外伝③【崩壊する世界から過去へ】
フカフカなベッド。少しだけ見覚えのある天井に恐怖するエルメリーチェ。フラッシュバックのように、聖女に操られていた時の良くない部分のみが脳裏に浮かぶのだ。
「リーチェ。ここはリーチェにとって、良くないのかもしれないわね。」と恐怖に身を震わせるエルメリーチェを抱きしめて涙ぐむ女性。
「あの…わた…し。」と声が出せるようになったエルメリーチェは驚いて喉を触った。
すると女性の後ろから男性が出てきた。
「リーチェ。良く聞いて下さい。自分はヒスイ・エルナザール。リーチェの曾祖父の生まれ変わりです。血縁上全くの赤の他人となってしまいましたが、心は…魂は本物です。可愛いリーチェ。」と目を細めて愛おしくエルメリーチェを見つめるヒスイ。
「私はリーチェの曾祖母の生まれ変わりになるわ。覚えてる?エルメラルダよ。私もヒスイも生まれ変わったせいで以前のような力が全くなくて…可愛いリーチェを助ける為にこんなにも長い時間がかかってしまったの。」と申し訳なさそうな顔をするエルメラルダ。
「リーチェ、もう言葉は理解できますか?」とヒスイ。
エルメリーチェはコクリと頷いた。何故だか長い時を過ごしたというのに塔に入れられたのが昨日の事のように記憶が少しずつ蘇って馴染んでゆくのを感じるエルメリーチェ。ずっと曾祖母のエルメラルダが金色の光をエルメリーチェに送り続けており、これのおかげだと勘で確信するエルメリーチェ。
「今、外はとても良くない世界になっています。リーチェは伝説の悪女として名を残したままです。自分の息子と孫が…つまり、リーチェの祖父と父親がですね。リーチェが幽閉された後、謀反を起こしまして、大量虐殺の上、僅かな貴族しか残らなかったんです。つまりそれはこの国の秩序を守らんとする儀式だったり結界だったりが上手く張れる状況にないという事です。」と難しい話をするヒスイ。
「待って下さい、曾祖父様・・・言ってる意味が分かりません。」と酷く困惑するエルメリーチェ。
「そうね。この世界には8つの属性魔力が存在するでしょう?リーチェや私達の生前は雷属性を得意とする筆頭貴族だったわね。数年に1度【星降る夜の儀式】と言って、国全体への結界と世界のバランスをとる為の儀式によって、この星は保たれていたの。それが今、力が足りなくて難しくなってるの。」と優しく微笑みながら説明するエルメラルダ。
「え…あの儀式が難しいってどういう事ですか?だって、あれはとても簡単で…ただ魔力を城へ向けて放つだけでしたよね?」とエルメリーチェ。
「えぇ。でもね。さっき曾祖父様が言った通り、1000年前に…リーチェが幽閉された後の謀反で力ある者は、殆ど殺されてしまったの。だからね、もうこの星は崩壊しかけているの。」と悲し気な顔をするエルメラルダ。
それを聞いて目を大きく見開き、絶望するエルメリーチェ。
エルメリーチェの頭の中はとんでもない事になっていた。幽閉されてから1000年経っている。星が崩壊しかけている。幽閉された後でサルバトーレ家が謀反を起こした。
どこに感情を向ければ良いのかパニックになっている状態だ。
コンコンと部屋をノックされて、曾祖父様が「はいれ。」と言えば、とっても見覚えのある人が入ってきた。
水色の髪の毛に水色の瞳。恐らく氷属性の魔力が強いのであろう。髪や瞳に属性の色が出るのは、それだけ強いという事なのだ。
「え?でも…まさか…氷属性の…辺境伯様?」と言葉途切れになりながらも恐る恐る聞くエルメリーチェ。
「あぁ、そうだ。久しいな。ヒスイが老いぼれになったくらいに一度会ったな。」と言って壁に持たれて目を瞑る辺境伯。
「リーチェ、彼も不老不死。リーチェと同じ不老不死なんだ。」とヒスイ。
「辺境伯様も呪いを?」と悲しげな顔をするエルメリーチェ。
「…祖先から受けた血の呪いだ。この星が生まれた創世記の真実を、絶やさぬ為のな。だが、もう終わりだ。ヒヨッコに託すしか今を変えれんとは。」と深い溜息をつく辺境伯。
「可愛いリーチェをヒヨッコ呼ばわりしないで下さい。クルトがあっと驚くような自分を超える強いレディーになりますから。」と言ってヒスイは辺境伯を拗ねたような顔で睨む。
「ほぅ…それは楽しみだ。」と言って薄っすら微笑む辺境伯。その時、エルメリーチェの胸がトクンとトキメク。その瞬間から辺境伯が格好良く見えてしまうエルメリーチェ。
「もう時間がありませんね。リーチェ、これを。」と言ってヒスイはエルメリーチェに虹色の真珠のような玉を渡す。
「これは何ですか?」と首を傾げるエルメリーチェ。
「過去へ戻ったら…ヒスイ・サルバトーレに渡して下さい。出会うだけで良いです。勝手に体から放出されるように組み込みます。」と言ってヒスイは真珠をエルメリーチェの体の中に埋め込んだ。
「待って下さい。過去って何ですか?何の事ですか?」と不安な顔をして脅えるエルメリーチェ。
「時間がありません…リーチェ。ここ以外はもう何も無いんです。」と切なそうな顔をするヒスイ。
「リーチェ、サルバトーレには古くから【雷 その身に宿す時 時空へ旅立たん】という言い伝えがあるの…それで今からリーチェの魂を過去に…。」と何か言いにくそうな顔をして顔を逸らすエルメラルダ。
「ま、血縁者は言いにくいだろうな。エルメリーチェ・サルバトーレ。お前は今から過去へ移される。…お前が血縁者を救いたいと思うのなら救ってやれ。後、そうだな。呪いが魂に刻まれているせいで成人後からは歳をとれないと思っていい。」と辺境伯はじっとエルメリーチェの瞳を見つめて言う。
とても良くない事を言われているのはわかっているのだけれども、邪な感情が心を支配して何をどうして良いのか感情がぐちゃぐちゃで固まってしまうエルメリーチェ。
「リーチェ…。」と言って心配そうにエルメリーチェの手を握るエルメラルダ。
「私…。」と、つい俯いてしまうエルメリーチェ。辺境伯はエルメリーチェに近づいてクイッと顎を持った。
「ふむ、魔法の才があったにも関わらず、両親はお前を甘やかして育てたようだな。そこの曾祖父母共も同罪だ。全く。やっと1000年経ったというのに、可哀想にな。」と辺境伯は手を離して、エルメリーチェの頭を撫でた。それがとても心地よくて…ずっと撫でて欲しいと思ってしまった。
「始めるか。」と辺境伯が言えばヒスイがエルメラルダの右肩に手を置いて魔力をエルメラルダに送り始めた。
辺境伯もエルメラルダの肩に手を置いて魔力を送り始める。エルメラルダはエルメリーチェの手を握る。
段々と眩い光が発生して目を開けていられないほどとなった。
そして…自由になった。
真っ暗な闇の中に金色のキラキラしたレールがあり、その上をフワフワと浮かびながら進んでいくエルメリーチェ。
体が馬鹿みたいに軽くて、自分が鳥の羽にでもなったかのような感覚になるエルメリーチェは、あんな土壇場で…辺境伯にあんな思いを抱いてしまうなんて…と少し反省する。
1000年後のあの人たちは大丈夫なのか、曾祖父様だと言われても見た目が若いから全く実感わかなかった、色々と頭を廻るが、曾祖母エルメラルダの優しい光だけは覚えていた。昔エルメリーチェがこけて怪我をした時にエルメラルダが「内緒よ。」と言って聖属性の魔法で怪我を治してくれたという思い出がある。その記憶があった為疑わずに話を聞いていたエルメリーチェ。
(過去って…どの時点に戻されるの?それに曾祖父が亡くなったのは確か・・・私が9歳の時とかだったはず・・・。てことは9歳に戻されるって事?…だとしたら戻ったら王宮には絶対近寄らないようにしないと・・・。)
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