第四話【お料理ですわ!】
コソコソ、ヒソヒソとメイドや執事達、騎士達の間で噂になっていた。
「そうなのよ!あの第四王子が!」
「サルバトーレ侯爵令嬢に微笑むんですって!」
「とっても幸せそうなのよ!」
「今日は何をしてるのかしら。」
「今日は確かサルバトーレ侯爵令嬢がヒスイ殿下に料理を振る舞う日なんですって!!」
とメイド達が立ち話していると、遠くから新たなメイドが一人走ってきた。
「たたた、大変よ!!厨房から嗅いだこともないくらい、とんでもなく良い匂いが!!今大騒ぎになってて!」と立ち話をしている噂好きのメイド達に告げる。
「なんですって!!!」
メイドの団体は急いで厨房へ向かうのだった。
さて、厨房ではさっそくエルメラルダが取り寄せた材料で調味料を作ってから料理を作っていた。
「すみませんねぇ。大鍋で作らせてしまって。」とヒスイは少しだけ申し訳なさそうにしつつも新たに作られた調味料に興味津々といった感じでじっくり調味料が入った小瓶を見つめる。
ヒスイは超天才だ。だからこそ料理だって自分でできる。だけど調味料という発想は一切なかった。天才なのに。だけど、エルメラルダは超天才のヒスイを上回る発想を提示してくる。自分は世界をクリアしていると思っていたからこそ刺激的すぎてたまらないようだった。
「いえ、ここの食事では満足できなかったんで、ありがたいです。」と前世を思い出してしまってからというもの食事が喉を通り辛くなっていたエルメラルダは少し瘦せていた。エルメラルダの記憶もあるからこそ塩だけの味付けの食事に飽きてしまっていた。
「うう。。ずみ゛ま゛ぜん゛・・・。」と涙を流すのはコックのエドウィル。程よいマッチョに金髪碧眼のイケメンコック。必死にメモをとりながらエルメラルダの調理法を我が物にしようとしていた。
「まぁ、まぁ。泣かないで下さい。この国は発展途中なんです。これから学んでいけばいいんです。自分もつい最近まで国を発展させようなんて微塵も考えてなかったもので。」とヒスイは一応エドウィルを慰めた。
「どうして急に発展させようと思ったんです?」とエドウィルは涙を拭きながら問う。
「どうしてって…エルの為に・・・。」と口が勝手に動いて喋るのを止めたヒスイ。ふと口元を抑えた。
(自分はどうしてしまった?何で他人の為に。それは何千、何万回と考えて愚行という答えがでてたはずなのに。今自分はエルの為にって言った。どうして…どうして、いつものように寝ていられないのだろうか。それにエルの側を片時も離れたくない…これって…。)
「王子?」
ヒスイは早くも自分がエルメラルダに恋をしているかもしれないという事に気が付いた。エルメラルダには何不自由なく過ごしてほしいという気持ちから今の行動に繋がっているのかもしれないと瞬時に答えまでたどり着いた。そしてそれは出会ってエルメラルダが前世の記憶を取り戻した確信を持ったあの時から、本能的に独占欲が勝ち、素早く婚約までした。
座っていたヒスイは立ち上がってエルメラルダが立っているコンロ前へ行き、エルメラルダの肩に手をおいた。
「・・・エル、少し確認しても良いですか?」
「んー?」と味見をしながら味付けしていくエルメラルダ。
「自分は攻略最難関の不可能なキャラなんですよね?」
「うん。だって攻略サイトでも未実装?って書かれてたくらいだから誰も攻略できなかったはず。」
(ヒスイ王子って、どうしてそんな事気にするんだろ。)と考えてつつも作っていた牛乳で作ったスープが出来上がった。
「よし、できたよ!座って座って!」と笑みを浮かべるエルメラルダに少しキュンとしてしまうヒスイ。
ヒスイは少し顔を赤らめながら「あ、はい。」と返事をして席につく。
コックのエドウィル、それから廊下で覗いていたメイドや騎士や執事達も呼んで全員に料理を出すエルメラルダ。とても慣れた手際の良さだ。もともと大勢に食べさせる為につくったのか、お皿に料理を盛る時もルーティン作業のような速さで盛り付けていった。
「白いスープがシチューです。タマゴで包んであるのはオムライスです。ケチャップを上にかけてどうぞ!」と言ってオムライスと呼ばれるものの皿の隣に赤いドロっとした液体が小さなカップに入っていた。
皆はシチューからスプーンですくって一口。まるで着ている服がはじけ飛んでしまうかのようなくらいの爆発的な旨さが口の中に広がったようだ。ガツガツと食べ始めるみんな。
「お゛でい゛ぎでる゛意味あ゛り゛ま゛ずが?」と鼻水を垂らし泣きながら話すエドウィル。せっかくのイケメンが台無しだ。
「あります、あります。次からはこれをアンタが作るんです。」とヒスイが再び慰める。これは流石にかわいそうだと超天才であるヒスイは悟り、心のケアをする。
「王子~~~!!」と泣きじゃくるエドウィル。
「沢山できるだけレシピをお渡ししますから頑張ってください。」と言ってエルメラルダは羊皮紙で作られたレシピノートをエドウィルに渡した。
「エルメラルダ様は・・・女神ですね。」と瞳をうるわせるエドウィル。
ガタンと影を落とした顔のヒスイが立ち上がった。そしてエルメラルダの胸倉を掴んで引き寄せ、強引にエルメラルダの唇に自分の唇を押し当てた。
周りから「キャーーーー!!」という悲鳴が聞こえた。
ゆっくりと唇を離したが、名残惜しく思い、もう一当てしようとすれば手が挟まった。
「王子・・・人前です。」と声を震わせながら真っ赤な顔をして言うエルメラルダ。
パッと手を離して、椅子に座り、再びシチューをすすった。
「すみません、あまりの美味しさについ・・・。」と目元に影を落とすヒスイ。
「え?あぁ!海外の挨拶みたいなものね!なるほど!」と手で顔を仰ぎながら座るエルメラルダ。
ヒスイは完食した後、公務を理由に早めに部屋に帰った。公務などここ数年まともにやった事等なかった。
何事にもやる気がなく、何を食べても興味が湧かず、今日まで何もしてこなかった。
ところが一人の元第一王子のストーカーと出会って人生が180度変わって・・・山ってこんなに綺麗だっけ・・・空ってこんなに青かったっけ・・・人に色ってついてたっけ・・・といった具合に全てに色を持ち出した。こんな表現は主に恋愛小説に多くて、つまり間違えなくこれは恋。
早々に攻略されてしまった?…でも、あの様子じゃエルメラルダはそこまで自分の事が好きじゃない・・・どうすればエルメラルダを落とせる?等とヒスイは悶々と一人、自室で考えていた。
一方、厨房に取り残されているエルメラルダはメイドや執事や騎士等から質問攻めにあっていた。
「エルメラルダ様!!あの第四王子様とはどのようにして婚約まで至ったのでしょう?」とメイドが興奮気味にエルメラルダに寄っていた。
「こら!そんな聞き方エルメルダ様に無礼です!」と怒りつつもチラリとエルメラルダを横目でみるメイド長。
「たまたま・・・第一王子様の開くお茶会へ行こうとした時に、倒れてしまって…、そこに偶然通りかかった第四王子様に助けて頂きました。そこからでしょうか…。」とエルメラルダ。
「きっと殿下の一目惚れだったのね!!」とメイド達が騒ぐ。
「そんな事より、料理についてもっと教えてくれ!!納品された食材の使い方も!!」とメイド達を押しのけてコックのエドウィルが目を輝かせて入ってきた。
「はい!」
エルメラルダはしばらくエドウィルに料理をみっちりと教えるのだった。
コンコンと第四王子の部屋がノックされる。
「どうぞ。」と返事が来たので中に入るエルメラルダ。
明かりもつけずに端っこの窓際で力なくうなだれているヒスイを見てギョッとするエルメラルダ。
「ディナーをお持ちしました。一緒にどうですか?」
「頂きます。」と力なくうなだれたままのヒスイ。
「どうしたんですか?昼間の口付けを後悔なさっているのですか?」
「いえ、それに関してむしろ・・・。エル、こっちへ。」と力なくエルメラルダを見るヒスイ。
エルメラルダは心配になってヒスイに近寄った。するとエルメラルダはまた胸倉を掴まれて後頭部を抑え込まれてキスをされてしまう。
「んんっ!!///…んっ…んふっ…んんっ///…ぷはっ!!!長いわっ!!!」とツッコミを入れて離れるエルメラルダ。ここが乙女ゲームの中だと思って行動しているエルメラルダにとってキスとかあって当たり前の存在で心臓はもちろんドキドキしているが、そこまで気にする事でもなかった。
「もう逃がさない…。」といってエルメラルダの肩をガシっと掴むヒスイ。
「こっ・・・こわっ!!第四王子まさかのメンヘラ!?いや、ヤンデレ?」と言ってオロオロしているとヒスイはエルメラルダを掴んでいた手を離してから、スッと立ち上がって、部屋の隅にある箱をガサガサと漁りだした。
「イテッ。」と一声あげて一瞬親指をみつめるが、すぐにガサガサと何かを探す事を続行し、ようやく探し終えたようでエルメラルダの元へ帰ってきた。
「何を探して…。」と言葉を発すればガチャンと音がして同時にエルメラルダは手首に冷たく重いものがかせられた事に気が付いた。
「あーあー…血がでちゃった。エル、口をあけて。」
「は?」とあまりの現状に頭が理解できずポカンと口をあけてしまうエルメラルダの口に先程切れてしまった右手親指の血を舌に塗る。
「あ゛・・・。」と女性らしからぬ声を出してしまうエルメラルダ。
「あぁ…///自分の血を…飲んでください…///」と怪しくも恍惚に笑うヒスイ。口の中に入れた親指でエルメラルダの口内を愛おしくなぞる。口を閉じるわけにもいかないエルメラルダの口からダラリと涎が垂れてしまいそれをベロリとヒスイは舐め上げる。
親指を口から抜けばプルプルと小刻みに震え、俯くエルメラルダ。
「どうしました?」
「どうしました?…じゃないでしょうが!!ご飯が冷めるってば!!逃げも隠れもしないから食べて!」
「…え、あ…え?あ、はい。」と同様するヒスイ。それもそのはずだ、今さっきキスをして手錠をかけ口の中に指を突っ込んだのだ。そこまでしたのにご飯が冷めると怒られた。通常人間がとるであろう行動からかけ離れた返しに自分がひるんでしまった。
「明かりもつけて。」と言われれば「はい。」と返事をして魔法で明かりを灯して部屋を明るくする。
エルメラルダはとても怒っていた。それに何故か脅えてしまうヒスイ。
メイドに食事の用意を整えさせて、手錠付きのエルメラルダとヒスイは席に座った。
「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」と冷静に真顔で質問をするエルメラルダ。
「はい。」
「何故手錠を?」
「…もう誰の目にも触れさせたくなくて…閉じ込めてしまおうかと。」
「はぁ……一体私のどこにそんな魅力が…あ…現代チート…。なるほど。王子は監禁が趣味なのですか?」
「…いえ、そんなはずは…。」
「なら、この手錠はなんですか?…頑張って答えてください。天才でしょう?」
「それは…もう逃がしたくなくて…ずっと隣に置いておきたくて…。」
「まさか…第四王子がこんな感じだなんて…。」と目を閉じてヤレヤレといった感じで左右に首をふるエルメラルダ。
「すみません…。」ヒスイはエルメラルダをガッカリさせてしまったかと思いシュンとしてしまう。
「ヒスイ王子、もっと面白い景色みたくないですか?」とエルメラルダに言われて、幻滅されたと思い落ち込んでいたヒスイは目を大きく見開いた。
「はい?」
「私ならお見せできます。最初はせっかく転生したし別の人を攻略してやろうかと思ってましたけど、バッドエンドしかクリアできなかったヒスイ王子をとことん攻略してやりたくなりました。」と、とても挑戦的な目でヒスイを見つめるエルメラルダ。
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