11話 幻想世界の体術
【 6歳 秋 】
しばらくは大人しくする事に!
体力づくりと魔法の基礎に重点を置く。そう力説したらそれが普通だと! 順番が逆だと呆れられた。
そうなんだよな~
兄はずっと体力づくりをしてたんだから。
他の知識は学校行ってからで良いって言われた。だがな~、まず知識が無いと進む方向が判らない……
兄は領主を目指すから迷わないのだろうけど、俺は可能性を広げないと潰しが利かない。
とは言え、ようやく魔法の基礎を教えてくれるのだ学ばねば!
……すっごい、つまらーん。まず魔力量を増やす訓練らしい。
しかも、これすらまだ早いらしい。
肺活量のトレーニングにしても中途半端、効果あるのか??
ヒッヒッフーーじゃねーだろよ!!
俺の所為だが兄は半年早く、俺は2年半早く学ぶんだから魔力総量も体力も足りてないんだと。
そこはご都合主義を持って来ーいっ!
◆
こちらの世界の体力作りが微妙に和風だった。
なんと走り込みと受け身、手捌きに匍匐前進だ。
ねー、ねー、ファンタジーじゃなかったの~?
まるで柔道か空手を習ってるようだ。
手捌きなんて大型の敵に通用するとも思えないって思ったが、手数の多い相手から身を守るのに必須なのだとか。手より目と感覚を鍛えるんだそうな。
そだ、手数の意味は回数じゃなく本数の話だからな?
受け身はもっと切実で、相手が大型なので吹き飛ばされる事が多々ある。
その為、安全な着地とその後に即座に体勢を整えないと危険なのさ。
当然だが、訓練も素手の受け身をある程度覚えたら、棒を持った状態での受け身の練習をする事になる。
両手で鍬を持ったまま受け身の練習とかさ…… 必要性がある事自体に戦慄する。
防具が無い理由も、変な液やら糸の対策もあるが高速で振り落とされた際の受け身の為である。
金属鎧を着てて拉げたら困るだろ?
最終的には水平でも平面でも無い面へ武器を持ったままの受け身と、受け身中の方向転換まで覚えるらしい。
立ち木の側面に手を使わず受け身とか!
ファンタジー柔道、過酷すぎっ。
しかも対人ではないので打ち技も投げ技も無く護身術には成り得ない……
このまま鍛錬したら山伏か修験者を経て天狗か仙人にでもなりそうだ。
匍匐前進はもっと酷いぞ。
聞きたい?
ほら、良く戦闘中に足が折れちゃったり千切れちゃったりするじゃん?
すぐに離れないと色々な何かが発生してしまうのよ。
大型の敵が倒れてくるとか、味方の攻撃に巻き込まれるとかな。
つまり、それを使うのは匍匐撤退って感じでかなり必修な生存術なんだ。
当然使う状況に追い込まれたくは無いが、絶対手を抜かないぞ!!
……ほんっっと、ワールド選択画面からやり直させて欲しい!
【 閑話 】 兵士の期待
「下の若様って随分と訓練に熱心だよなぁ」
「衝撃緩和ってそんなに面白い訓練でも無いのに凄いよね」
「俺らがあの歳くらいの頃は走るくらいだった気がするんだが?」
「若様、虫がお嫌いだからねぇ」
「このまま受け身と近接防御を鍛え続けたら、かなりの腕になるんじゃないか」
「速度重視は奥様側の血筋よね~」
「上の若様は槍を鍛えてるから中衛で丁度良いし、このまま続いて前衛役として育って欲しいものだな」
「……可能性、薄いんじゃないかしら」
【 冬 】
やはり、知識は必要よ。旨いものが食べたいっ
訓練は続行だがな。
そう、麺類が欲しい
俺が考えたとばれないようにしつつ誘導できないだろうか……
小麦粉を練って千切ったものを茹でる料理ならあるんだよ。むちっとしたニョッキもどきがさ。
麺棒でも作って砂遊び位から偶然を装ってやってみるか?
道具作りからか~
進もうとすると前に戻らされる。
領内には鍛冶屋は居ないが研ぎ屋はあるらしい。行ってもな~
よし、石工、大工に見学しに行こう!
うぁ~、この世界魔法有るんだったワー
石工が俺の予想していたものと全然違った。素手で加工するんだな……
そりゃ鍛冶師要らんわ。ノミすら使ってない。
何? こいつらペタペタ触りながら結晶方位いじっちゃうの??
石を撫でまわすだけで何故か綺麗に剥がれて壷ができる不思議。
そして、鍛冶が無いから炭が要らなくて、陶芸も無いと……
そりゃ食器も壺も手びねりっぽくなるわ!!
仕事の邪魔をして申し訳無いが、石製の麺棒を作って貰った。
重いわぁ 木ってやっぱ重要だよね……
材料費が安い位しか石に利点が無い気がする。
道具屋を目指すのも良いか?
もっと書物を読もう。魔法じゃ、魔法っ!!
◆
魔法の訓練をするが全く発動しないし切っ掛けも見つからず。兄も同様だ……
大人達が慌ててないので普通なんだろうが、もっとコツとか無い物なのかね~
兄は慌てたりしてないんだろうか?
「兄さまは早く魔法が使えるようになりたいとか思わないのですか?」
「領兵に聞いたんだけど、12、3歳位から魔力がどんどん伸びるからそれまでは慌てなく良いんだって」
「そうなんだ…… 僕は戦闘が嫌いだし早く役立つ何かが欲しいです」
「僕は最近武器を使うのがちょっと上手くなって来たからね、今が一番楽しいのかも」
「良いな~ 何か新しい事ないのかな~」
早めに訓練してる成果が出ているらしい。
お兄ぃ、良い子だわ~
この世界の武具事情。
世界が変われば対象も変わる武具だが、授業にも出てこなかった特殊な装備があった。
元の世界にあったか判らないが記憶に無いので名称不明の一品だ。
鶴嘴の発展型なのだろうが先端が外れて獲物側に残る様な仕組みになっている武具。
その先端は円筒型でギザギザになっており、獲物に残り失血死を狙う装備だ。
大物には相当な数を打ち込むんだとか。
当然、虫には効かないので獣用の装備である。
次は、武具に分類して良いかは不明だが戦闘でしか使用しない物体。
折り畳み式のジャッキである。
円錐型の何かの底を蝶番で繋いだ物で付属の紐を引く事でつっかえ棒となる仕組みだ。
伸ばした状態で80cm程度しかなく、結構軽いのだが強度はなかなからしい。
噛まれそうになった際に口に差し込む為の物らしい。
間に合うのか?!
一応、実績はあるらしい。
怖くて確率、聞けねーよっ
ちなみにもっと長く、高速で伸びるタイプのジャッキ? もあるようだ。
こちらは棒型。1m以上あり、やはり口の中で展開し齧られないようにする為らしい。
一本では舌で曲げられたりと耐久に難がある為、使う時は5本以上同時が原則なんだとか。
……最低1mの棒が入るような口に手を入れるって発想が判らない。
結構強めのバネ式で、伸びれば口は閉じれなくなるそうだ。
盾も発展具合が異なる。
対人戦は無くも無い程度のこの世界、武器を受けるようには考えられていない。
なんせ得物が鶴嘴とかだしな。盾で受けたく無いんだ。
両手持ちの盾があり、盾役は別途訓練する程なのでそんな物かと思っていた。
最近、訓練に参加していて初めて見たのが、正にこの世界のみな盾だった。
視線を隠す為の盾
ありそうだろ? だが少し違う。
この盾は縦に細い隙間が多くありこちらからも敵が見えるようになっている。
意味あるの? って聞いたら対蛇用だった。
赤外線の漏れを抑え、中途半端に見せているのが特徴だ。
他にも鉈と針を並べた対蝙蝠用の盾? とかが存在するらしい……
蝙蝠からすると距離感が全く判らなくなるようだ。
まぁ、普通に針付き盾は怖いわ。
可視光とか可聴音とか理解してそうも無いのにあるんだよね。
不思議世界め~
最後の盾は実際効果あるかは判りません。
ただの異世界フレーバーを付けたくて適当に考えました。




