21話 養護院の起源
【 8歳 晩秋 】
製麺機の開発をする事にした。
今のままでも趣が有るかもしれないが、三角の断面は口当たりが良くない。
いくつかの計画を考え、太さを変更できる機構を組み込んだ物を設計した。
まー、時間掛かった!
鉄を直接土魔法でって思うだろ? あれは元素番号が高いほど魔力消費が跳ね上がるので鉄なんか今の俺には無理だった。なので、石で大体の形を作ったものを鍛冶屋、というか土魔法士に持ち込んで作って貰う方式を取った。この領には居ないので商人経由だぞ。
流石に圧力が掛かる歯車を石製は無理だ。
実物での依頼だと図面を書くより遥かに説明も楽だしな。
順調に左官の腕が上がってるのが恨めしい……
このままコテ捌きが上達していけば彫刻家にクラスアップしてしまいそうだ。
外注に出した製麺機がひと月程で到着した。
製麺の効率もかなり良くなり、一部を交換すると太さの異なる麺も作れる。
養護院の子らも大喜びである。
ただし、できた麺の断面は六角形だ。何故か生地の切断の都合でそうなった…… 聞くな。
今までの麺棒で打つ方よりは失敗が少なく、かなり細く均一なので乾麺も作る事になった。
もちろん手打ちは人気なのでそのまま続行である。
丸い断面を作るのを諦めたわけでは無いのだが、強度の問題が大きい。
力を入れて曲がらない歯車を作らなければならないのだが、この世界に多分だがステンレスなどが無い。
軸が歪むと修理が必要になるのよ。そしてベアリングも無いからな。
樹脂系、いっそ竹か何かで軸受けを作らないと金属同士だと故障しかねないのだ。
話を戻すと、パスタの方式はローラーで潰す平型と圧力を掛けて穴から押し出す方式がある。押し出し式なら丸の断面ができるのだが、生地の強度に軸や歯車が耐えれないのだ。
試作は難航したのだが繰り返してる内にうっかり別の物ができた。
ミンサーである、ひき肉を作る装置ができてしまった……
小麦の生地より生肉は柔らかいからな。
でだ、出来たミンサーで何肉をひき肉にすると思う? 良く出て食べにくい物だよな……
そう虫の肉のハンバーグができました!
本来調理に向かない端材も纏めれば料理に使えるため肉の廃棄部位が減った。
硬めのスジ肉すら歯ごたえが有って中々良いと! ……良いかな~?
刻んだ根菜でも入れて、つみれにして売るかな……
一部は水に曝し、繋ぎを入れて…… カマボコにしてみた!
モーターは無いからすり鉢ですり身を作る。ミキサーは動力の関係で難しいんだよね。
しかしだ、何故か俺の部屋の物資を知るメイドの助言により、ろくろの改修を行うことに。
……ろくろぉぉ
ミキサーとして生まれ変わったろくろぉ君はしっかり働き、かまぼこは増産する事に。うどんと虫カマボコが養護院の主産業になり食事の量も増えたらしい。領民も毎回自分で作るより買った方が楽だからだ。
出費が増えて貯蓄できて無いんじゃないかと思ったが問題ないらしい。
なんなら商店で虫の脚肉の買い取りが発生したため、領民は豊かになってる可能性すらある。
とは言え、結果として俺の希望した丸いパスタは開発中止となった。
しかもだ、この影響で養護院の人手が余らなくなり紙の開発までも遠のいた。
良いけどさっ! 売れないし!!
この一歩進んで二歩下がり十度右を向く、みたいな流れは何とかならんのか。何を目指してたか忘れそうになるわ。
裕福になったのは養護院で、おれはろくろを失っただけ……
理不尽極まりねぇ
【 初冬 】
養護院の勉強を視察する事にした。
食生活の為に仕事を作ったけど、教育が減ってたらまずい。責任取れないからこそ確認しておく。
現在の基礎教育は、読み書き、計算、料理、農業、法、編み物って感じ。
読み書き、計算ができ子供の世話も得意なので嫁の貰い手が多いらしい。
一般の女の子達の方が教育が足りてなかったりするのだ。
ここで少し養護院について説明だ。
これは父が初めて作ったわけでは無く、ある程度大きな領には大体あるらしい。この仕組みを作った人がトエトさんって女性だった事から、養護院出身の子は全員トエトの姓になる。
この世界、宗教が無いので教会が無く、その流れで孤児院や修道院が無かった。とは言え慈悲とか哀れみ、慈しむ心が無いわけでは無い。結果として彼女が自費で始め、多くの貴族が賛同し現在の状況になったらしい。おおよそ800年ほど昔の人だそうだ。
ついでなので名前の説明もしよう。
名が最初で、二番目は母の家名、最後が父の家名となる。
家名とは要は後ろ盾なのさ。養護院のトエトは各貴族領にある、かなり大きな派閥なのでまず虐めなんて発生しない。養護院出身者の姓は特殊で二番目が後援してるその領主の家名で最後がトエトだったりする。
この子爵領だと、イェルマリエ・トエトってなるわけだ。
そだな、名乗る事も無かったので説明すると俺のフルネームは、ルァニエス・グレニフトープ・イェルマリエ。
イェルマリエ子爵家の次男で、グレニフトープは母様の実家の家名だ。
母様の名前はフィルトルァ・グレニフトープ・イェルマリエになる。結婚前は母様の母の家名が付いていたので、フィルトルァ・フロウォルナシア・グレニフトープだった。かなり長い。
貴族の家名にも命名の流行りがあるらしい。開拓が成功するたびに新規の貴族ができるからな。昔の貴族は家名が長く、新しいと短い傾向にあるようだ。イェルマリエは結構新しい方である。
父様の名前はフェイラント・ヴェニエ・イェルマリエ。祖母のヴェニエ家も同じく比較的新しい貴族だ。
面白いのは新しい貴族は「エ」で終わる事が多い。全て「エ」で終わるわけでは無いのだが、その理由がハルトワエルタウト王家がサインに意匠文字を使い始めた際に「エ」の部分に図案を書き加えた事で自分たちもー、となったそうだ。
この世界のエは「◡」だからお皿や盃に見え、それが豊穣って感じで縁起を求めたんだ。
ちなみに当家のサインのお皿には鹿の頭蓋骨が載っている。
豊穣…… なのか?
養護院では農業自体はしていない。だからこそ、少量で良いのでハーブや季節外れに欲しい物を供給したい。というわけで、ガラスで温室を作ってみる。植えるのは完全にこちらにお任せ、食べ物でも売れる物でも良いさ~
だが何故か追加で洗濯物を干す為の温室まで作る事に。この子ら容赦ないな……
この手の交渉役は毎回年下の子だ。絶対に断らせる気は無いらしい。
指示してるのは誰なんだか。
女性兵士に大浴場がばれた! 隠してたわけじゃ無いけどな。俺もあれからも何度か借りてるんだよ。男の子も一緒に入ってるし、行ける! と。
で、湯舟の石の色も徐々に治して今や真っ白、表面も良い感じである。冬はメイドも余裕あるので護衛役以外のメイドも一緒に来て入ってくのだが、兵士側は知らなかったらしい。
「私が居たときにはありませんでした!」
「僕が作ったからね~」
「兵舎にも作って頂くことは可能でしょうか?」
「良いんじゃない? 場所さえあれば作るよ、水は出せるんでしょ?」
「もちろんです!」
兵舎の厨房を挟んで男女別に大浴場を設置した。
今までは夏はシャワー、冬はお湯と布らしい。
何気に排水が苦労した、養護院は湯舟の容量が少ないから適当で排水口も垂れ流しだからな~
もちろん大半は土魔法士に任せるんだけど、湯舟や床の表面処理が俺じゃないとできなかった。
壁はお願いします。
領兵の土魔法士が手伝ってくれるのでお風呂グッズの改善だ。
まずは手桶。桶を薄くするのもだが、柄の部分の断面に弧を描かせ内部を肉抜きしつつ何本か補強を加え軽量化する。後は椅子も居るか。次に柄つきブラシも作成。猪の毛を使ってガシガシ擦れる背中用ブラシを作った。
いっぱい作れたら領兵から養護院へ贈りものにしてもらおう。俺は猪には関われないしな!
お湯を沸かす魔道具があるらしい……
魔道具って何だ?
マナを充填すると固定効果を発動するものらしい。
日用的に使うもので単純機能の物が多く広く使われているそうだ。
えっ、見たこと無いんだけど!
厨房とかにも無かったろ。
……見たことありました。冬の暖房とかがそうだったらしい。
石焼いてるだけかと思ったさ、模様とか発光とかは無かったぞ??
見た目が地味で区別がつかないほど私生活に紛れ込んでるようだ。
概要が書いた本が欲しいな。
商人へ本の購入を依頼しようとしたが出回って無いらしい。
商人に聞いたところ専門書なので王都に居る先代イェルマリエ子爵、祖父に頼むのが良いそうだ。
父様に手紙を書いて貰うことになった。
麺の断面が六角形なのは製麺機の構造を知らなかったからです。
虫の肉の話ではありますが日本の昆虫食を推奨、推進してるわけではありません。
物語の世界では足やハサミなど筋肉の部分しか食べない設定です。
ろくろはこの後は二号機が作られてます。外注は歯車だけですので。
突発的な自己紹介!
入れるタイミングが難しいのです。独り言スタイルなので。




