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1話 打ち解け

「異世界から召喚され能力なしのまま門番になった」の連載版です。題名は変更しました。内容は文章の変更や追加しました。

 毎日が虚しかった。


 異世界作品を見て気を紛らした。


 チート、ハーレム。憧れるとまでは言わないけど今の生活よりは楽しそうだ。


 将来が心配だと言っていたお母さん、お父さん。


 今、僕は急に召喚されて補正なしで異世界にいるよ。


 なんか帰れないんだって。だから過ごしやすいように今までいた世界の記憶、全部ここの言語になっちゃった。


 つけてもらった名前すら元の言語じゃ読めなくなっちゃったよ。


 もう会えないのに、それでもお母さんとお父さんのこと全部好きになれそうにないや。


 こんなのでごめんね。



「はぁ……」

 ため息をしてしまった。

「大丈夫か」

 隣にいるケイジュが話しかけてきた。低い位置に結んだ黒髪が少し風に靡いている。

「……ロングスリーパーなんだ」

「そうなのか、寝てしまっても私がなんとかしよう」

 そう言うとまた正面を向いた。

(真面目だよな、この人)

 僕も同じように正面を向く。正面には見慣れてきた街並みと広がる夜空がある。


 僕たちは兵士であり門番だ。不本意に召喚されたとはいえ、補償金だけでは生活できない。しかし、よそ者なため仕事は選べない。よって城の下っ端で働くしかないわけである。


「……」

「……」

 僕らは色んな時間で色んなところの門番をしている。今日は特に安全な街中にある城から1番遠い門だ。

「……」

「……」

 会話はない。最初は結構気まずかったが慣れた。

(これからどうなるんだろ)

 ひたすら街並みを眺める。最初こそ外国ぽっさ(西洋とか)しかない街並みに感心していたがこれも慣れた。

(あと何時間だろ)

 左腕につけた腕時計を見る。

「あと三時間…」

 つい声に出てしまった。

(暇だ…)

 補償金と共に渡された支給品でもあるこの時計。高級ではないらしいが分かれば何でもよい。

「……」

 時計をガン見する。

「……大丈夫か」

 またケイジュがこちらを向いて話しかけてきた。

「……」

「無理してるのか?」

「うん」

「そうか」

 また沈黙が始まりそうになる。

「君、元の世界はどのくらい戦があったんだ」

 ……と思ったら会話はまだ続いていたようだ。

「国による。僕のところはなかった」

「そうか、羨ましい」

 どこか虚しい目線が街並みに移る。

「私の方ではどの国も内外どちらでも戦をしてた」

「……」

 自分のいたところと状況が違いする。なんと返事をすればよいのだろう。

「だから召喚には感謝している面は多い」

「……」

 自分には荷が重い。

「……ケイジュさんって僕と歳同じだよね」

「そうだとも」

「その歳で前線にいたの?」

「そうだ、10歳くらいから戦闘に参加だからな」

「……」

 恐ろしい。

「君は何してた?」

「……学生」

「良い響きだな」

 気まずいという言葉では片付けられない。

「私の方では学生は一部の上級国民しかなれなかった」

「……」

「すまない、暗い話をしたな」

 僕は息を飲む。

「あのさ」

「どうした?」

 ケイジュと組んで門番をしてから数週間経つ。慣れはしても話しづらかった。このままでは良くない。

「……イラつかないの?僕のこと」

 やっと聞けた。

「どうして?」

「僕は……君が羨ましいって思う環境にいたのに当たり前だと思って生きてた」

 よく分かってない顔でケイジュが口を開く。

「君の世界の当たり前と私の世界の当たり前は違うのだから苛つきはしないよ」

「……もっとあるよ」

「もっと?」

「努力すれば好きなことができるのに僕は今まで惰性で生きてきた。両親も元気なのに僕は完全に感謝できそうにない」

「それに僕は勉強をだるいと思ってたし、家に帰ったらダラダラしてた」

「ハルタ……」

 ケイジュはしんみりとしている。

「……これ聞いてもイラつかない?」

 僕はケイジュをじっと見る。

「イラつかない」

 はっきりと言われた。

「なんで」

 納得がいかず理由を聞く。 


 微笑まれた。

 星と月以外からの光なんてないのに、その顔がはっきりと見えた。ただでさえ細い目がさらに細くなる。

 慈悲と共感が混ざっているような、どこか泣きそうにも見えた笑みだった。

「君はずっと辛そうだ」

 

(……バレてたか)

 隠すつもりもないが。ここに来てから気持ちは沈んでばかりだから顔に出ていたのだろうか。

「戦とはだいぶ縁のない君がいきなり門番か。戦闘はないが酷だな」

 不満そうにため息をつく。

「……なんで僕と組んでくれたの。戦闘経験ないのは知ってたよね」

 ふと思ったことを聞く。あの時は色々と絶望していてよく考えていなかった。

「同じ歳の友が欲しかった、それだけだ」

「……」

「すまない、友がいなかったわけではない。ただ私は戦闘参加が早くてな。同期はみな歳が上なんだ」

「……そっか」

 安心した。元々いないとか、もう既に……とかだったらこっちまで苦しくなりそうだった。

(あ、でも。もう既に……の可能性はあるのか……)

 考え込んでいると、

「友が欲しいからという理由は安直すぎたな」

 と、ケイジュがしょんぼりした。

「……いいよ、そのくらいの方が僕も緊張しないし」

「そうか、ありがとう」

 しょんぼり顔が、いつもの凛とした顔に戻った。

(良かった……)

「あれは」

「どうしたの?」

「じっとしててくれ」

 左側にいる僕に背を向ける。銃をホルスターから取り出して右側の空に構える。

(?)

 ドン。

 銃から出ているとは思えない太鼓みたいな音が小さく一瞬だけ聞こえた。

「完了した」

 数メートル離れた先で魔物がボトッと落ちた。大きめだが雀に似た見た目をしている。

「魔物??」

「そうだ。すまないな、仕留めるのが遅くなった」

(マジか)

 結界があるので油断していた。ほぼ魔物は来ないとか言われてたのに。

「いや、大丈夫……倒せたし。ありがとう」

「なんてことない。無事で良かった。しかし、話に夢中になるなんて初めてだ」

 銃をホルスターに収納しながらニッとする。

(手慣れてる……)

「……ここ魔術とかいうよく分からない力があるんだから油断しちゃだめだよ」

「すまない」

「僕も気をつけるよ」

「それは助かる」

 僕もニッとする。

「さて……専用の袋に入れないとだな」

「あ、うん」

 ケイジュが専用の袋に仕留めた魔物を専用のトングで掴んで入れる。

「……色が変な鳥にしか見えないよね」

 袋に入った魔物は様々な色が混ざって濁った毛並みをしていた。

「そうだな。きっと人工的な魔物だろう」

 袋をキュッと閉めながらケイジュが答える。

「人工?」

「魔物が発生する際に自然的か人工的かがあるんだ。支給された本に記載があった」

「そうなんだ…」

 余裕が無さすぎてこの世界の生き物に関する本を読めてない。

「勤務後に私の行きつけの場所に行かないか」

 魔物の処置を済ませたケイジュが急に聞いてきた。

「行ってみたいけど、僕お金ないよ」

「私が支払おう。もっと話をしたいがここでは集中しなくては」

「それは申し訳ないよ」

 精神年齢が僕の方が低いからと金銭面で甘えるわけにはいかない。

「問題ない。爆発等で散らばってた部品も私と一緒に召喚されたんだ。異世界の機械の部品ということで高値で売り捌けた」

「そうなんだ……」

 僕は雑草しか一緒に召喚されなかった。

(いいな……)

 確かに異世界の植物ということで通常より高値だが、バイキング2回分くらいの値段だった。ふわふわベットに使ってしまった。

「……よろしくお願いします」

「任せてくれ」

「ありがとう、ケイジュさん」

「いいさ。あと私のことはケイでいい」

「ありがとう、ケイ」

 ケイが満足そうにニコニコする。

(珍しいな……)

 その様子に僕も笑む。

「……集中しないとだな」

 ケイがまた正面を向く。

「だね」

 僕も正面を向いた。見慣れてきた街並みが最初見た時みたいに、また綺麗に見えた。



「着いたぞ、ここは私の行きつけの店だ」

「居酒屋なの?」

「カフェだ」

 夜中にカフェが空いてるとは。

「入るぞ」

「うん」

 僕より少し高く、たくましい背に続く。

「いらっしゃい、おっ!夜番お疲れさん」

「ありがとうマスター」

 店内はおしゃれだ。そして落ち着きもある。

(夜中まで空いてるお店に見えないな)

 僕は店内を見渡す。他に誰もいないみたいだ。

「紹介する。この方はこの店のマスターだ」

「やぁ、君がケイと門番担当を組んでいるハルタかな?」

「はい」

 とりあえず返事をする。

「よろしくね。気軽にマスターと呼んでくれ」

「は、はい」

 初対面は苦手だ。マスターは特に気にしてないようで鼻歌と共にキッチンに行った。

「ハルタ、こっち来てくれ」

 いつのまにかケイは先に店内にある扉の前にいた。

「分かった」

(真夜中なのに外で食べるんだ)

 暗くて食べづらくないかなと、考えながら扉の方に歩く。

「前を見てくれ」

 ケイが木造の扉を開ける。

「……わあ」

 一面の海にちょうど太陽が顔を出していた。

「日の出だ。ちょうど夜番後にこのテラスから見れる」

「…綺麗」

「だろう」

 ケイが満足そうにする。


「うまい」

「だろう」

 ほんのりとした明かりに照らされる海を見ながらパンケーを食べる。ケイはグラタンセットを食べている。

「もっと頼んでくれ」

「いいの?」

「もちろん」

「……プリンも食べたい」

「了解した。マスター、プリンとカレーを頼む」

 ケイが大きめな声でカウンターに話す。

「分かったよ〜」

 マスターも大きめな声で返事をする。

「呼び出しボタンとかタッチパネル欲しいね」

「懐かしいな」

「ケイの方にもあったんだね」

「あるとも。私の世界は魔術は無いが科学以外の基盤がないようなところだからな」

「機械だらけなの?」

「そうだ」

 SF映画みたいな世界観なんだ、と僕は内心少しわくわくする。

「ハルタの方はどうだ」

「僕の方も魔術はないけど……科学以外にも色んな要素があったよ」

「それは興味深いな」

「うん」

 久しぶりにこうやって誰かと食事をする。あっちでも両親は忙しくてそんな時間はほとんどなかった。

「前から思ってたんだけどさ、ケイって話し方がだいぶしっかりしてるよね」

「そうか?」

「よくリーダーとかしてた?」

 ケイが頷く。

「よく分かったな」

「うん。なんとなく」

 それに早めに戦闘に参加したと言ってたし。

「私は未熟なのに上の者が『戦闘センスが良いから』とな。判断が甘いと思わないか?」

 とても不満そうである。

「僕は戦いの経験が無いから分からないけど……門番してて初めて魔物が来たのにサッと1発で倒したの凄いよ。戦闘センスもあるけど冷静さも凄い」

「そうか?」

「だってあの魔物、結界抜け出せるくらいには強いんでしょ」

 食べ終わった皿を取りやすいよに整えながら言う。

「……そうか。少しは自分を褒めてもいいのかもな」

 ケイが何か考え込みながら海を見ている。

「うん。褒めなよもっと」

 僕はそんなケイの横顔を見る。

「ハルタ、私と店を出さないか」

「……店?」

 急である。

「そうだ。資格を取得すれば門番以外の仕事ができるようになるんだろう?」

 ケイがこちらを見る。

「資格……」

 知ってはいた。ただ取るつもりはなかった。将来特にやりたいことがなく就きたい仕事が分からない僕にとって、決められた仕事があるのは楽だ。それに資格の勉強は苦手だ。受験に必須だと言われた検定も良くて3級しかとれていない。高校2年生の春休み間近で。

「僕は勉強苦手なんだ。それにそのお店だってちゃんとできるか分からない」

 こういうことは早めに言っておいた方がよい。

「……そうか。安心してくれ。私もだ」

「……え」

「私は感覚派でな。戦闘もあまり頭を使っていない。そしてたまにある空き時間で1人で勉強をしてみたがよく分からなかった」

「……」

 機械だらけの世界観でそれは意外だ。それにケイは賢そうで勝手に万能な天才タイプだと思っていた。

「だから一緒に勉強しないか」

ケイが手を差し出す。

「分かった。友達だし」

 その手を握る。

「とも……」

「うん」

「ありがとう」

「うん」

 握手なんて中学生の時の英語のペアワーク以来だ。

「いつか君の夢も教えてくれ」

 いつの間にか食器を手に取っており、食べきってない料理を見ながら聞いてくる。

(夢か)

 元の世界でも特に思いつかなかったのに、異世界というよく分からない場所から帰れない状況で僕は何を思うのだろう。

(強いて言うなら……春を見たいかな)

 支給された国内外の地理本には春を含む四季の記載がなかった。

(これ以外に思いつかなったから後でこれを言おう)

「分かったよ」

「ありがとう」

 ケイは嬉しそうだ。

「持って来たよ〜」

 少し空いている扉からひょこっとマスターが顔を出した。

「ありがとうマスター」

「はいよ〜」

 目の前にプリンが置かれる。

(硬めプリンだ……)

 ニコニコしてしまう。硬めなプリンは元祖感があって好きだ。

「お、ハルタ。プリンがお気に召したようだね」

「は、はい」

「うちは硬めプリン過激派だからね。同士がいて嬉しいよ。また来てね〜」

 マスターはニコッとして室内に戻って行った。

「……ケイはどっち派なの」

「……どちらも好きだ。だからマスターには秘密にしてくれ。ここ通いたいんだ」

「分かった」

 ケイは気まずそうにグラタンを頬張る。また珍しい様子に僕は笑む。


 テラス席に座る細マッチョと元高校生はほんのりとした明かりの下で、のんびりと食事をした。

読んでいただきありがとうございました。ゆっくり更新していきます。

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