2-21 祭りの前日
少し遅くなってすいません。
翌日、いつも通り俺・シルフ・セレン・チルさんの4人で朝から採集に向かう。身体強化を覚えて無意識に使うようになったからかセレンはいつもよりも元気そうだ。
「私も魔物を倒せるようになるでしょうか?」
俺が近くに来た猿を倒したのを見てセレンが声をかけてくる。
「もちろん、シルフだってセレンと同じように素振りから初めて今ではゴブリンや猿くらいなら1対1で倒せるようになったから、訓練を続けていればできるようになるよ」
そう話すとセレンは嬉しそうにして「頑張りますわ!」と言って採集に戻る。シルフの近くに行って話しかけている。シルフが手をパタパタしてるので今の話の続きでシルフを褒めているのかもしれない。会話は聞こえないが。
俺はそんな二人を遠めに見ながら先ほど狩った猿を魔法で燃やす。魔物の処理や時間をかけて森に入る時などは肉を焼いて食べたりもできそうだしやはり火の魔法は素晴らしい。あとはこれをどれくらい攻撃に使えるかだな。魔物って火を怖がったりするのかな。
昼頃に採集を終えて戻ると街は人が多く賑わっていた。
「節末祭って明日じゃないの?」
「今日も行われておりますが他の街では1日だけですの?」
「リアンクルでも節末祭自体は1日だけなのですが・・・」
俺の疑問にセレンが答えてくれてチルさんが捕捉してくれる。
リアンクルでも節末祭は節末日の1日だけだったのだが、武闘祭の為に街を離れている者が街に戻ってきたり他の街の人が訪れるようになったので前日あたりから人は増えてくるらしい。それに武闘祭の子供の部が前日に行われるようになったので前日も出店を出す人が増えて今では2日間の節末祭といった感じになっているそうだ。
「リアンクル出身の人が戻って来るのは分かるんですが他の街から武闘祭を見に来るのですか?獣人相手に賞金を稼ぐより魔物を狩った方が確実だと思うんですが」
「賞金目当てというより腕試しや名前を売るために出られる方が多いですね。それなりの商人やお金を持った貴族の方も来られるので護衛や傭兵として雇われたりもしますので、そういった方へのアピールの面もございます」
なるほど。就活の場でもあったのか。少年の部ももしかしたら青田買いする人がいて、それらの人に向けてのお披露目の場という面もあるのかもしれないな。
「せっかくなのでちょっと武闘祭を見に行ってもいいですか?」
教会の子供たちも出ると言っていたので全部とは言わなくても少しは見学してみたい。そう話すと3人とも了承してくれたので魔道具屋で素材を買い取りしてもらったあと、武闘祭が行われている広場に向かう。
昼食がまだだったので途中の屋台で肉をパンで挟んだものを人数分買う。
武闘祭の会場では戦いが行われている舞台の周りに石や丸太が並べてあって即席の客席となっていた。舞台のそばは出場する子供たちの家族や関係者が優先されるそうなので近すぎず遠すぎない真ん中あたりに4人で並んで座る。舞台の近くには特別な席が用意してあってそこには日よけのテントのようなものがしてある。特別席にはカーティラさんが座っていた。あそこはお偉い様用か。
席についたら、先ほど買ったパンを頂きながら舞台の上で行われる戦いを眺める。子供の部は14歳までしか出れないので戦ってる子供たちは10~14歳くらいなんだけど獣人の特性なのか子供の部とは思えないくらい体つきがしっかりしてる子がいたりして対戦カードによってはとても迫力があった。
「シルフやセレンが出場したら子供の部だろうから出てたら今戦ってる子たちと戦うこともあったのかな?」
「ギンジ様、基本的に男女別でございます」
あ、そうなのか。男女別というか女性限定戦があるそうなので女性はそっちに出る。
「相当腕に自信のある方は女性でも男性の方に参加されますがめったにいらっしゃいません」
「只人もほとんどいないのかな?」
「他の街からいらっしゃる方は少なくありませんがほとんどの方が獣人の戦いをまともに見たこともない人ですので、実際に戦ってる姿を見て参加を見送られる方も多いですね」
俺の疑問にチルさんが丁寧に答えてくれる。
獣人は体のつくりがそもそも違うし身体能力もすごいからなぁ。『俺喧嘩強いぜ』みたいなやつが腕試しに来ても手も足も出ないだろう。
しばらく子供の部を眺めていたら教会の子供たちの出番があった。明らかに相手のほうが体がでかくてすぐ負けたりもしたが、体格差が無い相手だと懸命に食らいついて辛勝したりと3人とも頑張っていた。3人の戦いを1戦ずつは見たので今日のところはこれくらいにして帰ろうと思う。
広場の横に出場する人、出場後に治療を受けた人が休憩できる場所が用意してあったので帰る前にそっちに顔をだして教会の子供たちに挨拶していく。俺が見れてない戦いもあったが3人とも1勝はできたようでそれなりに満足そうだ。もっと強くなりたいからまた稽古つけてくれ!と頼まれたので約束してその場を去る。
時間は夕方に差し掛かっていたが街の盛り上がりは増しているようで昼よりも人が多くなってきている。獣人の人混みってのはその・・・失礼かもしれないけどなんか暑苦しい気がする。
人混みを掻き分けて領主邸に戻る。昼ごはんは街で済ませていたのでこのままセレンとシルフの訓練を済ませてしまおう。
セレンも剣の訓練を行うようになったし、魔力共有をするのは別に室内でやる必要もないので二人とも同時に庭に来てもらって順番に行う。
セレンの魔力共有(水)、シルフの魔力共有(火)、シルフの水魔法の練習、待ってる間はそれぞれ素振り、魔法が一通り終わったらシルフと打ちあいをして、セレンは打ちこみをさせる。
セレンは初めは人に向けて振り下ろすことに戸惑っていたがシルフが俺に打ちこみまくっても全部受ける俺を見て、なんとかやれるようになった。
二人が休憩している間、ちょっとだけチルさんと打ち合いをしたがチルさんの剣はとにかく早くて受けるのが大変だった。少しいっぱいいっぱいになってる俺を見てチルさんが得意げな感じだったのは気のせいではないだろう。尻尾が少しご機嫌な感じだった。
訓練が終わった後は順番にお風呂を頂いて食事を頂く。カーティラさんも帰宅していたので領主夫婦も合わせて5人での食事だ。
「急に現れたから子供の部にでるのかと思ったぞ」
武闘祭会場にいた俺たちをカーティラさんは見つけていたらしい。ちゃんと客席を見てるんだなぁ。
「ギンジ、この獣人の街ではお前が思ってる以上にお前は目立ってるんだぞ?それにセレンだって顔は知れている。領主の娘と珍しい只人が街をうろついてたら誰だって目につく」
そうなの?全然意識してなかったけど言われてみればその通りなんだろう。俺たちには言ってなかったが採集に一緒に行くようになってから街での目撃情報がカーティラさんに寄せられていたとのことだ。
「なんか問題とかありましたか?」
「いや、セレンが元気にしていると街の人達はそっちを喜んでいたよ。いろんな奴に只人を婿に取るのかと聞かれたがな。ガハハハ」
またまた、大人はすぐそういう方向に話を持って行く。それにチルさんはセレンのお付きだとしても一緒にシルフもいたんだし。ねぇ?と横を見るとシルフは俺の方にジトっと目線を送っている。いやいや、婿になる気なんてないですよ。なぁセレン?と思って正面のセレンを見ると両手を頬に当てて顔を赤くしている。セレン?あれ、そういうキャラじゃなかったよね?
「若い子をからかうのはよしなさい」
サリーさんがそう言ってカーティラさんの頭を叩く。
「まぁこの人の話は置いといて、ギンジさん、武闘祭に出られるようでしたら怪我には気を付けてくださいね。ギンジさんの強さはこの人に聞きましたがやっぱり体格の差というのは大きいので」
「そうですわ!ギンジさんの戦いは是非見たいところですがあまり無理をしてほしくはありませんわ」
サリーさんに続いて元に戻ったセレンも心配してくれる。
「もちろん、俺は痛いのも辛いのも嫌いですから。無理はしませんよ」
そう二人に返す。もちろんこれは本音だ。無理をしてまで強さを示そうなんて思わない。
ただ、ここにいる俺を認めてくれている人達まで俺のせいで馬鹿にされるなら、ちょっとは無理をしようと思う。
そう思いながら俺は部屋に戻って眠りに就いた。
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