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16話  経済活動   / 学問で進め 3

 【 7歳 冬 】



 小麦粉生産の一部を養護院で行う事となった。


理由は簡単で小麦を挽くのは面倒だって事と、普段小麦を挽いてる領主邸より養護院の方が領民の各建物から近いからだ。養護院は子爵領の真ん中にあるからな。


冬は虫が居ないので各建屋の倉庫が十分使えるが、除湿が出来ないので当然小麦は未製粉の状態で保管する。そうすると丸麦で使用するか、手間を掛けて自分達で粉にするしかない。かと言って、大きな生産施設を持つ領主邸まで頻繁には歩きたくないのだ。



養護院の現在の主力商品は微妙に短い手打ちうどん。

経験を失ってるから初めて食べるわけなんだが、三角のうどんは何とも言えない気分になるわ。


流行りがいつまで続くかが分からない。

加工賃分値段が高いのをどこまで許容できるのか、この領地、領民の感覚が読めない。



それとは別に貨幣が流通していない弊害で、養護院で会計ができない事が問題となった。普段は領主邸で済ませるため、数字だけでしかやり取りをしないからな。


石の貨幣を利用するにしろ、お釣りで困る。

それに一食を塩を基準とした量に調整するかって話になってくる。領主邸の経理だと端数も計算をしてるから通貨として使えるがここじゃ使い勝手が悪いんだ。


仕方ないので預り金(デポジット)方式で対応する事にした。


切りの良い金額を預か金の証文として経理宛てで作り、引き換えで石で作った細工を何個か渡す。でもって、細工一片でうどん四玉と交換だ。一個で一玉だと細工を作るのも持って帰るのも大変だからな。


細工はテトリス風のブロック。入れ物とパーツに数字が入っているので無暗に偽造で増やしても余るだけだ。一箱に六片のブロックが入っている。割符と呼んで良いかは分らんけど使い道は割符だな。


それに証文があれば養護院は小麦と塩を仕入れる事もできる。もし冬が終わって使わず余ったのなら経理で会計してくれるように手配した。




 想像以上の売れ行きらしい。まさか好意的受け入れて貰えると思って無かったので増産は驚いた。冬だと言うのに近隣の領地に小麦の追加発注まで掛ける事になったんだとか。そうなると臼の大型化は必須だよな。と、言うわけで改造じゃ~


……


いたずら心で作った奴隷風の複数でグルグル回す石臼が、大きくて便利だと高評価で心が痛い。


一応ベアリングのように間に玉を入れて転がるような仕組みにはたしたんだぞ。でもまさか小さい子に活用されるとは……


内側に二倍で回転するギアを組み込む改良をする事で贖罪とした。当然、その下の篩も大回転よ!



表情はニコニコなんだが、それでも絵面(えづら)は壁画の奴隷な状態だ。

その様子を絵で残そうと軽くスケッチしたところ、もっと可愛く書けとご立腹な幼女。


「若様! これ全員、怖いよ。もっと笑ってる方が良いー」


エジプト画風はお好みで無い様子。砂に書くのは限度があるんだよ……



小型の石臼で何回も腕だけ挽くのよりは全然楽らしい。

俺もやったが、体重を掛けられる構造じゃないと子供にはきつい。

想定してた年齢より下の子がやりたがるんだわ。


まぁ苦労したね。なんせ材質が石だぞ。

極力薄くし、強度が不要な場所は兎に角、肉抜きして軽量化したわ。

      ※ 肉抜き 無くても問題無い部分を空洞にする事で軽量化する。

歯車は鉄にしたかったが入手し易さの関係で石製。

そして接触抵抗を減らす為に軸の先を尖らせた。


作ってて実感したんだが、これ篩の方が大事じゃないか?

麦も米のような精米と同じ事しないとダメなのかな?

どんどん改良じゃーっ


それとベアリングの玉って結構難しいのな……

大きさが違うとすぐ消耗するので判る、修理する俺の方が奴隷な感じ~




 米と小麦って思ったより別物だな……

籾摺り、精米とか分離の度合が違う。こっち系の知識無いわ~

篩の種類を結構分けて、皮の分離度合を調整するぐらいしかできなかった。


散々苦労して形に成りかけた頃、追加の小麦が届いた。普段の物より若干高いらしい。領の資産の流出にならないか心配だな~



新しい小麦を使うと何か様子が違う。


そして気付いた! 今までの小麦は硬質小麦じゃねーかっ!

パスタ用のあれだよな。色が白いから思い出せなかったわ。


とりあえず石臼の各工程で出る粉を分けて何に使えるか確認していく。

正確な分類や使い道はいずれ誰かがたどり着くだろうし、今は麺とパンが改善できたら良い。それ以上は冷蔵庫ができてからやってくれって思うわ。




 麺は商人も普通に買ってくれていた……

紙より良いらしい、反応が露骨に違う。麺棒で延ばして切っただけなので只のうどんなんだがな。どこかでパスタ風な製麺機でも作るかね~


ハーブやスパイスのみじん切りの練りこみなど品目(レパートリー)も増やし、うどんもどきは結構売れたらしい。


生か茹でて領民に売る。売れ残っても養護院や兵舎で消費してしまうので毎日結構な量を作った。冬の間中、女の子は小麦粉を、俺は石を、ずーっとこねこねしてたわ……



商人が買ってどこかに売ってるのかと思ったが移動中の自分用らしい。

乾麺じゃないので日持ちしないしな。まぁ、夏じゃなきゃ良いんじゃないかねぇ



これらの関係でお供についていてくれたメイドと今年卒院する子のうち二人が仲良くなり、何故か領主館で働く事になった。



そして、何故かパンが少し柔らかくなった……


自業自得、因果応報、ウェルカムだ~ 情けは人の為ならずだぜ!!




 【 閑話 】   兄の葛藤



「弟の方が領主に向いてませんか?」


「やってる事は至って商人なのだがなぁ」

「ですが、その方が領民が幸せになるんじゃないかと……」

「お前は充分優秀で、将としても兵としてもはあれよりも優れてるよ。学校を出るまでは慌てなくていい、やりたい事をやると良い。王都勤めを選択する未来もあるしな」


「……」



「逃げ出したい時に代わってくれる人が居るって事は貴重なんだよ。今は自分を鍛える事を考えなさい」

「……はい」


「いいか、譲る事があっても、諦めて奪われるようではいけないぞ。鍛錬も勉強も納得行くまでやるんだ。 ……それと、いつでも頼れ、もっとな」

「はい!」




__________


 【 学問で進め 3 】



人の学習には二種類ある。

学ぶ者自身が選び学習するものと、他者が必要な事柄を教え学ばせる事だ。


この二つでは学ぶ者の意欲が大きく異なる。


それが例え、親が子に生き残る為に必要な重要な技だと伝えようと、子が生き残れない事を想像できなければ危機感を覚える事など無いのだ。


故に最も先に、最も丁寧に教える必要があるのは必要性であり、いつ、どうして必要になるかである。


必要性を理解してくれたならば、後はやって見せ、言って聞かせて、させてみる。


その上で成果を認め、褒めて、共感してあげなければ人とは先に進めないものなのである。



臼が小さい内は売り切れ続出です。

主人公が小さな石臼を作り続けて、嫌になったので大型化に進んだのです。



情けは人の為ならず…… 「情けは人の為」ならず、です。人の為に情けを掛けている訳では無いって事ですね。廻りまわって帰って来るって考えもありますが、私は帰って来る事を期待しない情けが自分の余裕と人格を作ると考えています。

「情けは」人の為ならず、と間違って覚え、情けを掛けはいけないと考えるのは誤用です。

情けは人の為(あら)ずなら間違わないのに……



「してみせて 言ってきかせて させてみる」

上杉鷹山の言葉です。

これに褒めるを付けたものが山本五十六の言葉で、

「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」です。

この言葉には続きがありますので、気になる方は調べてみてください。



今回は話は区切りの関係で少し短くなりました。

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