第六話【せ、聖女ですって~~~!?】
ドゴォーーーンと大きな音と共に爆風みたいなものが吹いて、エルメラルダは振り返る。
「もう来よったか。」とつまらなさそうに髭を触る王様。
ヒスイは血だらけだった。あちこち擦り傷だらけで、頭からピュッと血が吹き出している。
「これはこれは、お久しゅうございます。父上。エルメラルダを返してもらいに参りました。」と地の底から這いずるような声を出し不気味な笑みを浮かべるヒスイ。
しかしエルメラルダの前にはエルメラルダの父、サルバトーレ宰相が立ちはだかった。
「エルは私の娘だ。」
「これはこれは、お義父様。先日はエルとの婚約を認めて頂き誠にありがとうございました。」と怪しい笑みを浮かべ続けるヒスイ。
「あんな脅迫まがいな求婚書!!判子を押すしかなかろう!!!」と怒りに震えプルプルと体を揺らす宰相。
「待って、ヒスイ王子。怪我が!酷い怪我!!」と心配し過ぎて父である宰相を押しのけてヒスイの顔を触ろうとすれば、パンっと手でヒスイに払われてしまった。
「触るな!!」と物凄い形相で触る事を拒否するヒスイ。
「え…どうして?」と唖然としてしまうエルメラルダ。自分を取り返す為にボロボロになってここまでやってきたのにどうして触る事を拒否されるのかサッパリわけがわからないといった感じのエルメラルダ。
そんなヒスイを見た王が「む?…」と何かを察し、王自ら何らかの魔法を使いヒスイの動きを封じ手足に魔法の鎖をはめて張りつけ状態にする。
「エルメラルダ嬢、手当してやってくれ。」と王が命令する。
「え…あ、はい。でも、手当できるものが何も・・・。」
「血を拭ってやるだけでええ。」とエルメラルダを急かす王。エルメラルダは頷いてヒスイに近づく。
「やめっ!!やめろぉぉ!!こっちくんな!!」と騒ぎ喚くヒスイ。
「こんなに怪我してるのに。」と心配そうに近づくエルメラルダ。
「触るな…頼むから…。」と彼のか細い声は届かず、エルメラルダが触れてしまう。
すると温かい光が放たれてヒスイの全身を包んだ。ヒスイは涙を流した。
「悪い子だ。」と少し困ったように微笑んでエルメラルダを見た。
「ぬっ!?なんだと!?」と国王は目と口を大きく開いて椅子から立ち上がった。
「ヒスイ、どうしてこの事を知らせなかったのです!」と王妃までもが椅子から立ち上がった。
独りポカーンとした顔をするエルメラルダ。
「そんな…エルは昔から魔法は苦手で…今まで一度だって使えた試しがないんです。」と宰相。
「…自分も昨日知ったばかりです。古からの王族の暗黙の禁忌を施そうと、傷つき、血のついた親指をエルの舌に擦りつけたら傷が治ってしまって…失敗してしまいました。まだ自分の中でも、確信的ではなかった為…報告はしませんでした。確信してたら今日、式を挙げていましたよ。」とヒスイは語る。
エルメラルダは(ちょっと…暗黙の禁忌って何!?あれって何かヤバイ事されそうになってたの?傷が治るって…まさか聖女の!?でも、エルメラルダは悪役令嬢。そんな特殊スキルどこで…。)と思考をぐるぐるさせていた。
「ふむ…聖女は代々次期王と婚姻を結ばねばならん。つまりエルメラルダ嬢はアナスタリアと一緒にならねばならん!!!」と王が言い切ればヒスイから本気の殺気が漏れだして、ヒスイを縛っていた鎖がプルプルと揺れその効力を失おうとしていた。
「むむっ。いかんいかん。なんて力じゃ。魔力を何倍にも引き上げる王冠の力を使った拘束具を解こうとするでない!!エルメラルダ嬢がアナスタリアの追っかけをしておった頃にアナスタリアが気づけなかったという、アナスタリア自身の落ち度じゃ。そこでじゃ、ヒスイよ。次期王となり国を導いてくれるというのなら、エルメラルダ嬢との結婚を許す。どうじゃ?」と王はニヤっと悪い笑みを浮かべる。
「エル、2年後に現れるという聖女。もしその聖女がコックのエドウィルと結ばれた場合、国王はどうなってて王妃は誰になっているかわかりますか?」とヒスイは冷静な真顔でエルメラルダに問う。
「なぬ!?2年後に聖女だと!?」と国王はうろたえる。
「えっと…確か…どのエンディングでも王にはアナスタリア王子が王になって、王妃は………あっ!!!……私だ。」とエルメラルダは酷く驚いた顔をする。
「でも唯一。自分のエンディングだけ見てないと。」とヒスイ王子。
「うん。誰もヒスイ王子のエンディングは見れてないので…。」とエルメラルダ。
「父上、お引き受け致しましょう。エルもそれでいい?」と諦めたような顔でエルメラルダの顔を伺うヒスイ。
「え?えー…っと。2年後に現れる聖女を待ってからでもいいんじゃないかなーって思います。」とエルメラルダは口元に人差し指をあてて上を向いて言った。
「ふむ。君はヒスイを愛しておらぬようじゃな。」と王。
「いえ、そうじゃないです。大切だからです。私、ヒスイ王子の足枷にはなりたくないんです。ヒスイ王子にいう事を聞かせようと私に危害を加える人が出てくると思います。そうなった時、ヒスイ王子は迷う事なく、私を庇って何でも言う事を聞いちゃうと思うんです。私はそれが嫌なんです。だから、私の予言を信じて頂けませんか?2年待ってください。2年後の星降る夜の儀式の後の夜会に聖女は現れます。」とエルメラルダは真っすぐ王を見て語った。
【星降る夜の儀式:それは数年に一度、国に張り巡らされている結界の張り替えをする儀式、夜会は成功したお祝いに開かれる。】
「ふむ予言とな?2年後の星降る夜…確かに2年後に星降る夜の儀式が執り行われ、夜会を開く予定じゃ。王と王妃しか知らぬ秘密よ。ふむ、信じるには十分か。2年待とうではないか。じゃが、そちの安全を確保せねばならん。ワシが最も信頼を寄せる執事のオミドーをエルメラルダ嬢につけ…」と王が執事を指定しようとするとヒスイが「ダメです!!自分が!!自分が責任もって見ますから!!」と食い気味に言う。
「む?む…ソナタ、オミドーと何かあったのか?」と王はエルメラルダを怪しむように睨む。
「え!?いや…その…、オミドー様は初恋と言いますか何と言いますか…。」と慌てるエルメラルダ。
「初恋のぅ…はぁ、やむを得ん、ヒスイの影をつけさせろ。ヒスイにはオミドーをつけさせる。良いな?」と王。
「自分の影に…ですか。ふむ、良いでしょう。」と言えばヒスイ王子に絡みついていた魔法の拘束具がパッと外れた。それと同時に後ろから白衣を来た人が走ってきた。
「なっ!扉が…いや、そんな事より、アナスタリア様が重体です!!王妃様!お力添え頂けますでしょうか!」
「よろしい。参りましょう。ヒスイ、アナタ実の兄を殺すつもりですか!!後で説教です。そこにいなさい。」ととてつもなく厳しい顔つきでその場からワープするかのように消えてしまう王妃。
「ヒスイ、自分の兄を殺すか…。」と王は険しい顔をしていた。
「エルが誰かのものになるくらいなら世界を滅ぼしても良いと思ってます。」とヒスイは満面な笑みを浮かべる。
「ひぃっ!?」とエルメラルダはドン引く。
「やれやれ…どうしてこうなってしまったんだ。我が子は。」と王は頭を抱える。
「王妃様って聖女様なんですか?」とエルメラルダ。
「王には代々聖女の嫁が現れるんです。……丁度星降る夜の儀式後に。ですよね。父上。」とヒスイ。
「ぐぬぬ…代々の王にしか伝えられぬ禁書の内容を軽々しく話しよってからに。」と王は重い顔をする。
「ですから…防音魔法を張ってるじゃないですか。自分の声は父上とエルにしか聞こえません。」とヒスイは笑顔である。
「ぬ…ぐぬぬ…。いつの間に。」と気づけなかった事に驚く王。
パッと王妃が光の粒子と共に戻ってきた。先程まで金色だった王妃の髪色がやわらかなクリーム色に変化していた。光の粒子が消えると共に髪色も黒色に戻ってゆく。
「さて、ヒスイ。お説教の時間です。」と言って、王妃は再び髪色を変えて光の粒子の鎖をヒスイに向けて放つ。
「…お手を煩わせて申し訳ございませんでした。母上。」とヒスイは謝るが、怒りの笑みを浮かべる王妃。
この後3時間ほどヒスイは説教を受けるのであった。
ブクマとイイネが多かったのでイイネがつく間はなるべく毎日更新しようかと思いました。それくらいモチベになっています。ありがとうございます!!!
第一話にエルメラルダ・サルバトーレの髪色と瞳の色を追加しました。
真っ黒な髪色に紫色の目です。よろしくお願いします。