10話 魔石 / 学問で進め 2
【 6歳 晩夏 】
借りてきた本の中から魔法関連を読む。
内容は同じ感じでやはりみんな苦労して習得しているし、何より言語化が難しくて指導が困難なようだ。そして本は手書きで誰かが書いたよく判らない物だ。体系化され国が発表した物では無いのだ。
物語にあるような学べばいける感じでは無いらしい。
ちなみに、この手の本は非常に薄く羊皮紙でページも少ない。作者が残さなければと言う思いから作った物で少ないと4,5ページの物すらある。その為その本を読んだ作者の縁者がページを増やしていくわけだ。まぁ、今回は問題は解決しなかったし追記する気もないのだけどね。
……非常に困った。
やはり見えないのが大きい。計測できるならコツだって掴めるだろうに。
可視化したいが電気回路計の様な物は無く、物語のような便利な水晶なんて物もない。
……
いや、あるかも。
魔物の魔石が使えないだろうか?
もちろん既に誰かがやってて駄目だった可能性はある。だが教え方が判らないって事は生徒と教師の相性や力量もあるだろうが、使えない原因が複数あるんじゃないだろうか?
なんせ教師側は苦労したうえで使えるようになったのだからな。
同じ悩みだったのなら説明できるだろうしさ。
使えない理由が複数あるなら同じ原因で使えなかった人の本を探すしかない。
と言うわけで、本に載ってない方法も片っ端から試していこう!
まずは魔石を実際触ってみよう。
何等かの切っ掛けが得られるかもしれないしな。
メイドさんに頼んでみたところ私物から分けてくれた。
少し曲がった白くて長丸い何か……
「これが魔石?」
「はい、そうですよ」
「もっと丸いのかと思ってた」
虫の卵っぽい? ちょっとキモイ……
「獣から取れるのはもっと丸いのですけど、それは虫から取れたものだからですね」
「そうなんだ……」
「獣は肝臓の中にできるので丸くなるんですけど、虫は変な所にできてる事が多いので形も変になるんです。 ……多分ですけどね」
「へ~ これ貰っても良いの?」
「良いですよ。別に集めてるわけじゃないですから」
「何かに使えたりはしないの?」
「大きいのは使えるようですけど、虫から取れるのは小さいですし焼いちゃってますね」
思ってた物と全然違うのだが…… 魔法の世界なんだよな?
「ありがとう、じゃ遠慮なく貰うね」
「はい、では何かあれば声を掛けてくださいね」
メイドさんが仕事へと戻って行く。
さてと、検証だ。
魔石はプラスチックっぽい感じ。
カルシウム? エナメル質って言うかなんて言うか…… 出来の悪い真珠って感じ? ホント体内で生成される結石みたいな物なのね……
夢がねーなぁ~
これから魔力を引き出せるとかじゃないのか?
物語だとこう、何と言うか…… 何かあるんじゃないのか?
気を取り直してマナを引き出してみる。
「お?!」
これはイケるか!
何かが移動したのが判る。これか~
気合とかじゃなく、まともに認識できたわ~
マナ操作だぜ~~
と言うか、全然出てこない。
何だろ。引っ張れるけど、こびり付いて離れない感じ?
……なんだこれ?
引き出すのを止めるとマナが戻って行ってしまった。
な、ん、だと?! 使っえねーーーっ
そう言う物なのかっ!!
圧力があって引き出しても元に戻ろうとするのかよ。
疲れた分、損だわっっ
使えないな。ペットボトルに口を付けて空気を吸い出すようなものだ。
「いや、マナの操作の練習には使えるか……」
俺のワクワクを返せ~
【 秋 】
顎は丈夫になって来たがあの硬いパンは何とかしたい。
名前が出ない方向で努力せねば。残りの一生で必ず対応するなら今からやるさ。
パンの発酵ってエジプトかローマ時代辺りじゃないのか? そんなに難しいのかな?
まずパンで重要なのは小麦粉だ!
そもそもこの世界の小麦っぽいこれは小麦なのか?
実は見た目が似てるだけで蕎麦の特性だった、なんて事があれば話が変わる。まずは常識を疑おう。粟や稗の実なんて知識には無いし粉も知らないからな。
さて……
あ~、石臼の改良からしなきゃダメっぽい? これ、粉じゃなく粒じゃね?
粗挽きの小麦粉なんて前世の知識に無いわ。
後は篩もだな……
粗挽きの全粒粉、イースト菌無し……
無茶だろ。俺、パンの知識無いぞ?
まずは工程を見せて貰おう!
……膨らむ気配無いよ? ビスケット?
……建材じゃないよな? 俺は何を見てるんだ?
時間を置くと若干膨らんで来た気がしなくも無いがイースト菌のそれじゃない。
これを茹でてから窯で焼くようだ……
んー、この行程って焼きうどんな気がする……
※主人公はベーグルの工程を知らない
いや、パスタか?!
でっかいマカロニを茹でた後オーブンで焼いた感じなのか?
干しブドウでも入れるか?
違うな…… ここで酵母の方向に持ってくのは簡単だが、俺の年齢ではそれを信用してくれない。何より俺も菌を信用できん! 凄い細菌とか居たら困る。
と、言う訳で形状を変更だ!
パン? を作るのを手伝うぜ~っ
1種類目はひたすら折り畳んで窯で焼く。
空気を入れるように雑に行なってみた。
2番目は細くした物を棒に巻きつけて茹でてから焼く。
これも空気を入れる為である。
最後はクレープ風に水多めで溶いてフライパンで薄く焼く。
見た目はインドのチャパティとかロティみたいのだ。
どうだ!
全部成功はしたが、皆さんの反応が微妙……
「ちょっと、いらっしゃい」
結局、厨房から母様にやんわりと苦情が入り、母様から俺に全身が砕けそうな苦情が来た。
「母様…… ちぎれそぅ……」
作れない訳ではないが保存に適さないパンは採用しにくいとの事。
実際、屋敷中の食事を作るのにフライパンでやってては間に合わない。調理時間以外に大量に作れないと業務が滞る。大きな鉄板でもあれば良いが熱源が無いって話だからな、ガスも電気も無いし。パンに求められる物が違うから発達しないのだ……
水分の多いパンなんて保存に適さないもの。
大きな窯で焼くんじゃなければその日の分だけ焼けば、って思うんだが何かあるのかね? 大きな違いはもう一つ、硬度だ。丸いパンじゃないし、硬いからこそトーストみたいに薄くスライスして食卓に並ぶので大人ならばたぶん問題無い。少しずつ切って食べるとか、扱いが塩漬け肉だもんな~
そのまま齧る自分こそが異端なのだ。
やはりスープに浸す程度の工夫が正解なのか?
よしっ、パンって呼ばない事にしよう!
焼いてない餅と思えば納得の硬さだしな。
とりあえずパンは中断だな。もっと大人になってから考えよう、食中毒が怖すぎる。と言うか試食だけで乳歯に危機を感じる。虫歯どころじゃなく一撃で全てを失いそうだ……
薄いのでお願いしまーす。
……そうだな、薄く切る道具を作った方がましかもしれん。
これ用の鉋でも考えるか~
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【 学問で進め 2 】
学問とは知識を得るだけではなく利用する事そのものにある。
経験に基づき知識を蓄積した大人は子供へ知恵として適切に渡す必要がある。
肉体を効率良く成長させる為の栄養学や友人を得る為の話術など、必要な時期がそれぞれ異なるからだ。
しかし、子供は子供だからこそ未体験であり必要な学問に気付けはしない。
そしてそれは親も同様であり、成人するまで子を育てた事がなければ子供の養育術を持たないのだ。
そのような学問があることを人生の先を進む大人や国が提案、提供する必要がある。
時間は巻き戻らない。
経験の少ない親や子に後悔をさせない為に知識を残す事が牙や爪を持たない人の進化であり、その積み重ねが家族、そして国家の繁栄となるのである。
もちろんこれは遊ぶ事を否定する物では無い。
その時は全力で遊ぶと良いだろう。それも経験である。
ファンタジーを検証していくとロマンが消えて逝く。
そんな便利な物が手軽に手に入ったら世界はもっと発展しています。
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