外伝⑨【魔力共有】
エルメリーチェは朝食後、地下にある図書室で勉強をしていた。しばらく勉強しているとコツコツと足音が響いた。エルメリーチェは足音のする方へ振り向けばエルメロイだった。
「リーチェ。ちょっといいか?」
エルメロイは階段の手摺に両肘をついた。
「はい。」
「調子は大丈夫か?お前、前に王宮の間で過呼吸になっただろ?だから心配でな。」
「あ。はい。そうですね。クルト様が近くにいると何故か落ち着いて平気でした。」
「なるほどな。恐らく魔力共有の効果だろうな。」
「魔力共有とはどういう呪術なのですか?」
エルメリーチェが質問すると、さらにコツコツと足音が聞こえてクルト・クラリアスが姿を現した。
「その説明は俺がする。個人差のある呪術だからな。」
クルトはエルメリーチェの隣に座った。
「防音魔法はかけられるか?コイツに弱みを握られるのは我慢ならん。俺の魔力を好きなだけ使え。」
「え、あ、はい。」
エルメリーチェは水・地・木属性の魔力を指に灯して防音魔法をかけた。これにより、クルトとエルメリーチェの会話はエルメロイには届かない。
「チッ。すっかり使いこなしやがって。」
エルメロイは少し拗ねて図書室から去って行った。
「俺とお前の間に結ばれている魔力共有だが、お前が死ねば俺も死ぬ。俺が死んでもお前は死なん。但し、おれはお前の掛かっている不老不死より更に上をいく不老不死だ。溶岩にぶち込まれたとしても死なん。」
クルトは至って真面目に真顔で話す。
「つまり、私が死ぬとダメって事なのですね。」
「あぁ。それから俺が死んでしまうと世界が崩壊する。俺には子がいないからな、氷属性をまともに扱える奴がいない。お前の不老不死は残念だが完璧ではないと見受ける。昨日、お前は溺死しかけたな。魔力共有によって、お前が死にかけると俺の体が強制的に救助へ向かう。俺はどら焼きという菓子を食べる最中だった。そこを…お前が邪魔した。」
エルメリーチェを鋭い目つきで睨むクルト。
-どら…焼き?さっきもそうだったけど、この人凄く食べるのが好き?邪魔したのは申し訳ない気がするけど…。でもどら焼きなら、私だって作れるわ。後で作って持っていけば許してもらえるかしら。-
「それはすみませんでした。これからは気を付けます。」
自分より食べ物を優先された事に少しシュンとするエルメリーチェ。
「あぁ。魔力とはそもそも魂に帰属する力だ。それを共有しているのだから、魂で俺とお前は繋がっている事になる。俺がお前に魔力共有を掛けるには条件がある。互いに好意があるという事だ。正直俺は昨日初めてお前と会った。未来の俺はどうだった。」
「好意…。未来では何度か国の式典でお見掛けしたくらいで、1000年後に初めて言葉を交わしたくらいです。」
「だろうな。俺がお前のような子供に好意を持つわけがない。だが、事実この呪術が成功しているという事は好意を持ったという事だな。それに俺が不利になる内容ばかりときている。頑固な程に強く結ばれているしな。五十に結ばれた紐に水をかけるだけでは飽き足らず凍らせて触れぬようにまでされている。」」
「そんなにですか!?」
「そんなにだ。俺は強く賢い女が好きだ。ヒスイを超えるくらいにな。」
そう言ってクルトは立ち上がってエルメリーチェの頭をポンっと軽く叩いて図書室から出て行った。
-え?今曾祖父様を超えろって?は?な、なんかとっても上からで腹が立つんですけど!!!-
エルメリーチェは怒ってはいたが…
-やってやろうじゃない。見てなさいよ!!!その仏頂面カチ割ってやる!!!世界を救うなんて似の次よ!!!-
燃えてもいた。
その晩、エルメリーチェは怒りながらもどら焼きを手作りして紙袋に詰めて、それを持ってクルトの部屋をコンコンとノックした。
「なんだ?」
直ぐにドアは開かれたがクルトは風呂上りなのか髪がべちょべちょで水が滴っていた。
-どうしてこの人いちいちドキドキさせてくるのよ!!!-
「これ、あの…私を引き上げてくれたお礼です。食べ損ねたって聞いたので。」
どら焼きが入った紙袋を押し付ける。
「なん…だと?」
クルトはどら焼きが入った紙袋を受け取った。匂いからしてお菓子だという事だけは理解していた。
「じゃ、じゃあ。おやすみなさい。」
エルメリーチェがくるっとクルトに背を向けて帰ろうとすれば後ろから片腕で抱きしめられるかのように引き止められて目を大きく見開いた。
「おい、待て。」
「へ!?///」
心臓がドキドキして顔も真っ赤になってしまうエルメリーチェ。
「乾かせ。」
「は?」
くるっと再び向き直った。エルメリーチェがクルトを見れば彼は至って真顔で、胸をときめかせている自分がアホらしくなった。
両手でパンっと音を鳴らせばクルトの髪は綺麗に乾いた。
「おやすみなさい!!」と怒りながらエルメリーチェは今度こそクルトに背を向けて自室へ戻る。
-覚えてなさいよ!!!絶対に見返してやるんだから!!!-
そんなエルメリーチェの後ろ姿を目を細め微笑みながら少しだけ見つめるクルト・クラリアス。
彼は部屋のドアをパタンと閉めて、さっそくどら焼きを食べようとすれば部屋の中にエルメロイが足を組んでベッドに座っていて机の上に紙袋をドサッと置いて溜息をつきながら椅子に座った。
「なんだ。何用だ。」
「家の中でイチャつかないで下さーい。」とエルメロイはジトーっとした目つきでクルトを見た。
「何の話だ。」
「またクールぶって。俺は世界最強の男の次に世界最強だと思ってる。その俺から見るに、リーチェの感情が伝わるようになってんじゃないの?その術。」
「知らん。何のことだ。」
「ふーん。言っとくけどアイツまだ9歳だぞ。ロリコン。」
「おい、調子にのるなよ。クソガキ。お前はそのうち世界最強の次の次の次になるだろうな。」
「今度、おはぎ作ってやろうか?クルト様。」とエルメロイは頬杖をついて少しニヤっとする。
「何?何が目的だ。」と面倒くさいと言わんばかりに溜息をついて、クルトの方も足を組んで頬杖をつついた。
「ヒスイに地球の料理を提供されてから、すっかり丸くなったなぁ。」
「いい加減に本題を話せ。お前が創世記の始祖が一人【エル】の生まれ変わりだからと言って俺は容赦せんぞ。」
「ただの雑談をしに来ただけだよ。未来で俺死んでるよなーっと思ってね。」と横目で端をみるエルメロイ。
「だろうな。ヒスイは死を選んだ。つまりお前は死んでいたという事だな。」
「俺が死ぬってあり得るか?」
「ありえないな。死ぬ前に、離脱するのだろう?」
「あぁ、そうだ。死ぬくらいなら離脱するだろうな。だから、クロエルを殺しておこうかと思うんだ。」
エルメロイは少しだけ遠い目をして天井を見る。
「間違いなく戦う事にはなるだろうが、今ではないだろうな。それに…お前では死ぬぞ。」
「あぁ、やっぱり?」
「分かり切った事だろう。クロエルはかなり力を蓄えている。例え寿命が削れていたとしてもな。」
「お前と会って創世記始祖が一人【エル】として覚醒したっていうのに全然力がつかねぇぜ。」
「そう考えると父上が一番利口だったのかもな。生まれ変わりは弱くなるだけだ。」
「そうかもな。」
クルトは先程机の上に置いた袋を開けてみればどら焼きが5つ入って無表情だが目を輝かせた。どら焼きを一つ取り出して食べてみれば、とても美味で無表情を貫きながらも内心美味しさを噛みしめる。
「結婚も良いかもしれんな。」
「お前それ絶対どら焼き食べたいだけだろ。」
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