第二話【王命は絶対です。】
「ん?」と令嬢の奇行に流石のヒスイも眉間に皺を寄せてしまう。
「なななななな!!!緑!?外人!?どこ…日本語?どこ?何語!?え?」と更なる奇行を重ねる令嬢。頭を抱えたり耳を抑えたり百面相したりと忙しそうだ。
「落ち着いて下さい。落ち着いて。自分がどこの誰かわかりますか?」
「……名前…名前?あれ?出てこない…。名前…私…だれ?私…サルバトーレ…そう…サルバトーレ家の長女エルメラルダ・サルバトーレ…なの?」と自分の記憶をなんとか思い出す。
「そうです。サルバトーレ侯爵令嬢。」
(そうだ…私サルバトーレ家の侯爵令嬢で…エルメラル…ダ…?え?え?え?え?エルメラルダ!?エルメラルダって乙女ゲーム【麗しき王国の麗しき人々】略してウルコクの第一王子に纏わりつく悪役令嬢のエルメラルダ・サルバトーレって事!?……だよね。小さい頃からの記憶も、癇癪起こして色んな人に迷惑かけてる記憶も…全部ある。)
エルメラルダの記憶はそれだけではなかった。なんとヒスイとぶつかって寝込んでる間に前世の記憶も思い出してしまったのだ。
「…貴方は?…いや、貴方は第四王子のヒスイ王子ですか?」
「そうです。」とヒスイに答えられてエルメラルダは目を大きく見開いてしまった。
「すみません…鏡を貸して頂けないでしょうか…。」
ヒスイがチラリと目を控えていたメイドと合わせれば、メイドはそそくさと部屋を出て、すぐに鏡を持って帰ってきてエルメラルダに差し出した。
令嬢はそれを受け取り、恐る恐る鏡をのぞいた。
「ヒィッ!?」と言って再びベッドに倒れ込んでしまった。
また夜になって目を覚ました令嬢。
(見知らぬ天井…。)とボーっとしているとヒスイの顔が視界を埋める。
「…いい加減に気絶するのやめてもらえませんか。」
「すみません…。私もどうしていいやら…。」
「んー………。人格が完全に変わってますね。どうやって直せばいいんだ?これ…。」
「人格…あぁ!すっかり忘れていましたわ…。そういえば…そういう世界でしたわね…。」とエルメラルダは今更だけど怪しまれないように言葉を取り繕う。
「顔色が青すぎるなぁー…。熱があるってわけでもなさそうですね。吐き気や頭痛は?」とヒスイが問えば首を左右に振るエルメラルダ。
「他におかしなところは?あるでしょう?何でも信じてあげますから正直に話してみてください。」とヒスイは自分で言っておきながら少し面倒くさそうに眼をジトーっとさせてエルメラルダを見る。
(どうしよう…ヒスイ王子の攻略は何度かはやってみた。だけど全てBADエンドで、喜びそうな答えだとか喋り方だとか全くわからない。誰も攻略できてないから攻略サイトにも情報無し。そんな相手に何て言えば…一か八か正直に話してしまおう。天才だから理解できるかもしれない。)と考えたエルメラルダは「実は…前世の記憶が戻ってしまったんです。」と正直に話した。
「ん?興味深い話ですね。」と言いながらヒスイはメイドと目を合わせた。メイドは部屋の外へ出て行ってしまった。変わりにヒスイの影が部屋の中に入った。
「よろしければお聞かせ願えますか?」
「…いいんですか?」
「何をしてても退屈なんで、ただの自分の暇つぶしですよ。」と目元を一瞬暗くするヒスイ。
「えっとですね。今の世界より、科学的というか技術的にも発展してる世界に住んでいました。未来…というわけではなさそうです。地形が全然違うので。地球という丸くて青い星に住んでいました。」
「星……貴女はこの今住んでいる世界が円形だと思っているという事ですか?」
「円形?…球体じゃないですか?」
「球体…そうか!球体か!!ハッハッハッハッ!」と今までの謎が解けて面白くなってしまったヒスイは大声を出してわらった。ヒスイは魔法で空を飛んだ時に球体だと確信していた。だけどそれを証明できる人が自分しかいないので証明を諦めていた。魔法を駆使して空を飛べる人はこの世にただ一人超天才のヒスイしかいないからだ。ちなみにテレポートはちらほら使える人はいる。
「日本という国で…両親が早くに亡くなってしまったから、弟を養う為にずっと働いていました。ですがそんな私の一番の楽しみが、【麗しき王国の麗しき人々】…略してウルコクっていう乙女ゲームで…それが…この世界ってわけなんですが…。」
「ストップ。乙女ゲームって何ですか?」
「乙女ゲームっていうのは、ヒロイン、つまり女性の主人公がいて、用意された複数の男性を攻略していくゲームなんです。色んなエンディングがあって、バッドエンド ノーマルエンド ハッピーエンド ラブラブエンド の4種類。ウルコクは総勢15人の攻略対象がいるんです。主人公は選択肢を選んで好みの男性と恋していくというか籠絡していく?みたいな感じです!!」
「15人?みたいな感じ………ちなみに攻略対象者の名前は覚えてますか?」
「もちろんです!!とにかく優しい爽やかアナスタリア王子、体力馬鹿でとにかく熱いハルク王子、女たらしだけど実は裏で色々と動いているミロード王子、攻略最難関不可能ともいわれてる超天才児ヒスイ王子、見た目だけ可愛い腹黒ヤンデレ ティファニール王子、お堅い系真面目王国騎士のディール、年上萌えの王国騎士団長グランドリヒ、メイド長の娘として働く実は男のメイドのマリア、優しい王宮コックのエドウィル、お堅い系で几帳面で真面目執事のダリ、表面は穏やかでいつもニコニコだけど、裏ではやんわりドSでちゃんとしっかり主人公の事を見てくれていて、いつも主人公を見る時の目は穏やかで心底愛してるんだろうなって分かる執事のオミドー、次期王の宰相候補大人の魅力満載のキュール、庭師だけどは実は王宮の神官様のハリル、褐色に白髪で超筋肉を持つ隣国の王子ミッドウィルド、主人公の幼馴染のウリュウは実は王宮魔法士で溺愛系。以上になります。」
「特になんらかの設定が加わってない人物は攻略してないっていう感じですかね。」
「ギクッ∑総勢15人もいるんですよ!?それに難しいキャラも多くてですね…。一応ヒスイ王子以外の全員クリアはしてます。」
「執事のオミドーは何回攻略したんです?」
「そりゃぁもう全クリして気のすむまで…」と令嬢が言えばヒスイは影と目を合わせた。影がパッと消えて変わりに少し汗をかいた執事のオミドーが入ってきた。
「呼びましたか?第四王子殿下。」とオミドー。
「ひゃっ!待って!?この声っ!!!あっ!!むりぃぃぃぃぃ…///」と言って真っ赤な顔をして再びベッドに倒れ込む令嬢。
「彼女、3日間寝込んでて何も食べてないんですよ。栄養たっぷりのスープを用意してくれませんか。」とヒスイが言えばオミドー「畏まりました。」と頭を下げて部屋を出て行った。
ベッドの上で悶絶する令嬢を見て自然と笑顔がこぼれるヒスイ。
「で?自分はどうして攻略してくれなかったんですか?」
「攻略最難関で不可能って言ったじゃないですか!恐らく、用意された選択肢を全て正解してもダメなんです。全員の好感度を上げて、全員に好かれつつの攻略が必要なんじゃないかなって…。バッドエンドは何回もみた事ありますよ。」
「バッドエンドってどんなエンドですか?」
「第四王子が高い塔の窓から転落死しちゃうんです。これほど悲しいバッドエンドはないでしょ…。他の攻略キャラは死ぬなんて事なかったのに。」
「うわ、やりそー・・・退屈すぎて。」と遠い目をして半笑いのヒスイ。
「ヒィィっ!!」とドン引くエルメラルダ。
「で、ヒロインとやらはいつ頃現れるんですか?」
「主人公は下町にいます。後に聖女としての能力が覚醒して王宮に来るかと思いますけど、今って王子様は何歳ですか?」
「18です。」
「18!?では…2年後ですね。ていうかよりにもよってどうしてエルメラルダに…第一王子に強引に迫るメンヘラ令嬢じゃん…。」
「ぶはっ!!ふっはははっ!!自分の事メンヘラ令嬢って!あっはははっ!!」
コンコンとドアをノックして入ってきたのは執事のオミドーだ。
「スープのご用意ができました。」
「すまない。令嬢は非常に弱っている、食べさせてやってくれないか?」
「畏まりました。」と礼をしてさっそく食べさせる用意をするオミドー。
「えっ!?ちょっ!!王子様!?」と慌てふためくエルメラルダ。
執事のオミドーがスープを飲ませてるうちに大量の鼻血を吹いて倒れてしまったエルメラルダを、さらに看病するヒスイ王子であった。
「オミドーは堪能していただけましたか?」
「もうお腹いっぱいです。後、自分で食べられます。」とヘトヘトになってぐったりとベッドに横たわるエルメラルダ。
「…自分を攻略してみませんか?」と稀にもない笑みを浮かべて提案するヒスイ王子。
その言葉とヒスイの笑みを見て大きな目を見開いてガバっと勢いよく起き上がるエルメラルダ。
「は?……む、む、む、む、無理です!!無理無理無理無理!!何回チャレンジしたと思ってるんですか!!死んじゃいます…それに私は…ヒロインをイジメる悪役令嬢ですし…。」
「悪役令嬢?…ふむ。ヒロインをイジメる…でもイジメる気ないんでしょう?」とキョトンとした顔で首を傾げるヒスイ。
「なくてもですよ!?色々でっち上げられるんですよ。運命の強制力ってやつとかで!!」
「物語の見すぎじゃないですか?」とジト目でエルメラルダを見る王子。
「確かにそうかもしれません…。でも、私…これからどうしましょう…。ヒロインと関わらない為に国外に逃げようかな…。ハハッ。」と、とてつもなく遠い目をしながら国外逃亡作戦を頭に描く。
「は?国外?なら、王命です。自分を攻略しろ。」と、とても威圧的に命令するヒスイ王子。
「へ?」
エルメラルダはポカンとした顔をする。いったいこの王子は何を言っているんだ?あれほど死んでしまうと言っているのに。成功した事もない事をしろだなんて…馬鹿なんじゃないだろうかと考えていた。
こうしてエルメラルダ・サルバトーレは逃げる前に王命で第四王子ヒスイと強制的に婚約させられるのであった。
「待って!!せめてオミドー様を!!!オミドーさまあああああああああああ!!!!」
早速のブクマありがとうございまあああああす!!アナタのブクマといいねがこの物語を最終回へと導いてくれます。コロナで高熱で寝込んでる6日間の時に書きました。まぁ、ぶっちゃけ願望なんですが、作者はあのVRMMOかと思いきや現実っぽいかもしれないメタバースの【 RealSocialGame】を書いた人です。わかりますか?ラストがどうなるか予想できますか?そうです。とんでもない事になるかもしれませんとだけ言っておきます。