17話 幻想魔法化学
【 8歳 初春 】
春になり徐々に暖かくなってきた。
今日は少し実験したい事があって河原で石魔法の訓練だ。
普段はメイドさんの誰かなのだが、今日は女性兵士が三人付いてきてた。
春は何か生き物が出てくるかもしれないしね。
女性兵士の三人は養護院の出身で、既に結婚してるとの事。
大体の女性兵士は妊娠を契機に引退するのだとか。
これはメイドも同じなので入れ替わりが頻繁にある。その為領主邸は若い人が多く、何かあると昔働いてた人が復帰したりする。
借りられたのがなぜ女性兵士かと言うと面倒見が良いのとバッタ位なら倒せるから。それと、危険なのは外周だからだ。春はそこそこ仕事があるらしい。今はまだ早いが今後、森の浅い所の念入りな調査と巡回だな。
今日の護衛はタワーシールドとポールアックスを装備。
物語と違って剣はあまり人気無いんだよね……
そして服装は薄手の皮製の服。どちらかと言うと風よけが目的っぽい。
鎧が無いので、武器持った女子高生みたいな感じになってる。
今日の目的は鉱物精製。
去年の石臼の件で随分と土属性魔法の精度が上がったと思う。
そして石をぐねぐねしていて気付いたんだが、元素によって魔力の抵抗が違う。
なのでそれを頼りに元素の判別ができそうなのだ。
なんせ、ぐねぐねしながらガラスだけを石の端に集める事も出来たのだ。
重金属は俺の魔力量的に干渉は不可能。
つまり、軽元素を全部抜けるだけ抜けば金や鉄が手に入るかもしれんのだよ!!
土属性魔法くんの様子が…… 単元素特化型抽出魔法に!!
H He Li Be B C N O F Ne Na Mg Al Si P S Cl Ar K Ca……
「来たれガラス!!」
積み上げた河原石からSiだけを一気に引き抜く。
「え゛っ?」
「「「 ん?! 」」」
き、金属? やっば、単結晶シリコン! そうだけど、そうじゃないっっ
100%シリコン! 困るわ!! O2を忘れてたっっっ!!
出来上がったのは円筒型の銀色の塊……
重っ……
「何です!? それ? 鉄なのですか?」
「ガラスのはずなんだけど…… ちょっ 持って! 倒れる~」
「あっ はいっ」
再挑戦!
「今度は透明ですね…… 凄く透明です」
「ガラスなのですかね?」
「透明過ぎませんか?!」
「混じり物の無いガラスってだけだからあってるんじゃないかな?」
半導体産業の無い世界で純シリコンは使い道が無い。SiO2で分離する事にした。
残った方は汚い色の何か硬いもの……
鉄は取れないかな? どんどん抜いて固めていく。
こんだけやって大して含有量が無いとか、大半がSiなのか……
金は無いにしても鉄とかマンガンとかあるもんじゃないのか?
「大して成果無いけど休もう、限界! 魔力切れ……」
「凄い成果のような……」
「ガラスばっか。 ……ガラスの方を収穫成果にしようか、売れるか判らないけど」
火薬を作るわけでもあるまいし、ガラスだけ一杯あっても市場が飽和するだろ……
使い道もセットで宣伝しないと無理だと思う。
領内だと需要少なそうだけど、人口が多い所ならグラス用に売れたりするのかな?
割れても直せるから消費量が少ないってのもあるからな~
土で覆われてる平地には売れる可能性あるが、それなら山や砂浜を持つ領がやってそうな気がする……
自分で使うったって、ガラスのテーブルとか作って強度持つか?
強化ガラス、耐熱ガラスの作り方は知らんぞ?
それどころか平らにする方法も分からないな。
木陰では無く、河原の見晴らしの良い所に日傘で休む。その方が安全なのだそうだ。
護衛も交代で休む。
うーむ。
「これ、ホント奇麗ですね~」
護衛が俺の作業を覗き込みながら感想を言う。
魔力を込め擦り合わせながら平面を出し、造形をしていく。
アクセサリーとかにするなら道具から作らないと無理っぽいな。
魔法とは言え手作業は無理だ。平面の精度が上手く出てない。
六角柱っぽくした試作品を三人にプレゼントした。
「今日はありがと~」
ガラスの使い道を考えるか。
先ずは鏡の作成。
魔力を込めながら擦り合わせ、平らにしたガラスの片面に単結晶シリコンを蒸着
薄く、うすーく、粒のように…… 均一に……
「蒸ーっ着っ!」
使えなくは無い程度の鏡が出来た。鏡面仕上げが失敗してて歪みがあるな。
そう言えば、鏡を見た事無いが無かったのだろうか?
護衛に聞いたところ、銅鏡的な物は有るらしいがガラスとの2層構造は無いようだが。
なまじ魔法があったため、姿見の魔法や銅鏡の表面の再加工魔法が発達したようだ。
必要は発明の母。そう、どうやら光属性、姿見の魔法は最も改良された魔法の一つなのである。この魔法は任意に拡大すらも可能で、慣れれば自分の背中さえ映せるらしい……
便利過ぎだろ。
しかも女性は大体使えるらしい。
当然、この三人の女性も使えるとの事。
それじゃあ、鏡なんて作ろうとしないかぁ
中途半端な大きさで無く、手鏡と大鏡を作成するしかないかなぁ
でも、売れるのか?
休憩してるとバッタが現れたっ
まー、素早い対応! 盾で受け止め、他の人が斧の逆側に付いてる鶴嘴でバッタの首の後ろと地面を縫い付ける。手加減、躊躇、容赦なし!
「若様、トドメ刺してみませんか?」
「いらな~い」
そんなアミューズメント求めてないわっ
後は頭をかち割って、6本の足を撥ねて終わり…… 慣れたものである。
今回は細かく刻んで埋めてしまうらしい。
運が良いと血管の先に魔石があるらしいが、今回は無し。
ある程度ガラスの塊を作ったあと帰ることにした。
塊は後で届けてくれるそうだ。重いし護衛の人は両手塞がってるからね。
何か作って家族に贈り物がしたいな。
グラスやジョッキ、手鏡くらいかなぁ
喜んでくれると良いのだけど。
土属性魔法ってなんだろ?
土を生成してる感じではない。石を形作れるが鉄は作れない。
大して労力が掛けずにSiO2からO2を抜けるのは脅威だとは思うのだけど、それだけなんだよな。
分子結合を解いてるのか?
金も鉄もクロムも全く取り出せる気がしないって事は分離は出来ても創れるはわけでは無いと……
炭素からダイヤモンドでも作るかな~ でも成功したとして価値あるのか??
河原石からSiを集められるけど、木が切れず炭が手に入り難いこの世界ではCの方が貴重な気がするんだよね。
……知識があればポリマーも作れたりするのだろうか?
炭と硫黄からゴムを直接作れたらかなり凄いと思うんだけどなぁ
【 閑話 】 護衛の報告
「最初は鉄のような石を抽出し、2回目は完全に透明なガラスを抽出しておりました」
「魔法は想像力と言うが、勘違いにしろ結果が恐ろしいな…… 再現可能か?」
「領兵の土魔法士の四人は想像もつかないと…… どちらも再現できませんでした」
「現物が目の前にあっても無理か…… 確かに石には見えないが」
「銀色の方は若様も驚いていましたし初回だけでしたが、透明な方はその後も作られております」
「魔法士に進むかどうかは判らないが、父には報告しておくか……」
硝子はSiO2で、半導体で使うウェハーなどは単結晶Siです。




