3話 勇者よ!
【 3歳 春 】
現地から3歳児がお伝えします。
大きくなりました!
言葉もなかなか覚えたしな、判った事を少し報告しよう。
まずは食事について。
主食は麦。蕎麦も偶に出る。
主食って言い回しは変か、主要な穀物ではあるんだが。
小麦はマカロニのような食べ方で、蕎麦は挽かず、雑炊のような食べ方だった。
米は見てない。有るかもしれないけど、少なくとも炊いたご飯で出てきた事は無かったかな。
他だと、芋っぽい物とかぼちゃっぽい物はあるようだ。
なんとなく、煮る調理が多い気がする。
野菜は前世で見た物に結構似ているかな。
まぁ当たり前だけどね。多少違ったとしても収穫するのは大半が葉か茎か根だもの。根菜と豆が比較的多めで葉物が少々って感じだ。
生野菜で食べる風習は無いっぽい。
実でデカいのは幾つかあるがほぼ瓜系だと思う。
漬物に加工した後、刻んで料理に加える事が多いようだ。
あとは、肉は何肉か知らないがそこそこ出るようだ。
脂身が少ないけど鶏肉っぽくもない、知らない肉。
多分魚では無いとは思うのだが…… いや、記憶から抜けてるのかな?
子供用に細かく刻まれているため普段どのように食べているかは知らない。
なんせ離乳食と言うか、子供用メニューだからなのかスープやペーストの形で出てくる事が多いのだ。ナイフを使うような大きさの肉は未だ出ないのさ。
主食と言いにくいのも肉と野菜だけの日が結構あるからだ。
どちらかと言えば、肉が主食な気がするかな。
ありえるのかな? まぁ、比較的満遍なく食べてるのかな。
土地柄の可能性もあるし、一般的かは分からない。ここが都会とは思えないものな。
でだ、食器は石だった…
陶器の方が楽じゃないのか?
なぜ切り出した石のような恰好なのだろうか。見た目はでかい硯に近い……
木の方が良くないか? 木が貴重だとしても植えれば生えてくる。石は割れたら終わりだぞ? 重いので引っくり返す事は無いが運ぶのも洗うのも辛かろうに。
なのにさ、食器具は金属のスプーンとフォークだった。石器時代では無いんだよね~
フォークの歯は2本のようだ。子供用って可能性もあるのかな? 微妙に歯が短いし丸い気がする。
未だ親とは別で食事だから大人用は知らない。
どうせ椅子に座れないし、子供用メニューなので兄と一緒の方が楽なのだろう。
そう言えば、椅子も独特だ。
蔓を編んだ様な形で接地部分は四角形で四隅を対角で繋げ補強したあるようだ。背もたれも無いからほぼ四角い箱。骨組みは東南アジアあたりの素材にあった気もするが記憶が曖昧。いっそ、曖昧って事は触った事があるのかもしれない。
違うかな? どかな?
※籐はヤシ科の植物、日本だと生えてない
座面すら編み込みなので木が貴重な可能性もある。
テーブルや扉以外では板材を見てない気がする。
それとも蔓が良く取れる環境なのだろうかねぇ。
一体ここはどこなんだっっ
◆
最近、母のお腹が大きいため最近甘えられない。
しょうがないけど少し寂し気~
母親を盗られた感じなのか? 貴重な感情の経験だな。
ん~、嫉妬になるのかなぁ、対象はまだ生まれても居ないのに。
母が察したのか抱きしめてくれる……
大丈夫! 生まれて来る兄弟を苛めたりなんてしないぜ!
※弟妹が正しいのでしょうが兄弟記載です
【 夏 】
二人目の妹誕生。
こちらの常識では生まれて3週間は必要最低限の人しか接触させないらしい。
なので生まれたが未だ会ってないし見てもいない。
風習に文句言ってもしょうがないので、会えるのを楽しみに待つとしよう。
そんな訳で、母も忙しいだろうから庭で日向ぼっこでもするか。
実は自分の足で出るのは初だったりする。
何か地理でも判るような情報でも落ちてないだろうか?
まずは……
蟻の大きさと形は同じ。
蝶は少し…… いや、結構大きい。
こんな物か??
花は見たことない形で大きめかなぁ?
南国の花って感じじゃないな。色彩は大人しめ。
俺が小さいだけなのか?
子供視点の影響とかもあるのかな?
自分の手が小さいだけに悩むところだ。
虫でけ~~
蟻の大きさは変わらないので油断した。コガネムシっぽいのがひと抱えくらいデカいっ!
何だコイツ?
動くまで置物かと思ったわ!
鳥もデカかった……
雀じゃないスズメが居るっ!!
縮尺おかしくね?
1mは余裕であるんじゃないか、あれ。飛べるのか?
何を喰ったらあーなるんだ……
体形は少し細身かもしれない。
ただなんて言うか、面構えが凶悪だ。絶対悪い事考えてるヤツ!
微妙に 見 ら れてる気がするし、嫌な感じだ。
少しずつ後退る。
ガサリと音がしたので横を向くと庭の端にバッタが見えた。
うっわ、やばい、バッタ、やばい! 虎よりデカい!!
どういう思考か判らないが、目が合った次の瞬間いきなりこっちに飛んできた。
こわい、こわい、怖いってーーっ!!
人の足では不可能な速度で迫りくる自分の胴体よりデカい虫の顔面だゾ!!
そんなもんがこっちに向かって水平移動してくんだ!!
ダメだ、足が全く動かない……
死ぬかも。
回想する走馬灯も無い一生かよ……
諦めかけたその時、
メイドがバッタの側面に飛び蹴りをかました!
おお、我が女神っ!!
もんどり打ってバッタが地面に転がって行くが、メイドはそのまま追走、素早く追撃。立て直そうとするバッタを再度ひっくり返し、ほうきの柄を喉に突き刺し地面へ縫い付ける。バッタは翅を開いたり何かしてるが逃げれる様子は無い。
壮 絶に怖いがなっ!!
間近で見てる俺の心境を察して欲しいっっ
他のメイドが鉈を手渡すと、物騒な女神はバッタの頭をかち割った上、全ての足を刎ね飛ばした。
もーね、圧巻でした。
今俺は撃退したメイドに恐怖、畏怖、尊敬に似た目を向けているだろうさっ
ホンット、無っ茶苦茶怖かった!!
いきなりバトル物で、男の俺がヒロイン役かよ。
あなたは私の勇者だよっ! 信仰しちゃうぞ!
勇者が切り取った後ろ足の先を更に切り捨て、小脇に抱え持ってくる。鉈、片手に。
「若様、お怪我はありませんか?」
勇者は笑顔も頼もしい……
「ぐすっ 大丈夫…… うぅ……」
もちろん泣きっぱなし。言い忘れてましたが。
こんな至近距離でヒーローショーしたら子供は泣くに決まってるだろ!!
敵の息遣いとか舞い上がる土埃とか、お子様は求めてねーからっ
鉈を抉った時の頭がカチ割れる音とか、未成年が聞いちゃいけない音を発してたし。
すぐそこで頭割れてんのに翅を動かして足掻いてたんだぞ!
こえーんだよっ!!
絶対にライダーとか楽しめる環境には無いわ!
っつーか、まだ動いてるし……
痙攣する部位も無機質な眼も怖すぎる。
「念のため、もう少しお屋敷の近くで休みましょうか」
もちろん付いてくゾ。一人とか怖すぎっ
視界にメイドが居てくれないと気絶しそうだ。
ほんと、もー嫌だっ
メイドは他のメイドに鉈とバッタの足を渡し、俺を抱えて洗濯場行きだ……
まぁ、その…… あれよ……
あの切り取った足は食べるらしい。二つに割って塩を振って蒸すのだとか……
たまにワゴンで運んでるのを見る横に長い鍋って、バッタ用だったのか。
良く出没する感じなんだろうか?
そこそこ出るらしい……
あと、ハサミがある虫はハサミも食べるのだとか。
「さっきのはアレは刺しっぱなし?」
「足以外は後で処理をしますよ」
この日は極力メイドにくっついて居たが、あっさり寝落ちて部屋に連れていかれた。
以降、日向ぼっこは屋敷に近い所でしかしないし、常にメイドの位置を確認するようになった。ただ、話を聞いたらバッタは人を食べる訳では無いらしい。
でも何故か体当たりして来るんだとか……
余計怖いわっ!!
それとだな……
わ、我がダムの水門の制御に不具合が発生、夜間に深刻な水害をもたらす事態を引き起こしている。しかも、この事案は虫の減る冬が来るまで改善しなかったのである……
そして、完全復旧の目途は未だ立っていない。
奴ら、夢にまで出るんだ!! あの眼で!
バッタの顔って相当怖いからーーっ
メイドさんお願いです、夢にも来てください……
ほんと、そろそろ忘れさせてくれぇ。
この世界こえーよ。外行くときは一人で行動しない! 絶対にだっ!
◆
しかし、この世界どうなってるんだろ?
あの大きさのバッタで絶滅しない程に食料になる植物があるって事だろ?
植物も釣り合うほどには生育旺盛なんだろうか?
あれを捕食する何かも居るんだろうし、もっとでかい虫とか居たらイヤだな……
蟷螂とかさ……
そんな事考えてたからか、屋敷にでかい蜘蛛が居た……
飼ってるらしい。メイドが「かわいー」とか言って撫でたりしてるあたり、俺と感覚が違いすぎる。
最初、庭の端の小屋でメイドがきゃっきゃしてたので覗いて見たのだ。
そしたらさ、その小屋と変わらない大きさの蜘蛛が入っていた。
もーね、私、その場で気絶致しました。悲鳴も上げなかったらしい。
で、次に起きたら母の膝の上だった。
色々濁されながら大きなお友達について説明を受けたんだが、子蜘蛛の頃から屋敷で世話をしてるので人間に慣れてるんだとか。
ちなみに蜘蛛の名前はこっちの言葉で「綿毛」ちゃん。メスらしい。
名前だけ可愛くしてんじゃねーよっっ
人間を襲うことは無いって説明されても、未だに触る事もできない。
この世界に馴染める日は来るのだろうか……
たぶん、あの時の処理ってこれの餌なんじゃないのかな?
中型の消防車2台分くらいの大きさはあるこれを、果たして益虫と呼んで良いのだろうか…… ほぼ多脚戦車だぞ。
方針を変更しよう。
この世界で普通に生きていくには最低限の武力が必要だ。
学力は必要だろうがバッタに負けて人生を脱落なんてしたくない。
手足は短いがまずは体力向上だっ!
「ふっ!! い~~っ 回っ」
……いや、ま、まずは肺活量だな。3歳児には筋力どころか基礎体力がねーよ。
走らんが長く歩く事にした。これも生き残る為!
メイドに変な目で見られたので、逃げる練習って説明したら笑われた。
タイトルを気にしてはいけない
3歳児の戯言です
※は補足だったり、つっこみ対策の自己弁護です。
主人公のおバカ行動は敢えて入れてます。
子供フレーバー、大人の振る舞いという義務、経験を失ってます。
普通のファンタジーから逸れて行きます!