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18話  硝子収集   / 国と富 3

 【 8歳 春 】



 商人にガラスの塊を持ち込み、売れるのか確認したところ確実に売れるとの回答だった。


まず、市場に出回ってるガラスの材料は白い物らしい。


本来はこれを火属性魔法で溶かしてから使うんだとか。なので俺が抽出したこの透明なガラスはひと工程少なく、土属性の魔法の使い手だけですぐに加工できるのがありがたいらしい。また、既存のガラスよりも透明度が高いってことも高評価だった。


それとこの透明なガラスの輸出はこちらの領にとってとても有効らしく商人がかなり乗り気だ。


ガラスを購入してくれるのは、ガラスが取れない平地が多い農業向けの領地なわけだ。なので足りてない穀物を往復で商売が可能になったのだ。前までは長距離の交易は売れ残る事が怖くてできなかったそうだ。


しかも普段商品を売る隣の領はこちらと同じ物が採れる為安く売らざをえなく、平地の商人が隣の領に売った少し高い商品を買うしかなかったのだ。ひと工程少ないガラスは平地の領に対し、売れ残らない交易品として価値があるのだ。なんせ、持ち込んだガラスは平地の領主が再度売る事もできる程度には希少さがあるし、何より消費期限が無いからだ。


もちろん隣の領地には売らない。欲しければ商人を派遣して買いに来い!

今まで何だかんだ買い叩かれていたそうだからな。


金属シリコンの方は使い道も無いので秘匿。秘匿と言うかガラスだと信じてすら貰えなかった。




 手鏡と姿見は少数のみ販売する事に。


結構高く売れるが半端なく手間が掛かる。平面出しが無茶苦茶難しいんだよ。

商人によるとガラスのインゴットを売り続ければ、誰かがそのうち真似するだろうとの事だった。

鏡面仕上げは難しいし誰かが技術革新でもしてくれるなら勝手にやってくれたら良いわ。材料が売れるからこっちに問題は無い。


鏡は大きいのを受注生産したほうがお得のようだ。買い手は必ず大きな家を持つ者、つまり貴族だからだ。だがこの件、俺はノータッチ。領内で壺とか作ってる所に丸投げした。土属性魔法ってところは同じだろ?

最初の材料調達と最終工程だけは手伝うよ。


産業になるといいなぁ。この世界、距離魔法のおかげで壊れ物、重量物の輸送は得意だからな。




 【 初夏 】



 販売用のガラスの調達作戦が開始された。

春にやってないのは領兵の仕事が多いからである。


参加者は俺と領兵16人。土魔法士6人と雑用係の若手兵士10人だ。

魔法の練習も兼ねて量産しまくるぞ。


河原の浚渫(しゅんせつ)を兼ねて行う事となった。


雑用係は毎日交代なのに、俺と魔法士は雨以外休み無し。

春と秋は虫の所為で忙しいし冬は川が冷たいからな。

まずは領兵達が適当に河原石を集め、魔法士がガラスを抜いて集める。


彼らがガラスの収集を行うと妙に白い石が出来上がる。どうもこれが普通らしい。俺はその回収された白い石から不純物の除去をしつつまとめ、透明なガラスに変換する。見栄えの余り良くない、10kgくらいの(いびつ)な円筒の塊がどんどんできて行った。もちろんだが、後で解析できるかもしれないので、抜いた不純物の方もまとめて保管しておく。


「若様、休みながらやってくださいよ~」

「はーい」

「私達がガラス石を集めとけば、後は領主邸の倉庫でも出来ますからね」

「それもそうか」



しばらく作業を行なっていると、なんか鳥が突っ込んできた!


若手のひとりが盾を構え対応するも、耐え切れず弾き飛ばされ転がっていった。


鳥は黒寄りの茶色で、大きさは羽の両端の長さで10mは超える感じ。他の領兵も順次武器で応戦したが、武器の距離が全く足りていない。まずくね? 鳥もこちらを侮っているのか軽く飛び上がる程度で逃げず、嘴と足を使って領兵を攻撃している。



魔法士が壁や柱を建て行動範囲を狭めるも決着がつかず戦闘は続いていた。


俺も手伝いたいんだが、魔力量が決定的に不足してるんだよ。今は若手のひとりに守られながら少し離れた所へ移動中。流石に危ないからな。



つーか、あの鳥、ガラスを狙ってないか?


「ちょっと相談なんだけど」

「……どうされました?」

「その武器を置いて、盾と私だけを持ってガラスに近づけないかな?

「危ないですよ!」

「考えがあるんだ。誰かと相談したいのだけど、無理?」

「とりあえず、先輩方に合流しましょうか」


若手だと判断に困るようなので魔法士のおじさんの元へ。

盾で隠されながら小脇に抱えられて移動だ。


「若様?! 離れた方が良いのでは?!」

「ごめんね。ちょっと話があってさ」


一番年上の魔法士に相談だ。名前はクアルウェリフさんだったはず。


「ガラスを狙ってるみたいだし、咥えたところを形状変化で抑え込め無いかな?」

「この距離で形状変化は無理ですぞ」

「だからこちらから近づくか、ガラスをこっちに転がして貰ったらどうかな?」


「できなくは無いでしょうが、かなりの速さで変化させないと成功しないんじゃないかと……」


「まぁ、失敗してもガラスがひとつ減るだけだしさ。やってみない?」

「そうですな」


「怪我人が増えないように盾優先で。ガラスが盗られても構わないからね」

「「了解」」

「ガラスは私がやるのでクアルウェリフは地面側をお願いします」

「わかりました」


流石に容量が増えると俺の魔力量じゃ無理なので小さい方を担当する。


そして今も戦ってる人達に大声で声を掛ける。

「ガラスをひとつ、その辺りに投げてくれ!」

指で位置を指定する。


「上手く行きますかな……」

「行って欲しいけど、鳥がどこかへ行ってくれるだけでも良いかな。まぁ、毎日来る可能性もあるから成功すると嬉しいよね。」

「ですなぁ」

「若様、しっかり盾に隠れてくださいね」

「判った。お願いね」

若手領兵の盾に隠れながら機会を伺う。


指示が伝わりガラスがゴロゴロと転がる。

割れなくて良かった~ 考えてなかった。


転がって来たガラスに最速でマナを連結、全力でマナを込めた。できる事なんて限られているんだ。口を固定する事だけに集中しよう。


そして鳥は投げられたガラスが誰も居ない場所に行ったのを見て目標を変更したようだ。

来てくれましたねぇ



「3、2、1、今!」

「ほりゃ!」


まずは俺が、ガラスが嘴の中に入った時点で一気につっかえ棒のように伸ばす。そしてクアルウェリフさんがそれと地面と繋げた。続けて、下側の嘴の先を徐々に石で覆っていった。


「お~、良い感じ」


俺の魔法は下嘴を地面に一瞬弾いた程度。だがその一瞬で地面と連結してくれたようだ。流石にマナ量の違いか、地面から一気に石が伸びて嘴を捕らえていた。


「手伝え! 口周りを固めろ! 近寄らんで良い!」


クアルウェリフさんが同僚の魔法士に指示を出し、一気に分厚くなる。同じ石に魔法を干渉できない為、周辺の石を集めたり作業分担してるようだ。続けて右足も石で覆われて行った。凄い連携だな。


嘴より先は既に石に埋もれているが、バサバサと動く羽の所為で領兵は近づけもしない。


「今晩は鳥のお肉ですかねぇ」

「若様は暢気ですなぁ」


「そだっ 魔法士は継続! その他は怪我人に手当を!」

「「「判りました」」」

「鳥の(とど)めは疲れて動けなくなってからで良いからね」

「そうですな。まぁ、頭まで覆ってしまえば大人しくなりましょうよ」

「それもそうか」



この日の負傷者は最初に吹き飛ばされた人が結構な重症。それ以外は盾ごと腕をへし折られた人が二人に、踏まれて足をバキバキに折られた人が一人だった。死者が出なかったのは良かったが酷いものだ。


それでも領兵は今回の成果を喜んでいた。骨折くらいは魔法で治るので、この程度なら大勝利の扱いらしい。

その感覚、ついてけね~


誰かが道具を使って狼煙(のろし)を上げて暫くすると医療担当含めた応援が来た。


「こりゃ、なかなか大物ですなぁ」

「こっちの人、結構重症なので治療をお願いね」

「はい、判りました」


てきぱきと治療していく。

治療魔法はゲームのような手軽さは無い。皮膚ぐらいなら自分たちで治せる者もいるのだが、骨ともなると皮膚を切り開いて直接並べ直してからパーツ毎に回復させる必要があるのだ。


「応急処置はしたので後は兵舎で行なう事にします」

「任せるよ」

「はい」


足折れた人が既に歩いてるのが恐ろしい。魔法便利過ぎだわ。

重症の人だけは担架で運ばれるようだ。


彼はこの後は大手術だろう。


麻酔なしで……


怖えーーーっ



この夜、俺は手羽先を分割して作ったまんが肉を堪能する事となった。


……思ったのと違う。


兄には(うらや)まれ、妹二人には笑われ、母には呆れられた。


今日は兵舎でもお肉パーティーのはずだ。父は今、そちらに参加している。

頑張った若手達はたっぷり食ってくれって思う。



この件以降、俺が精製したガラスはすぐに皮で作った袋に入れる事にした。

まぁ、あれから鳥が来る気配が無いので一体しか居なかったか光が原因だったかは不明だけどね。




 浚渫は結構なお小遣いになった。

ガラスの販売益は参加者で分配しても良いとの事だったのだが、なんと、売上の六割も貰えた。


人数はあちらの方が多いので、なんとも心苦しい。


もっとも、領兵からは販売価値のあるガラスになる方がおかしいと恐縮された程だ。他の人が出来ない以上、五割以下の報酬はありえないらしい。


この辺は結構厳格(シビア)だ。残り四割のうち三割を6人の魔法士で分け、一割を10人の力仕事担当で分ける。これでも全く不満が聞こえて来ない。

まぁ、領兵は河原から資源が取れたって事実だけで結構な興奮状態だったな。


とは言えだ。6人の成人男性が魔力量限界まで変換して持って来るのだ。

最後の工程だけとは言え、俺だけ残業よ……



早くやらないと彼らの懐に入らないからな~




__________


 【 国と富 3 】



領内で生産できない物は交易をする必要がある。


海から遠い領地では塩が作れず価値が高いように、交易では土地の差異により新たな価値を生む。

需要により価値は変動するが距離によって発生した希少性や労力でも変動するのだ。


供給が需要を超えない限り、商品をひとつひとつ運ばせるよりはまとめて多く運んだ方が労力が少ない。

また道が整備され、安全で高速に移動できるならば更に労力も減るだろう。

つまり輸送経路と輸送手段、人員の手配によって価値が変動する。


また、商品を仕入れるだけでなく加工する事の価値も重要となる。

塩の取れない地が他領から塩を入手し作物を加工した場合、塩の入手に掛かった労力も商品に上乗せされる事となる。

その加工した商品が交易先の需要を満たすならば、他領から価値を得た事となる。


物が無限に無い以上、物の由来を問わずに価値を付加し続ける事が領地の繁栄となるだろう。

物の量では無く、付加した価値の総量こそが領地の生み出した富みである。



後でできるのに河原に主人公が一緒に行った理由は、精製した後出る物を捨てる為でしたが、大した量じゃ無いため捨てるのをやめました。倉庫に処理しきれない二酸化ケイ素(シリカ)が貯まりだすと倉庫での作業が主になります。



まんが肉は、食べにくいから止めた方が良いと言われたのを押し切って作ってもらいました。

結局一口だけで満足。兄も相伴(しょうばん)(あずか)ってます。考えると判りますが非常に食べにくい。

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