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届かなかった手紙

 王太子殿下とアリーヤ様が結婚式を終えたばかりのこの日、アリーヤ様宛の手紙が届いているのに気付いた。


 アリーヤ様の妹からだ。


 挙式の準備に皆バタバタしていたから、数日前に届けられたこれを見落としていたようだ。


 王宮に勤める上級侍女である私は、内容をチェックしてお渡しするように命じられている為、先に開封して中を確認した。


 その内容を読んで、最初は何が書いてあるのか理解できなかった。


 アリーヤ様の妹であるイリーナさんは、いったい、何を言っているのだろうか。


 切実ともとれる文章からは、アリーヤ様の結婚を祝う言葉が一切出てこない。


 それどころか、アリーヤ様の存在を否定するかのような内容だった。


 その手紙に憤りを覚えた。


 聖女はアリーヤ様なのだ。


 アリーヤ様でなければならないのだ。


 そうでなければ、私達は、私達は、一体、誰を処刑したというのか……


 誰を処刑してしまったというのか……



「ひっ………」



 その考えに至り、思わず口から小さな悲鳴を漏らしていた。


 バクンバクンと、今まで鳴らしたことがないような音で心臓が騒ぎ立てる。


 嫌な汗をかいた手で手紙を握りしめて自室に駆け込むと、ソレを否定するように、すぐに暖炉の火を起こして、燃え盛る炎の中に手紙を投げ込んでいた。


 誰もこの手紙の内容を知らないのであれば、これが真実とはならない。


 聖女はアリーヤ様なのだ。


 それが全てだ。


 忘れろ。


 こんなデタラメな内容の手紙のことなんか、忘れてしまえ。


 この妹は、幸せな姉に嫉妬してこんな手紙を送りつけてきたのだ。


 きっとそうだ。


 暗い部屋の中、燃え盛る炎を見つめて、得体の知れない不安を抱いて、それに押し潰されそうだった。


 それから何日も眠れない日が続いた。


 アリーヤ様と殿下の結婚式から、王都が、国が、この大陸が晴れる事は無くなった。


 それに続いて異常気象の影響で、各地で大きな被害が起き始めている。


 恐怖に慄いていた。


 アリーヤ様が聖女だ。


 アリーヤ様が聖女だ。


 何度も自分に言い聞かせる。


 王都の治安も日に日に悪化していった。


 住む家を失った多くの人が、王都周辺に徐々に集まってきたからだ。


 段々と食料も乏しくなってきて、黒い雲が上空を覆うように、華やかな王都に陰りが見えていた。






 あの日から何日経ったのか、昼間でも薄暗くなった道を一人で歩いていた。


 城のすぐ近くだったから、あまり警戒はしていなかったのだ。


 だから、降り続く雨がその音を消してしまっていたから、腹部の痛みを感じるまでそれに気付かなかった。


 濡れた地面に倒れ込み、初めて自分が誰かに刺されたのだと気付いた。


 私の荷物を奪い、犯人だと思われる小さな人影が走り去っていく。


 その後ろ姿に腕を伸ばしたところで、何をしようというのか。


 急速に失われていく意識。


 最期に思っていた事は、


 ああ、これで、あの事実を知る者は誰もいなくなった……














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