和解
そこだよ。
冷たく放った言葉は、雪よりも冷たかった。
「そこが嫌だって言ってるんです。」
「アバウトすぎて、なんか・・・論理的じゃないよね。君」
「はい・・・?論理的って何なんです?自分バカなんでそんなのいらないんですけど。」
「まあまあ。いや、ね。俺たちがこう・・・論破し合ってたら面白いかなぁと思ったんだよ。」
うーん。と上を向いて考えている仕草を見て、可愛いなぁと素直に俺は思った。
それよりも何故君が怒っているか だ。
最近忙しすぎて二人の時間が取れていないのが原因だった。
せっかく二人の時間を作っても、俺に仕事の連絡が入ったり、ゆっくり過ごす日が出来ても
物書きの俺は、ふと良いネタが下りるとすぐさまパソコンを開いて書き始めてしまったり・・・
お互い忙しい身。
こうして無理して合間を縫って会おうとしてくれているのにいつもさみしい思いをさせていたせいだ。
かなり無言の時間があり、これ以上は耐えきれないと 俺が話そうとした途端、
「面白いかも。」
・・・きっとやかましく論破し合う二人の姿を想像し、真顔でそう言った。
ふわっと一瞬柔らかくなった空気を察して、俺は隣に座る。
でも、まだ少し怒っているみたいで、少し肩が離れて俺は傷ついた。
君は警戒した表情で、
「・・・へらへらしてません?」
「ええ?失礼じゃない?」
「何か楽しそう。悔しいですね・・・」
君がそう悔しがっている途中で、つんと腕を触ったものだから
動揺したようで目が泳いだ。
気に入らないようで更に距離を取ろうとする。
「ええ、なんで離れようとするの~」
「や、ですよ。楽しくないです、自分は全然楽しくないです」
「嘘。でもちょっと嬉しいと思ってるでしょう?」
グイと腕を引っ張ったが、思いのほか引き寄せた力が強かったせいで、
勢いよく俺の胸の中におさまった。
「んぐっ、痛・・・」
「なんか久々だね。」
「・・・」
「無視は、いやだなぁ」
「・・・」
やっぱり答えてくれない。
まあ。俺のせいなんだけど。
でも、やっと君に触れた気がする。
まだ許せないようで、抵抗する力に逆らうようにさらに抱きしめた。
「ごめん。ごめんね。」
その言葉で、初めてぴたりと抵抗が止まった。
俺も「ごめん」以外何を言えばいいかわからなくて、黙る。
腕に収まっている君も、黙る。
でも、いつまでも沈黙なんてお互い嫌で、居心地が悪くて、
でも先に話すのも癪で、それが君に伝わるし、俺にもそれが伝わる。
お互い頑固で、どうしていいかわからなくて、
先に動いたのは君だった。ずっと力が入って上がっていた肩がゆっくりと下がる。
それに気づいた俺は抱きしめる力を強める。
痛かったらごめんな と心の中で呟きながら。
「待ってた。」
ぽそり、かすれた声が俺にしか聞こえない大きさで そう呟いた。
冷たい尖った結晶が溶けて涙となり、君の頬を流れた。
ごめん、ごめんね。
雪も入らぬ程の、二人の距離が心地よい。
久々に昔のスマホを起動すると、メモに入力していた小説を見つけ、供養のつもりでこちらに投稿しました。
きっと当時の私は、小説を書く事が好きなくせに、メモの世界だけで満足していたんだと思います。
本作品は、主は「俺」ですが、相手側をあえて「君」として、どちらの性別でも読めるようにしました。
必ずしも「女性」ではなく、そして「男性」でも無い。
様々な設定で読んでいただければ幸いです。
最後に、拙い文章ですが、最後まで読んでいただきありがとうございました。