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ハマナス⭐︎001

 「ハマナスちゃんの負け! だからハマナスちゃんが、最初ね」

 五年前のあの日が始まりだった。その日、私は友達と肝試しのようなものをしていた。小学校で流行っていた怪談話。集まった子達の中には、本気で怖がっている子もいたけど、ほとんどは面白半分だった。私もその一人。じゃんけんに負けて、一番に試した。もう一人の自分に会う方法を。

 最初、こけたんだと思った。バケツに向かって。でも、こけたのではなかった。地面がどこかわからないような感覚。上を向くと、どんどん小さくなる丸い穴から友達の姿が見えた。下を向くと、どんどん大きくなる丸い穴があった。その穴から、私が出てきて、私が出てきたであろう穴に吸い込まれていった。私も、私が出てきた穴に吸い込まれていった。

 気づいた時には廊下に立っていた。周りに誰もいなくなっていて、怖くなってすぐに帰った。でも、家にいたのは何かが違うけど、何が違うのかよくわからないお母さん。みんなそうだった。それでも、最初の三日くらいまでは大丈夫だった。

 「ハマナス〜?」 

「あ、お母さん」

 お母さんの声で我に返った。今日は誰かがお見舞いに来たみたいだ。クラスの子だろう。

「あの……これ。プリント」

小さな声でそう言うと、プリントを渡してきた。授業で使ったものから、配布された手紙まで、いろいろ混ざっていた。

「……ありがとう」

「うん、あ、あとコレ……」

次に渡されたのは色紙だった。そこには、私に「元気になってね」という内容が主なメッセージがいくつもあった。ろくに会ってもないからみんなに忘れられていると思った。まあ、誰にでも言えるような事ばかりしか書かれていないのだけど。

 でも、それに対してお母さんはとても喜んだ。にこにこしながら、ありがとうねえ、なんて言っている。クラスの子が早く帰りたそうにしているのにも気づかずに。

 最初は別によかったのだが、めんどくさくなってきたので、適当な理由をつけて部屋から出した。この子には一応謝っておこう。

「ごめん、うちのお母さんが」

「いや、良いよ。全然。あっ、あともう私えっと、あの…その、用事……もっ、思いだした……から」

「……帰る?」

「うん、はい……じゃああの、ありがとう……?」

「うん、ありがと」

 もだもだしながら、クラスの子は帰ってしまった。あの子、初めて会ったし、たぶん学級委員だから届けに来たのだろう。何してるのかわからないけど大変そうだな。

 「ハマナスー……あれ? あの子は?」

お母さんが帰ってきた。さっきの子が帰った後で良かった。

「もう行った。うち、今は色紙観察中」

「そうねえ。残念ねえ。また来てくれると良いわねえ」

「うん、また来たら良いね」

青くて眩しい空が、暗くなったような気がした。期待なんかしてないのに、制服姿が通り過ぎるたびに寂しかった。


 いつも大体同じ人が窓から見える道を通学している。多少違ってもこっちを気にすることはない。やっぱ、いつかの子、もう一回来ないかな。プリントも全部見た。高校のオープンスクールのチラシに目が止まったけど、予定日はもう過ぎていた。

「暇だなあ、置いてかれてるなあ……」

 今日も窓をぼんやり眺めていた。すると、制服の子がここの入り口に向かって来た。また来てくれたのか。なんか嬉しいな。今度は何があるんだろ。

「失礼します……」

「そんなかしこまらなくても良いって」

「ははは……。あっ、今日はまた、プリントっです」

 やはり多い。そしていろいろ混ざっている。今日はお母さんが来ていないから、その子はすぐに帰ろうとした。まだ行かないでよ。

「ねえ、もう少し話したいんだ」

「えっ……」

「プリントありがと。いつも、ね。学級委員とか?」

「はい」

「名前は?」

春野はるのツバメ……です」

「可愛いね。うちは海原ウナバラハマナス」

 最初は引き止められたことに驚いていたが、話していると、椅子に座ってくれた。もうちょっと一緒にいられそう。

「学校、どんな感じ?」

「まあ……私もこんな感じだけど……クラスの人とはけっこう話す……かな?」

「そうなのか。良いなあ、何話すの?」

「えっ、うん。話聞いてる方が多いけど…あっそうそう。あの、泡町アワマチさんって人がね、なんか海原さんの病院探してるようだったから」

「えっ、そうなの!?」

 泡町…? 誰だろう。もしかして、私のことを探してるのかな。やっぱり誰かに頼まれて何か届けに…?でもそれはツバメちゃんがしてる。仲良くしたいとか? だったら嬉しいけど。

「あっ、待って、でも、途中で帰っちゃって、その後話題にも……そのなってないから……」

「そう、そうだよね……」

「あっ、いや、そんな悲しそうにしなくても」

「えー、うん。あー寂しいなあ」

 私はそう言ってツバメちゃんをチラチラ見た。

「???」

「んーッ、わからないなら言うよ。うちと、友達になって!」

 すると、ツバメちゃんの表情がぱあーッと明るくなった。この返事はOKなのか!?

「なる! 友達ッ! なる! 親友だよ!」

「えへへ、ありがとう!」

 こうして、私とツバメちゃんは親友になったのだった。


 トュルルルルル……ガチャ。

「もしもし、ツバメちゃん?」

「ハマナスちゃん? 泡町さんっていたじゃん? あの子が信号のとこで……」

「え?」

 交流はなかったが、二日前に存在を聞いたばかりだったので、悲しかった。しかし、次の瞬間には恐怖を感じることになる。

 「二日前、様子が変わったらしいの。性格も、行動も……クラスでは、ドッペルゲンガーと入れ替わったんじゃ無いかって裏で、冗談で言われてたのね。それでね……」

「……ドッペルゲンガーってもう一人の自分的な?」

「そうだよ。そいつらの世界があるらしくて、そこのやつと入れ替わったとか言われてたんだけど、出会った人は……」

「ごめん! 怖い話は苦手なの! ちょっと切る」

 小さい頃に体験したことと似ていた。あの時、私はもう一人の自分と会ったということになるのか? それならなんで無事なの? いや、無事ではないけど。でもでも、一番最悪なのは……私は私のドッペルゲンガーってこと?

 そんなはずないと分かっていても、怖くて眠れなかった。そして、元の世界に行けばなんとかなるのかもと、思い立ってしまった。


 「今なら誰も見ていない」

夜中、こっそり水をバケツにためてきた。そして、小学生の時にしたのと同じ手順で手を動かした。そしたら、めまいがした。あの時と同じように、こけたような感覚がきて、バケツに吸い込まれた。そしてもう一人の私がこっちに向かってきた。成功したんだと気づくと、安心と嬉しさがこみ上げてきた。

「私はコレで大丈夫……! 私は無事に……!」

 しかし、自分が向かっている先は丸くなかった。なんだろう。長方形だ。しかも大きい。私の何倍あるの? あっ……通り抜けた。え? まだ水の中? 冷たい! 周りが見えない! なんで? 何かが体に絡まってて動けない。水面はどっち? 息が苦しい。誰か、助けて……



 「え、ねえ海原ウナバラ浜茄子ハマナスって子いたじゃん?」

「いたねえ。あの眼鏡っ子でしょ?」

「そうそう。その子、なんか友達の……舞華マイカって子と喧嘩したって噂だよね」

「うん、聞いた。それで学校きてなかったね」

「ううん。本当は行方不明らしかっだけど、一昨日プールの中で見つかった……らしいよ」

「ええっ……やめてよ。そういう話。ていうか、なんでそんなに詳しいの」

「いや……だってタケが言ってたしそれに」

「それに?」

「……なんでもない。この話はやめよっか。そうだ。試してみない? もう一人の自分に合う方法を」


 そう言った少女の名札には、「春野ハルノツバメ」と書かれていた。




 


 



 





※ハマナスちゃんと仲良くなったツバメちゃんと最後に出てきたツバメちゃんは別人です

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