33話 精霊樹
【 9歳 晩夏 】
宴の終わり際、ロァヴェルナさんに質問をした。
「こちらの方に知識を教えて貰う事はできないでしょうか?」
「何が知りたいの? それ次第じゃないかしら?」
「色々です。教われる事なら何でも知りたいのです。ただ、対価に何が出せるのかも想像できなくて」
「まぁねぇ 満ち足りてる状況の人に欲しいものを聞いても意味無いわよね」
「ですよねぇ」
「許可出る範囲内で見学とお手伝いでもしたらどう?」
「陶芸は是非そうしたいです!」
「なぜに陶芸…… 何がそんなに良いのやら……」
「見た事、聞いた事が無い物を知るのが楽しいのです。できるようになる事も」
「……料理の技術交換は諦めたの?」
「道具を作ってからもう一度挑戦ですかねぇ 知識が足りなすぎます」
あのあとエルフの人たち、無重力的な魔法と熱魔法で揚げ玉を作り出したんだわ。呆然よ。材料は小麦粉と水だけ、鍋どころか油も使わなかった。
ノンフライより油で揚げた方が好みではあったらしく鍋は受け取って貰えたけどな。
「料理は1、2年位ならそちらに見に行っても良いって人は居るようよ?」
「そうなんですか?」
「目新しい食材や道具があるかも知れないって言ってたからね」
「良かった~ 嬉し~」
「あら、あなたが覚えるの?」
「家のコックもですが、私も覚えます! 新しいものを逃がすなんて勿体ない」
「若いわね~」
ふっふっふ、そうは言われても人生はまだまだ長いんだよ。
今ならまだ苦労も楽しく感じるわ!
「……私も行ってあげようか?」
「良いんですか?! 偉いんですよね? 仕事有るんじゃないんですか?」
「一族の代表ってだけだから簡単に引き継げるのよ」
そうなの? 良いの? 長老ってお借りして良いものなのか?
「……良いのですか?」
「期間が『飽きるまで』で良ければね?」
「是非っ!!」
いぇーい! 何としても飽きさせないゾ!!
宴が終わり、お借りした宿泊施設に行った。
何故か俺は母様やメイドたちと同じ部屋に割り振られた。兵士と一緒が良いのでは?
「護衛対象なんだからこっちに居なさい」
「兄さま、嫌?」
「嫌では無いよ。男性、女性で分けなくて良いのかなって思っただけ」
「守る側と守られる側で分けたのよ」
「ふむ。……フィニー? 今日は楽しかった?」
「楽しかった~」
「仲良くなれそう?」
「なれる~ 優しかったよ?」
「そうだね~」
「……この寝具、凄いわね。買う事はできないかしら?」
「そのためにも、何か対価にできる物を作らないといけないんですよねぇ」
「そんなに難しいの?」
「ここの方たち、欲しいものは何でも自分たちで作っちゃいますから」
「確かに凄そうよね……」
「だいじょおぶ、兄さまならできるわ」
「無茶をいう~」
「ふふふっ 私も期待しておくわ」
「「私たちも期待しています!」」
メイドも便乗してくる。
どんだけ必要になるんだ……
翌朝、再度話し合いがあり子爵領に3人のエルフが来る事が決まった。
ロァヴェルナさんと料理に興味がある男女が一人ずつだ。
元々境界線での会談は明日なので、今日は準備に使い明日の朝早めに出る事となった。
ロァヴェルナさんの長老職の引継ぎ相手はなんと陶芸先生だ。
どうも姉弟らしい。
それで簡単に紹介してくれたのか……
今回一緒に来る二人もロァヴェルナさんの一族なんだとか。
どうも発言力がある一族ではあるが一番新しく、人数が少ない上に仕事も少ないらしい。
「この樹を見つけたって功績だけの地位なの。仕事としては余り重要な仕事が無いのよ」
「仕事って一族毎に決まってるのですか?」
「少し違うわね。七家あるのだけど全員兄弟でね。必須となる衣類や消費の多かったお酒なんかは、初期から長男の家がやっていたの。あとは順に必要な仕事を選んだから、必然的に末子の私たちの家は必須じゃない娯楽や嗜好品が多いのよ」
「ふ~ん でも、この樹の管理もなんじゃないんですか?」
「そっちは長男、次男の家の担当ね。この樹を探して放浪していたから思い入れが強いのよ。人数も多いし、私より年上がいっぱい居たからね」
どうも、どこだかの街から一人の男性エルフが旅に出て、この樹を探し回ったそうだ。
エルフの歴史を以てして物語にしか出てこない、精霊樹と言う樹らしい。
そして探してる間に人間の女性を妻にし、拠点を作りながら100年ほど滞在。近隣の捜索をし、無ければ数人だけ連れて一気に移動ってのを何度も続けていたらしい。七家とは兄弟ではあるが母親と生まれた拠点が違った為に区別されてるんだとか。
そしてこの樹が見つかったあとは全ての拠点を放棄し、全員でここに移り住んだんだそうだ。
どうも拠点は捜索で空けがちになるため、血も繋がらない無関係な人間たちに徐々に乗っ取られていったんだとか。
そら恨むわ。
ただ、憎んでいるかと言えばそうでも無いらしい。
と言うのも長男たちの当時の奥さんは移住してきた人間の女性だったからだ。
とは言え、最初の拠点とここの集落が出来た時間の差は800年以上。
長男のひ孫よりロァヴェルナさんは若いらしく、集落の権利を主張する気も無いそうだ。
「苛められてるとかじゃないわよ? 年下の大叔母に対して過保護なのよ」
周辺の警備や狩猟も長男、次男の家が率先して受けてるらしい。
「なんか凄いですね。それで、この樹って何か特別な効果があるのですか?」
「周辺のマナを集める力がとても強いのよ」
それだけ? エルフ的に重要な物って認識で良いのか?
「ん? もしかして他にも探してるエルフが居たりするんですかね?」
「どうかしら? 居るかもしれないけど会ったことは無いわ」
「ふ~ん」
この樹には絶対に関わらない方向で行こう。
何かあれば全員敵に回しそうだ。怖すぎっ
一緒に行く2人を紹介して貰う。
女性のリアネルティエさんが料理担当で、男性のカルニナフさんがソース担当らしい。
ソースは醸造含めて製造経験があるそうだ。どちらかと言うと研究者っぽい。
エルフ領内のソースと醸造所は別の一族が作り出した物なので、新たな味のソースのアイデアを探してるらしい。この辺の仕事不足なんかはウチと同じ悩みがあるんだな。少し安心したわ。
二人と色々と話したのだが、こちらの川には魚が居ないらしい。
境界地点にある沢を挟みエルフ領側の川は崖に繋がっており生き物が居ないそうだ。
川の水源は東西の山の湧き水で中央付近に流れ合流したあと南へ流れ、その後南東に向きを変えその先の滝から海へ落ちるとの事。魚が口に合えば堰を作って、あっちの魚を放流するのも良いかもな。
魚は捕れないが、その代わり食べれる肉の種類には困る事が無いらしい。
精霊樹の東側にはかなり強い魔物が出るようで、生態系もかなり混沌としている。
マナを集める樹の周辺って言うのは植物や樹液を吸う虫もマナを多く含む。なので草食動物も、それを食べる魔物からしても環境が良く、縄張り争いが苛烈なんだとか。
あと、調味料を教えて貰ったのだが、とにかく豊富!
今まで色々な地に住んでいただけあって、ハーブ等の有用な植物は大半を移植したらしい。
山椒のような物とか小さいがやたらと辛い唐辛子なんかがあった。
やはり旅とか交易は強いな~
移植するだけの知識と発想もか。凄いなぁ
エルフ側にこそ転生者とか居ないか? 柔軟すぎだろ。
それと変わり種で、魔石も調味料にする事があるらしい。
爆発した身としては怖すぎるのだが?
魔石って食べたらどうなるんだろ?
「粗く削って料理に掛けるのよ。噛むと口の中でパチパチしてちょっとした強調効果になるわ」
あ、粗挽きだと?!
それ、火花なんじゃ…… いや、火花だろ! 確実に。
「あと~、冷やした甘味に入れたりもするかな」
「私たちにはちょっと早いかな~」
だいじょおぶ、は、わざとです。
辛味は痛み。ならば衝撃も味覚!
たまに大きいのを噛むと口の中が明るく光ります。




