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第二十八話

お読みいただきありがとうございます!

大幅に書き換えています、よろしくお願いします!

「下民どもに与える慈悲など聖女教会にはかけらもないわ!」


 ネグロ川が氾濫し、街が水に呑み込まれ、大きな被害が出ても誰も助けに来ず、洪水後に疫病が広がって行っても、領主や王家は何もしてやくれなかった。


 我が国の新しい国教となった聖女教会に、癒しの力を持つ巫女の派遣を頼んだところ、金がなければ派遣は出来ないと一蹴された。


 明日食べる物もなく、病の人々を抱えながら呆然とする俺たちの前に現れたのは聖騎士に囲まれた聖女の一行で、彼らは増水した川を渡るための船を今すぐ用意しろと居丈高に命令したのだった。


 船なら用意出来る、用意するからせめて、重病の者に癒しの力を与えてくれと懇願したところ、聖騎士は下民には慈悲は与えられないというような事を居丈高に言ったわけだ。


 聖騎士の言葉の後で暴動が起こるまでの時間は、瞬きをする程度のものだっただろう。

 聖女が乗る豪奢な馬車は横倒しとなり、護衛である聖騎士は満足に戦う事も出来ず、袋叩きとなって囚われる事になったのだ。


 馬車から引っ張り出された至高の聖女と名乗る女は、確かに美しい女ではあったのだが、癒しの力を一切持たないただ美しいだけの女で、聖女教会の聖女は何の力も持たないという噂が本当のものであったのだと理解する事になったのだ。


 至高の聖女様とやらは特別な力は持たないけれど、バレアレス王国で豪遊でもするつもりだったのか、奴らの荷物の中には山のような金貨があったわけだ。


 その金貨を使って隣国バレアレスから食料を購入し、被害に遭った近隣の街や村にも配ることにした。


 幸いにも川向こうに広がるバレアレス王国の人間が安値で山のような小麦を売ってくれたので、何度も船で移動しながら食料を配り歩き、なんとか一息つくことが出来たわけだ。


 それに、本物の癒しの力を持つアマーリエっていう女の登場が俺たちに希望をもたらした。

 王都生まれのアマーリエは、元々、癒しの力なんかカケラすら持っていなかったのだが、民衆からばば様と呼ばれて慕われていた至高の聖女様から力を分け与えてもらったらしい。


 ばば様が死ぬ間際で譲り渡してくれた力こそが癒しの力であり、その力によって多くの民が助けられる事になったわけだ。



 聖女の力を持つアマーリエが言う言葉が本当であれば、実際に毒を使って至高の聖女であるばば様を殺したのは、自称聖女のカンデラリアという女らしい。


 聖女教会の所為で聖国カンタブリアが滅びた。神の怒りに触れたからこそ、堤防が決壊し、洪水が起こる事にもなったのだ。全ての元凶は神の怒りを買った聖女教会にあると言い出す奴らも出てきたため、自称聖女は袋叩きにあい、街の牢屋に入れられる事になったのだ。


 そんな自称聖女の世話は誰もやりたがらないという事もあって、アマーリエが時々様子をみていたらしいのだが、

「ツェーザル!大変だ!アマーリエ様がバレアレス王国に行くって大騒ぎしている!」

部屋に飛び込んできたジルが慌てた様子で俺に言う。


「生き残った聖騎士が偽聖女を助け出したみたいで、牢屋の中がもぬけの空になっていたんだよ!それを発見したアマーリエ様が、バレアレス王国に行くって大騒ぎしていて!手がつけられない状態なんだ!」


「アマーリエが手をつけられないだって?」


 ジルの案内で厩の方へと向かうと、馬を引っ張り出そうとするアマーリエと、それを止めようとする男たちの姿が目に入る。


「アマーリエ!何をしている!」


 俺の言葉に、アマーリエは真っ青な顔でこちらの方を振り返った。


「カンデラリアが逃げたんです!」

「知ってる」

「きっとバレアレス王国に向かったんです!全てを元に戻すって言っていましたし、バレアレスの王妃を殺すと宣言されていましたから!」


 バレアレスの王妃を殺す?


「話が見えないんだが、なんでバレアレスの王妃を殺すんだ?」

「そうすると世界が元に戻るんだと言っていましたが、私はそれが滅びの道だと思っているんです」

「どういう事だよ?」


「ばば様が毒を盛られて倒れた時、私が駆け寄った時にはまだ、ばば様は生きていたんです。そうして、私の手を握って、破壊の巫女の暴挙を止めろと言われたんです」


「破壊の巫女が偽聖女で、あいつの暴挙を止めろって言われただけで、世界が滅びるなんて事は一言も言っているようには思えないんだがな?」


「勘です!」

「はあ?」

「今まで長年、カンデラリアを見てきた私の勘です!」


 なんだかため息しか出て来ないんだが・・・


「すっごく良くない事が起こる気がするんです!ですから今すぐ、バレアレス王国に向かいたいんです!」

「向かったところで、王妃の元までなんか行けないだろ?」

「大丈夫!私!これでもビスカヤ王国の王女なんで!」


 胸元からズルズルッと引っ張り出した銀のネックレスには、確かにビスカヤの紋章が刻まれている。


 周囲の男たちが一歩、怯えた様子で下がる中、隣にいたジルが言い出した。


「アマーリエ様の治療の甲斐あって病人もだいぶ落ち着いたし、ずっとひっついて歩いていた僕はアマーリエ様が嘘をつくような人じゃないのを知っているし、実際に癒しの力を使うアマーリエ様が危機を感じて、バレアレスの王宮を目指すと言うのなら、僕は行った方がいいと思うな」


「じゃあ、ジルが付き添うか?」

「無理だよ!僕はツェーザルよりビスカヤ王家の血が薄いもの!」


 ああー〜、王宮に行くのなら、血筋の証明がされた方が入りやすいってか。

 俺は、先代の王位継承争いで敗れた王兄の孫に当たるから、俺が行ったほうが話を通しやすいか?


「みんなで今の王家は潰しちゃおうって話をしていたじゃん?王家を潰すにはバレアレスに恩を売っておいた方がいいに決まっているし、そこはツェーザルの手腕にかかっていると思うんだけど?」


 ジルはそこではたと気がついた様子で、

「アマーリエ様は王女様なのかな?だったら、不穏な話を堂々としちゃってごめんね!」

と、小首を傾げながら笑顔で言っているジルの圧が凄い。


「あの!私は王家が滅んでも全然問題ないです!」

 アマーリエは挙手しながら言い出した。

「元々王女と言っても末端ですし、虐げられた王族に分類されるので、謀反を起こすのなら協力したい位です!」


 そらそうだろうな・・馬車から助け出した時点で、古傷が凄い状態だったからな・・・


「それじゃあ、今すぐに移動を開始した方がいいんじゃない?ほら!ほら!みんな!早く準備するよ!」


 ジルがパンパンと手を叩いて指示を出し始めた為、俺も準備をするために、アマーリエを連れてその場から走り出したのだった。



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