1限目 所変われば品変わる?
僕はアーサリン。どこにでもいる普通の女子高生。お父さんの転勤で先週引っ越し、今日からこの小中高一貫の学園「私立ユニヴァース学園」に通うことになった。
前の学校では同級生とうまく馴染めず、友達が少なかった。ていうかほぼ友達がいなかった。だからこの学校では絶対にJKっぽく過ごしたい。友達を沢山作ったり、放課後にはス◯バへ行ったり、部活動に参加したり…(出来るなら彼氏も欲しい)
…妄想はここまでにして、そろそろ学校に入ろう。まだ春の真ん中辺りだからすっごく暖かい。
心地よい春風に髪とスカートを靡かせながら校門に入った途端、
ドゴオオオオオン
鼓膜が敗れそうな程大きな爆発音とともに爆風で飛び散る瓦礫が見えた。
「エリザベート先生がまた爆発したぞー!」
「何だよぉおもおおお!またかよぉおぉぉおおおお!」
野次馬の生徒達が集まってきた。転校して数分も経たない内にこの有様である。その醜態の場に居合わせる暇もなく僕は速やかに建物に入り、とりあえず2階へ上がっていった。
我ながら僕は小さい頃から不憫だった。小学生の頃に跳び箱で手こずって転び男子たちにスカートの中を見られたし、中学校の林間学校でさえ金縛りに逢って全然眠れず翌朝寝坊した事だってあった。高校生になった今、転校初日だというのに一歩間違えれば爆発事故に巻き込まれていた自体に逢った。ほんっと僕はついていない。
そんなこんなで迷子になった。この学校はすごく大きいから道に迷っても仕方ないと思う。自分の教室がどこにあるのかも解らず僕はキョロキョロしながらカツンカツンと足音が響く廊下を歩き回っていた。しばらく歩いていたとき、
僕「うわーーー!!」
バタン
廊下の曲がり角で誰かとぶつかった。漫画の世界とかだったら普通僕がぶつかった相手は男子の筈だ。しかし僕がぶつかった相手は多分多くも男子の憧れであろう僕と同学年程の金髪でメディウムヘアーの女子だった。彼女の口にはパーネ・カラザウ…確かにパンの一種であることには間違いないんだけど普通こういう展開で咥えるのって食パンじゃないの?
僕「あのー…大丈夫…ですか?」
ぶつかって少しズキズキしたおでこをすりすりしながら彼女に聞いた。
女子「うん、大丈夫。」
彼女は立ち上がり、左手でスカートを拭いた。少し落ち着いた頃、彼女は顔を見上げた。
女子「ねえ、あなたって転校生?」
僕「え?あ、はい…でも何でそんな事を?」
女子「e型のアホ毛を生やした娘なんてこの学校にいないからね。」
僕「アホ毛で人を区別してるんだこの人(汗)」
女子「教室を探してるようね。どこのクラスなの?」
僕「えーと、確か10年Θ組、ソロモン先生のクラスだったような…」
女子「本当!?私もそのクラスだよ!名前は何て言うの?」
僕「え?ア、アーサリンって言うんだけど…」
女子「名前が有機リン化合物?」
僕「そっちのサリンじゃない」
女子「ま、そんな事は置いといて私の名前はヴェロニカ・ラインハート。ロニーって呼んでもいいよ。よろしくね!」
僕「う…うん…(???)」
…という訳で僕はヴェロニカと言う女子と友達(仮)になった。ほぼ強引だったが友達0の僕にはまあまあ有難い事だ。彼女の髪は濃硫酸の様に黄色いから彼女の元ネタは恐らく君たち人間の世界で言う「金星」で間違い無いだろう。
僕「ところでもう授業始まってるようなんだし君は遅刻なの?」
ロニーちゃん「うん。徹夜して寝坊したの」
僕「一晩中何してたの?」
ロニーちゃん「なめこ栽培」
僕「放置ゲームって徹夜でやるものなのかな…」
ロニーちゃん「違うよ。ゲームかなくて普通になめこを原木で育てていたのよ」
僕「変わった趣味だね…それで先生にどう言い訳しようとしてるの?」
ロニーちゃん「通気口を通して教室に入ればバレないから大丈夫」
僕「JKがやる事じゃない」
結局僕とロニーちゃんは教室まで歩いて行く事にした。そう言えば前の学校にもこんな風に変わった人も何人かいたっけ。所は変わっても品はそのまんまなんだな…
〜1分21秒後〜
ガラガラッバッタン
ロニーちゃんは勢いよく教室のドアを開けた。
ロニーちゃん「先生!送れてすみません!」
僕「ってあれ?先生は?」
教室の中を覗き込んでみるとまるで自習室かのように先生がいなかった。
男子生徒「あー、先生なら多分遅刻してるよー」
僕「生徒より遅刻する先生とか珍しいな」
その時教室の後ろ側にある天井に近い通気口からガサゴソと音が聞こえ、パカッと空いた。そこからはオレンジっぽい色の男性が出てきたあとに床に着地した。
ロニーちゃん「あ先生だ」
僕「!?!?!?」
先生「ふぅ〜何とか間に合った〜」
男子生徒「よくこんな時間で間に合ったと言えるな」
先生「よし。全員揃ってる様だし早速授業始めようか。さあ、席につけ、ヴェロニカと…誰だ?」
僕「転校生ですよ!」
先生「ああ、そうだった。よーく聞け生徒ども。耳の穴かっぽじって聞くが良い。こいつは今日からこのクラスに所属するアーサリン・フロストだ。雑魚そうな見た目だが、まあ仲良くしてやれ」
色々と適当だなこの先生…これでも本当に教師なのかな…?
先生「確かマークの隣の席が空いてたな。そこに座ると良い。色々落ち着いたし数学の授業を始めようか。」
先生の言う通りに僕はその席に座った。先生は教科書を取り出したあと、じっくりと読み、黒板に問題を書いた。
『3 以上の自然数 n について、x^n + y^n = z^n となる自然数の組 (x, y, z) は存在しないと言う事を証明せよ』
いや待ってこの問題ってかつて数学者たちが360年かけて証明した問題じゃん。なのになんで高校生の授業で出てるの?
ロニーちゃん「先生!これって明らかに高校の問題じゃないですよね!」
ロニーちゃんは手を挙げて先生に抗議した。
先生「うん」
ロニーちゃん「解ってて出したのは何でですか!」
先生「そりゃあお前らが解けられないような問題を出せば授業が終わるまでお前らは悩み続けることになる。それでこの授業はほぼ自由時間となる。俺もお前らも普通に授業やっている事になるし合法的にサボれるからいいだろ。」
やっぱりこの学校はなんかおかしい(汗)
ついに4限目の授業が終わりランチタイムがやってきた。
僕「はぁ〜」
2限目の先生はいきなりキレて職員室に引き篭って最終的に僕が謝りに行く羽目になったし3限目の先生は消し忘れていた黒板に字を重ねて書いたし色々大変だった。本当にこの学校でやってられるのかな…
ロニーちゃん「アーサリンちゃーん、一緒に学食行かない?」
そんな元気の出なかった僕を誘ってくれたのはロニーちゃんだった。
僕「うん…」
彼女と一緒に入った学食はかなり賑やかだった。
ロニーちゃん「ここでは5ドルさえ払えば好きな料理を注文できるわよ」
僕「あ…じゃあサンドイッチを…」
プレートの上にサンドイッチを乗せ、僕はテーブルへと向かい、サンドイッチを齧った。
この世界は君たち人間の世界には無い「能力」と言う概念が存在する。例えば、僕の担任であるソロモン先生の種族は恒星だから先生は核融合反応をモデルとした能力を扱える。老若男女問わず誰でも扱えるが個人によって能力に上下関係が存在する。そして僕はそんな上下関係の中でも先生が言っていたようにトップクラスに能力が弱い方だ。家族は特にその事については気にしていなかったが自分の能力が原因で昔からよくいじめを受けていた僕は「この世界に自分の居場所なんてあるのか」といつも自分自身に問いかけていた。いつも集団で浮いてて、除け者にされ続ける僕って一体…
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオン
一瞬鼓膜が破れたかと思った。本日2回目の爆発か…
男子生徒「キッチンが爆発したぞー!」
キッチンの方に目を向けると火がガンガンと燃えていた。
皆慌てた様子で学食から逃げようとした、が、肝心の扉が全く開く様子がない。原因は不明だが僕たちがこの学食に閉じ込められた事は確かだ。
ロニーちゃん「消化器は!?」
男子生徒「昨日使い切ったばかりでもうねえよ!」
ロニーちゃん「スプリンクラーは!?」
男子生徒「故障中だ!」
ロニーちゃん「誰か水とか砂とか持ってる!?」
男子生徒「砂はまだわかるが肝心の水を誰も持ってねえんだ!」
ロニーちゃん「じゃあ私たちは助からないって訳!?」
こうやって話している間にも炎は大きくなっていく。このままじゃ僕たちが一酸化炭素中毒で倒れるのは時間の問題だろう。
ピーン⤵︎ポーン→パーン↗︎︎ポーン⤴
アナウンス「えー、放送部のロディオン=シクロフスキーです。今現在学食でガス漏れによる火事が発生している様ですので直ちに外部へ避難して下さい。避難できない状態に陥っている方々は…」
僕「…どうすれば?」
アナウンス「全ての希望を捨ててお祈りしながら最後の時をお待ちください」
ピーン⤴ポーン→パーン→ポーン⤵︎
僕「助ける気0じゃん!」
最後の希望をも失い、学食にいる皆は絶望状態になった。
ここまで来るともうあれをするしかないか…
ドクンドクン
僕「んんっ…!」
僕は心臓の運動を加速させた。これによって僕の体中に熱が行き渡り体から湯気が出るレベルまで到達した。
ロニーちゃん「…アーサリンちゃん…?」
もっとだ。これだけじゃまだ足りない。今この火事を消せるのは多分僕しかいない。
ドックンドックンドックンドックンドックンドックンドックンドックンドックンドックン
僕「うっ…」
呼吸が苦しくなってきた。そろそろ意識が朦朧となり視界内の景色全てが褪せてきた。湯気は一段と濃くなりやがて大きな雲を作り出した。
僕「うわあああああぁぁぁ…」バタン
その時点で僕は倒れ込んだ。五感が消え始めた為何も聞こえなかったが皆が僕を心配する様な、焦った様な目線で見ていたことだけは覚えている。
僕「ハァ…ハァ…」
呼吸が元に戻り五感が戻り始めた時、天井を見上げると計画通り、湯気から出来た真っ黒な雲が天井を覆っていた。
ロニーちゃん「何これ…」
女子生徒「煙…?」
ザアアアアアアアアアアアアアアアアア
そしてその大きな雲から大粒の雨が学食を叩きつけた。さっきまで激しく燃え上がっていた炎はいつのまにか消え、学食は歓声で溢れ出した。
ロニーちゃん「雨…?」
女子生徒「よくわからないけど助かったー!」
男子生徒「本当にあの青髪の女がやったのか?」
ロニーちゃん「アーサリンちゃん!」
激しい心臓鼓動の副作用で倒れ込んだ僕の隣にロニーちゃんが寄り添ってくれた。
ロニーちゃん「大丈夫?立てそう?」
僕「うん…」
僕はゆっくりと立ち上がった。その瞬間彼女は僕を慰めるかの様に僕をギュッと抱きしめた。
ロニーちゃん「よく頑張ったわね。さすがは私の親友。」
僕「親…友…?」
さっきの雨粒よりも大きな涙がポロポロと溢れ出した。
ロニーちゃん「うわあ!泣かせる様なことしちゃったのかな!?」
僕「違うよロニーちゃん。今までまともな友達なんていたこと無かったから…嬉しくて…つい…」
ロニーちゃん「そうだったの?じゃあ今までぼっちだった分と引き換えにずっと友達でいてあげるね!」
僕「絶対だよ!」
この学校は色々とへんてこで先が読めない。でも、ずっと寄り添ってくれる友達が居るならそんな事なんてなんともない。僕たちの青春はこれからだかr
ピーン⤵︎ポーン→パーン↗︎︎ポーン⤴
アナウンス「えー、理科室でまた爆発事故が発生しました。その上爆発際に発生した毒ガスが学校中にばら撒かれています。なので今すぐ避難してください。大事な事なので1回しか言いません多分」
ピーン⤴ポーン→パーン→ポーン⤵︎
やっぱ…無理かも…
バタン(倒れる音)
ロニーちゃん「アーサリンちゃん!?どうしたの!?ねえってば!返事してよ!アーサリンちゃーん!!」
今一瞬黒く塗りつぶされた青春が幻覚であることを祈る…
〜タメにならないトリビア〜
知ってる人もいるかもしれませんが、先生が黒板に書いていた問題は「フェルマーの最終定理」です。