外伝⑧【地球の料理は絶品だな。】
エルメリーチェは9歳になった。
日課の早朝ランニングが終わって食堂へ行けばエルメロイが食事を作って待っていた。そしてその隣には珍しくお客様が座っていた。
「おはようございます。叔父様、それから…。」
エルメリーチェはエルメロイの名前が長い事が不便で“叔父様”と呼ぶようになっていた。エルメリーチェがお客様の目を見れば目を瞑っていたのでなんと呼べばよいか分からず困っていた。
「おはよう。待っていたよ。座りなさい。」
和やかな雰囲気でエルメリーチェに着席を促すエルメロイは長かった髪の毛を肩くらいまで切っていた。しかも切ったのは昨日だ。昨日とんでもない事件が起きてしまった。
昨日はエルメリーチェが週に1度魔力を使い切る日だった。いつもは魔力を沢山使って美しい調度品やドレス等を作っていたが、昨日はエルメロイの指示で領地民の家の修理にほぼ全魔力を使った。
さらにエルメロイは魔力補給に聖属性魔力が強くなるといわれる聖水の滝にエルメリーチェを放り込んだ。言葉の通りエルメロイはエルメリーチェを放り込んだのだ。
ヘロヘロで体力のない状態で滝の中へ放り込まれてエルメリーチェは息も出来ず沈んでゆくのだった。
しかし、すぐにエルメリーチェは誰かに手首を掴まれて引き上げられた。手首を持たれたまま宙ぶらりんになってしまい、その誰かはエルメロイの長い髪を掴んで上へと引っ張った。
「おい、俺を殺す気か?」
滝の音が煩いというのに綺麗な重低音が響いた。
「ははっ。…お前まだそんな体力あんのかよ。」とエルメロイ。
氷で創られた大きな鎌がシュッとエルメロイを襲う。エルメロイはそれを避けるために体を捩らせれば髪の毛をバッサリ切られてしまった。
そしてエルメロイの長い髪を雑に袋に詰めて、エルメリーチェを上に一度振り上げてフワリとお姫様抱っこをしてみせる謎の男性。
エルメリーチェは見覚えがあった。何年経っても、いつどこで見ても絶対に見た目が変わらない。
水色の半オールバックに赤黒いタートルネック衣装。
「ク…ルト・クラリ…アス。」
途切れ途切れになりながら言葉を呟くエルメリーチェだが、ついに意識を飛ばしてしまった。
「酷いじゃないか。俺の髪を…。」
「丁度、サルバトーレ家の髪が切れてしまってな。ここへ来る時に最期の1本を使ってしまった。」
「その髪1本で4回はワープできるぞ。」
「早く家に連れていけ。」
クルト・クラリアスに指示されてエルメロイは3人一緒にサルバトーレ邸へワープ移動した。
クルト・クラリアスは聖水でびちょ濡れになっているエルメリーチェを見つめる。
エルメロイがエルメリーチェのつけている指輪を外し9歳の小さな姿に戻せばクルトの腕から落ちそうになり、それをエルメロイが受け止めた。
「おい、俺の腕を乾かせ。」
「人使いが荒いな。」と言いながらもパチンと指を鳴らしてクルトの赤黒い服を乾かした。
「やっぱりお前だったか。全然魔力感知できないから、まさかと思っていたがな。」
エルメロイはエルメリーチェを近くのソファーに寝かせた。
「魔力共有はただ魔力を共有しているだけではない。」
「わかっているさ。俺も共有しているからな。」
「嫁か?子供か?」
「言えるわけがないだろう。お前もそれが恐くて今の今まで名乗りでられなかったんだろ?日増しに強くなる魔力を常に管理してな。」
エルメロイは不敵な笑みを浮かべた。
「全く記憶にないがな。この魔法は魂に結び付く。未来か過去か。どこでどうなったというのだろうな。」
「未来で結婚でもしたんじゃないか?サルバトーレは次元を超えるからなぁ。」
エルメロイがそういえばビクリと大きな目を見開いて固まるクルト。
「……この俺が結婚だと?」
「可能性は十分にあるだろう。そういう為の呪術だ。開発時も命を狙われた妻を助ける為だったか?俺は詳しい話を何も聞いてないんだ。リーチェから。一回王宮で過呼吸になりやがって、相当なもん経験してんだなって思ってな。」
エルメロイは可哀想にとエルメリーチェの頭を撫でる。
「俺が聞く。それくらいの権利はあるだろう。俺の部屋を用意しろ。」
クルトは壁に持たれる。
「二階の好きな部屋を使え。ここの馬鹿でかい城には俺とエルメリーチェしかいないからな。それと、エルメリーチェはヒスイの曾孫らしいぞ。」
「は?」
そして翌日の朝。今に至る。エルメリーチェは着席する。
「クルト・クラリアスだ。氷領を担当している。クルトで良い。」
クルトは目を瞑りながら自己紹介をした。
「エルメリーチェ・サルバトーレです。よろしくお願いします。クルト様。」
実はエルメリーチェの中では不思議な感情が芽生えていた。クルトが近くにいる事で、とてつもない安心感に包まれるのだ。
「まずは朝食を頂こうか。」
エルメロイがそう言えばそれぞれは朝食を口にし始める。
音を立てないように食べなきゃとエルメリーチェは頭の中で唱えながら食べていた。クルトを意識してしまっての事だ。
-ど、どうして、この人がいるのかしら。それにさっきから心臓がドクドクいっててどうしたら良いの?-
「エルメリーチェ。」
ふいに名前を呼ばれてビクリと体を跳ねらせてしまうエルメリーチェ。
「ふぁいっ!!」
勢いよく盛大に変な声がでてしまう。その反応に目を見開いて驚いてしまうクルト。
「既に分かっているかと思うが俺とお前は魔力共有されている。お前の生い立ちを聞いても良いか?」
「えっと、はい。長くなりますが。」
「構わん。」
「私は、このサルバトーレ家に生まれて、物心ついた時には曾祖父に魔法を教わっていました。後でわかった事ですが、曾祖父と曾祖母が魂の離脱を行うのを手助けさせる為にです。私が9歳になった頃に魂の離脱により二人は亡くなりました。その後、女性は魔法を身に着けるべきでないと魔法を学べなくされ淑女のマナーのみ勉強して生きていました。お父様の用事で何度か王宮へ足を運んでいて、そこでロジェルという名前の王子様と出会って次第に恋に落ちました。両家から強い反対を受けましたがロジェル王子が聖女の呪いに打ち勝ってみせると誓い婚約をしました。でも、私が18歳になった頃にロジェル王子は聖女の呪いにあっさりとかかり、私と婚約破棄をなさいました。聖女はそれだけでは飽き足らず、私にも呪いをかけ自分やその周りをイジメるように仕向けたのです。最後にクロエル王の手によって不老不死の呪いをかけられて白い離塔へ幽閉されました。1000年後、曾祖父様と曾祖母様の生まれ変わりと名のる王族の二人の手によって塔から出されて、世界が崩壊しかかっているという事を知りました。ミドリ・サルバトーレとエルメライド・サルバトーレが私が幽閉された後に属性貴族のほとんどを殺してしまったからだと曾祖父様が仰っていました。私はその後、曾祖父様と曾祖母様とクルト様の膨大な魔力に包まれて魂の離脱をして過去へ、今に戻ってきました。」
エルメリーチェの話が終わればエルメロイがカチャンっと持っていたスプーンを落としてしまった。
「どういう事だ。どうしてそんな馬鹿な真似を。あのミドリが?何かの間違えじゃないのか?」
酷く動揺するエルメロイ。
「だからヒスイは狭間へ城事封印したのだろう。この地にはその痕跡があったからな。」
クルトはスープをすすった。
「そうか、そういう事か。全員か。ヒスイが最後に魂の離脱を、今頃に…。待てよ。クロエル…ロジェル…。なら、俺が王宮にいたのは、捕まっていたのか。ロジェルが誕生した祝いにと王宮へ行ったんだ。急に具合が悪くなってな。」
信じられないという顔をしてみせるエルメロイ。
「俺は暫らく、ここに滞在する必要があるな。」
クルトはナプキンで口を拭った。
「すまない。事が大きいだけに。」
「何を勘違いしている。料理が絶品だったからだ。食した事ない味だったからな。」
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