二十八日後
現在、王都は封鎖されている。
出ることも入ることも、厳重に管理され、少しでも疑わしき行動をとれば、厳しく処罰されている。
王都以外の場所では、最早秩序が存在しているのかすら分からない。
地方では、他国からの略奪行為が横行していると聞く。
もう間も無く、限られた食糧資源を求めて6ヶ国間で戦争が起きるだろう。
その時に、我が国には対抗できる力が果たしてあるのか……
聖女様を奪おうとする連中から、守らねばならぬというのに。
一部では、アリーヤ様を一時的にアースノルト大陸に亡命させてはどうだと言っている。
バカな事を。
聖女は、その大陸にいなければならないのだ。
アリーヤ様は、修練を重ねてきたわけではないから、祈り方を知らないのだ。
これから大急ぎで修練を積めば、必ず元の世界を取り戻してくださる。
何度も何度も、王家にそう進言している。
なのに、王家はアリーヤ様を城から出そうとしない。
今、行動をおこしてもらわなければ、取り返しのつかない事になると言うのに。
私の食事は、すでに1日2回にまで減らされている。
それでも耐え忍んでいるのは、アリーヤ様という希望を失ってはいないからだ。
「雪だ。雪が降り出した」
誰かが声を上げて、それにつられて外を見た。
白いものが、フワフワと舞っていた。
雪など、何年もこの王都に降ったことがないはずだ。
「この寒さで、バタバタと人が死ぬぞ」
また、誰かが呟いた。
室内では薪ストーブが焚かれているが、外で寝泊りしている者に、暖をとる手段などないだろう。
長く降り続いた雨のせいで、薪が湿って使い物にならない物も多い。
作物は根腐れして食べられる物がほとんど育たないほどなのに、さらに薪となるといよいよ手に入らない物だ。
ふと、通路が騒がしくなり、そして唐突に扉が開け放たれた。
「マーレン・コールダー。貴様を収賄の罪で拘束する」
部屋に足音を響かせて侵入して来たのは、王宮騎士団だ。
そして、私が言葉を発する前に、屈強な男達に床に押さえつけられていた。
硬い床に頬骨を打ち付け、痛みに目の前が眩んだ。
ギリギリと腕を捻られ呻き声が発するのに、誰も、私を助けようとする者はいない。
「星読みを違え、この事態を招いた責任をとってもらうぞ」
その言葉に、私に全ての責任を押し付けたのだと、瞬時に理解した。
口を塞がれ、反論はできない。
そして、なす術もなく、罪人の塔に幽閉されていた。
半地下となっているここには風が吹き込み、部屋の隅にはうっすらと白い雪が積もっているような、そんな劣悪な環境の牢獄へ入れられていた。
私を擁護しようとする者はいなかった。
鉄格子を握って、必死になって訴えかける。
アリーヤ様がなんとかしてくださると。
だから、私は何ら間違ってはいないのだと。
しかし、私の声は届かない。
薄暗い牢獄に私の声が反響するだけで、長く捨て置かれたまま、誰一人として応えてくれる者はいなかった。
この体が朽ち果てるまでの数ヶ月、私は忘れ去られ、誰にも見向きもされなかったのだ。