22話 幻想世界の船事情 / 国と富 4
作中作を一部修正。
【 8歳 冬 】
養護院をそろそろ卒院する子達がお見合いの話をしていた。
収入源の確保ができて来たし養護院の卒院を一部18歳に引き上げたいのだが、どう思うか聞いたところ、皆さん余り乗り気では無い様子。婚期が遅れる以外の意味が判らないそうだ……
そうなのかな? もう少し魔法の授業とかあっても良いと思うのだけど。
ひとまず保留だ。俺の収入源と知識が増えんと迷走しかねない。
大体、なぜ15歳なんだよ?! 16で結婚とか、かわいそうだろ。
バッタを一人で倒せる年齢なんだとか……
ホントに? あれを?? この世界の子供すげーーっ
一人で生きていける年齢ってそっちの意味なのか……
収入の話ですらないのか。技術とか知恵を与えようよ。
大昔の風習が残ったとかなんだろうか? サバンナでライオン狩れみたいな?
意外と16歳での結婚を嫌がってないようだ。みんな同じだし、昔からそうだものな……
俺の方が前世、気にしすぎなのか? 出産早すぎるの問題は無いのだろうか?
体の構造が違う可能性もあるだけに無理は言わないけどさぁ
理由の一つは相手の男になるんだが、成人年齢であろうと家を持ってからじゃないと一人前として認められず結婚できないのだとか。兵士成りたてなんかは兵舎に住む事になる。ある程度の実力や実績が認められると領内に点在する宿舎の個室に変わるのだ。なので男の結婚時期は18から20歳くらいらしい。多少の差はあれど、どの職業も似たり寄ったりだ。
つまり見合い相手は絶対に稼いでる男だと言うことで、育ちからしたら安心するのかもしれない。女で兵士になるのは好きな人が居て独り立ちするまで待ちたいとか、その年に良い人居なくて保留した人などらしい。まぁ本人が納得してるなら良いのかな? 選択肢として何か作っておくか~
……あとで本音を聞いたのだが、結局成人が16歳なので養護院だけ遅らせると一般の若い女の子達に優良な旦那候補を持ってかれるのが嫌なんだそうだ。そりゃそうだ、一般の子を忘れてた。すいませんでしたーっ
そうだな、制度に口出しはやめよう。満足に食べられるようにする程度の手伝いで良いや。バッタの大量発生でもしない限りこの養護院が溢れることは無いし、これ以上の収入源は良いや。どちらかと言うと卒院後に使える知識の書いた本でも寄贈した方がましか。
バッタの大量発生は怪我で保護者に死人が出るのもあるが、一度起きるとバッタの個体数が増える為その後数年間は作物が荒らされ飢饉が続くのだ。領兵は養護院出身が多いのでバッタが大嫌いだ。いや、バッタ狩りが大好きと言っておこう。
食事の際に何気なく船について両親に聞いてみたのだが、王都には観光用の船があるらしい。海の魔物が居るファンタジーな世界なのに良いのだろうか?
理由は注意喚起の為なんだとか。実際に危険で、浜辺にすら近寄ってはいけないそうだ。
観光船はそれほど沖合に出るわけでもなく、海を見たことが無い内陸部の住人向けに、海軍が定期的に運営してるらしい。その際に海の危険性を教えているんだそうだ。と言うのも、そういった船に乗りたがるのは毎年地方から王都へやって来る若い学生だからだ。
両親も何度か乗ったらしく母様は楽しそうに、父様は嫌そうに感想を言っていた。母様の方が王都出身だろうに……
この国には海軍があるのか……
となると木は猶更手に入らないんだろうか……
大量に使うだろうし修理用にも確保したいよな?
……いや、そもそも木造船なのか?
「父様、船って何で出来ているのですか?」
「石だったと思うが、何だったかな……」
「い、石??」
「ああ、ガラスとも違う青味がかった透明な石だったな」
「木や鉄では無く?」
「鉄じゃ浮かないんじゃないか?」
「いえ、それなら石でも浮かないでしょうし」
「それもそうか」
「あら、また何か始める気なの?」
「舟を作ってみたいなぁと」
「絶対一人で行なっては駄目よ。必ず誰かを連れて行なう事」
「わかりました」
「約束よ?」
「約束します」
母様からの信頼度が微妙に低い気がするが、河辺は危ないだろうしな。
取り合えず暖かくなるまで小型の模型でも作るか……
「ところでどんな形なのです?」
「ああ…… ん~ 六角形の箱が大量に並べられていたのは覚えているが、どうだったかな……」
「えっ?」
新展開だ……
知ってる船と全く違う気がする。六角形を使う要素ってなんだ?
食後、よーーーく話を聞くと、この世界の船は歴史から何から元の世界とは違い、水に浮く以外の共通点が無かった。
どうもこの世界、海上に進出したのはここ1500年程らしい。それまでは海に入る事も無かったらしいのだ。普通だと筏から始まるんだろうが、まず樹が伐れない。何より人間より強い生き物が海にも居るので森の奥に行かないのと同様、浜辺あたりまでが活動範囲だったのだ。
船の始まりは土属性魔法で生成したの立方体の箱をいくつか水に浮かべ、桟橋を作るようになった事かららしく、徐々に大きく、揺れないようにと発展していったようだ。
その所為でこの世界の船には竜骨が無い。ほんとに浮桟橋から発展したのだ。今でこそ安定させる為に船底が竜骨のような形にはなっているものの、骨組みと言う概念すら存在していないようだ。そして何故父が知っていたかと言うと、実際に透けて見えたからだ。話からするとアクアマリンかサファイアあたりで出来ているようだぞ、この世界の船。意味がわからん!
しかも、どこから見たかと言えば内部からだ。上からじゃないんだな。まず、この世界の船には帆が存在せず、推進力は魔法に頼ってるらしい。そうなると現代の船と同じく甲板上部は小型化する。そして海戦が存在しないので大砲などの武器が無いと…… 今あなたはどのような想像しただろうか?
勿体ぶらずに言うと、この世界の船は海面からほとんど沈んでいる魚雷みたいな船だった。船体の外壁は複数層の蜂の巣構造で空気を含み浮力を得つつ、積層一体構造で耐久強化の意味もあるらしい。空気も見張りも魔法でなんとかするし、荷物の搭載量も魔法でなんとかなってしまう。船乗りが恐れるのは魔物だけなんだ。欠点は航行距離で、海上ではマナが不足するってのはここからの情報のようだ。
海に入らない、興味を持たない理由は海の魔物が怖いからってのと、魚が欲しいなら人魚と交渉したほうが早いからだ。元の桟橋はその為に作られた物らしい。当然だが漁船なんて概念すら無い。海軍があるのは有事に国内の人員輸送をするのに必要だからだそうだ。
なので結構大きい。幻想的じゃないファンタジーな乗り物である。
大航海時代は来そうにないな。一般人は航海を全くしないから航海術は海軍しか持ってないし、国同士の貿易も無いので海路も育たない。もちろん陸路も育ってないんだがな。余程魅力的な商品でもできないと他国まで行って取引しようとも思わないんだよ。陸が見えない距離は怖いし、魔物も怖い。ナイフ持って海で野生の潜水艦相手に戦う仕事とか嫌だろ?
まぁ、川なら大型の水棲生物は居ないだろうし、存在するとしてもこの領には居ない。
うん。木を使わない川舟、良いな。
水運で稼げるだろうか?
冷蔵庫の無い世界だし需要はあると思うんだけど。
よし、まずは舟の模型から行こう。
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【 国と富 4 】
人は幸せを求める。
それはより美味しい物が食べたいなど自身の過去と比較してのものであったり、伴侶を得るために誰かよりも着飾りたい等他者と比較してもの、家族を飢えさせたくないなど他者の窮地を救う為にと様々だ。
だが、人を不幸にしてまで得たいと思う事は稀である。
それは人の内にある良心が咎めるからである。
人や集団が利益を追い続けると富が偏り、格差が生まれる事になる。人が必要とする物や、人々の欲求の差異が小さい為に需要が偏るからである。富の偏りが大きくなり過ぎると飢えた者は富んだ者を恨み、自身や家族を救う為、自らの良心に従い争いへと発展する事となるだろう。
そう成らないためには格差は必ず小さくする必要がある。この格差とは富の格差では無い、幸せの格差である。
富とはある程度以上は貯めても幸せにはなれない。他者よりも貯め過ぎた幸せにより恨まれ、奪われないか不安になってしまうからだ。富に差が有ろうとも幸せに差が無ければ妬まれる事はない。だが幸せの格差に目を向けず、心の内から来る良心の咎めに従わなかったのであれば、集団から仲間と見做されず自身や子孫が困難に陥った時に集団は助けない事に良心が痛まないだろう。
幸せの格差の是正に必要なのは相互観察と相互援助となる。人と人が助け合い、村であれば村長が村人を見守り、困窮していないか、正しく村からの利益を享受できているかを聞き話し合うのだ。
領主であれば村々を、国王であれば各領地を、見落とす事無く救う事こそが重要だ。
全ての人は幸せを求める。
ならば、富を得る最良の手段は共に栄える事であろう。
木の影響はとても大きいです。物語書いてるとあれも出来ない、これも出来ないとなっていく。
私は社会主義、共産主義を支持しているわけではありません。
作中作内の相互は江戸時代の組に当たります。あちらも封建社会ですので。
経済学についても議論はしません。ご了承ください。
念のために書くと「資本論」の話ではなく「道徳感情論」の話をしています。
単発投稿だと読者が増えないため10話単位でまとめて投下するようにしています。
次の投稿まで時間が空くと思いますがどうぞよろしくお願いいたします。
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