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14話  養護院   / 国と富 1

 【 7歳 夏 】



 紙の第三次試作計画~

何度も失敗を繰り返したが、やっとまともな紙の製造に成功した。

商人から仕入れた藁を使ったもので、汚い色になったけど何とか使用に耐えれる紙ができた……


藁半紙ってもっと違う色だったような気がするので工程がどこか足りないのかも。



商会へ提案。メモ帳は必要でしょ?


商人では木簡を使っているそうだ。

はたして木簡の単価に勝てるのだろうか?



結果、すっごい勘違いをしている事を教えてもらった。

なんと、紙を買う人が居ない……


まず一般人は識字率が低い、それは判ってたが商人も使わないものなのか?


問題なのは紙は本にしか使わないって事だった。利点(メリット)が厚さが均一で薄いって事だけなのだ。


戦闘や魔法の知恵などの子孫への書き残しすら羊皮紙だったからな。

余程ページ数が多いとかでなければ、多少の厚さは気にも留めないらしい。

と言うより、筆まめな人が居ないのでページ数が増えない。


そしてインクは魔法薬なんだそうな……

滲むとかないし、色も結構あるらしい。しかも消せるんだとか。

なので書き直しで紙が消費されることも少なく、必要とする人、職種が少ないそうだ。



そして手紙なんかは濡れても破れない羊皮紙を使う。

ただしだ、羊皮紙と言ったが羊の皮だけじゃない。


この世界って色々大きな連中が多いのだ。つまり皮として使えるのが多いのさ。

1m超えの蝙蝠とか鼠なんかが普通に居る。



さらに商人が使うって言う木簡も木を薄く切ったものでは無く、藁の様なパイプ状の草を収穫し、柔らかい内に広げて平らにし乾燥させて作るらしい。

つまり、藁簡(わらかん)だ!!       ※ 現実には当然存在しません


広げた状態で幅が5cmはあるので結構太い草のようで、割れるが安い消耗品と考えているそうだ。


つまり、余程安いか凄く綺麗で薄くないと売り物として競えないのだ。


一先ず売れない事は判ったが継続する事にした。

材質の変更や漂白の技術が出来れば何とかなるかもしれないしな。


いや、もうニラやネギの白い部分で紙を作ってやろうか。

非常食にもなるだろう。



勘違い? 見当違い? 方向性は合ってるんだよ!

1mの羊皮紙の存在を忘れてただけで!


でかい蝙蝠の被膜を表裏2枚に剥いで使うとかさ、想像しないだろ? 普通。



取り合えず、領内分だけでも作ろう。

最悪は自分用だけでも構わない。羊皮紙のメモ帳なんて嵩張って保管に困るからな。

そもそもこの領で一番消費するのは俺だろうし。


とは言え、なんとか外貨を得たいんだけどなぁ




 なんと言うか、仲間が欲しいっ

楽がしたいわけじゃないが一緒に悩んでくれる人が欲しい。


兄はどんどんスポ(コン)化してくし、妹達は小さくて論外。最近は養女扱いの()が一人増え、三人で中々に(かしま)しい。折角、田舎貴族の子供なんだし領民の子供とか居ないのかよ。


メイドさんと話しをしてたら、養護院なるものを父が運営してるそうだ。



養護院を見に行く事に!

領主邸から結構近かった。まぁ、今の俺の足だと中々の距離ではあるがそれでも見える距離だった。

堀を渡って南西にちょっと行ったくらいって感じだな。


位置はほぼ領地の真ん中だ。

なんせ領で一番弱い子が集まってるし、領主の保護対象だから危険な周りの山からは最も遠くに配置するわけだ。


今回一緒に来てくれるメイドさんもここの出身らしい。

兵士の半分とその嫁の大半がここの出身なので、差し入れとかで結構行く事もあるんだとか。



養護院の住人のほとんどは女の子っ、そして管理者も女性!


成人後はほとんどの男と一部の女が兵士に。そして大半の女性はお見合いなんだそうな……



「何か困ってる事ある?」

何かをしているちっこい住人に声を掛ける。


「わかんない……」 かわヨ…… お手伝い中のようだ。邪魔するわけにはいくまい。



全体で50人くらい居るかな? いや、居すぎじゃないか?


一つは男の子が望まれてる為に女の子が続くと養護院に行く事になるってのと、養護院の方が確実に結婚までできるかららしい。まぁ、男の子が少ないのは卒院後の就職先が領兵って事で思い留まる事があるのかもな。死亡率上位の職だからなぁ


男の子は4人しか居ない。

この状況、男の子の方が不憫な気がして来るわ。




 養護院の成り立ち

入る子供は事故で親を失った場合や貧困で育てられなくなった場合などで、入れる対象は領民の子供のみ。他領から入ってきたりはできないそうだ。


この世界の領主の管理制度では果物以外の作物を備蓄、管理し領民に分配している。領内の世帯主に対し四人家族分の食料、もしくは資金として配布される。もちろん、子爵家の仕事をしてる者が対象なので行商人など自営業は対象外だけどな。これにより若い夫婦は余剰分を貯蓄し、生活に余裕ができれば子供を増やして行くのだ。


子供が増えれば自動的に支給量が増えるわけでは無いのさ。

そうじゃないと無計画に増やしてしまいかねないからな。推奨が二人となっているんだ。


なので、もし三人以上の子供を望むならばそれぞれの役割で結果を出し、評価を上げて養っていかなければならないのである。農業担当であれば熟練者は担当する畑の面積が増えるし、製造担当は生産量を上げれば評価される。


養護院に子供入れるのは予定外の出産だったり、働き手が働けなくなった場合なのだ。赤子の場合が多く、親は親権を失い親族も名乗り出る事はできないのだとか。名乗り出る位なら養えって事になる。


そして養護院に入った子は15歳までの教育が行われ、16歳で出るときに極力就職支援を行うらしい。文字や裁縫等も習うので一般の領民よりも知識と技術があると言える。


とは言え、流通がしっかりしてないこの世界では安い労働力とかは求められていないんだよ。なので多くの女の子は結婚を選択するらしい。



元の世界の古代ではどんな政策だったか判らないが、全員を幸せにってのは無理なのだろうな。まずは食の充実に力を注ぎ、次は衣の充実なのだ。住は最低限で保障等はない。


食料の生産量が国力の世界だ、戦国時代かその前あたりの時代だな。




 労働力の話が出たのでついでにこっちの奴隷の歴史。

かなり昔にあったそうだが今は無く、人身売買も禁止されている。

これは国を守る為であり人権等の話では無い。


この辺は兄の授業で一緒に教わった。

この国的に結構重要な歴史らしい。


奴隷が必要な状況とは単純な仕事が多くあるって事で、職人などの伝授される技術がある文明レベルには向かない。仮に戦争が起きたとしても戦争奴隷は取らず、賠償金等を取るらしい。できる仕事を作って渡すって事は養うって事とほとんど変わらない。自分の会社に就職させるようなものだからな。だから同国内の移住すら好き勝手にはできないそうだ。



奴隷制度があると自国の中間から下側の人たちの職を奪う上、他民族の割合が上がる。仕事の選択の自由も、自由になる金も時間も無いだろうが衣食住が保障されるそれは養育と変わらない。


奴隷は貧困層と同階級なので、増えるとどちらが支配されてるのか判らなくなるのだ。生きていけるよう教育して出来る仕事を作ってまで渡すなら、仲間の子供たちの方が良いって話だな。


裕福になるよう国王や領主が努力すると、努力できていない国の人間が自分を売り払い養われようと流入する。売れなければ更に値段を下げてやってくるのだ。まるで就職活動だろ?


そして、その人達を多用すると自国民の就職が困難になる。なんせ頭を使うのは雇い主であって、労働力が他国の人間では残った自国民は自分で起業するしか無くなる。



この国に奴隷制度が無い以上、知識、技術、資産が無い者は衣食住を得るために労働力を買ってくれる相手が必要なのだ。


見つからないとなれば安全そうな都市の周辺で物乞いか廃材を使ってスラムの形成しかない訳なんだが、王都もそんな存在を許さない。治安と衛生が悪くなるからな。


だから働き口が無く起業する知恵も無い者が増えると、開拓村と名付けられた土地へ隔離される事になる。こちらの世界はまだ未開拓な土地があるからな。開拓できないのでは無く必要性が無いし、割に合わないからだけどさ。もちろん領主は付けられるが、その人だって継ぐ領地の無い貴族の次男以降だったりする。


……俺はもし推薦されたとしても全力で拒否するだろうな。



こうなると貧困層は自分たちで切り開く以外に生きる方法は無い。今まで領地内なら防衛して貰えたのに、新規で開拓するとなれば全てを自分でしなければならないのが当然。夜の安眠すら取れなくなるのさ。


逆転の目を狙い行商人になったものの、自分を守れずに人知れず…… なんてのがこの世界の標準らしい。



俺も家を継がない以上は平民扱いになる。

生きるには力と知恵が必要で残された時間も少ない、急がなければならないんだよ。




__________


 【 国と富 1】



繁栄を望むならば物の価値を正しく理解する必要がある。


価値とは物と人の労働の合計である。


畑で「作物」を収穫したならば、それは「収穫された作物」と価値が変化した事となる。更にそれを運んだならば「収穫され運ばれてきた作物」となるのだ。

これは収穫した者と、運んだ者の労働価値が付加された結果である。


労働価値が付加された物が「商品」であるが、商品は物だけとは限らない。兵士が領地を守れば「兵士に守られた領民が収穫した作物」と価値が付加されているからである。


価値を付加した者達は報酬を得、その報酬で生活をする。そして報酬を得た者は何かを買う事で「領民が作り出した作物に対価を支払った者」となる。


領内のその循環を止めない事、領民をその循環から外さない事が領の繁栄を生む事になるのだ。



ネギの紙は提案した段階で母のお叱りが入り中止となりました。


妹は現在6歳、養女6歳、次女4歳、姦しいと言うか、きゃっきゃしてます。



書く予定に無かった作中作が増えた~

当然の事を賢そうに書くのは気恥ずかしいですな。

封建社会の住人を相手に書いてるので見逃してください。


この世界「見えざる手」が虫や獣の手によって払いのけられる事が多々発生します。

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