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29話  交渉と提案

 【 9歳 夏 】



 成り行きでご招待された彼女たちの集落は、我々とは全く異なる建築様式だった。いっそ元の世界のマンションに似てるかもしれない。なんと、階段型だ。

更に建物近隣の地面は舗装すらされている。



物語的なエルフだと原始的な生活してるが、実際にはそんな事は全くなかったようだ。建造物のレベルも高く、森に作られたリゾート施設かテーマパーク状態である。


普通の住人(キャスト)も美男美女だらけだしな。


目の前の建物は大きな木を囲うように弧を描いた石造りのマンションなのだが、各階の住居には外側に向け広めのベランダまで付いており何とも優雅。階層も6階建てと、かなりの人数が住んでるんじゃないだろうか?


大きな樹の影でかなり暗かったのに、案内された建物の中は結構明るい。しかも壁や天井が直に光ってる気がするし、どう言う原理、技術なのか想像もできない。ファンタジーからSFの世界に入り込んだ気分だわ。


そして少し歩くとマンションの地上階層(フロア)にはプールまで見えた。


これ、文明として相当負けてないだろうか?

農作物くらいしか交渉材料は無さそうなんだが。



会議用であろう部屋に到着後、彼女たち側も交渉役が3人増え話し合いが再開された。


ロァヴェルナさんを含め、7人の長老が居るらしい。

長老と言ってるが最年長者とは限らず、七つある家系のそれぞれの代表が就いているとの事だ。

今回の話し合いにあたり、過半数の4人を集めてくれたそうだ。


お互い要望を伝え、お互いの領内では軍事行動と見做(みな)される行為を行わない事。団体で行動する場合は事前に連絡する事など、まずは当たり前の取り決めがされた。


次に交易に関しては今後緩やかに行なっていく事になった。

何せ、文化が判らない。あと食事事情もな。食べられない物(アレルギー)とかあっても困るし。


どうもこの人たちの領地は自給自足できているらしく、交易はあまり乗り気ではない様子だ。

ただ、こちら側の領地に人が勝手に入り込んで収穫される位なら、注文依頼として受けて管理しながら収穫、交換し対価を得るのは理に適うと理解できているようだ。


それと、判ったのはこちら側にも通貨は無いらしい。



「布は売れると思ったんだけどな~」

「需要が無いわけじゃないんだけどね~」


「材質が違うようですが、こちらでも作ってるんですね」

「もちろん! 必要だもの」


エルフ側の布地は見た事のない光沢だった。


材料は植物の茎を割いて作った糸を織った物らしい。それだけ聞けば麻布に少し似ているが、少し厚みもある。たぶん、糸の段階で何か加工してそうだ。


材質が違うので比較できないが、織りの均一さと染色の技術が完全に負けてるな。




 ある程度事務的なお話しが一段落したようなので気になっている事を質問した。


「皆さんって耳が長いのは私たちとは別の種族なのですか?」

「……知らずに交渉していたの?」

「え? 知ってる前提だったのですか? 初めて見たのですけど」

「あれ? そんなものなのかな?」

「皆さんは私たち以外の耳の短い人と交流があるのですか?」

「今は無いわね」

「昔はあったのですか?」

「まぁね。私たちって600年くらい前はもっと北に住んでたのよ。その時には集落も多かったし、他種族との交流もそこそこ有ったのだけど、500年前に全部放棄して全員でここに移住しちゃったのよね」


昔過ぎ! 6世紀だぞ?!


「何で全部放棄したのですか?」

「今より人数も少なかったからね。より良い集落を作るのに力を合わせただけよ」

「そうなんだ。それじゃ、しょうがないですね」


話を聞いていくと人間より寿命がかなり長く1000年は生きられる種族らしい。

やはりエルフっぽい。



「……昔は私たちの種族とあなた達の種族で争った事もあるのよ」


「え?! そうなんですか? 恨んでるとか?」

「私の生まれる前だし、私は気にして無いけどね。そちらに言い伝えとか残ってないの?」


「まだ学校とか行ってないので何とも……」

「確かに年齢が足りなすぎか~ そうよね」

「申し訳ないです……」

「いえいえ、良いのよ。そちらこそ、こちらに思う事は無いのかなと思って聞いてみただけなの」


「できたら、仲良くできたらなぁとは思いますけど」

「何も無いに越したことは無いわね。私たちも、もう移住なんてしたく無いし」


「ところで、何が原因だったのですか?」

「寿命の差とか出生数の差とか色々ね。少数側が不利益になるものなのよ」

「じゃ、今回の交渉ではその辺をきちんと明記して不利益にならないようにしないといけないですね」

「何であなたがこちら側の立場で考えてるのよ」

「そうですけど…… まぁ、争わずに済むと良いなぁと」

「そうね。そうなると良いわねぇ」




 エルフたちによる宴に参加させて貰った。


弧を描いたマンションの一階を抜けると同じく弧を描くマンションがあり、その間が広場となっててテーブルなどが用意されていた。おしゃれな街灯もあり、賑やかな感じである。


我々のために開いてくれたのかと思ったが、参加人数が違うだけで毎回宴状態らしい。

エルフのイメージが…… まぁ、俺がそう呼んでるだけなんだけどさぁ



取り分けて貰った料理を食べた感想は……


美味ーーい!! 色々凄いな!


コレ相手に知識チートだの何だのは無理だなっ 実力が違いすぎるっ


まず調味料が凄い。醸造系の調味料だな。

明らかにハーブだけの調理以上の料理だわ。


寿命が長い種族が料理にハマるとそりゃこうなるか~



エルフの食事だが、カトラリーはなんとトングだった! しかも竹製。

箸っぽいけど繋がってるんだよな。まぁ、金属が無い文化っぽいしそんな物なのかな?


周りを見ると真っ黒なジョッキでワインを飲むエルフたち……

凄い絵づらだな。黒曜石とかだろうか?

美男美女が陽気に騒いでいる。


覚えてないが、たぶんビアガーデンな感じではないだろうか?



何処からともなく弦楽器による音楽が流れてくる。

そう言えばこちらの世界で音楽や歌を聞いて無かったな。


ヤバい。想定以上に文明差があるかもしれない。


……それは凄い洗練された音楽だった。

曲からすると弦の数も多そうだし、楽器の技術や演奏技術の高さが想定でき愕然(がくぜん)となる。多分楽器や音楽の歴史自体が長いんだ。


絶対に勝てないな。楽譜とかも普通にありそうだ。


楽器について尋ねるとギターのような形状らしい。ただ、弦はなんと髪を束ねた物なんだとか。切れないように加工し、さらに保護魔法まで掛けているそうだ。



宴の賑やかな雰囲気に、一緒に来た護衛たちは完全に委縮してしまっている。


「もう少し気を抜いて大丈夫だよ? 害意があれば既にどうにかなってるって」

「もちろん理解してるのですが……」

「若様は落ち着き過ぎじゃないですか?」

「そうかな? 新しい物は見ていて楽しくない?」

警戒は良いけど、不信は困るんだけど。


「君たちはここで見聞きしたものを父様に伝えないといけないんだよ? もっと周りを見なよ」

「え、えぇ」

「ここまでの集落とは思っていなかったので驚きです」


そりゃそうか~


大人から子供まで集まって騒ぐって習慣すらウチには無いものね。

それに子爵領では虫が集まらないよう、夜は光を漏らさないって習うしなぁ


でも、王都の学校を卒業した文官までこの反応だと王都も期待できないのかな?


「彼らはこの地の力を見て貰うためにやってるんだよ。縮こまってては相手もやり甲斐が無いんじゃないかな?」


「あら、君は判るの?」

「料理も音楽も、魔法の技術もかなり高いですよね。どれほどの差があるのやら。特に調味料は興味深いですねぇ」

「良いでしょう?」


ふふふんっとロァヴェルナさんが笑った。


護衛たちは判ってない感じだな。

彼らに向き直し説明する。


「自給自足してるって言ってる彼女たちの集落では、既に食料の量よりも質を重視できるだけの余裕があるんだよ。音楽もそうさ。労働以外に回せるだけの時間の余力があるって事だね」


「そう言う事ですか……」

文官は解ってくれたみたいだ。


「?」

まだ解かってない人が居るようだ。


「ほれ、昔は我らも味より量だったろ。余裕とはそう言う事じゃ」

「……なるほど」


「折角なのだから食べて報告しようよ」

「そうですな」

「これ、凄いですなっ! 何と言うか…… すいません。美味しい以外の感想が出なそうです」

「「はっはっはっ」」

ウチの人たちにグルメレポートはまだ無理なようだ。


「そう言って貰えると招いた甲斐があるわね」

そう言ってロァヴェルナさんがほほ笑む。


「父には決して侮れない高い文化を持った種族だと伝えるようにします」



「ところで料理の技術交流をしてみませんか?」

「あら、提供できる技術があると言う事かしら?」

「多分ですけど、揚げ物って無いんじゃないかな?」

「揚げ物?」

「加熱した油で全体を加熱する調理ですけど」

「あ~、無くは無いけど人気無いかなぁ」


「あれ? 今出てないだけです?」

肉も結構食べてるようだし脂は有ると思うんだけど、見渡しても素揚げも無い。


「油で調理すると何か違うの?」

「ん~~ 今度持ってきますね。食べてもらわないと口では説明は難しいかも」

「そう? 期待しておくわ」


「でも何でそう思ったの?」

「鉄製の調理器具が無い様に見えたので提案して見たのですけど、ありました?」

「あぁ、鉄は使わないわね~ 陶器で足りちゃってるし」


「600年も離れてたのだから、こちらも少しくらいは違った事ができたらいいかなぁと」

「そうね。違いが有ってもおかしくは無いわね」



この日は空いてる部屋を借りて眠ったのだが、借りた寝具のレベルも違った……


ここの生産物は何でも売れるだろうが対価が思いつかないや。



タイトルは主人公の目的ですが、エルフ側は笑顔で拒絶モードです。

発展途上国と先進国の国交交渉なわけで、簡単ではありません。


現地エルフに無双されちゃいます。

10倍以上の研究開発時間という利点が弱いはず無いんですよね。

人間の現役が20~50歳の30年とすると30倍近いかもしれません。

この物語では人間に迫害されるような弱いエルフは出ないです。たぶん。


物語の都合で27話の集落の年数を1000年から500年に変更しました。ごめんなさい。



新年度に合わせてみた! みんな、仕事頑張ろう~

次は1週間後から投稿開始します。

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