19話 発想の転換 / 学問で進め 4
【 8歳 夏 】
8歳にして定職を得てしまった。
とりあえず資金を貯蓄しつつ次を考えよう。
魔法での元素精製なんて想像力だけで突破されかねない。複数の合成ならまだしも純度だけだぞ。俺は俺で白い方のガラスが作れない。もっと土魔法の原理の理解が必要だし、早く学校行ってみたいわ。
今の俺に必要な知識は言わば錬金術って奴だ。何か触媒を混ぜて結合や分離をするアレだな。土魔法は柔らかくして強度の差でモノを取り出している。本来は融点や化学反応で分離させるんだよ。魔法だと酸化反応や還元が無いから、大気に有る元素は使えない。
金属を抜くのは土魔法でこねこねより、熱で抜くのが良い気がするんだよね。少なくとも安定した物質を得られる筈だ。
とは言っても、加熱したいだけなのに熱源が無い。
ここでも木なんだよ~
窯だけなら、そっこー作れるんだけどな~
加熱の為の火魔法と怪我に対応できるよう無属性魔法が欲しいっ
子爵領には火属性の使い手も結構居る。大体厨房関連だな。
本を読んでも解らないし、使い手が習得できた切っ掛けを何個も聞いた方が早い気がする。
火属性魔法を使える人の話だと熱したい物にマナを流し、内部を激しく暴れさせるように思えば良いらしい。中々有用そうな情報だ。分子運動的なものか?
マナに余裕あるとき練習してみるか~
そして無属性。これは兵士も本も大差なく、かなり適当なんだよな。
身体強化など、『軽く息を吸い留め、腹から強化したい部位にマナを巡らせ気合と共に~』みたいな感じ。
相撲かなにかか?
その説明でできたら苦労しないわ。野生動物だって使いだすだろ!
母やメイドからも魔法を教わる事にした。
これは他の属性魔法が使えない理由が解らないからだ。女性は無属性と光属性の二つを習得してる事が多い。二つ使ってるなら属性の違いによるマナ操作の差や習得方法を是非とも教えて欲しい。
そもそも属性って何? なんで分けたの? マナの種類が違うのか?
色々な人に聞き続けて判った事は、メイド達は見て覚えたらしい。
母に至っては気付いたら使えてたとか言ってる……
知らないけど使えてるらしいんだ。教師には向いてないな、この人ら。
土属性を覚えた事で他が使えなくなったとかで無いか心配だ。早まったかなぁ
【 とある夏の日 】
成長してる気がしないし、新製品もできない。何とか王都の学校に早く入れないものだろうか?
図書館とかがあるなら使いたい。ここじゃ本を注文しようにもどんな本があるのか判らないだよ。インターネットで調べれるわけもない。価格や在庫もな。カタログ通販ができたら良いのだけどな~
オンラインの掲示板が欲しいな~
……いや
いやいや。
これはダメな考え方だ。考え方、意識を変えよう。
学校に行きたいも王都に行きたいも現状から逃げの思考だろ。
田舎から大都市に行けばとか、便利な道具が使えればとか、役立つ知識が簡単に知れたならとかは理想を追う話しでは無く現実逃避だろ。
現実を見よう。今打てる手を考える。今努力しなければいけないのだ。大人になれば自然と金が稼げるわけじゃない。
いずれ学校には行く。それは確実だ。だからこそ今は今の目標を作ろう。
よしっ、思考を変えよう。
今の子爵領を一つの国と考えよう。現状行けない王都は他国であり大国だと考える。ここは塩すら困る弱小国なのだ。言わば三国志の蜀、戦国時代の甲斐武田、海との間に強国が存在する国なのだ。
必要なのはなんだ?
自分なら何をする?
使えない技術は諦める。その上でだ。
……
まずは海に向けての道、運搬能力の効率化だな。塩の単価は下げたい。できるなら流通業自体を運営したいな。そして内需の向上と仕入れた資源の加工技術の向上、そしてそれの再輸出による外需だ。自分たちの必要なものを買いつつ価値をつける。
となると強化する基本は衣食住か。
住は今のところ、ガラス窓には貢献できてる気がする。
他領から買うより遥かに安いし、光の透過率が違う。
他に何か作る必要あるか?
あ、そっか、そう、コンクリート! 重要な建材を忘れてたわ。石を直接加工できるから忘れてた。コンクリートじゃないにしても、石垣を虫が登れないようにする表面加工技術や素材は需要があるだろうな。ガラスの鏡面加工で新技術ができれば両方解決するかも。要検討だな。
食は図らずも発展中。しかも俺の手を離れてるところが素晴らしい!
衣は手付かずだ。なるほど、これは需要だな。
衣類とかか~
皮の鞣しは皮の種類や厚さで厳しいが、布の染料の開発は良いかもしれない。ただ、確かあれって石油の精製から生まれた技術だったような?
まぁそれでも自分たちで楽しみながら最先端を目指すなら苦痛じゃないか。
そうだな。娯楽と考えるならば絵や彫刻、音楽とかも良いかもな。売れるか知らないけど。
娯楽による相乗効果か~
音楽からダンス、そしてドレスへの流行と繋がる可能性もあるのか。覚えとくか。
頭が働いてきた。
そうだな。ならばまずは子爵領内の物流の改善から行くか。
鉄道なんて無理だし、水運か。
川舟? いいんじゃないか?
じゃねーな、材料が無い!!
また、木かよーーっ
水より軽い丈夫な石を開発したらこの世界の覇権とれるかもな。
もし人の欲望が世界が変わっても同じならば、元の世界の歴史に近くなるのだろうか?
元の世界の歴史か……
まずは河川の周辺に農業が発達。
それを運ぶ道ができ、集落ができ、文明が生まれ、集落同士の争いから兵と階級が生まれ、国が生まれたと。文字が生まれ筆記道具が生まれ、教育が生まれ、法が生まれ、善悪が生まれたんだろう。
どうもこちらでは宗教ができなかったので差異はありそうだ。
狩猟時に動物の子を捕らえ、家畜化することで酪農と騎乗動物が生まれた。
製鉄の発達で道具、武器が発達。こっちでは炉ができない代わりに魔法で作る石器と鉄器だがな。
そして交易が生まれ、貨幣が生まれた。こちらは多分、今この辺か?
銀行があるかは不明で、投資も無さそう。
船はあるらしいが、羅針盤は無いはず。大航海時代は来ていない。
そして当然だが産業革命は来ていない。
その前のエネルギーだが、核、電気、ガス、石油、石炭すら無し。
蒸気機関も見ていない。なんせ木炭すら怪しいんだからな。
結果航空系の発達は望めない。
今後のこの世界の未来の予想だが、電気かそれ以外のエネルギーから通信が生まれ、長距離の情報に価値が生まれるだろう。そして音が送れ、映像が送れ、記憶する事ができるようになるはずだ。
流通と情報が発達すると欲が刺激され、需要と消費が拡大される。今欲しいのはこれだ。となるとやるべきはマスメディアか?
かわら版で宣伝か?
価値が低いものを改良せずに別の価値を付加するのは好きじゃないんだよな。資本主義や民主主義が破綻するのは大体この連中の所為だろ。
やはり必要なのはインフラか。つまり物流と情報の流れを増やす方法だ。新聞か? あるのかな? そもそも自由に使えるほど紙の量が無いんだけど……
やはり舟と騎乗動物かな。鞍が作れないだろうか。騎乗動物は四足動物って先入観を捨てよう。乗れる程大きく人に馴れる虫とか淡水魚でも居ないかな~
おっと、これこそ現実逃避だな。ははは。
未来への懸念事項は文章で子孫に残すことにしよう。
いずれ建物が増えすぎて石や砂の奪い合いになること。
いずれ水が汚れ、綺麗な水の奪い合いになること。
いずれ人が増え、燃料の奪い合いになり、そしていつか最後は光の奪い合いすら起こること。
今の時代は食料の奪い合いだ。
そして常にそれらを可能とする為の知識の奪い合いが発生している。
やはり学校、と言うより研究施設、そして紙が必要だ。
教 育と探 求は別だからな、学校以外に別途必要だ。
まぁ、これは人生に余裕があったらやるか。夢、目標だな。
そして、いつか紙の量産ができたら異世界版学問のススメを書こう。
自分と自分の子供の為に。
養護院から紙が数枚届いた。忘れたわけでは無いらしい。
もちろん全部買い取りだ。報酬を払う。
となるとペンも改良したいな。細い字が書きたい。
ガラスペンでも作るか~
先ずは毛細管現象を起こせる溝を作る為の道具作りからだな。
こちらはSiと元素番号が遠い程作業しやすくなる。俺では魔力量的に無理なので、絵に書いて商人に頼んだ。3㎜厚の鉄の板に「 * 」のような穴が開いた物を発注した。
この穴からガラスを通し、ガラス棒を作ってから作業だな。
上手く出来たら家族にも贈ろうかなぁ
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【 学問で進め 4 】
人生の目標はいつ定めるべきだろうか。
生涯において一つの目標を定め進めばより遠くに辿り着く。もしくは複数の術を熟した上でその知識を元に目標を定めれば他者とは異なる成果を得る事ができるだろう。
どのような道を選ぶも自由だが、最初の目標は学び舎に入る前に定めるべきである。
何故ならば、学び舎は大人となる為の最後の準備期間であり、卒業とは自らを養い生きる「大人」の開始地点だからである。
時間が経てば大人になるわけでは無い、全ての生物は親から巣立った時より大人なのだ。
自らを養い、守る義務の対価に、自らが進む道を決める自由を得た者を大人と呼ぶのである。
調べると蜀では井戸から塩が取れたらしいです。主人公の思い違いです。
「位置について」のかっこ良い言い回しを思いつかなかったので無難に開始地点で……
白線とか無いしね。
巣立つに親と同居を非難する意味合いはありません。収入ある人は自分を養ってます。




