プロローグ あと一歩
読むのは1話前でも1話後でも構いません。
主人公のハルタが「本崎はるた」として召喚された当日とケイジュと門番の担当を組むまでを描写してます。本作の基本設定がだいぶ含まれているため読むことをおすすめします。
あと一歩だった。
あと一歩で僕は。
終われるはずだった。
この街中にある堤防。学校へのいつもの道の一つ。同じように学校へ向かう学生。仕事場に向かう社会人。ジョギングする誰か。犬の散歩をする誰か。でもその時は誰もいなかった。たまたまだろう。
都合が良かった。
試してみたかった。この堤防の上にある道を前ではなく横に踏み出すことを。
こんな虚無でしかない日々から終われるんじゃないかと。
いつもは怖いし、周りが気になって試せなかった。でも今は誰もいない。そしてなぜか怖くない。
いや、感情が鈍ってるだけか。きっと。
そして横に踏み出すために左足を上げる。そして斜め前に向けて体重を左足に、
その時だった。コンクリートから魔法陣みたいなのが出現した。
「うわ」
拍子抜けて尻餅をつく。
「なにこれ」
魔法陣みたいなのが光っている。
(アニメみたい……)
ぼっと眺めているとコンクリートが土に変わった。
「え」
驚いて地面から目線を上げて周りを見る。
「やば!出てきたんだけど!」
(……え)
周りには海外の人みたいな服装をした人たちがいた。
「どーすんだよ」
「やべーとりあえず逃げようぜ」
「は?なんでだよ。せっかくおもしれーのに」
「バレたら捕まるぞ俺ら」
「そうだった、逃げるか」
「まじウケる」
どういう状況なんだ。よく分からないまま、周りにいた人たちは次々に走って去って行く。
「え、待って……」
そう声に出した時はもう遅く誰もいなかった。
(え、走るの早くない?)
ただ呆然と魔法陣らしきものの上に座る。
「どうしよ……」
周りを見渡しても木ばかりである。
(ここどこだよ……?)
頭が痛い。あとなんか眠気が……
気を失った。
「……?」
目を覚ますと木造の天井があった。
(寝てたってこと?)
周りを見渡す。僕は洋風な花柄のベットに横たわっている。そして周りも木造である。
(海外の病院?)
寝起きの頭で分かることが少ない。
「起きられましたか?入室してもいいですか」
ベッドの近くにある扉から声がする。
(看護師さん?)
「あ、はい」
とりあえず返事をする。
「失礼します。この病院の看護師です」
「こんにちは……」
「はい、こんにちは」
初対面は苦手だ。
「色々と困惑していると思います。受け止められないと思いますが簡潔にご説明させてください」
「分かりました……」
不安だ。攫われて海外に来てるとかだろうか。
「まずここは海外ではございません」
(?)
よく分からない。脳が理解できない。
「ここは貴方から見て異世界でございます。そして貴方はここ、ロンアルクに住む私たちから見て異世界人でございます」
どういうことだ?
「魔術で召喚される際の副作用の様子見として、月末までこの『ロンアルク設立大病院』に入院していただきます」
情報量に寝起きの脳みそが追いつけない。
「残り約10日間は入院していただきます。様子見の入院ですので入院期間内にしていただくことが少しだけございます」
看護師さんが部屋にある二箱のうち一箱を指差す。
「『支給品』と記載されている箱はロンアルク政府からの支給品です。必須事項の書類や生活必需品がございますので明日までにご確認をお願いします。そして、」
もう片方の箱を指差す。
「『私物』と記載されているこちらはあなたが召喚された際に、一緒に召喚された私物です」
指差しをやめ、手を定位置に戻す。
「現在時刻は7時。一時間後に朝食をお持ちします。それでは失礼します」
看護師さんはさっとお辞儀をして部屋を退室した。
「はぁ」
なんかやばい組織に攫われたのだろうか僕は。
「よく分かんないし寝るか」
もう一度横になって目を閉じた。
「朝食をお持ちしました、入室してもいいでしょうか」
結局寝れずにただボケーとしていた脳みそに知らない声が入る。
(さっきと違う人だ)
「はい」
「失礼します。こちらが朝食です」
ベットの近くにある小さめの机に、見覚えのある料理の乗せたトレーを置く。
「……」
料理をまじまじと見る。
「どうしました?」
僕は料理を指差す。
「料理の名前は?」
「お粥、伝統的なスープ、ロンアルクで獲れた魚を焼いたもの、ヨーグルト、サラダ、でございます。どれもロンアルク産ですよ」
知らない国要素があるにしても見た目や所々の名前は親近感しかない。
「この料理、ぼくのところと同じ名前だし見た目も似てるんですが」
寝ぼけているためかいつもより聞きたいことを聞ける……いや、状況のせいでもあるか。
「それはですね。召喚される際に魔術で自動的に言語感覚等をロンアルクの主流言語に統一されてるからですよ。詳しくは資料をお読みください……」
看護師さんがどこか申し訳なさそうに説明する。
「……えっと?」
「ひとまず朝食を摂取してください。では失礼します……」
さっとお辞儀をして退室する。
「やばい組織なんじゃこれ……」
食べるのも怖くなってきた。
「言語の統一?……確かめてるか?」
トボトボとベットから歩いて『私物』と書かれた箱を開ける。
「鞄だ。ノートがあるはず……え」
字が読めない。なんだこれは。位置的に名前が書いてあるはずなのに。
「うわ」
中身を見て絶句する。読めない文字がズラーと並んでいる。
「……」
意味が分からない。あんなに慣れた日本語が何も分からない。
(まさか……)
筆箱を取り出して開ける。ペンを取り出してノートの空いてるところに自分の名前を書く。
「……うそでしょ」
書いた名前がノートの氏名欄に書いてある文字と一致しない。日本語を書いたはずなのに。
「そんな」
脳内がぐるぐるする。心臓がバグバグする。頭がおかしくなる。
「改造??僕改造された?脳みそいじられた??」
ぐちゃぐちゃになった思考回路で一つ導き出したことは。
「逃げるか」
無計画に部屋を軽い足取りで飛び出す。
「患者様、お手洗いをお探しですか?」
知らない看護師に捕まらないように少しスピードを上げる。
「患者様??」
どこに行けばいい?分からない。ひたすら駆け足で進む。
(あれって、)
ひたすら真っ直ぐ進んでいると目の前に扉が見えた。扉には、『テラス出入り口』と書かれた看板が垂れ下がっていた。
(あれ、)
おかしい。さっき読めなかったはずなのに。日本語が変な文字になっていたはずなのに。
日本語にしか見えない文字が書かれていた。
言語統一が合ってるのならこれは……
(うそだろ)
理解したくない。そもそも理解していいような状況じゃない。
「患者様、そちらはテラスでして。ロンアルクの絶景が眺められますよ」
「……あの」
「はい」
そっと扉の看板を指差す。
「これって何語ですか」
「アルク語です。ロンアルクの公用語ですよ」
理解したくなくても理解しなくてはいけないらしい。
「……ここから景色見れば異世界って納得できますかね」
「はい、できます」
看護師さんが扉を開ける。スッと外からの風が顔にかかる。
(知らない匂い)
「是非、確かめに行ってください。では」
看護師さんはどこかに向かった。
「行くか……」
扉の先を進む。
「うわ」
ガイドブックで見たような見てないような外国の景色が広がっていた。ビルなどの大きな建物はないが色んな建物が並び、端には海か湖かの水面が広がっている。その水面は朝日に照らされており、船が何隻かある。
(綺麗……けど異世界って感じはしない……?あれって)
鷹らしき鳥が空を飛んでいる。そんなに距離は近くないはずだが大きく見える。
「え……」
間違いなく大きい。
「意味わかんない……」
ぐぅ。
腹がなった。
「とりあえず朝ごはん食べるか……」
トボトボと扉に向かった。
朝食を食べ、看護師さんに片付けてもらった。
「……読むか」
色々と理解が追いつくわけがなく、脳みそをいじられているだけで全て幻覚なのではという最悪の説まで出ている。
(アニメとか漫画の見すぎかな……)
何回か顔を洗ったり頬を捻ったが現実であることしか証明されない。それなら今ある資料を確認するしかない。
(えっと)
『支給品』と書かれた箱を開けて資料を探す。
「これか?」
『異世界から来た貴方への資料』と表紙に書かれた冊子を見つけた。
「読むか」
そのまま床に座り込んで冊子をめくる。
『まずはじめに。この世界には魔力が存在し、魔術を習得することで魔力を使えます。しかし貴方は魔術を使えません。魔術を取り入れた魔術道具なら使用可能です』
はじめから幻覚かと疑うしかなく、信じるとしても虚しさがある内容である。
(はぁ)
とりあえず読み進める。
『元の世界での身体能力や知能のままです。召喚魔術による補正はございません。研究は手こずっており元の世界に帰る方法は未だに判明していません。
ここで住むために兵士になることが義務となっています。基本的に戦闘はありません。保険や補償はありますが、他にも異世界から来た方はいらっしゃるので特別扱いはありません』
よく分からない。脳が理解を拒んでいる。
(はぁ……)
長文は続く。
『貴方はこの世界のロンアルクの国民に違法召喚魔術で召喚されました。その国民は既に逮捕いたしました。貴方は異世界人であり被害者です。帰ることは出来ませんがロンアルクは出来る限り責任を取ります。補償金と支給品。住む場所は寮です。召喚された際についてきた物資は後ほど売ることが可能です』
私物を売れるわけがない。
(……)
『今までいた世界の記憶は全てロンアルクのアルク語に統一されております。そして見聞きする言葉はアルク語に変換されます。今までの言語だと脳は勘違いするようになっております。また今までいた世界の常識等も部分的にロンアルクでの常識に変換されています。召喚された際に自動的に発動した魔術が要因です。
大変申し訳けございません。貴方が被害にあった召喚魔術はこのような仕様なのです。このアルク語は多くの国の公用語なため不便はありません。安心してください』
どこに安心すればよいのだろうか。
(……)
『転生者の貴方に「異世界者一般国民認定資格」をお勧めいたします。この資格は職業選択の幅が広がるだけでなく、ロンアルク以外の国に旅行をしたり住んだりする権利。そして元にいた言語も思い出す権利を持てます。他にもあります。詳しくは『異世界者一般国民認定資格を取得しよう ロンアルク公認ロンアルク基盤都市出版出版所』をご覧ください』
思い出せるのか。
(良かった)
試験はめんどくさそうだが思い出せる方法があるのなら良かった。というか勝手に言語奪っておいてなぜこちらが勉強しないといけないのか。
『資格取得のために行われる試験は主にロンアルクの国民である最低限の基本的な知識。そして最低限の戦闘知識や戦闘能力が求められます。補償金等で資格勉強の道具を書い、対策してください』
(支給品に無いのかよ)
支給すべきだろそこは、とむしゃくしゃする。
僕がロンアルクという謎の国に来てから3日目(1日目は丸々寝て、2日目はのんびり過ごした)。朝ごはんを食べたばかりだと言うのに頭を働かせている。
「お名前を教えてください」
「……はるたです」
「何歳ですか」
「17です」
「あなたは戦闘経験がありますか」
「ありません……」
質問攻めである。どうやら自己紹介を作るために情報をまとめているらしい。さっき素早くペンを浮かして動かして僕の顔を模写していた。
「では、働いたことはありますか」
「ありません……」
「なにかの教育過程を卒業していますか」
「中学なら……」
「中学とは?」
中学という単語が通用しない現実を朝から突きつけないでほしい。勘弁してください。
「えっと……国の最低限の教育を全部受けたってことです」
「なるほど。では日課は?」
「読書です」
「かしこまりました。では、自己紹介に書く質問は以上となります」
きっちりとした服を着た人が、こちらをまじまじと見る。
「健康基準も満たしており、きちんとした受け答えもできています。これなら兵士になれそうです」
「そうですか……」
「ほぼ戦闘はありませんが念のために戦闘経験のある方と必ず組むことになりますので。ご安心を」
「……従業員とかにはなれないんですか」
僕に質問してる人が申し訳なさそうにする。
「すみません、従業員は既に人員が足りておりまして」
「……」
「ここの門番はいいですよ。他の国より平穏なので問題も少なく、やることがほぼありません」
兵士になること自体が嫌なのだが……それに誰かと長時間一緒に居たくない。
「……組む人とあまり話さなくてもいいんですか」
「最低限の会話をしていただければ構いませんよ。それでは、こちらを」
先程まで僕に質問しながら書いていた手帳を差し出す。
「こちら、この時期に召喚被害に遭って兵士として組む方を探す方に専用で貸し出している『自己紹介・連絡取り用 連絡本』でございます。すでに支給品から連絡本をお使いになられてますよね?」
「連絡本?」
「支給を全て見ていないのですか」
「……はい」
そんな気力はない。
「なるほど。では少し失礼して……」
唯一開けている箱を除く。
「入れっぱなしですね」
「すみません……」
「いいえ、お気になさらず。受け取ってください」
小さくて分厚い本を渡される。
「最初のページを見てください」
言われた通り本を開く。
『連絡一覧
連絡本について 取り扱い・ご質問受付
ロンアルク 基盤都市 毎日情報発信
ロンアルク 基盤都市 第一病院 異世界者さん向けお便り
ロンアルク 基盤都市第一事務所 責任者ネリア』
ずらっと書いてある。
「1番下の責任者ネリア、私の名前ですね。そこを押してください」
押す。ページが移動する。
『ロンアルク 基盤都市第一事務所 責任者ネリア 最終更新無し』
(……本型スマホみたいな感じか)
気になっていると、
「そのまま見ててください」
と、言われた。
『ロンアルク 基盤都市第一事務所 責任者ネリア 最終更新今
これからここにご連絡します。確認してください。よろしくお願いいたします。
ネリア』
本に文字が出てきた。
「詳しい取り扱いは最初のページにある『連絡本について』を押してください」
「分かりました」
「では」
ネリアさんがいつのまにか取り出した『自己紹介・連絡取り用 貸し出し連絡本』をこちらに見せる。
「使い方はこちらも同じですので。違いは貸し出し用なので後ほど返却していただくこと。他の兵士候補者様の自己紹介を見たり、気になった方の自己紹介にある『連絡する』を押してメッセージを送ることだけが用途であること。この二つでございます」
「はい……」
つまりほぼマッチングアプリではないか。嘘だろう。絶対にやらないと思っていたのに。
「組む方を決めましたら私に相手の紹介番号を報告してください。また組む方が決まった際には貸し出し用ではないご自身の連絡本に相手の連絡先を記入してください」
「分かりました……」
「退院する月末までに組む方を決めていただけなければこちらが決めさせていただきますので」
ネリアさんがニコッとする。
(それで良くないか?)
お任せしますとも言えない僕は
「分かりました」
とだけ伝えた。
「それでは失礼いたします」
「あ、はい……」
ネリアさんはお辞儀をすると扉を開けて部屋を出た。
「兵士か……」
一人になった僕はそっと横になって木造の天井を眺めた。
あれから数日が経った。もちろん組む相手など決まってない。日に日に色んな人の自己紹介に『組む相手決まりました』という文字が増えていく。
(ま、まぁ偶数らしいし。お任せでいいでしょ……)
良くないのは分かっている。兵士として組む相手は相当相性が悪くない限り変更はないらしい。つまり「あんま好きじゃないかも〜」は通用しないのだ。それに部屋は同室ではないが隣同士である。
(……あー、考えてもこんがらがってくだけだな。そろそろ院内で散歩でもするか)
必要最低限のものだけポケットに入れて扉を開ける。連絡本は小さめなので問題なく入る。
(鍵を閉める、と)
扉に小さい板をかざして閉める。魔術版のオートロックらしい。それぞれの部屋に患者用と看護師さん用の板があるそうだ。
(庭に行ってみるか……)
地図を見ながら歩く。
(久しぶりだな多めに歩くの……)
トイレ以外はひたすら自分の病室に引きこもっていた。料理は病室まで看護師さんが運んでくれる。意外とやることは多く支給品を確認したり、資料を読んだり、支給された本の中で気になる本を選別して読んでいた。あと学校のバッグに入っていたお気に入りの本や雑に扱っていた教科書を、読めないのに眺めた。
「あーあと数日で兵士かよ」
「それな、働きたくねぇ」
通りすがりに兵士候補っぽいような会話が耳に入る。
(2人か。組んでるのかな)
「てかさお前、異世界とか信じられる?」
「全然〜とりま異世界?から来たステータス使ってかわい子と連絡取れればいいや」
「同意〜」
チャラい。同じ境遇とは思えない。
「仕事楽だといいな〜じゃねぇと遊べないじゃん」
「それな〜」
しかし、その点については否定できない。アルバイトすらしたことがない自分は兵士生活なんてできそうにない。
(……はぁ)
大きめな話し声を聞くのはやめて目的地に向かうことに集中した。
庭に着いた。芝らしき植物が多く寝転んでもいいらしい。
(軽く寝転ぶか)
そっと寝転ぶ。暖かい日差しを感じる。
(堤防で寝転んでたよな、よく)
もう寝転べないのか、あの堤防で。
(実感湧かないな)
しかし、寝転んでいる感覚が現実だと教えてくる。
(少し目、閉じよ)
鼻で息を吸って吐いて。吸って吐いて……
(眠くなってきたな)
しかし院内の警備員の人が窓から見ているとはいえ、ポケットの物をそのままに寝るのは良くないだろう。素早く取られてしまうかもしれない。
(寝るのは耐えて、のんびりしてよ)
何を妄想しようかと黙々と考え始める。
(……)
いつもなら好きな作品の妄想をする。しかし、今して作品への想いが募っても文字は読めないし、作品をリアルタイムで追うことはできない。虚しい。
(これから絶望が増していくんだろうな)
辛くなってきた。寝てしまおうか。既にボヤボヤしてきている。給食後の数学の授業の葛藤を思い出す。字が途中からグダグダになってるんだよな……
(ね、ねむい……)
目が閉じそうだ……
「君、名前は?」
多分近くで声がする。
(なんか近い……?)
目をそっと開ける。
「すまない、眠そうなところを話しかけてしまった」
目の前に陽に照らされた黒い髪の持ち主がこちらを覗き込んでいる。
「……」
細い目が申し訳なさそうにしている。
「えっと……どいてもらっても?」
「分かった」
声の主がそっと退く。
「こんにちは……」
「こんにちは」
髪は少し長く後ろで結んでいる。
「はるた、です」
「ありがとう。話してもいいか」
少ししゃがんで僕の方を見ている。
「は、はい」
「組む人は決まっていないか?」
凛々しい顔で聞いてくる。
「……いない、です」
(……?あれ、異世界人ってバレてる?)
違和感があるが眠すぎて自信がない。
「そうか。ひとまず自己紹介をお互い見ないか」
「あ、はい……これです」
困惑しつつ、嫌ではないため自分の紹介番号を本ごと見せる。
(見た目が若造すぎてバレたのかな……?)
「ありがとう。私の番号はこれだ」
お互い番号を見せ合う。
(一人称は『私』なんだ。凛々しい)
関心しながら連絡本に番号を記入する。
(お、来た……)
『(名前)ケイジュ
(性別)男性
(種族)異世界者(違法召喚魔術の被害者)
(年齢)17歳
(経歴)元戦闘員なため戦闘経験あり。一般教育は履修済み。
(日課)鍛錬』
(戦闘経験ありか……やっぱりか……あれ?)
よくよく読むとビビるところが出てきた。
(じゅ、17歳??)
まさかの同じ歳である。
(この貫禄で?)
目の前にいるケイジュさんをじっと見る。
(17??)
しかも同じ歳で戦闘経験がある、だと?
(環境が違いすぎる)
頭が故障しそうだ。おかげで目が覚めた。
「戦闘経験がないのか」
ケイジュさんが本からこちらに目線を変える。
「は、はい……」
「そうか」
何を言われるのだろうか。少し俯いてどこか考え込んでいる。
(甘っちょるい環境にいたんだなとか言われるのかな)
内心怯える。
「良ければ、私と組まないか」
「え」
「拒否するのなら私は他を当たろう」
聞き間違いだろうか。
「えっと……もう一回言ってもらっても?」
「私と組んでほしい」
さっきよりもハッキリと聞こえた。
「僕と??」
「そうだ」
「なんで?」
「……その」
「うん」
(あ、うんって返事しちゃった。でも、いっか。同じ歳だし……)
「……私は戦闘経験がある。ちょうど良いだろう、君にとって」
「そうだけど……」
「だろう」
「……」
「……」
まあまあ気まずい。
(でも、嫌な感じはしないな)
少し安心する。
「ハルタ」
「どうし……ました?」
「眠かったら寝てていい。見張っておく」
「ありがとう……ございます」
「構わないよ」
(眠いわけじゃないけど……お言葉に甘えるか、この際)
僕は先程と同じように寝転がった。
「ハルタ。そろそろお昼だ」
「え」
どうやらこの状況で寝たらしい。おかしい。徹夜したわけでもないのに。
(あ)
そうだ。いつもは十一時から一時起きなのに、今日はたまたま九時に起きたことを忘れていた。つまりニ度寝だ。いつも怠いから気づけなかった。
「大丈夫か。結構寝ていたが」
「うん、大丈夫。よくするし」
「そうなのか?」
登下校でよく堤防で寝ていた。
「それなら良いのだが……では、紹介番号を忘れないうちに貸し出し用ではない方に一言送ろう」
「そうだね」
押す予定なんて無いと思っていた『連絡をする』を押す。
『連絡を取りたい本の番号を記入してください』
なんだそれは?と頭にハテナが浮かぶ。
「紹介番号と同じだ」
「あ、そうなんだ」
言われた通りそのまま記入する。
ドゥン。
貸し出しでではない方の連絡本が少し鳴る。手に取ると勝手に開いた。
『ロンアルク 基盤都市転生者兵士 ケイジュ 最終更新今
組めて嬉しい。これからよろしく。
ケイジュ』
(僕も書こう…)
『返信』を押して書く。
『ロンアルク 基盤都市転生者兵士 ハルタ 最終更新今
こちらこそ組んでくれてありがとう。これからよろしく。
ハルタ』
「連絡確認したし、返信書けたよ」
「こちらも確認した。ありがとうハルタ」
「うん」
「では、また。退院後か機会が合えばまたどこかで」
「だね」
ケイジュさんがら庭から出る。その後ろ姿を見送る。
あと一歩。あの一歩を踏み出していたら、こんな状況にはならなかったのだろう。
そして、この出会いもなかったんだろうな。
これからどうなるのかは分からない。帰れない。補正がない。というかそもそもこれは現実なのか?
こんな謎な状況に自分がどこまで耐えられるのか。
(耐えゲーだな、これは)
連絡本をポケットにしまう。
「行くか」
もう既に誰もいない庭の出入り口に向かう。
あの時、踏み出そうとした一歩を思い出しながら。
読んでいただきありがとうございます。
更新はゆっくりすぎですが進めていきたい気持ちはあります。大まかな話の流れは決めているため地道に更新していきたいです。