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31話  母は強し

 【 9歳 晩夏 】



 エルフ集落との交流は兄に任せ、俺は眼鏡の開発をしていた。

できたら鉄が届くまでには完成させたい。


しかし、考えれば考えるほど解らない。


長波長をどう可視化したら良いのか?

それとも、その波長を検出する何かを作って表示するのだろうか?

もしくは感度を上げる光電子倍増管みたいのを魔法で作るのか?

         ※ 光電子倍増管 カミオカンデのアレです

流石に無茶じゃないか?

いや、その前に倍増した光を目で受けて平気とは思えないんだが。


光属性魔法が使えたら素直に教われば良いのだけど~

原理だけでも聞いとけば良かった。



この件、意外なところからの援護で解決した。


まず、メイドに使える人が居ないか聞いたが居なかった。

当たり前だが使い道の無い魔法を覚えはしない。


光の波長を説明して、赤外線を見れないか聞いても無理だった。

波長とは時間当たりの波の数だ。波の高さや量じゃないんだよ。

虫眼鏡使っても見えないだろ? 拡大じゃなく時間の方を変える必要がある。


昼に星を見れるほど目の感度を上げる事ができる人たちでもこれは無理らしい。



俺がウンウンやってると、メイドが母様に相談したようで母様と話す事になった。


で、流石母様。エルフが使った魔法を物の数分で再現した。


「弱体化の魔法で目の感度を上げてるようね」

光属性じゃなく無属性?


「強化ではなくですか?」

「周りの少しの光で眩しく感じるほど目を繊細にするの。だから弱体化ね」

「なるほど~」


「これで何をしようとしてたの?」

「マナの流れが見えるらしいので眼鏡にその機能を付けれないかな~と思って」


「見えるのかしら?」

「今どう見えてるのですか?」

「あなたが全体的に明るく見えてるわ。お腹が明るくて、手足は若干暗いのかしら」

「あ~ それは体温が見えてるのかも」


通常視野に放射熱画像(サーモグラフィー)を上乗せか。良く見えるな。


「そうなのね。でも、これかなり目の負担が大きいわ。少し目の奥が痛いし、長時間は無理ね」

「じゃ、すぐ止めてください! 注意事項とか聞いてないので目が見えなくなったりしたら困ります」

それはダメだ。絶対ダメ。


「そうね。でも、良くこんな魔法を思いついたわね」

「寿命が長い人たちですからね~」


「それで、この光が見えると何か判るの?」

「魔法の使用前に効果範囲が見えるみたいです」

「そう言う事ね。 ……確かに明るくなるわ。こんな使い道があるのね」


母様は自分の指先を見ながら現象の確認している。


とは言え、方向性は解かった。


「母様、凄い助かりました。何とかできそうな気がします」

「そうなの? この位なら何時でも相談してちょうだい。頼られないのも寂しいのよ?」

「ありがとうございます。凄い頼もしいです」

「そう? 頑張ってね」



ここからの開発は方向が変わった。眼鏡の形は諦めたのさ。


出来上がった魔道具の形は望遠鏡モドキ。やってる事は顕微鏡だがな。

外部からの光を遮断した上で発生している赤外線を魔力で強化した。

これにより実験は成功し、魔力による発光を確認できた。


多分だが、マナが物質内を流れると電気と同様に熱が発生してるんじゃないだろうか?

魔力を見てるんじゃない。抵抗値による熱損失を見てる気がする。

証明する為には別途何か考えないといけないけどな。



……で、だ! 目が痛いっっ

これが母様が言ってた痛みか……


回復魔法が使えない俺は使っちゃいけないな……


母様に成功した事を伝えた後、目の治療をお願いした。

目の奥底にキクぜ~


これは中止だな。微調整ができるようになってからにしよう!




 依頼してた鍋が到着した。

形状は中華風片手鍋。揚げ物専用の調理器具は使いにくいだろうしな。


ついでに揚げ物を置いておくバットを作成した。

こちらはガラス製だ。割れても彼らなら直せるだろうし、作り直せると思う。

ある程度油を切った後は紙に油を吸わせれば良い。


ふふふ。これで紙も売れるはず。




 兄がエルフ領から帰ってきた。

兄は今回が2度目の訪問で、そろそろ話し合いも終了しそうとの事だった。


「あそこはほんと面白いところだよね~」

「何か新しい物はありましたか?」

「今回は見廻りの人から魔法を習ったんだよ」

「へ~~ 凄い! 見せてください!」


「えへへ。行くよ、見ててね」

「はい! ……えっ?」

兄が消えた…… 何だと? いや、ちょっと景色が歪んでるな……

歪んでるどころか部分的に逆さに映ってる箇所まである。


「どう?」

「消えてます」

声も変な方向から聞こえてくる。凄いな、どうなってるんだ?

音も歪むのか?


すると、ゆっくりと歪みが歩き出した。つい目で追ってしまう。


「あれ? ほんと消えてる?」

「見えないのですけど、背後が歪んで見えますね」

「そう見えちゃうんだ?」

「面白いですね~」

「だよね~」

解除したのか兄が姿を現した。

これで兄も2種類の魔法の使い手か~ コツはなんだろ?


「じゃ、母様に見せてくるっ」

「えっ」

兄の姿が消え、走り去る。


「直ぐに声掛けた方が良いですよーっ」

攻撃されかねないだろ。大丈夫かな?



遠くでメイドの悲鳴が上がり、その直後兄と母の悲鳴が上がった……




 いよいよ交渉も終わりそうだ。

エルフ領への訪問は多分、今回が最後。


これの次は境界で偉い人同士の会談になる。


文字とか署名(サイン)が無いのでどうなるか判らないが、父様が承認した事を伝える必要があるしな。その為には最後くらいは父様が会談しなければならないのさ。


伺ってばかりで招待できないのは国力の差と思って貰うしかないだろう。

取り敢えず、最後は境界に近いところに簡単な建物でも作って対応予定だ。


さーて、少しは交易に意欲を持って貰えるといいなぁ



今回は俺と文官一人に護衛が四人、メイドが二人だ。


そして何故か母様と同母妹(いもうと)が来た。

良いのか?


「跡取りを拘束しないのに私たちに何かする訳が無いじゃない」

「しないでしょうけど、それでも警戒するのが普通なのでは?」


「これが最後の機会になりそうだもの、二人が絶賛する物を見てみたいわ」

「わたしも~」

「流石にフィルニアルテは早すぎないですか?」


腰に(まと)わり付いてくる次女(いもうと)は3つ下。6歳だぞ?

ホント、良いのか?


「大丈夫よ。交流だもの、兵士が行くよりは余程良いのじゃないかしら」

「でも、まだ見てない魔物や危険動物が森に居るかもしれないですし……」

「ふふふっ お土産にできると良いわね」


「出てきて欲しくは無いな~」

「え~、魔物みたーい」

「フィ~ニ~」

「えへへ」

妹がぐりぐりと甘えて来る。甘えん坊め~


「あなたがフィルニアルテを抱えてね。私は警戒しながら進むわ」

「「はーい」」

まぁ、俺が一番戦えないからな。文官、メイド以下ですもの。


ちなみにだが、母様はなかなかに強い。

メイドに鉈の振り方を教えたのが母様らしく、メイド達の主人兼鉈の師匠である。




 境界に近づくと見廻りのエルフが近付いてきた。


「今回は随分と顔ぶれが変わったな」

「私と兄の話を聞いて、母と妹が見てみたいと言いまして……」


母はスカートで、鉈を二本腰に下げている以外は普段の服装に近い。

まぁ、それでも獣の出る森の中では違和感だらけだ。

母は一歩前に出ると挨拶をした。


「ルァニエスの母でフィルトルァと申しますわ。息子たちに良くして戴いたようなので、ご挨拶に伺いました」

「私は警備担当のグラリエント。集落までの案内をさせて戴く。ご訪問、歓迎しよう」


「フィルニアルテです! ご挨拶に来ました!」

「これはご丁寧に。歓迎しますよ、小さな小さなお嬢さん」

「えへへ」


挨拶後のエルフの対応は凄く丁寧だった。


最初に会った時に不満を述べてたグエルバーツさんですら超紳士だ。

対応が違う! 別人過ぎっ


案内に不備が有ってはいけないと、率先してエルフの女性を呼んでくれるほどだった。


もしや母様を狙ってたりしないだろうな?!!


断固戦うぞ!



通常、あちらの世界でも目の治療はできません。眼底(がんてい)を覗きながらなら可能かも?

事前に自分の治療をしていた母は痛みの位置を理解していたために可能でした。


光を強化したり目を弱体化させると言うフィクションの現象です。

実際に波長を変えずに見えるかは判りませんが、この物語内ではできてしまってます。

この辺は追加で設定の説明が数話後に入ります。


意地でも紙を売るスタイル!



ヤンキー系エルフ、グエルバーツさん。実は最年少。

年齢一桁の女の子の対応に困って、自分と歳の近い女子に丸投げしただけです。

「見た事ねーしっっ!」

年下と接する事も無い彼からすると首が座ってない赤ちゃんみたいなものです。

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