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第三十三話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 私はセレスティーナ・カンタブリア、聖国の姫巫女なので、聖地については詳しい方だと思います。


 聖国カンタブリアは神の力が宿る土地に国を築いているわけですが、大国であればあるほど、本拠地とも言える宮殿の敷地内に、神の力を宿す場所を持っていたりするわけですね。


 広大な領土を持つファティマ帝国の場合は、宮殿の敷地内にある森の最奥に湧き出る泉こそが神の宿るものであり、皇帝は重要な祭儀を行う際にはこの泉で禊を行うのが決め事となっている。


 バレアレス王国であれば、この奥宮の庭園こそがまさにそれで、この庭園の薔薇が季節を越えても尚咲き誇っているのは神の力に助けられているからこそ。

 神聖なる庭園は国王陛下の貴重なデートスポットにもなるため、過去、一度として踏み入れた事がない場所でした。


 精々が遠くの木々の影から覗く程度のもので、過去の私は本当に惨めだったものです。

 姫巫女なのに聖地に入れない。それは何故かというと、陛下に疎まれているからに他ならず、

「仮初の王妃であっても、奥宮にすら足を踏み入れられないのですもの。やはり、王国のすべての悪事を引き受けるだけの生贄身分という事なのでしょう!」

なんて事も言われていました。


 今回はきちんと悪い事をした宰相様や他の方々にきちんと罰が下されるみたいですけど、偽造捏造なんでもありですからね、全然安心出来ないですよ。


「はーーーーーーっ」

 思わずため息をつきながら自分の足元から前の方へと視線を向けると、美しい薔薇の庭園の向こうから聖女様がやってくる姿が目に映り込みました。


「カンデラリア様・・・」


 そうか、そういえば、聖女様が祝福を授けるためにバレアレス王国を訪れるのがこれ位の時期でしたっけね。


 聖女教の信者を増やしたい聖女様は、バレアレス王国にも布教のためにやってくるのです。そうしてアデルベルト国王陛下と恋に落ちて、二人で多くの国に蔓延る腐敗を何とかしようって立ち上がるんでしたっけ?


「どうでもいいけど・・・」


 思わず独り言を呟いてしまいました。

 だって、どうでもいいんですもの。

 陛下が誰と恋をしてもどうでもいいし、他国の腐敗とかもどうでもいい。


 もしかしたら光の神は、聖女を信奉するこの組織をなんとかしろって私に言っているのかもしれないし、なんとかさせる為に人生を繰り返させているのかもしれないけれど、無理よ、そんな事、できる訳がないでしょう。


 だって聖国は滅んじゃったし・・・セレドニオ様は聖国を復活させるとか言っているけど、そんなに上手くいく訳がないし、偉大な聖女の前では皆、ひれ伏す事になっちゃうし、きっと陛下も聖女を愛する事になっちゃうし・・・


「断罪一歩手前か・・・」

 私が自分の頭を抱え込もうとしていると、

「そこの者!止まりなさい!」

前に駆け出したマリアーナが厳しい声で聖女カンデラリアを呼び止めた。


「何用あってこのような奥まで入り込んだ!ここは王家のみ許される場所!お前のような者が入り込めるような場所ではない!」


 美しいランブラーローズで作られた壁に寄り添うようにして立つ聖女の姿は神々しくもあり、人々を魅了する力を持つようにも思えた。


 カンデラリアの頬に一粒の涙がこぼれ落ちると、

「セレスティーナ様・・・」

蔓薔薇で出来た壁から離れ、無数の花弁を風で揺らしながら咲き誇るオールドローズの中をこちらに向かって歩いてくる。


「嫌な予感・・・」


 通常、この神聖なる薔薇園は陛下の貴重なデートスポットとなる。

 聖女とデートしていた事もあるし、ビスカヤ王国の王女とデートしていた事もあるし、リリアナ嬢なんかはしょっちゅう一緒に散歩していたわよね。


 つまり、何を言いたいのかというと、この薔薇園は私なんかが絶対に侵入してはいけない聖地のような場所であり、ここに聖女様が現れたとなると・・・


「セレスティーナ!」


 王宮側の茂みの方から、数人の部下を連れてアデルベルト国王がこちらの方へと向かってくる。

「あ・・そういう事?」

 今回の人生ではリリアナ嬢やマリアネラ王女が恋人じゃなくて、至高の聖女カンデラリア様が本命だったって事ですか?


「セレスティーナ!駄目だ!」


 え?何が駄目なの?

 この庭園に私ごときお飾り王妃が入っちゃったのが駄目だったとか?

 それとも、愛しのカンデラリア様を虐めそうな傲慢王妃セレスティーナは、至高の聖女に近づいちゃ駄目だ的なアレ?


「姫様!」

 チュスが後で大声をあげている。

 左右からアデルベルト陛下と至高の聖女が向かって来る中、目を見開いたマリアーナがこちらを振り返る。


 えーーっと、至高の聖女はやっぱり美人だし、癒しの力を持っている偉大な人だし、滅びた国の姫(しかも寝不足で顔色が酷い有様)の私よりも、断然、至高の聖女様の方が偉いって事だものね。


 血相変えて陛下がこちらに向かって来るのも、至高の聖女様を私に虐められたら困るっていう焦りからだろうし、私は聖女様を嫉妬(そんなものはないけれども!)から虐める悪女として、これから祭り上げられるって事でしょう?


 もう!本当に!公開処刑はいや!今から光の神様の御意志に従って聖女教会をぶっ潰すのも無理!だとしたら、穏便な形でもう一回ループを繰り返すしかないって事?


 次は痛い思いはしたくない!痛い思いはしたくない!痛い思いはしたくない!


 痛い思いをしないで済むにはどうすれば良いわけ?

 そもそも生き残る為にはどうしたらいいの?

 私はもう死にたくない!

 左右から二人が迫って来るけど、私は今、どちらかに進まなければいけないのかしら?


 陛下と聖女、どっち?どっちに行く?


 自分の運命を賭けて打って出なければいけないような気がするんだけど・・とにかく断罪を受けずに生き残る為には・・聖女様と少しでも仲良しアピールをした方が良いって事よね?私は聖女様大好きなんです的なアピール、光の神様は怒り出しちゃうかしら?だけど、陛下に対しては必要なアピールなのでは?


 陛下と聖女、どっちに賭けるかと考えたら、やっぱり聖女様じゃない?


 私は陛下から逃げるようにして聖女様の方へ一歩進み出ると、聖女様は私の胸に飛び込んできた。

 その聖女様の手にはナイフが握られていて、あっという間に根元まで突き刺さっていく。


 お腹が熱い・・・ 


「セレスティーナがこれで死んだんだからリセットよ!これでリセットよーーーー!」


 私が崩れ落ちるようにして倒れ込むと、頭上から歓喜の声が降ってきた。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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