32話 森人世界の陶芸事情
【 9歳 夏 】
この日の会談は最終確認となる。
お互いの主張の他、魔物の被害や天災時の受け入れなど、緩めだが協力的な隣人としての立場を表明する事になった。
なお、政治的なお話は前回まで大体終わっている。あとは明後日に境界付近に作った簡易的な建物でエルフの長老と父様が会談し、お互いが境界の位置を確認して終了だ。
打ち合せの最終日ともなれば、する事などほとんど無い。
前回打ち合わせたものを上司から承認貰って来ただけだからな。
まだ日も高いので色々質問する。
まずは、エルフって食器はどうしてるのか? と。
専門職が居るはずだ。
実際、結構良いものを使っている。
森の中だし土を掘って、更にその下の岩盤から抜くとは思えない。
もちろんできないわけでは無いだろうけどさ。
もし材料が売れるものなら売りたい。
聞くと大きな樹の東側の山から少量掘り出したらしい。
この世界だと石器は直せるので余り消費しないし、そんなものなのかな。
黒いグラスの完成度もだが、その感性が素晴らしい、とべた褒めしていたらなんと作者を紹介して貰える事になった。
物静かな方だった。
エルフなので見た目からは年齢を推測できず。
若く見えるその男性が一人で作っているらしい。
どうやらエルフには陶芸家が居るようだ。
そう、造形家じゃないんだよ!
ただし窯を使わないの同じで、最後の焼成は魔法で行うらしい。
それでも良い。足りない知識を教えて欲しいっ
話をして何とか作ってる所を見学させて貰う事になった。
ここでろくろに出会うとは……
動力の無い不思議な格好をしたろくろがあった。
その後、作業を見せて貰ったが、正に圧巻!! である!!
ろくろを回すのは魔法を使っているが、粘土の成形は指先のみの加工らしい。
そして、その前工程の粘土作りこそが土魔法の神髄との事!
すげー、すげーーっ
すっごく習いたい!!
すげーなエルフ! 人間じゃ無理だから!!
珍しいかと思って持ってきた白い石を渡してみたが流行りじゃないらしい。
400年以上前に廃れたそうだ……
無っ茶苦茶、昔っ!
ここ100年ほどは黒い素材を土台に、エメラルドやルビーみたいな色の付いた石を含めるのが流行りらしい。わざと小さな穴を開けて焼いた器に、魔法を使い宝石で凹凸無く塞ぐのだとか……
今見てるのは黒曜石とも違う、碁石並みに黒い艶の無い器。
そこの器にひび割れたようなラインがあり、トパーズの綺麗な黄色が入ってたりする。
もうね…… 時間と技術が有り余ってる人達は困るっっ
金継ぎどころか、トパーズ継ぎだゾ?!
※ 金継ぎ 日本の割れた陶器を金箔を挟んで修繕する技術
発想が異世界だわ~
是非とも白の器にルビーのラインで対抗してみたいっ
これが 100年間って事はこの人が作り始めたって事だよな~
俺は心の中で勝手に陶芸先生と呼んで崇めた。奉ったっ
彼の名はヌィグライン。
どうか我に叡智を授け賜え~
「取っ手の裏にも別素材を入れた方が滑らなくなりそうですね」
「ほう、それも良いね」
俺も白い石で薄い茶碗でも作るか。
「手伝おう」
俺が持ってきた石を手早く粉末化し捏ね出す。
粉末化が凄い手早いっ
あと粒が凄い細かいっっ
そして大気中から水を合成し加え、凄く良い感じの粘土になった。
速え~~ 学びたい。弟子入りしたいっ
その後、先生のろくろを借り粘土を成形していく。
先生が魔法でゆっくりとろくろを回してくれるので、こちらは粘土に集中。
慎重に淵を薄く、薄ーく形作る。
楽しい~っ
成形が完成した器を先生が脱水、乾燥させてくれた。
「完成ならこのまま焼結するがどうするかね?」
「取っ手と、あともう少し透かし模様をを入れてみたいです」
「やってみると良い」
割れないに越したことは無いが、折角なので極限まで薄くしてみようと思う。
土属性魔法では無く指先で。根気と拘りで挑む。
出来上がった器を魔法で再度乾燥し、焼成を行なって貰った。
乾燥一つでも、大気の減圧や素地に微量の熱を加えるなどのコツがあるそうだ。
時間が掛かると思われた焼成もかなり短時間だった。
「この石だけだと表面がざらつくようだね」
釉薬も無いからなぁ
「ん~」
「輝石を使うかね?」
がっかりしてると思われたのか別の工程を勧められる。
「では、この赤いのをお願いします」
「土属性は使えるのだろう? やってみると良い」
「ありがとうございます!」
ではまず口に当たる部分を少し上に伸ばす。
あとは全体の表面を釉薬代わりに…… 赤射っっ!
「?! 今のは何かね??」
「薄く小さな水滴状に着けてみました」
これは中々に難しく、精密な制御と自負している。
単に土台側から弾くように魔力制御しただけだがな。
飽きるほど鏡を作って習得した技である。
「消費量が少ないのか……」
残ったルビーっぽい石の原石を確認している。
放出側も蒸気のように散らしただけなので消費は少ない。
もちろん、陶器を拡大して見たら表面は隙間だらけなんだけどね。
「これはこれで中々弄り甲斐のある発想だね」
この人の作った他の作品を見せて貰ったのだが、ジョッキで取っ手の途中だけ木製、みたいな土魔法が無きゃ無理な作品が多数あった。方向性も多種多様。
いいわ~ いいわ~
異世界陶芸家に勝てる気しないワ~
もちろん! 挑むがなっ!
◆
この日の晩も宴が催された。
普段あまりはしゃいだり、感情を出さない母も妹と一緒に楽しんでいるようで新鮮だった。俺の時と違って母の周りには何故かエルフの女性が集まっており、話が盛り上がっている。どうも美容関連の話のようだ。
そうだよな~
女性だと興味ある分野が違うものな。
エルフの女性の髪形だが、何故かほとんどがショートヘアだ。
聞いたところ、男性でも楽器の弦を作りたい人が伸ばす事がある程度で、髪を伸ばす習慣自体が無いらしい。寿命も文化も長いのに不思議な感じだが、どうも魔法で簡単に切れる事とハサミが無い事が原因のようだ。男女共に、長くても肩くらいまでしか無い人ばかりだ。
そのせいで髪を伸ばし編込んでいる母の髪型が珍しいのかもしれない。
鉄の道具を思いついておいてハサミは思い出しもしなかったわ~
石でも作れなくは無いと思うんだがなぁ
今はメイドが妹の髪で色々な編み方を披露している。
さて、こちらも料理を振る舞ってみるか。
とは言っても肉など食材の一部は提供して貰う事になるんだけどね。
だって冷蔵輸送できないしさ。
もう一人のメイドに手伝って貰いながら作った物は、野菜の素揚げと肉の唐揚げ、それとコロッケだ。実はこの世界、普通に唐揚げはあった。卵を使用しない所が若干違うがな。
でだ、無かったのはパン粉の方だ。
小麦粉を練って伸ばした生地に入れる餃子スタイルは多いのだが、パン粉で包むのは無かったんだ。なんせパンがガチガチだったからな。パンの改良が進んだので提案したところ、カツとコロッケが食卓に乗るようなったのさ。
今回は野菜を宣伝したいので野菜コロッケにしてみた。
さて、反応はどうだろうか?
調味料はエルフ領頼みになってしまうので分が悪いかもしれないが、食感は違うはず!
「……どうかな?」
「……確かに面白いわねぇ 変わった食感。そちらだと芋をこう使うのね」
ジャガイモだったら更に違う事が出来たのだろうが、ウチのは里芋に近いんだよね~
結果、なんとか好評を得たらしい。
ただ予想外だったのは、一番人気は天かす。揚げ玉だった……
……エルフ的に凄く斬新だったらしい。
だが待てっ それはそのまま食べる物じゃないっっ
もう心は左官です。土、大好き。
結末まで書いてあるけどプロット増える度に寄り道、なぜか女性より陶芸家に惚れ込む主人公……
まぁ、小学生あたりなので。
野菜の素揚げを天ぷらやフリッターにしなかった理由はソースを提供できないからです。
ソースにエルフ産を使うなら、シンプルに製法のみで勝負しました。




