうが便利なのだ。何より酒を造るのに水源は近い方が良いからな!
問題となるとしたら領兵の方だ。範囲が広がってるし駐屯地が増えたので人員が全然足りてない。
引退した兵にも多少復帰して貰い、領主邸側に新人と老人を多めに配備し熟練兵を最南端倉庫の防衛へ割り振ることになった。宿舎も新品、飯も旨いとあって不満は出ていない。戦闘回数は領主邸勤務よりは多いが、それでも新人の育成も平行に行える程度には穏やかだ。
倉庫の地下に作った貯蔵室はかなり丈夫で広い物となっている。領兵の普段の食糧に加え装備なんかも置くから元の倉庫は結構広かったんだが、出入りが多いと衛生管理がし難いので加工品の保管は地下に広げる事にしたんだわ。今までと違い、今は距離属性魔法で土の運搬も楽だからな。
従来の石垣型建築物とは違い本当の地下室である。排気ダクトも設置し空気の流れを考慮した作りで、長期熟成が必要な物は全てこちらで貯蔵する。上の倉庫は行商人も使うからな。
普段は食品関係しかやってないカルニナフさんも普通に建物の改築が出来た。どうもエルフの男は自分の部屋の模様替えを趣味としてるようで、気分転換や流行などの気軽な理由で壁や柱を動かすらしいんだわ。
D I Y の領域が違いすぎるわっ!
「女性に頼まれる事も多いしねぇ」
まぁ、そんな事だろうと思ったよ……
魔石を調味料的に使用してますが、粗びきだと噛み砕いた際に衝撃となり胡椒的な辛さ。細かく挽くと衝撃が一切無いのでアミノ酸とは別系統のうま味となります。
エルフの男性は男子中高生な感性です。
主人公は味噌ラーメンに思い入れがあるわけではありません。
過去の経験も思い出もないですから。
ただ日本風な味噌や醤油は無いものの、中華系の濃い味噌があり微妙に掠る事が多いので期待してしまいます。
魔法のある世界じゃないと出来なそうなグラスを想像して書いてみたのですが、どうでしょうか? 意外と現代でも再現できてしまうのかな? 読者にガラス職人さん居たらコメントください。
エルフ社会の Do It Yourself は治療魔法と逆の現象が起きています。
男性はモテる為に習熟し、女性は土属性魔法が使えてもできないと言い張ります。
「お願いできないかしら……」
平和で優しい社会なのです。
 




