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第十四話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「殺せーーーー!極悪王妃を殺せーーーーーっ!」

「お前のせいで家族は死んだんだぞーーーーーっ!」

「悪逆の限りを尽くした王妃など殺してしまえーーーーーーっ!」


 群雄割拠の時代、各国は己の勢力を拡大させる為に衝突を繰り返し、数多の場所で戦は勃発していた。軍備拡充による強引な税の徴収、無理やり行われる徴兵によって地方の労働力は少なくなり、穀物を作る人の手が足らず、ようやく収穫したものは悉く召し上げられ、日々食べる物に困り、多くの餓死者を出す結果にもなってしまったのだ。


 困窮する民に視線を向ける事なく貴族達は贅沢な生活を送り続け、不都合な事は全てバレアレス王国の王妃となった私、セレスティーナの所為であったとされて、断罪を受ける事になってしまうの。


「やめて!やめて!やめて!私は何もしていない!私は何もしていないのよ!」


 豪華なドレスを購入した事もない、宝石の類を購入した事もない。忘れられた王妃である私は満足な衣食住すら保証されていなかったというのに、怠惰で強欲な王妃が国を傾けるほどの豪勢な生活を送り続けたゆえに、バレアレス王国は危機に陥ったという事にされてしまうの。


「助けて!アデルベルト様!助けて!」


 ぶつけられる石の礫は無慈悲に降り注ぐ雨のようであり、裸足で引きずられるようにして刑場まで歩いている所為もあって、足の裏の皮は切り裂かれるように剥けて、真っ赤な血を流し続けている。


 処刑台に上がる時には、歩けるような状態ではなくなり、膝をつき、這いずるようにして前へと進む事になるのだ。


 その処刑台を見下ろすような形で王家の席が設けられており、いつも、煌びやかな女性の腰を抱くようにしながら、この国の王であるアデルベルトは無表情のまま私を見下ろしていた。


 結婚の儀を行い、神の前で夫婦になったと宣言したというのに、彼は初夜となるあの一夜から私を放置し続けた。

 顔を合わせるのは結婚の儀を行った、たった一回だけ。後は忘れられたように放置され、次に顔を合わせるのは断罪の裁可を下す貴族を集めた裁判の席でという事になる。


 王妃であるはずの私は地下牢に閉じ込められ、十日の後には死刑を執行された。


 何故、私を娶ったの?

 何故、いつも私を選ぶの?


 滅びた国の姫である私を王妃に選ぶ理由はひとつだけ。


「貴方はこの国の災いを全て私の所為にすることで、国王としての自分の地位を盤石なものにしようとしていたのね?」


 アデルベルトが王位に就いた時、疫病によって多くの民が死んだ後という事もあって、バレアレス王国は国力を酷く落としていた。


 国が弱体化した所を征服しようと狙う周辺諸国を威嚇しながら、国の立て直しを図ったのは間違いなく若き王であり、国民は新しき王に希望を抱いた。


 だけどその裏では、王が不在なのを良い事として、王宮に残った魑魅魍魎達が暗躍を繰り返し、自分たちの欲をまず第一の優先事項として考え、好き勝手な行いをした結果、再び国民が多大な被害を被る事になってしまったのだ。 


 内政を取り仕切れなかった国王の権威を守るためにも、裏で暗躍した人物の保身のためにも、国民の憎悪を一気に受け止めることが出来る『生贄』が必要になったのは間違いのない事実。その『生贄』には、今は滅びたカンタブリアの姫が丁度良かったという事なのだろう。


「こんな国呪ってやる!呪ってやるーーーーー!」


 叫びながら巨大な刃物に首を切断されて、意識は闇の中へと引きずり込まれる。


 そうして目が覚めたのが、ふかふかのベッドの中で、目の前に掲げてみた自分の手のあまりの小ささに驚きの声をあげるのだった。


 聖国カンタブリアの王家は神の血を引くと言われた神聖なる血族であり、王家に生まれた私もまた、巫女と呼ばれる神聖なる立場を戴く一人ではあったのだ。


 罠に嵌められて、生贄となった私の怒りと憎悪が神へと通じたのか、はたまた一人の巫女が異国で処刑される事に神が憐れみを抱く事になったのか。


 一度目は十二歳からやり直しをする事になった私は、結局、国が滅びた後に攫われるようにしてバレアレス王国に嫁ぎ、今度は疫病を起こしたのは私の所為だという事にされて、処刑場で首を吊る事になったのだった。


 公金横領罪、神の力を以て再び疫病を引き起こした罪、聖女に対する暴行罪、国王を毒殺しようとした罪、何もしていないというのに、次から次へと罪を着せられて私は殺されていく事になった。


 二度ほど逃げ出そうと足掻いてみたものの、一度は警備のために放たれた犬に噛み殺されて死に、もう一度は暗殺者にその場で捕らわれて、胸を刺されて死んだのだった。


 これが神の力による物なのかどうかは分からないけれど、繰り返せば繰り返すほど、私の死ぬまでの期間が短くなっていく。

 始めは嫁いでから一年は生きながらえていたものの、それが半年となり、三ヶ月になり、二ヶ月となり、次はどれだけ生きられるのかが全く分からない。


 もちろん、何年も前へと死に戻りが出来るのだから、バレアレス王国に嫁ぐ事などないように、試行錯誤を繰り返した。

 一度目の人生では私を政治の駒のようにしか考えていなかった父王も、予言のようにこれから起こるべき事を的中させる私の話を聞いて、神の意思を感じたという。


 父王を巻き込んで試行錯誤を繰り返した、やれるべき事は全てやってきたと言ってもいい。だけど、聖国カンタブリアはいつの時でもジェウズ侯国に滅ぼされ、私はバレアレス王国の王妃となる。


 一度、祖国を滅ぼす事になる侯国へと赴き、私を欲するために国を滅ぼしたという王子にも会った事があるのだけれど、王子はカンタブリアの姫である私に興味の一つも抱く事はなかった。

 滅ぼされる位であれば、私がジェウズ侯国に嫁ぐ事で友好の証としようとした事もあったけれど、侯国側より却下された。


 3回目までの私は自分の所為で祖国が滅びる結果になったのだと考えて、酷く嘆き悲しんでいたのだけれど、王子が私を熱望して国を滅ぼしたなんていうのは、後付けの話だったわけだ。我が国を滅ぼすための建前として使われた的な?あの時の私の涙を返してもらいたいって、本当に思いますわよ。


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