外伝⑳【完成された魔法】
「はっ…はっはっはっはっ!!」
高笑いをするクロエル。
エルメリーチェは魔力を出力することが出来ず焦る。「何をしたの?」とクロエルを睨んだ。
「木属性最大奥義を使っただけだが?お前は知らない。それぞれの属性に奥義のようなものがあるという事をな。」
「…禁書で読んだわ。」
「それは最大ではないという事だ。俺には長生きの友人がいてな。そいつに教わった。」
-それって…クルト様の事なの?でも、そんなはず…クルト様側は友達だと認識していないようだった…クルト様の他にも不老不死がいるって事?-
「貴方の言ってる友人は…クルト様なの?」
「ふむ。お前が負ければ教えてやろうと思ったが、その目は負けた目ではないな?」
エルメリーチェは自力で蔓をぶち破った。
-真実がどうであれ、私は18年間…ずっと鍛えてきたのよ。もう誰も、もう何も、もう失わない為に!!-
「私は負けない!!もう負けるわけにはいかない!!私が世界で一番に、いえ、最強になって大切な人達を守る!!」
エルメリーチェはクロエルに向かっていけば、クロエルは初めて殺気を出して氷の剣でエルメリーチェを切り裂いた。
エルメリーチェは即座に回復させて、同じように氷で剣を作りクロエルと剣で勝負する。
「はっ!どちらの氷が硬いかな?」
しかし、クロエルは剣をふると同時に魔法を繰り出して、確実にエルメリーチェを殺しにかかっていた。
エルメリーチェも負けずとクロエルに魔法をぶつけて、素早く剣で攻撃もした。
二人の戦いは3日間続いていた。
互いに何度も傷つき、何度も再生し、周辺の草木は枯れ、クレーターだらけとなる雷領。二人は無心で勝つ事だけを意識していた。右手には氷の剣を持ち、何度もぶつかり、相手の剣を折ろうとした。
そして、とうとう剣の破片が飛び散り、どちらかの剣が折れた。
「やはり、折れたか。」とクロエルの声が響いた。
折れたのはエルメリーチェの氷の剣だった。その瞬間、膝をついてしまった。剣が砕けると同時に心が砕かれたような感覚に陥ってしまう。
それもそうだ。クロエルが氷属性魔法でエルメリーチェを拘束すれば、もうエルメリーチェの負けだ。
クロエルは溶けない氷で十字架を作りエルメリーチェの体を空中に浮かし十字架に張りつけて拘束した。手足は凍らされてしまった。もうエルメリーチェにはどうする事もできない。
「よほど、ショックを受けているようだな?」
「どうして…、私は…。」
エルメリーチェはショックを隠せなかった。その瞬間ミナヅキの顔が浮かんだ。
『いかに孤独か…だよ』
-確かに…私には孤独が足りない。だけど、あの幽閉されていた1000年間は確かに孤独だった。-
「お前は一生俺には勝てないさ。その心臓に、魂に刻まれている。クルト・クラリアスの愛がな。」
「どういう意味よ…。もう私の負けなはずよ。どうやって殺すつもり?」
「その逆だ。」
「逆ですって?…貴方の意図がわからない。」
「わからなくて当然だ。」
クロエルは右手に虹色の光の粒子を纏わせて、エルメリーチェに手をかざした。すると虹色の光の粒子がサラサラとエルメリーチェに注がれていく。
「クッ…。」
-私はどうなってしまうの?-
「俺は一度、不老不死になってこの国を管理していた事がある。」
「なんですって!?」
「自分が不老不死になれば、聖女を降臨させずとも、国の平和も王族のメンツも保たれる。俺は平和を願った。だが、長い年月は俺を1人にした。最初の妻も子もいなかった。そもそも人を好きになれなかった。ヒトは欲望に満ちていて、ほしいものが手に入っても次から次へと要求していく…誰かの大切なものを奪い合う…。段々と俺はおかしくなっていった。そんな時、クルトと出会った。奴は何千年と独り雪山で生きていた。エルナザールの均等を保つ為に、妻も子も持たず、独りでずっとだ。」
エルメリーチェはクロエルの話を黙って聞いていた。何故なら、クロエルの魔法は生命エネルギーを使っていたからだ。使い続けるとクロエルは消えて無くなるだろう。それほどまでに、どうして不老不死の呪いをかけ続けるのかが謎だった。エルメリーチェ自体もどう動いて良いのか判断が全くつかないでいた。
「クルトは自身の中に自分の父親の生命粒子が残留していてな、子を持てば父の意識が入り苦労させてしまう事を恐れていた。そして、神の意志を継げば嫌でも、この星に尽くしたくなると言っていた。俺はその考えが欲しかった。得なければこの孤独と戦い続けるのは無理だと判断した。毎日クルトと酒を飲みながら言葉を交わした。俺達は互いに互いを理解し合える関係になった。クルトは、俺に継承を施した。クルトはずっと昔に初めて好意を持った女がいた。継承がどれほど害悪なものか俺に見てきて欲しいと。あの時、声をかけずに諦めた自分は正しかったのかどうかを確認したかったそうだ。」
エルメリーチェは少し不快な気分になった。クルトに別の女性の影が見えたからだ。
「どうだったの。」
「俺はクルトの判断が間違っていると言った。俺は継承を受けても苦に思わなかった。むしろ…クルトをより一層大切に思う事ができた。クルトも俺の言葉に、こんな俺を大切に思って…しまったんだ。」
「…もうやめましょう?…今なら間に合うから。」
クロエルの体が段々と薄くなってきていた。エルメリーチェは涙が溢れてきた。
「クルトは俺の未完成な不老不死の呪いを解いた。不老不死なんて…不幸でしかないと思っていたクルトらしい判断だった。俺は心の底からクルトに感謝した。やっと…死ねると安堵した。だが、コイツは…クルトはどうするんだと俺の中で罪悪感のようなものが生まれた。最愛の友を置いて死んでしまうのかと。だから俺は死ぬ間際に魂の離脱をして過去へ戻った。クルトが好意を持ったという女性を…いや、クルトの背中を押してやる為にな。だが結果はどうだ。背中を押したが…相手が未熟で弱くて…継承に耐えられず、自害してしまったんだ。世界の覇権をとれる才能があったというのに、」
「そんなっ…。」
-私だ…。-
「だから俺は、お前を死ねぬようにしなければならないのと同時に…強く育て上げなければならんかった。全て計算して今に至るわけだ…。」
-私だったんだ…。-
「もう…やめて…。」
-助けて…誰か…この人を…止めて。-
「安心しろ。もう終わる。」
「どうして、そこまでできるの?自分の命まで削って…。」
「俺を無限の苦しみから救ってくれたのは他でもないクルト・クラリアスだ。俺もアイツを救いたかった。それともう1つ。この国を救えるのはお前だけだ。」
冷やりとした風が吹いたかと思えばクルトが姿を現した。
「大馬鹿者。」
今にも消えそうなクロエルの体を抱きしめるクルト。
「ははっ…またそれか。」
クロエルは力なくクルトに体を預けた。
「……ありがとう。すまなかったな。」とクルト。
「すまんな。こんなやり方でしか…お前に恩を返せなかった。迷惑だったかもしれんがな。」
「いや、幸せになる。この先どんな結果になったとしても、俺は幸せだろう。」
「はっ…記憶もない癖に。」
クロエルは涙を流した。また、エルメリーチェもずっと涙を流していた。声を殺してひたすら泣いていた。
「リーチェを通して話は聞いていたが…。お前が本当の事を言っているという事だけはわかっている。リーチェに掛けられた魔法の日付を見るに…お前が背中を押したという日だろう。それと1つ訂正がしたい。恐らく、リーチェは自害を選ばない。強いからな。自害したとすればそれは…魔力共有相手の俺を殺すつもりだったんだろう。だが、当時の俺も未熟だったようだな。未完成だった。だから俺は生き続け、リーチェだけを死なせてしまった。1000年後の俺にはできたかもしれんがな。」
「はっ……似たような事を…して…いた…わけ…だな。俺達は…。」
クロエルの姿は虹色の粒子となってエルメリーチェに吸い込まれていった。




