外伝⑲【愚王】
エルメリーチェが雷領に張られている吹雪のバリアを自分の魔力として吸収していると、クロエルがとんでもないスピードで突進してきてエルメリーチェはバリアを張りつつ腕をクロスにして衝撃に耐えた。
クロエルの頭には王のみが被る事を許される王冠と手には王のみが持つことが許される杖を握りしめていた。王冠と杖には魔力を増幅する効果がある。
「そんなっ!!貴方が王になるのは、もう少し先のはず…っ!」
ズザーっと後退るエルメリーチェ。
「はっははは。凄い力だろう。驚いただろう?お前を仕留めるのには力が足りなかったからなぁ…現王を殺して奪ってきた。どうだ?似合っているだろう?」
「そんなっ!?ティファニール王を殺したですって!?」
ニタァっと笑って見せるクロエル。
「もう誰も俺には勝てまい。」
爆風を作り出しエルメリーチェに放つクロエル。しかし、エルメリーチェはその爆風を自分の魔力に変換して吸収した。
「なんだと!?」と焦るクロエル。
「私は…前と違うわ。もう…負けない!」
意思の強さが籠る目をしてクロエルを睨みつけるエルメリーチェ。
「俺も負けるわけには行かない。」
酷く歪んだ笑いをするクロエルだが、真っ直ぐとした瞳を持っていてエルメリーチェは不振に思う。
「クロエル様、貴方…どうしてそんなにも真っ直ぐな目をしていらっしゃるの?」
「はっ。さて、なんの事かな。」
クロエルは魔法を連発で打ち込む。それをエルメリーチェは全て吸収すれば皮膚のあちこちが切れてしまった。
「なっ!?」
エルメリーチェが驚いているとクロエルが「クックックック…。」と怪しく笑った。
「…分かってるわよ。オーバーしたのよね。」
エルメリーチェは自分の傷を治す。
「もう吸収はできないな?」
傷を治癒する暇すら与えまいと連続攻撃を繰り出すクロエル。どことなく真剣な顔だった。
-何?何なの?帝国の外で本気の戦争を経験したからわかる。前の時はわからなかったけど…、クロエルには殺気がない。-
「どーした?また攻撃をしないつもりか?」
エルメリーチェは負けずと攻撃するがクロエルはそれを上手く相殺し、より難解な魔法で攻撃を返してくる。良くもこんな事が思いつくなと思いながらエルメリーチェも魔法で相殺をし続け、なるべく大掛かりな魔法を使う。
クロエルは聖属性の鎖でエルメリーチェを拘束しようと魔法を放つが、エルメリーチェはそれを吸収して解いた。
-あの鎖は吸収して、他の吸収しなくても避けられるものは避けましょう。大丈夫。魔力が枯渇するなんて事、もう今の私にはありえないから。-
クロエルは左手に200%出力の火の魔力を灯し始めた。
-流石にあれをくらうと辛いわね。でも、聖属性以外なら水属性で相殺できるわ!!-
炎の球体がエルメリーチェを襲い、それを水の球体で防げば、クロエルが正面にいて、右手に虹色の炎を灯しており、一瞬の判断が遅れたエルメリーチェは心臓付近を強く押されてしまって、衝撃で「カハッ」と血を吐いてしまう。
素早く距離をとるクロエルは相も変わらず歪んだ笑みを浮かべている。
聖属性の治癒で肺を治療するエルメリーチェ。
「どういうつもり?私は既に不老不死よ!」
エルメリーチェは魔力の出力、虹の粒子を計算して、クロエルの魔法が不老不死の呪いをかける為の類だと一瞬で見抜いた。
「ほぅ。王宮の図書館に存在する本を全て読破したご令嬢は、とても物分かりが良い。」
「貴方の意図がわからない。何がしたいの?今の一瞬でも私を簡単に殺せたはず。死なないけど。貴方から殺気を感じられない。目的は何なの?」
「賢い君でも解けぬ問題を出してやろう。」
クロエルは氷属性の魔力を右手に灯した。出力は…300%だ。王冠や杖の効果を利用しても精々200%出るか出ないかだろう。しかし、クロエルは300%を叩きだした。これはつまり、クロエルが継承をしているという事だ。
「どうやって!?継承はどこでしたの?」
「知っているか?継承という下らん余興はクルト・クラリアスの血族にしかできないという事を。」
「クルト様から継承したっていうの?」
「教えてほしいか?」
クロエルは爆破魔法をエルメリーチェに仕掛ける。
「教える気…無いみたいね…。」
「お前が負ければ教えてやるさ、全てをな。」
「私はもう…負けない!!」
エルメリーチェはクロエルを異次元へ放り込もうとして全属性200%の魔力を出力して黒く禍々しい球体を作り上げる。
「危ない事をするな。それを使っても俺は出てこられるぞ。王冠と杖のおかげでな。」
エルメリーチェは球体を消してしまう。氷属性や聖属性を扱えるのなら、出来られる可能性は高いからだ。
「…貴方。本当に愚王なの?この世界に存在する魔法書を全て読破していないと扱えない魔法がいくつもあったわ。」
「ふむ、俺は一言も自分自身の事を愚王だと言った覚えはないぞ?俺こそが歴代を超える天才だと思っている。」
クロエルの言葉に目を大きく見開くエルメリーチェ。
-確かにそうだわ…。この人は自分で一言も自分が愚王だなんて言っていない。言っていたのは周り。何も知らない知ろうとしない周りだわ。-
「私の失言でした。クロエル様。」
「しかし、昔の君とは大きく違うな。力を得て自信がついたか?」
クロエルは話しながらも強烈な攻撃をエルメリーチェに放つ。
「記憶があるの!?」
エルメリーチェはクロエルの攻撃を相殺して、次の魔法を作り上げながら問う。
「負ければ全て答えてやろう。」
「だから!!私に呪いをかけた記憶があるのなら、私が死ねない事くらいわかるでしょう!?」
エルメリーチェは水と雷の球体を作り放った。クロエルは杖を振ってそれを消し去った。
「誰も死ねとは言っていない。負けろと言っている。」
-どういう事?何が狙いなの?-
クロエルは再び火と風を組み合わせた爆風をエルメリーチェに放ったかと思えば、即座に接近して心臓付近を強く押した。
「カハッ」と吐血するエルメリーチェ。距離をとるクロエル。
-さっきから何なの?この攻撃に何か意味があるの?-
「あのまま記憶を失っておれば良いものを…。」
「…魔法で操作したのね?」
「あれは良い実験になったな。」
「もしかして、貴方…私を操ろうって魂胆ね?」
「自意識過剰にも程がある。君のような人間をどうして、この天才である私が必要とする?あまりにも的外れな事を言うので驚いてしまったよ。」
クロエルが魔法攻撃を辞めた。
「…それもそうね。」
「理解が早くて助かるな。」
クロエルが杖をトンと地面に叩きつければ、エルメリーチェの足元に謎の緑色の植物の蔓が生えてエルメリーチェの足や腕や胴体に絡みつき動きを止めた。なんとか解こうと魔力吸収をするが全く吸収できず、解けもしない。
「そんなっ!?」
「さて、どうする?」
エルメリーチェは自身が火傷を負ってしまう事を覚悟で植物に火をつけて燃やし、火傷の苦痛に顔を歪めながら脱出に成功し、同じ技をクロエルにも仕掛ければクロエル自身も火傷を負い、癒す暇など与えないと言わんばかりにクロエルはエルメリーチェに殴りかかる。
「女性にはさぞ辛かろう?いつまでその苦痛に耐えられるかな?」
とてもゲスイ笑みをするクロエル。
何度も何度もぶつかり合い、殴り合い、わざと火傷のヶ所をしつこく狙い合い。
再び植物に体を拘束されてしまうエルメリーチェ。一度回復してから、また燃やして抜け出そうと考え、聖属性の魔力を出そうとすれば魔力が出なかった。
「…そんなっ!?」




