外伝⑯【氷の継承と神の記憶】
「やぁ。エルの末裔君。それともエルと呼ぶべきかな?魂は一緒だもんねぇ。」
暗闇の中、凄くテンションが高いみたいなクルトの声が鳴り響いて眉間に皺を寄せるエルメロイ。
視界は真っ暗闇だが、膝くらいまで髪を伸ばした綺麗になったクルトが空中に座っていて更に眉間に皺を寄せるエルメロイ。けれども見覚えがあった。何故なら創世記に出てくる王子が一人、氷属性の守護者ミナヅキだからだ。ミナヅキは桃色の羽織に白いタンクトップにジーンズといった訳の分からない姿をしている。ジーンズは未来からきた初代聖女に教わったものだ。
「ミナヅキ…。」
エルメロイの先祖【エル】は創世記時代の王子が一人だった。エルメロイとして生を受けたがクルトと出会い前世【エル】だった記憶が蘇るエルメロイにとってミナヅキは血を分けた弟であった。
「久しいねぇ…エル。調子はどうだい?」
ミナヅキは笑顔でとても明るくエルメロイに話しかける。
「生まれ変わって最悪さ。力は弱くなるし。」
「そうかい?7つの属性をその身に宿して、特化こそないが強くはなってるんじゃないかなぁ。ほら、ドーピングとかすれば、魔力を無尽蔵に生成する事ができるだろう?」
「その薬の作成方法はもう無い。ロストテクノロジーだ。それと、現在語り継がれる創世記には1つ謝りがある。」
「ほぅ。それはなんだい?」
「神の記憶をそれぞれが持っているという事だ。実際にはミナヅキ。お前しか持っていない。」
「へぇ~。皆が持ってる事になってるんだねぇ。だけど…持っていたらどうなるか、君は知っているかい?」
「それがお前の息子が言う継承に結び付いてる事なんだろう?」
「そうさ。おぞましいくらいに酷い悪夢さ。これを持てば氷属性を覚醒できるだろうね。初代聖女は元は未来から来た僕の遠い子孫でねぇ。もともと氷の力を持っていたのさ。だから代々の聖属性と交わると全属性開花するってギミックなんだけれども。」
「聞いていない。そんな事。早く継承を済ませて…ん?待て。今初代聖女が…あの時の娘がお前の遠い子孫とか言ったか?」
「あぁ言ったねぇ。」
「お前の娘の方か?息子の方か?」
「それがねぇ。さっきも遠いと言っただろう?答えはどちらもだよ。」
「待て待て待て…初代聖女になったあの時の娘の瞳の色は紫で髪は黒だった…。ちょっと待てマジで言ってるのか?どういう事だ?だったらあの時既に…リーチェの相手はクルトと決まってたって事か?」
「おや?何やら心当たりがあるようだねぇ。紫色の瞳は代々君の血筋だからねぇ。」
「訳がわからん。クロエルの行動もサルバトーレ家の行動も全て必然だったって事か?」
「僕は君が何を言っているのかわからないけれど、もしかして僕の息子の事を言っているのかい?」
「あぁ、そうだ。」
「遅かれ早かれ…、僕の息子は誰かと結ばれる運命なのさ。君も覚えてるだろう?子を作れと強く呪われた日の事を。僕らに属性魔力を与えるだけでなく、子孫繁栄までも使命とされ…皆、それぞれが子を作った。」
「不老不死…お前の息子の不老不死はどういうギミックだ?」
「ギミック?そんなものないさ。ただ、母親も父親も不老不死だったってだけさ。そもそも、どうして君は生まれ変わってるんだい?僕達みんな仲良く不老不死の呪いにかかってるじゃないか。」
「今、ミナヅキがこうして話をしているのと同じさ。俺もその時の幻影でしかない。」
「なるほど!納得したよ。さて世間話はここまでにして、継承に移ろうか。僕の息子が選んだ君へ、とっておきの昔話をするよ。」
ミナヅキの手のひらから冷たい風が吹いて、その瞬間体が暗闇に落ちていくエルメロイ。
神は唐突に生まれた。
神は元は地球人だった。神は帰りたかった。ただ、ひたすらに帰りたかった。神は想像すれば大体の物を生み出せた。しかし、地球を創り出す事はできなかった。
神は星を作り、大きくした。水や木や火山と地球にあったものを全て揃えてみた。
すると生命が誕生した。ゆっくりと着実に地球を模した世界が出来上がった。
それは長い長い長い時間の、孤独との戦いだった。話す相手もいない。誰もいない一人だけの世界。
気が遠くなるような時を過ごしていると、ヒトに近い何かが誕生していた。神は喜んだ。
しばらくヒトもどきを観察していたが全く人間になる気配がなかった。仕方がないのでソレに自分の子を作らせ、人間に近づけていった。
その子孫は人間のカタチをしっかりと保ってゆき、やがては人で溢れた。
そうして何年、何万年の時が過ぎて、神はとうとう自分の遠い子孫達に命を狙われて殺されてしまった。
神は自分で死ぬことが出来なかった。殺されたのではない、死を選んだのだ。
そうして神の長い長い旅路は終わりを迎えようとした、だけれども自分が長年かけたこの世界を滅ぼしたくはなかった。自分が死ぬことで世界のバランスが崩れてしまう事が分かり切っていた。
神は最後に丁度良い数の人間が近くにいたので、神の力を分け与えた。
そして神は本当の神となった。無敵の観察者となった。
エルメロイは長い長い時間を神と同化し永遠の時を見た。何倍にも濃縮された神の人生。
強い精神力が無ければ自分が神なような気がして神に浸食されてしまっただろう。
「なんだ…氷とは孤独の事だったのか。」
再び視界は暗転し、目の前にはミナヅキが存在するだけだった。
「そうさ、僕は少し浸食されてしまった。」
「確かにな。ミナヅキはあれから性格が独特になったというか、酔狂になったというかな。」
「僕には何もなかったからねぇ。自分というものがさ。」
少し切なげな顔をするミナヅキ。
「これで終わりか?」
「終わりだよ。さぁ、もう体が限界だろう。帰るといいさ。」
「またな。兄弟。」
エルメロイが挨拶すればミナヅキは少し寂しそうに微笑んで手を振った。
目を覚ますと体がとても怠い事に気が付いた。
(重たいな…いったいどうしたんだ?)
自分の手を見てみれば今にも白骨化してしまいそうなくらいにやせ細っていた。重たい体を起こして周辺を見渡せば恐ろしいほどの空き瓶が落ちていて、自分の生命維持に大量の薬が使われていたんだと察する。
自分だけでなく、隣で今にも衰弱死しそうになっているクルトもだ。
「なんて事だ。」
エルメロイはエルメリーチェが赤子の時に作ってあげていた、ミルク入り哺乳瓶を作りだして、クルトの口に突っ込んだ。
「飲め。いきなり固形物を食べれば腹を下す。」
エルメロイがそう言えばクルトは手を哺乳瓶に添えてコクコクと飲み始めた。
「どれくらい寝ていた?」
「丁度、1…年だ。遅…すぎだ。馬鹿者。」
掠れた声で返事をするクルト。
(まさか、継承がこれほど時間を有するものだったとは…。ヒスイは短時間で終わらせていたが、どうやったんだ?あの長い時間をどうやって短時間で終わらせる事ができた?天才は恐ろしいな。)
エルメロイはコップを創り出して、そこにミルクを満たしてから一気に飲み干した。
一方エルメリーチェはというと…。
みすぼらしいボロボロだった町を魔法で頑丈な要塞のようなカタチに作り替えて村人達から大きな支持を得ていた。村は今や大きな国となり、エルメリーチェは無から有を創り出す奇跡の錬金術師として崇められていた。
しかし、そんなエルメリーチェが邪魔だと思う国が現れ、国は日夜戦争状態が続いていた。
エルメリーチェは空を飛び、襲ってくる国を1人で殲滅した。
そして、多くの人間の命を奪ってしまった事に罪悪感を感じ、逃げ出してしまいたいという気持ちが日々募るのであった。
-私の旦那様は今どこにいるの?私をここから救い出して…。-
エルメリーチェは指輪にキスを落として涙を流すのであった。。
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