42話 幻想世界の食虫植物
【 10歳 夏 】
妹たちに魔法を教えていて思ったのだが、末の弟はどこ行ってるんだろ?
食事の時は見るのに普段見かける事が無い。書斎とかでもないんだよな~
「ウェリントって普段見ませんがどちらに行ってるのですか?」
「兄様……」
「あなたが言うの? 今日もルァウフェイムと一緒のはずだわ」
「変な事言ったでしょうか?」
「あなた以外の子は大体みんな一緒に訓練だもの。普段見かけないのはあなたの方よ?」
「そうでしたか……」
「魔法も良いけど、偶には領兵の訓練にも参加しなさい? 後で困るわよ」
「わかりました~」
魔法と魔道具の比率が上がり過ぎて時間が取れてなかった。
身を守る訓練もしっかりしないとだよな~
久々に訓練に参加すると兄弟全員が居り、弟は基礎訓練を受けていた。
と言うか、上の妹強え~
真面目にやっていた受け身や防御は俺も得意だが、槍と鉈は確実に俺より上手いわ。
覚えた身体強化も使って訓練しているようだ。
そういや俺って身体強化覚えてから訓練してないような…… 拙いな。
「いきなり帰ったりしないから、やらなきゃいけない事はやるのよ? 前みたいな事があったら困るし」
「……はい」
「あなたの訓練の日は私はフィルトルァとお茶にするか、養護院にでも行ってるわ」
「そうですか。では訓練を少し増やしますね」
ロァヴェルナさんの了承も出たし物理的な鍛錬もするか~
死んでおいて危機感が足りな過ぎたかな。まぁ、その記憶が無いからなんだがな。
兄弟からレアキャラ扱いされたくないし、頑張るぜ~
こちらの訓練について補足だが、アスレチック施設のような所で体の色々な使い方を覚えるやり方だ。なんせ対人戦が無いからな。武器の打ち合いみたいな訓練は無いんだよ。
武器と言うより獲物の解体道具って感じで淡々と振る。訓練施設では吊った物体を動かし、獲物に見立てて攻撃と回避、鶴嘴を刺して側面や上部に取り付く等の練習するのさ。大型動物を模してるからデカいし、当たれば吹き飛ぶほど重量もある。結構怖かったんだよね。
身体強化と回復ができるようになったので前よりは安心して参加できるわ。
この前疑問に持ったマナについてもう少し質問した。
とは言え正確な回答が得られなかったため、あくまで予測に過ぎないけどな。
判ってる事から行こう。マナは大気中に漂う何かだ。予想だけで言うなら電子のような物だと思う。元素と一緒に存在するんじゃないだろうか。
それを呼吸で肺に取り入れ、最終的にマナを蓄積できる臓器、肝臓で貯蓄しているようだ。肺から吸収して肝臓に行くって事は血管、つまり血を経由している。そして血からマナを取り出すのが肝臓の役目でもあるんだろう。そしてそれが可能な生物は肝臓周辺に魔石を生成するし、マナが扱えれば魔法も使えるのだ。
魔石は魔道具に使う部品の一つなのだが、多分だけど元素2つを交互にコーティングしているようだ。多分って言うのは2つしか理解していないだけで3つかもしれないって話ね。
魔石を生成する臓器は体外から元素を取り込む事で魔石を成長させ、マナ貯蔵容量が増える。呼吸でマナの容量が増える事は無い。食事等により肝臓内で2つの元素を結晶化させた容量こそが魔力量となるのだ。呼吸を増やしても増えるのは魔石内のマナって事になる。
マナを呼吸で取り込めず、貯蔵しない生き物は、血にマナを吸収、運搬する赤血球じみた何か無いんだと思う。ちなみにだが、エルフの血は赤いし、魔物の血も赤かったので人間の紫の血は関係ないっぽい。
酸素と同じ感じなのだろう。例えば一マナ化酸素みたいのが有って生き物が利用しているんだ。で、これができる生物に一部の虫、魔物とエルフ、人間が居る。この世界では魔物やエルフは鼻や舌で感じ取れるから率先して摂取する事になるのさ。
ただこの辺は少し曖昧で、味蕾や鼻腔で感じられる物がマナなのかそれを貯められる元素なのかは判らない。
認識として、エルフは魔石が2つの元素で出来ている事も把握していない。あくまで魔石周辺の肉、要は肝臓の味が良く、食べれば魔力が増えるって結果を体験から認識しているだけである。これは魔物も同じだろう。
結果、生態系の頂点に行くほど魔力総容量が大きく、身体能力が高いのだ。
体の大きさは別だが、魔石と魔力総量は比例するからな。
……いや、比例はしないな。外ならぬエルフが例外だわ。
まぁあれは良いか、例外っぽい事色々してそうだし。
でだ、ここまでは良い。
精霊樹はどうなってるんだ?
なぜ周辺のマナの濃度が高い?
マナ濃度の高いところに育つ樹なのか?
それだとエルフが育て、種を付けたら故郷に持って帰るってのが無理になるぞ?
故郷のマナ濃度次第では育たないとか枯れる可能性が出るじゃないか。
だから少し考察してみたんだわ。
精霊樹は土からその2つの元素を根で吸い上げる能力があるんじゃないだろうか?
そして虫や魔物がその元素を含む葉などを食べて大きくなり、魔力を持つ生き物同士で争う生態系を周辺に作り上げてしまったんじゃないかな? 多分、精霊樹は魔物の争いで出る死体などで栄養を得てるんじゃないか? 死体は当然その元素も含むだろうしさ。
つまり、精霊樹って食 魔 獣 植 物なんじゃなかろうか?
そんな予想をロァヴェルナさんに説明したら不遜だとがっつり叱られた。
言い訳、弁明でもあるが、ここを正しく理解しないと種が手に入らないかもしれないじゃん。ずっと実が付いてないなら挿し木とかで苗を作る方向に行った方が良いんじゃないかな?
できるかは別として、普通の木ならできる苗の作りかたを説明する。
精霊樹の苗ができたら土に魔石を砕いたものを入れれば育つと思うんだけどなぁ
そう話をしてたらロァヴェルナさんがゆっくり抱きしめてきた。
「ん?」
……そしてギチギチと絞めながらゆっくり耳元で囁く。
「……誰にも言ってはダメよ?」
怒気が伝わってくる。
「解かりました。もちろんですとも!!」
精霊樹には関わらないって決めてたのに踏み込み過ぎた~
今日はエルフ領に来ている。
毎回何かが起きているから来るだけでも楽しいんだよね。今回の要件は、ロァヴェルナさんに伝えた食魔獣植物…… 精霊樹の生育について、案の一つとして前回言った事を報告する為だ。できる、できないの話もあるが、それを検討しちゃう危ない奴の事を里で把握して置きたいようだ。
困った奴も居るもんだ~
でも悪気は無いと思うし、少しは優しくしても良いんじゃないかなぁ
逃げない様、ロァヴェルナさんにお米様抱っこで陸送されるわたくし……
「ルァニエス~ また何かやったのか?」
近所のおっちゃんかっ 森の入り口でグラリエントさんに揶揄われる。
「またって程、何もやってないですよね?!」
「会ってまだ1年とは思えないほど色々やらかしてるだろ! 少しは落ち着かないと母親が心配するぞ?」
「「1年……」まだそんなものなのか……」「5年は相手してる気がするわぁ」
料理と魔道具くらいじゃん。何でみんな同意してんだっ
「外交の使者立てて料理の交流した位じゃないですか~」
「その後一回死んでるけどな……」
「その節はご迷惑を……」
「まぁ、その件は女たちに感謝しとけば良いぞ」
「それはもちろん!」
「で、何で担がれてんだ?」
「この子ったら精霊樹を野菜か何かと思ってるみたいでね、ちょっと他の長老に相談事よ」
ロァヴェルナさんが曖昧に目的を話す。
「……怒られて来い」
「まぁ、成功する可能性も無くはないと思うからね、念のためよ」
「……行ってきま~す」
まずはロァヴェルナさんから長老たちに説明をしたが、すでに雰囲気が怖い!
このまま弁明できないと生きて帰れない可能性もありそうだ。
その後長老たちにはこちらは精霊樹に関与する気が無い事、株の増やし方を伝えるので一先ず精霊樹以外の植物で試してみてはどうかと話した。これにより何とか緊迫した雰囲気が弱まった。
怖いわ~
三男(異母弟) ウェリント 6歳 母は次妻のウァルエルタ
ロァヴェルナさんはかなり理性的です。
ただ、仮に挿し木が有効で苗が流出し誰かの欲を刺激した場合、精霊樹の効果を狙い密漁が発生する可能性があります。自分が見つけた、もしかしたら最後の一本かもしれない大事な樹を危険に晒す発言にしか聞こえません。
お米様抱っこ、別名 俵 担ぎと言います。




